インバータ EMCフィルタを選定するとき、電流容量だけで型番を決めると、竣工後にノイズや漏れ電流の問題が残ることがあります。必要なのは「何を抑えたいか」「どこで抑えるか」「どの設置条件で確認するか」を先に分けることです。タイの工場で制御盤を新設・更新する担当者向けに、入力側のEMC/RFIフィルタ、出力側のdV/dt・正弦波フィルタ、サージ保護装置(SPD)の役割を整理し、見積依頼からFAT・SATまでの確認方法を示します。ここで扱うのは設計検討の枠組みであり、実配線、保護接地、RCDの適用は必ず対象ドライブの最新版マニュアル、現場の電源方式、適用規格を確認した有資格の電気技術者が決めてください。
まず「インバータ ノイズフィルタ」が解決する現象を特定する
現場で「ノイズフィルタ」と呼ばれる部品は一つではありません。インバータの入力側に置くEMC/RFIフィルタは、ドライブが電源系統へ伝える高周波の伝導妨害を抑えるために使います。出力側のdV/dtフィルタや正弦波フィルタは、PWM出力からモーターへ向かう電圧波形とケーブル・モーター側の負担を扱います。SPDは雷や開閉操作に伴う過渡的な過電圧への保護です。これらは同じ「ノイズ対策」欄に並ぶことがありますが、対象、設置位置、評価方法が違います。TDK Electronicsの技術資料も、EMCフィルタと出力フィルタを別の構成要素として扱っています(TDK EMC filters technical information)。
例えば、近くの計装信号が乱れるなら、伝導・放射の経路、シールド、ケーブルの並走と盤内レイアウトを調べます。モーター端子の電圧ストレスや長いモーターケーブルが問題なら、ドライブメーカー指定の出力フィルタ条件を調べます。雷や系統切替のサージ履歴があるなら、受電・分電側を含むSPDと保護協調を別に検討します。原因を測らず「大きいフィルタを一つ追加する」だけでは、不要なコストを増やし、漏れ電流や盤内スペースの新たな制約を生む可能性があります。症状、発生時刻、運転周波数、接続機器を記録し、停止時と運転時を比較してから選定を始めるのが実務的です。

入力EMC/RFIフィルタと出力フィルタ、SPDを混同しない
入力EMCフィルタは電源とドライブの間に置く、またはドライブに内蔵される部品です。主に高周波の妨害電流が電源へ戻る経路を抑えます。入力リアクトルは別の目的で使われる場合があり、どちらか一方の仕様だけで他方の機能を代替したと見なしてはいけません。出力dV/dtフィルタは急峻な電圧変化を緩和する用途、正弦波フィルタは出力波形をより正弦波に近づける用途としてメーカーが区別しています。Danfossの設計ガイドは、正弦波、dU/dt、コモンモード、ハーモニック用フィルタを別項目に分け、さらにモーター、ケーブル、EMC施工、RCD・漏れ電流を別章で扱います(Danfoss VLT AutomationDrive design guide)。
SPDは短時間の過電圧を扱う装置で、連続的な高周波伝導妨害の合否を単独で保証しません。SPDを入れている制御盤でも、インバータのEMC適合を別に確認します。反対に入力EMCフィルタがあっても、SPDの必要性を判定したことにはなりません。制御盤設計・製作の検討項目と制御盤SPD選定の考え方を別のチェックシートにする理由はここにあります。仕様書には「入力EMC」「出力波形」「サージ」の三つの目的をそれぞれ書き、見積書の部品表でも別行にしてください。
| 検討対象 | 主な位置 | 主に確認する問題 | 見積・試験で確認する資料 |
|---|---|---|---|
| 入力EMC/RFIフィルタ | 電源とドライブの間、または内蔵 | 電源側への高周波妨害、所定のEMC条件 | ドライブとフィルタの組合せ、IEC 61800-3のメーカー表、施工条件 |
| dV/dt・正弦波フィルタ | ドライブ出力とモーターの間 | 出力波形、ケーブル・モーターのストレス | 許容ケーブル条件、モーター適合、出力フィルタ仕様 |
| SPD | 電源系統の保護点 | 過渡過電圧 | 電源方式、保護協調、盤全体のSPD設計 |
IEC 61800-3のカテゴリーは型番の宣伝文句だけで読まない
IEC 61800-3は可変速電力駆動システムのEMC要件に関係します。C1・C2・C3などの表示を見かけても、それをドライブ本体だけの無条件の性能と解釈しないでください。メーカーが示すカテゴリーは、対象ドライブ、電源環境、内蔵・外付けフィルタ、モーターケーブルの長さやシールド、施工条件を前提にしたものです。Schneider Electricの製品資料には、外付け電源フィルタの有無とケーブル長によって達成カテゴリーが変わる例が示されています(Schneider Electric electromagnetic emission guidance)。同社のATV630/650施工マニュアル案内も、対象型式の据付・配線情報を確認するための一次資料です。
同じフィルタ品番を使っても、長いモーターケーブル、シールド端末の接続方法、入力と出力の配線分離、金属盤のボンディングが変われば、実機の妨害経路も変わります。従ってRFPには「C2対応フィルタ一式」とだけ書かず、対象インバータ型式・定格、電源方式、設置環境、想定モーターケーブル種類と長さ、外付けフィルタの型番、メーカーが宣言する構成条件を添付してもらうよう求めます。要求カテゴリーを決める際は、適用される市場・契約・現地設備条件を設計責任者と確認します。カテゴリー名からタイ国内の法的義務を一律に推定することはできません。
内蔵フィルタで足りるか、外付けを組み合わせるか
まず対象型式の最新マニュアルと型番末尾を確認し、内蔵EMCフィルタの有無、その有効状態、対象の電源方式、メーカーが示すケーブル条件を調べます。「同じシリーズだから同じ内蔵フィルタ」と推測しないことが重要です。Schneider Electricは、型式によって内蔵フィルタがない場合もあり、非接地系統などでは型式ごとの指示を確認すべきだと明記しています(Schneider Electric Altivar supply-system FAQ)。
外付けを検討するのは、内蔵構成のメーカー資料で要求条件を満たせない場合、ケーブル条件が内蔵構成の範囲外になる場合、盤・設備のEMC試験で改善が必要と判明した場合などです。ただし外付けフィルタを足せば自動的に上位カテゴリーになるわけではありません。ドライブとフィルタの適合、電源電圧・周波数、相数、定格電流、温度・通風、短絡保護、接地、フィルタとドライブの配線長、盤内配置をメーカー資料に照らして一体で検討します。外付け部品を採用するなら、その型式を図面とBOMに固定し、代替品を提案する場合は同じ条件で再確認する欄を設けます。

電源方式と保護接地を先に確定する
入力フィルタには接地との間にコンデンサを持つ設計があり、保護導体へ流れる電流に影響します。接地方式を後から知ると、選定の前提そのものが変わります。設備の単線結線図、変圧器二次側の方式、接地・絶縁監視の方針を最初に集めてください。IT系統、非接地・高抵抗接地、コーナー接地などでの内蔵フィルタの扱いは製品により異なり、メーカーの施工書が優先です。Schneider Electricは特定のAltivar Processで、内蔵フィルタとIT/コーナー接地系統の関係を説明し、変更時はEMC要件への影響があると示しています(Altivar Process IT system guidance)。この例を他社・他型式へ一般化して、現場で接続を変えてはいけません。
保護接地は高周波の帰路と安全保護の両面で重要です。しかし「ノイズが減るからPEを外す」「漏れ電流対策としてシールドだけを切る」といった手順は危険です。電気工事者は型式の施工書に従い、保護接地の連続性、盤・モーター・ケーブルグランドの接続、保護装置との整合を設計します。外付けフィルタの筐体を取り付ける金属面の状態、塗装の扱い、接続点の保守性も図面に示します。設置前の仮置き試験で動作したという事実だけでは、完成盤の安全とEMCを証明できません。
漏れ電流とRCDはフィルタ単体値で決めない
EMCフィルタのデータシートに記された漏れ電流は、選定候補を比較する手掛かりです。TDK Electronicsは、その計算値と実設備の測定値は同一ではなく、ドライブ、シールド付きモーターケーブル、モーター、他の負荷からの寄与を含めて設備全体で確認する必要があると説明しています(TDK EMC filters technical information)。したがって複数台のドライブを一つのRCD回路にまとめる計画では、各フィルタの表記値だけを足して「必ず大丈夫」と判断するのは不十分です。運転条件、モーターケーブル、電源品質、測定器の帯域も評価対象です。
RCDの種類、定格、接続範囲、選択協調、絶縁監視との関係は設備全体の安全設計に属します。Danfossの設計ガイドはRCD、漏れ電流、IT系統を分けて扱っており、ドライブの個別条件を確認する必要性が読み取れます(Danfoss VLT AutomationDrive design guide)。不要動作が出たときに保護装置を外したり、接地線を切ったりせず、測定した条件とメーカー指示を有資格者に渡します。サプライヤーにはフィルタ単体の参考値だけでなく、想定構成での保護装置適合の説明と、現地試験で何を測るかの提案を求めます。
モーターケーブルのシールドと盤内配線で結果が変わる
インバータとモーターをつなぐケーブルは、高周波電流の通路でもあり、周辺機器との結合点にもなります。施工書に指定されたケーブル種類、シールド、終端方法、グランド、長さを図面に反映します。信号線、ネットワーク線、電源入力線、モーター出力線を盤内でどう分離するかも設計時に決めます。配線ダクトが混み合い、試運転中に信号線を出力ケーブルの隣へ移すと、見積時に成立した前提が崩れます。Schneider ElectricのATV212マニュアルは、配線推奨事項と施工章を明確に分けており、ドライブごとの指示を確認できます(Schneider Electric ATV212 installation manual)。
「モーターケーブル シールドを接続すれば必ず解決」とも言えません。ノイズの種類によっては、盤の接続面、ケーブル経路、グランド処理、機器側の入力設計まで調べる必要があります。逆にシールドを片側だけにするという一般論も、対象ドライブの推奨と合わない場合があります。請負範囲を制御盤までに限定すると、現地のケーブル施工で評価条件が変わるため、盤メーカーと電気工事会社の責任境界をRFPで決めてください。施工後にルート・長さ・端末の写真と図面を残せば、後日の異常調査が速くなります。
選定に必要な入力情報を一枚にまとめる
購買前に、設備担当、制御盤設計者、電気工事者、ドライブ供給者が同じデータシートを見られるようにします。最初の欄は対象機械と症状です。新設なら要求されるEMC条件と、既設設備への影響を記します。改修なら、いつ・どの速度域・どのセンサーや通信が乱れるか、再現条件を記します。現象が不明なまま部品を選ばず、必要なら測定計画を先に作ります。
次に、電源の相数・電圧・周波数、接地方式、短絡保護、ドライブのメーカー・型式・定格、内蔵フィルタ状態、モーターの仕様、ケーブルの種類・長さ・敷設経路を記します。盤の寸法、温度、通風、配線スペース、保守アクセス、周辺の通信・計装・安全機器も必要です。最後に、要求する試験・受入基準、現地で変更が起きた場合の再評価手順を明記します。このシートは「フィルタの型番表」ではなく、設計前提を共有する書類です。型式やケーブル長を後から変えた場合に、どの欄を再承認するかまで書くと、購買と現場の認識が揃います。

RFPには「性能」だけでなく構成と証拠を要求する
見積依頼(RFP)では、単に「EMCフィルタ付き」と書くより、サプライヤーに説明してほしい項目を表にします。第一に、選定したドライブと入力フィルタの製品型式、内蔵・外付けの区別、対象電源方式を明示してもらいます。第二に、想定するモーターケーブルと施工方法を示し、IEC 61800-3の主張を支えるメーカー文書の該当ページを提示してもらいます。第三に、漏れ電流・RCD・保護接地の前提、出力フィルタとSPDが別途必要かの判断根拠を記してもらいます。第四に、盤内レイアウト、放熱、点検スペース、ケーブルグランドの配置を図面で示してもらいます。
提案書に「C2対応」などの一語しかない場合は、何がその条件に含まれるか質問します。実機のドライブ型式を変えたら、外付けフィルタが同じでもメーカーの宣言条件が続くとは限りません。見積比較表では価格と納期の横に、根拠資料、例外条件、現地施工の責任、試験内容を並べて評価します。装置更新では、既設のモーターケーブルをそのまま使うかどうかを重要な分岐として扱います。既設ケーブルの長さやシールドが不明なら、「現地調査後に確定」と書き、暫定価格に含めた前提を明示します。
FATで確認すること:盤として成立しているか
工場出荷前検査(FAT)は、購入した部品がBOMと一致しているか、図面の構成が盤に実装されているかを確認する機会です。ドライブ型式、フィルタ型式、取付位置、入力・出力配線の分離、シールド端末を写真付きで記録します。保護接地、導通、絶縁、保護装置、電気安全の試験は、対象製品と適用規格に従う試験計画に入れます。フィルタの端子を含む高周波部品へ無条件に絶縁試験電圧をかけることは避け、メーカー指示で試験範囲と切り離し手順を決めてください。
FATで電源を入れてモーターを回したとしても、顧客工場の電源、最終ケーブルルート、周辺設備を再現できるとは限りません。そのため「FATで問題なし」は現地EMCの合格証ではなく、施工前の構成確認です。想定運転点、試験用モーターと実モーターの差、仮配線と本配線の差を記録します。受入書類には、現地SATで再確認する項目を残し、例外があれば未解決事項として承認者を明確にします。EMC測定が契約上必要な場合は、測定場所・方法・機器・責任を見積段階で決めておきます。
SATで確認すること:完成したシステムで再現するか
現地受入試験(SAT)では、最終的な電源方式、ケーブル、接地、周辺負荷の条件で動作を確認します。停止、起動、加減速、通常運転など、実際の操業で使う状態を含め、計装値、通信エラー、近傍機器の挙動、保護装置の動作を記録します。問題が出たら時刻と状態を固定し、入力電源側、出力ケーブル側、信号配線側の経路を順番に切り分けます。「試験中だけノイズが消えた」場合も、何を変更したかを残さなければ再発防止になりません。
漏れ電流の評価が必要なら、設備全体の測定方法と判定基準を有資格者が事前に定めます。TDKはフィルタの計算上の漏れ電流を比較の指標とし、実設備の値には多くの要因が影響すると説明しています(TDK EMC filters technical information)。そのため「データシートに○mAとあるからSAT測定は不要」とはしません。配線変更、モーターケーブル延長、ドライブ交換の際にSATのどの部分を再実施するか、保守手順にも記録します。
典型的な選定ミスと対処の順序
一つ目のミスは、センサー誤動作に対して原因経路を見ずに出力フィルタだけを見積ることです。出力フィルタが必要な可能性はありますが、入力側の伝導経路、配線分離、シールド端末も調べます。二つ目は、内蔵フィルタを「搭載」しているだけで目標カテゴリーを満たすと断定することです。メーカー資料に書かれた型式、ケーブル長、施工条件まで確認します。三つ目は、ノイズ低減だけを見てRCDとの相性を後回しにすることです。フィルタの接地容量とシールドケーブルの寄与を含めた設備全体の検討が必要です。
四つ目は、雷サージ対策とEMCフィルタを一つの部品で代替しようとすることです。役割が違うため、SPDの選定記事の検討を別に行います。五つ目は、FATで合格した盤をSATで無条件に合格扱いすることです。現地の配線と周辺設備が変わる以上、完成システムの再現確認が必要です。六つ目は、運転中に不要動作が出た際に保護接地やRCDを外すことです。安全機能に手を加える前に設備を適切に停止し、測定結果とメーカー指示を有資格者と確認します。問題を「フィルタが悪い」と単純化しない方が、再発防止策を絞り込めます。
既設設備の改修では、変更前の状態を基準として残す
既設ラインでは、設計当時のケーブル図と現在の配線が一致しないことがあります。盤を開く前に、対象ドライブの型番、設定、電源系統、モーター、ケーブルの入口と出口、周辺のセンサーやネットワーク機器を現物と図面で照合します。トラブルの発生時刻、運転速度、負荷、同時に動く設備を記録し、現状で再現する条件を固定します。この段階で「古いからフィルタを交換」と決めないことが重要です。既設の対策がどの現象に効いていたか分からないまま撤去すると、改修後の比較が難しくなります。
既設ケーブルを再利用する場合は、銘板や仕様書だけでなく、実際の経路、長さ、シールドの状態、端末処理、モーター側の接続を確認します。建屋内の配線ルートが他設備の増設で変わっている可能性もあります。外付けフィルタを新設するなら、フィルタとドライブの間の配線をどこに通すか、盤内の熱と保守空間をどう確保するかを設計します。大きさが収まるだけでは、施工条件まで満たしたことにはなりません。元の安全回路や保護装置と干渉しないことも確認します。
改修前後の比較は、同じ運転条件で行うよう試験計画に書きます。センサーの誤検出回数や通信エラーなど、現場で観測できる指標を選び、単に「ノイズが減った気がする」という評価を避けます。ただし、現場指標だけで規格上のEMC合否を宣言することも避けます。必要な正式測定と日常運転の安定性確認は別です。後から設備を追加する場合にも使えるよう、採用したフィルタの型式、施工写真、試験結果、残った制約を完成図書に入れます。
変更管理:何が変わったら再評価するか
稼働後の保守でドライブが故障し、同じ出力の別シリーズへ交換することがあります。しかし電流と出力だけが同等でも、内蔵フィルタ、漏れ電流、ケーブル条件、端子位置が同じとは限りません。交換承認書には、ドライブ型式とファームウェア、入力・出力フィルタ、電源方式、保護装置、モーターケーブルの項目を入れます。メーカーの適合資料が変わった場合は、元のIEC 61800-3の根拠も再確認します。部品表の「同等品可」という記述だけでは不十分です。
モーターの移設や生産ラインの延長でケーブルが長くなった場合も同じです。ケーブル長の変更は、出力波形、寄生容量、漏れ電流、EMCのメーカー条件に関係します。新しいケーブルを通す場所が計装線に近づけば、周辺設備への結合も変わります。盤内の入力線と出力線の位置を入れ替える、シールド端末を変更する、盤の塗装や取付板を交換する場合も、完成時の配線条件を保ったままなのかを確認します。変更の大小を費用だけで判断せず、設計前提に触れるかで判定します。
担当者が変わっても判断できるよう、完成図面に「この構成で確認した条件」を短く記録します。例えば、対象ドライブ型式、フィルタ型式、モーターケーブルの種類と実測長、シールド端末、電源方式、RCDの構成、FAT・SAT記録への参照を一枚にまとめます。改修者は変更項目を印し、元のメーカー資料と照合してから再試験範囲を決めます。これにより、フィルタを一度選んで終わりにせず、次の保守や増設でも根拠を引き継げます。
仮想ケース:包装ラインのセンサー異常から選定条件を作る
ここでは特定の顧客事例ではなく、検討手順を示すための仮想例を考えます。包装ラインのコンベヤをインバータ化した後、近くの光電センサーの検出が不安定になったとします。設備担当者は、まずセンサーが誤検出した時刻、インバータの運転・停止、速度変更、周辺機械の動作を照合します。センサーが停止中にも不安定なら、インバータだけに原因を決めつけられません。運転中に限る場合でも、入力電源への伝導、モーターケーブルからの結合、センサー配線への回り込みなど複数の経路があり得ます。この段階では「入力フィルタ追加」という購入指示ではなく、「経路を確認する」という調査課題にします。
次に、盤図面と実機を照合します。ドライブの完全な型式、内蔵フィルタの状態、電源方式、モーターケーブルの種類・長さ・シールド端末、光電センサーとその信号線の配線経路を記録します。盤内で入力と出力が長く並走していないか、シールドの終端が図面どおりか、センサー線のルートが後から変わっていないかを確認します。これらは部品の欠陥を探すためだけではなく、メーカーが示したEMC条件と現場条件が同じかを確かめるためです。電気的な測定や配線変更は有資格者が安全手順に従って行います。
調査結果が入力電源側の妨害を示すなら、ドライブメーカー資料で既設の内蔵フィルタと外付け候補の組合せ、対象カテゴリー、ケーブル条件を照合します。モーター側の経路が疑わしければ、ケーブル、シールド、配線分離に加え、必要に応じて出力フィルタの適用条件を確認します。センサーの電源や配線に独立した問題が見つかれば、入力EMCフィルタの追加だけでは解決しません。複数の問題が重なっている場合は、変更を一つずつ記録して効果を比較します。対策を同時に複数入れてしまうと、どれが効いたのか、漏れ電流に何が影響したのか判断しづらくなります。
最後にRFPへ反映します。例えば「既設ドライブの型式とメーカー資料の該当条件を示すこと」「現地モーターケーブルとセンサー線のルートを調査すること」「入力フィルタの採否を根拠付きで提案すること」「RCDへの影響と試験項目を説明すること」と書きます。FATでは提案した盤内構成を確認し、SATでは実際のセンサーを使い、問題が起きた運転状態を再現して確認します。仮想例の目的は、特定のフィルタを推奨することではなく、症状から根拠を追って受入条件まで一貫させることです。
見積比較と受入記録に残す判断欄
複数のサプライヤーを比較するとき、価格表の行だけでは設計条件の差が見えません。比較表には、提案したドライブとフィルタの型式、内蔵・外付けの区別、参照したメーカー資料、宣言されたEMCカテゴリーとその条件、モーターケーブルの前提、盤内施工の範囲、漏れ電流とRCDの検討方法、FAT・SATでの試験責任を並べます。空欄は「対応済み」と読まず、回答待ちとして明示します。提案Aが安くても既設ケーブル交換を別途費用としているなら、総額と工期の比較ではその条件を見なければなりません。
同じ表に、承認者と改訂履歴を設けると引継ぎに役立ちます。選定時にはドライブ供給者が製品適合を説明し、盤設計者が部品配置と配線を確認し、現地工事者がケーブルルートと接地を確認します。FATで判明した差異は「現地で何とかする」と書かず、図面改訂、部品変更、追加試験のどれで閉じるか決めます。SAT後も、試験時のドライブ設定、使ったモーター、実配線と測定条件を保存します。この記録があれば、稼働後にセンサーを増設したときも、元の判断を調べ直せます。
よくある質問:VFD EMCフィルタをどう決める?
インバータに内蔵フィルタがあれば外付けは不要ですか?
一律には決められません。内蔵フィルタの有無、有効な電源方式、要求する環境・カテゴリー、モーターケーブルと施工条件を対象型式の資料で照合します。外付けが必要な場合も、適合する組合せをメーカー資料で確認します。「内蔵」と「適合」は別の情報です。
C1、C2、C3のうちタイの工場ならどれを指定すべきですか?
工場という地名・建物種別だけでは決まりません。電源の接続環境、対象設備の設置場所、契約で求めるEMC条件、適用される要求事項を設計責任者が確認し、メーカーの試験構成と照らします。カテゴリーを選んだ理由と対象構成をRFPに残します。IECカテゴリーからタイの法的要求を自動的に決めることは避けます。
モーターケーブル シールドはどのように接続しますか?
対象ドライブの施工書と設備設計に従います。シールド端末、グランド、盤・モーターの接続状態、ケーブルの経路と長さが一組の条件です。ネット上の一般的な「片端だけ」「両端だけ」を現場の施工指示として使わず、有資格者が製品と設備の条件に合わせて決めてください。
RCDが頻繁に動作したらフィルタを外してよいですか?
現場判断で外すべきではありません。フィルタとドライブの型式、電源方式、実測条件、シールドケーブルなどの構成、RCDの仕様をまとめ、有資格者とメーカーに確認します。特定製品では内蔵フィルタの接続変更が認められる条件がありますが、EMC性能への影響があるため、対象マニュアルを使った再設計が必要です。
EMCフィルタ RFP FAT SATには何を書けばよいですか?
RFPには対象ドライブと電源・ケーブル・要求条件、フィルタ型式、メーカー根拠、保護接地・漏れ電流・RCDの前提を書きます。FATでは図面・BOMと盤内実装を照合し、SATでは最終ケーブルと周辺機器の条件で運転・通信・保護装置を確認します。判定基準、測定方法、未解決事項の承認者を先に決めると、単なる「動いた/動かない」から受入品質を高められます。
まとめ:フィルタの前に、対象・構成・検証を固定する
インバータ EMCフィルタの選定は、入力の伝導妨害を対象にするのか、モーター側の出力波形を扱うのか、過渡サージを扱うのかを分けるところから始まります。次に対象ドライブと電源方式、モーターケーブル、施工条件を明示し、メーカー資料に基づいて内蔵・外付けの構成とIEC 61800-3の主張を確認します。漏れ電流、RCD、保護接地を含む安全面は設備全体で評価し、FATとSATの役割を分けて証拠を残します。これが、購入したフィルタを現場で機能させるための実務的な順序です。
タイ工場の制御盤更新で、ドライブ型式とケーブル条件は決まっているが入力EMCフィルタの選定条件を整理できていない場合は、TOMAS TECHへのお問い合わせから現状図面と懸念事項を共有してください。見積依頼前の論点整理から相談できます。
参考情報
- Schneider Electric, ATV630/650 installation manual (EAV64301)
- Schneider Electric, ATV212 installation manual (S1A53832)
- Schneider Electric, Altivar Process IT system guidance
- Schneider Electric, electromagnetic emission guidance
- Danfoss, VLT AutomationDrive FC 302 design guide
- TDK Electronics, EMC filters technical information
- TDK Electronics, EMC laboratory