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2026.08.23

産業廃棄物管理システム2026|処分完了まで追うタイの記録設計

産業廃棄物管理システム2026|処分完了まで追うタイの記録設計

産業廃棄物管理システムを検討する工場の多くは、思いがけない場所から話が始まります。委託していた処理業者が行政処分を受けて受け入れを止めた、というメールが月曜の朝に届く。構内の保管区画は残り10日ぶんしか空いていない。別の処理業者を探そうにも、そもそも自社がどの廃棄物コードで何トン出しているのかを正確に答えられる資料が社内にない。担当者が過去の搬出許可の控えをファイルから抜き出して数え始めたところで、ようやく「記録が無い」ことが問題の本体だと気づく。この記事は、その状況を制度の条文と数字で扱えるようにするための設計手順をまとめたものです。

産業廃棄物管理システムは「出荷まで」ではなく「搬出のあと」を追う仕組みである

トレーサビリティという言葉を工場で使うとき、ふつう対象になるのは製品です。どのロットの材料が、どの設備で加工され、どの製品番号になって、どの顧客に出荷されたか。この線を引くのがロットトレーサビリティで、責任の終点は出荷、遅くとも顧客の受入検収です。

産業廃棄物のトレーサビリティは、その終点の位置が違います。工場のゲートを出た時点では責任がまだ終わっていません。収集運搬業者が運び、処理業者が受け入れ、処理または処分が完了して、はじめて事業者の手を離れます。工場の外に出たあとの区間が管理対象に入るという一点が、生産トレーサビリティとの決定的な違いです。

この違いは、システムの設計要件をほぼ全部変えてしまいます。自社の生産管理システムの中だけで完結しないからです。記録の一部は収集運搬業者が持ち、一部は処理業者が持ち、一部は行政のシステムの中にしかありません。自社のデータベースをいくら綺麗にしても、相手から返ってこない記録は埋まりません。

比較項目製品・ロットのトレーサビリティ産業廃棄物のトレーサビリティ
追う対象完成品と構成部品のロット工場から出た廃棄物の分類コードと重量
責任の終点出荷、または顧客の受入検収処理または処分が完了した時点
記録の主な保有者自社の生産管理システム自社、収集運搬業者、処理業者、行政システム
主に向き合う相手顧客、認証機関工場局、収集運搬業者、処理業者
使う識別子ロット番号、製造番号、UDI廃棄物コード6桁、搬出許可番号、管理文書番号
主なデータ源製造実績、検査結果計量値、容器の識別、時刻、車両位置
失敗の現れ方回収範囲が必要以上に広がる搬出が止まり、責任が残り続ける

識別子を自社ではなく規制側が決めるという点では、医療機器の分野で先行している考え方に近いところがあります。製品側で同じ構造をどう作るかは医療機器UDI対応2026 SaMDまで含めた識別子の設計で整理しているので、規制コンプライアンス系のトレーサビリティを社内で説明する必要がある方は、あわせて読むと構造が見えやすくなります。

産業廃棄物管理システム2026|処分完了まで追うタイの記録設計 - figure 1

タイの制度は2023年11月にすでに切り替わっている

ここで多くの日系工場が持っている認識のずれを先に潰しておきます。「タイの廃棄物規制は緩い」「まだ法律が整備されていない」という前提で運用している工場が、いまだにあります。事実は逆で、運用ルールは2023年に大きく書き換わっています。

根拠になるのは、工業省告示「廃棄物または不要物の管理に関する件、仏暦2566年」です。2023年3月16日付で発出され、官報第140巻特別126号として2023年5月31日に掲載されました。施行は2023年11月1日から、ただし第13条と第22条を含む一部の条項は官報掲載の翌日から施行されています。なお同告示は2023年8月8日付の改正告示(第2号)を受けており、年次報告の期限などは改正後の条文で読む必要があります。日本語や英語で流通している翻訳の多くは改正前の原文なので、期限を確認するときは改正の有無まで見てください。

この告示は、それまで運用の中心だった2548年(2005年)の廃棄物処分告示と、2547年(2004年)の電子媒体による報告告示、2560年(2017年)の第2次改正、そして2566年の第3次改正を、まとめて廃止しました。つまり古い運用手順書をそのまま使っている工場は、廃止された告示に沿って動いていることになります。

内容の中心は、事業者の責任が処理の完了まで続くという考え方です。法律事務所Tilleke and Gibbinsの解説も、この告示によって責任の範囲が「廃棄物が適切かつ完全に処分されるまで」に延び、それまで引き渡しで終わっていた責任に、処理業者の不履行や廃棄物の紛失といった不測の事態への対応まで含まれるようになったと整理しています。

条文の側で読むと、この構造がはっきり見えます。第12条は、発生事業者が指定した処理業者への運搬について責任を負うと定めたうえで、こう続けます。廃棄物が構内から搬出されたにもかかわらず、許可のとおりに扱われていないことが判明した場合、その廃棄物は管理されていないものとみなされ、発生事業者は許可のとおりに処理を完遂する義務を負う。しかも同条は、この規定が紛失、事故、無許可の処分の場合にも及ぶと明記しています。

積んだ荷物が処理施設に着かなかったとき、責任は運んだ側だけに残るのではありません。出した側に戻ってきます。この一文が、産業廃棄物管理システムを「あれば便利な仕組み」から「無いと責任を果たせない仕組み」に変えています。

廃棄物コードを間違えると、その先の記録が全部ずれる

制度の入口は分類です。同告示の附属書1は、廃棄物と不要物を19の章に分け、6桁のコードで特定する仕組みを定めています。

桁の位置意味するもの例として05 07 01を読むと
上2桁産業活動の種類または廃棄物の種類。全19章05は石油精製、天然ガス精製、石炭の熱分解処理
中2桁その産業活動の中の具体的な工程、または廃棄物の型07は天然ガス精製の工程
下2桁具体的な廃棄物の種類01は水銀を含むもの

19章の並びは産業の実態に沿っています。第01章が採掘と鉱物処理、第02章が農業と食品加工、第03章が木材とパルプ、第04章が皮革と繊維、第05章が石油精製、第06章と第07章が無機と有機の化学工程、第08章が塗料と接着剤と印刷インキ、第09章が写真産業、第10章が熱処理工程、第11章が金属の化学的表面処理、第12章が金属とプラスチックの成形と機械的表面処理、第13章が油系廃棄物、第14章が有機溶剤と冷媒、第15章が包装材と吸着材とウエス、第16章がリストに無い事業活動と不要物、第17章が建設と解体、第18章が医療と関連研究、第19章が廃棄物処理施設と場外排水処理です。

日系の製造業なら、第12章と第11章と第15章と第16章の使用頻度が高くなります。切削くず、研削スラッジ、めっき廃液、脱脂洗浄液、汚れたウエスと手袋、使用済み包装材あたりが日々の主役だからです。

コードの選び方には順序が決められています。ここを知らずに現場でコードを振っている工場が非常に多く見られます。

順序探す範囲注意点
1第01章から第12章、および第17章から第19章この段階では末尾が99のコードを使ってはならない
2第13章から第15章1で適切なコードが見つからない場合に使う
3第16章2でも見つからない場合に使う
41で見た該当章の末尾99ここまで来て初めて使える最後の手段

この順序が守られていないと何が起きるか。末尾99の「その他」コードに廃棄物が集まります。集まったところで年次報告を出すと、行政から見て内容が特定できない申告になり、照会が来ます。照会に答えるために現物をさかのぼろうとしても、記録が「その他」でしか残っていないので答えられません。分類の手抜きは、必ず1年後の説明責任として返ってきます。

有害かどうかの判定にも記号があります。6桁コードにHAが付いているものは絶対分類で、分析せずに有害廃棄物として扱います。HMが付いているものはミラー分類で、附属書2の基準に従って分析を行い、有害に該当するかどうかを判定します。記号が付いていないものは非有害として扱いますが、そもそも同告示第5条の適用除外に当たらないかを先に確認する必要があります。除外されるのは、構内で発生したし尿、事務所や社宅や食堂から出る非有害の不要物、配管で構外に送る未処理の排水、そして再使用や再充填ができる耐圧ガス容器です。

システム設計の観点で言うと、このコード体系はマスタデータの設計そのものです。廃棄物の品目マスタに6桁コードとHAとHMの区分を持たせ、容器のラベルに印字し、計量時に自動で引き当てる。ここが緩いと、下流の申請も報告も全部ずれます。

電子申請と報告の締切が、システムの要件を決めている

産業廃棄物管理システムに何を作るべきかは、実は制度側がかなり具体的に指定しています。誰がいつまでに何を出すかが条文で決まっているからです。

タイの工場局は、廃棄物の管理を扱う電子システムを運用しています。事業者は工場局の産業廃棄物電子管理システムに国民IDとパスワードでログインし、搬出許可の申請を行います。システムに入れない場合の問い合わせ先として、産業廃棄物管理課の連絡先が案内されています。

日本のマニフェスト制度に相当するものは、同告示の第6条で「管理文書」として定義されています。定義はこうです。発生事業者が工業省の中央データ報告システムを通じて発行する文書であって、廃棄物または不要物を処理業者へ引き渡し、完了まで適切に管理させるための証拠となるもの。つまり紙の伝票ではなく、行政のシステムから出す電子的な記録が制度上の本体になっています。産業廃棄物のマニフェストの電子化は、タイでは選択肢ではなく前提です。

条文を期限の表に組み替えると、システムに載せるべき機能が見えてきます。

条文義務を負う側内容期限
第9条発生事業者構内からの搬出許可を様式GorOr.1で申請する。電子システムを主たる方法とする搬出の前
第10条発生事業者許可の取得後、搬出の前に管理の詳細を届け出る搬出の前
第12条発生事業者運搬車両を追跡し監視する運搬の間
第13条発生事業者前年の保管状況と構内処理の状況を中央データ報告システムへ報告する翌年の4月30日まで
第14条発生事業者処理業者から処理を完了できない旨の通知を受けたら長官へ通知する通知の受領から5日以内
第14条発生事業者別の処理業者へ移すための搬出許可を申請する通知の受領から30日以内
第17条処理業者受入のたびに検査を行い、その報告と管理文書を発生事業者へ提出する受入の都度
第20条処理業者有害廃棄物の処理を完了する受入から30日以内
第20条処理業者非有害廃棄物の処理を完了する受入から60日以内
第20条処理業者生物系残渣を堆肥化と土壌改良材にする場合の例外受入から180日以内
第22条処理業者受け入れた原料と製品の月次報告を中央データ報告システムへ提出する翌月15日まで

この表の後半、つまり処理業者側の期限が、発生事業者にとって最も重要な部分です。第20条は、処理業者が期限内に処理できない場合、期限の満了の少なくとも5日前までに発生事業者へ通知しなければならないと定めています。そして第14条は、その通知を受けた発生事業者に5日以内の行政への通知と30日以内の再委託申請を課します。

言い換えると、有害廃棄物を出した瞬間から、30日後に向けたカウントダウンが相手側で始まっています。25日目に「処理できません」という連絡が来る可能性があり、来たらそこから5日と30日の時計が自分の側で回り出します。この時計を人間の記憶で管理するのが無理だという点が、システム化の最も現実的な動機です。

第17条にも実務上の含みがあります。処理業者は受入のたびに検査を行い、その結果と管理文書を発生事業者へ提出することになっています。検査の項目として挙げられているのは、外観、色、比重、状態、引火点、pH値、ハロゲン含有量、シアン含有量、含水率、投与量あたりの活性値、全体の放射能などです。ここで許可の内容と合わないと判明した場合、処理業者は速やかに発生事業者へ通知します。受け入れた側から自社へ戻ってくる記録を、誰がどこに保管するかを決めていない工場が非常に多いというのが、監査で最初に露呈する穴です。

IoTで取るべき記録は4つに絞れる

廃棄物のIoT記録というと大掛かりに聞こえますが、制度が求めている記録に対応させると、取るべきデータは4種類しかありません。

データ現実的な取り方どこで効くか
重量既設の台貫からの自動取込、または保管区画に置く可搬型の計量台搬出許可の数量、月次と年次の集計、処理業者の受入計量との突合
分類コードと容器の識別ラベル印字とバーコードまたはRFIDタグの読み取り第7条が求める容器表示、コードの取り違え防止、保管開始日と終了日の自動記録
時刻現場端末とサーバのNTPによる時刻同期保管期間の証明、搬出時刻と許可内容の整合
車両位置収集運搬業者から受け取るGPSログの取り込み第12条が求める車両の追跡と監視、未着の早期検知

このうち工場側が自力で整えられるのは上の3つです。重量と識別と時刻を現場で押さえるだけで、申請と報告に必要なデータの大半が揃います。逆に言えば、4つ目の車両位置は自社では作れません。契約の中で受領方法を決めておく必要があります。

具体的な現場の作り方はそれほど複雑ではありません。保管区画の入口に可搬型の計量台と現場端末を1組置き、容器を置いたら重量が読み取られ、容器のバーコードを読むと品目と6桁コードが引き当たり、その瞬間の時刻が保管開始日として記録される。搬出時にもう一度読めば終了日と搬出重量が記録される。この2回の読み取りだけで、第7条第2項が求めるラベル記載事項がそのまま揃います。生成される記載事項は、発生事業者名、廃棄物の分類名とコード、そして容器への収容の開始日と終了日です。

写真を1枚残す運用も強く勧められます。容器の状態と保管区画の様子を搬出時に撮っておくと、後日の照会に対する説明が圧倒的に速くなります。第7条第4項は保管レイアウトを最新に保ち、当局の検査に備えることを求めているので、写真は制度の要求とも整合します。

ここで一点、注意が要ります。運搬車両のGPSログには運転手の位置情報が含まれ、車両の入退場を撮った写真には人が写り込むことがあります。タイの個人データ保護法の下で、これらは扱いを決めておくべきデータです。取得の目的、保管期間、共有範囲を契約と社内規程に落としておかないと、コンプライアンスのために作った仕組みが別のコンプライアンス問題を生みます。この整理の仕方は工場IoTとPDPA対応2026 集めたデータが規制対象になる境界にまとめてあるので、GPSログの受領方法を決める前に一度確認しておくことをお勧めします。

産業廃棄物管理システム2026|処分完了まで追うタイの記録設計 - figure 2

記録の半分は相手のシステムの中にある

産業廃棄物管理システムの設計で最も見落とされるのが、自社で作れない記録の管理です。

自社で作れるのは、分別、識別、計量、保管、搬出までです。その先の記録は、収集運搬業者と処理業者から返ってくるものを受け取るしかありません。第17条の検査報告と管理文書がそれにあたります。処理業者が第22条で翌月15日までに提出する月次報告も、自社の廃棄物がどう処理されたかを裏づける材料になります。

したがってシステムに要るのは、送る機能ではなく受け取ったものを期限に紐づけて管理する機能です。具体的には、搬出1件ごとに次の状態が追える台帳が必要になります。搬出許可の番号と有効期限、引き渡した日と重量、処理業者の受入確認が返ってきたかどうか、有害なら受入から30日、非有害なら60日の処理完了期限、完了の証跡が返ってきたかどうか、返ってこない場合の第14条の5日と30日の起算日。

この台帳が無い工場では、期限の管理が担当者の記憶とスプレッドシートに依存します。担当者が異動した瞬間に、どの案件が未完了なのかが誰にも分からなくなります。監査で「昨年3月に搬出した有害廃棄物の処理完了証跡を見せてください」と言われて出せない状態は、この依存から生まれます。

委託先の選定基準にも直結します。ライセンスの種別と有効期限、処理方法、受入能力、そして過去の期限遵守率を台帳で持っておくと、処理業者が受け入れを止めたときの代替先の選定が数時間で終わります。持っていないと数週間かかります。この差が、後で見る費用の試算に大きく効いてきます。

EPRが入ると、責任の終点がもう一段先へ動く

ここまでは施行済みの制度の話です。ここから先は、審議中の法案の話になります。断定はできませんが、方向性は明確です。

工場局は産業廃棄物管理法案を提示し、2025年4月1日までパブリックヒアリングを行いました。国際法律事務所Baker McKenzieの解説によれば、この法案は拡大生産者責任、いわゆるEPRの原則を採用しています。

法案の内容で押さえるべき点がいくつかあります。適用範囲は、感染性廃棄物と放射性廃棄物を除く産業部門由来のほぼ全種類の廃棄物です。電子廃棄物と自動車のスクラップも含まれ、タイ国内で発生したものか国外で発生したものかを問いません。事業者は、収集と運搬を含めて、完全に処理または処分されるまで産業廃棄物に対して責任を負い、工場局の許可を受けた事業者だけが処分を扱えるようにする義務を負います。

最も影響が大きいのは、責任を負う「発生者」の定義です。同解説によれば、この定義は発生者、製造者、組立業者、輸入者、所有者、そしてブランドまたは商標の所有者にまで及びます。つまり、自社工場を持たずタイで委託生産だけを行っている企業も、責任の射程に入る可能性があるということです。

制度の裏づけとして、工業省の下に持続可能産業基金が置かれ、環境被害の修復に充てられます。処分業者、収集業者、運搬業者は保証金を預託し、これが操業上の損害に対する初期補償の原資になります。既存の工場ライセンス、具体的には工場法上の101、105、106の類型は、当面の間は同等のライセンスとみなされる経過措置が想定されています。

法案の状態については正確に書いておく必要があります。立法プロセスはまだ完了していません。 電気電子機器廃棄物法案、いわゆるWEEE法案と規定が重複する部分があり、成立前に統合される可能性があるとされています。したがって「いつから何が義務になる」と現時点で確定的に言うことはできません。

電子廃棄物の側では動きがあります。2026年1月11日のNation Thailandの報道によれば、タイでは2023年に40万トンを超える電子廃棄物が発生しており、使用済みのスマートフォンやタブレットがこれに含まれます。EPRの原則に基づくWEEE法案は、生産者に使用済み製品の回収と再生利用の責任を負わせるもので、実施が急がれています。同報道はタイ開発研究所のデータとして、系統的な回収の仕組みがまだ無いために多くが家庭に保管されるか非公式の回収業者に売られ、不適切な解体によって有害な残渣が残る状況を指摘しています。同記事は、携帯電話100万台の再生利用から15キログラムを超える金、350キログラムの銀、15,000キログラムを超える銅が回収できることや、オーストラリアの回収プログラムMobileMusterが2024年に109トンの使用済み携帯電話を回収し、最大で250万米ドル相当の材料を生んだ事例も紹介しています。

包装材の側でも同じ方向の動きがあります。汚染管理局はメーファールアン大学に委託して持続可能包装管理法案を作成し、2024年3月にパブリックヒアリングに付しました。法案は53条から成り、政策、管理責任、監督、実施の4部で構成されます。指定された製造業者には、環境配慮設計に沿った包装材の使用、表示の掲示、使用済み包装材の回収と再利用、大臣が定める買い戻しやデポジット制度への参加、消費者への分別と返却の周知が課されます。あわせて、持続可能包装管理の責任を負う事業者の登録と、市場に投入した包装材の量の報告についての基準が置かれます。

ここに共通する構造を見落とさないでください。EPRの制度はどれも、事業者の登録と、量の報告を前提にしています。市場に出した量、回収した量、再生利用した量を数字で出せない企業は、制度が動き出した時点で対応できません。産業廃棄物管理システムで重量を機械的に記録する仕組みを先に作っておくことは、いま施行されている告示への対応であると同時に、来る制度への準備でもあります。

タイの産業廃棄物は年にどれだけ出ているのか

自社の位置を測るために、国全体の数字を置いておきます。国家統計局が公表する環境統計は、汚染管理局と工場局のデータとして、産業廃棄物の発生量を年ごとに示しています。

非有害廃棄物(百万トン)有害廃棄物(百万トン)
2019年15.461.34
2020年16.771.28
2021年17.071.50
2022年33.842.71
2023年18.691.13

数字の読み方には注意が要ります。2022年の数値は前後の年と比べて突出しており、非有害が33.84百万トン、有害が2.71百万トンに達しています。これを実際の発生量の急増と読むのは危険です。報告制度の変更や集計対象の変化が反映されている可能性が高く、少なくとも発生量そのものが1年で倍増して翌年に半減したと解釈するのは無理があります

この統計から実務的に読み取るべきことは、水準ではなく変動の大きさのほうです。国レベルの集計ですらこれだけ揺れるということは、個々の工場の申告データの品質もそれだけばらついているということです。自社の数字を毎年同じ方法で数え続けている工場は、それだけで説明力を持ちます。

モデルケースで費用と効果を積み上げる

自社の数字に置き換えるための例として、タイ・ラヨーン県の樹脂成形工場を仮定して積み上げます。以下は当社の想定に基づく試算であり、実測値ではありません。

前提は、従業員320名、廃棄物の品目が12種類でうち有害が5種類、年間発生量が非有害1,850トンと有害210トン、構外への搬出が年240回、委託先は処理業者4社と収集運搬業者3社、という条件です。

現状の事務工数はこうなっています。搬出1回あたりの書類作成と電子申請と照合に55分かかり、年240回で220時間。月次の突合と是正に月8時間で年96時間。4月30日期限の年次報告の集計に40時間。合計で年356時間です。担当者の人件費を1時間あたり220バーツとすると、年78,320バーツになります。

ここが最初の分かれ道です。事務工数だけを根拠にすると、産業廃棄物管理システムの投資は絶対に通りません。 年78,320バーツの作業を減らすために百万バーツ単位の投資はできないからです。数えるべきなのは工数ではなく、記録が無いことで起きる事象の損失です。

損失の側を積み上げます。

事象積算の内訳1件あたり(バーツ)
委託先の受け入れ停止代替委託の割増320,000、一時保管区画の増設85,000、内部工数160時間で35,200、生産調整240,000680,200
廃棄物の追跡不能または紛失再委託と再輸送240,000、分析費60,000、内部工数120時間で26,400、外部助言150,000476,400
顧客監査での不適合内部工数400時間で88,000、外部監査対応92,000180,000

このうち最初の事象がタイでは最も現実的です。処理業者が行政処分やライセンスの更新遅れで受け入れを止める事態は珍しくなく、そのとき第14条の5日と30日の時計が回り始めます。代替先を持っていない工場は、緊急の単価で契約せざるを得ません。

発生頻度を置いて年間の期待損失に直します。

事象1件あたり(バーツ)想定発生頻度年間期待損失(バーツ)
委託先の受け入れ停止680,200年1回680,200
廃棄物の追跡不能または紛失476,4004年に1回119,100
顧客監査での不適合180,000年1回180,000
合計979,300

年979,300バーツ。ここが投資と比較すべき相手です。年78,320バーツの事務工数ではありません。

産業廃棄物管理システム2026|処分完了まで追うタイの記録設計 - figure 3

対策は4層に分かれる

産業廃棄物管理システムの見積を取ると、行政システムへの申請自動化を中心に据えた提案が出てくることが多くあります。しかし機能には明確な階層があり、どの順で入れるかで回収年数が大きく変わります。

内容主な中身初期費用(バーツ)年間運用(バーツ)
層1 分別と識別品目マスタと容器ラベルの整備ラベルプリンタ2台とタグで60,000、保管区画の表示とコード表の整備で40,000、6桁コードのマスタ整備で80,000180,00024,000
層2 計量と搬出記録現場で重量と時刻を機械的に取る既設台貫の連携ユニットで150,000、可搬型計量台2台で180,000、現場端末3台とカメラで140,000、記録アプリで150,000620,00048,000
層3 申請と報告の連携行政システム向けデータの自動組み立て申請データの組み立てと様式出力で300,000、マスタ連携と権限設計で150,000450,00096,000
層4 完了確認と委託先台帳返ってくる記録と期限の管理委託先台帳と期限アラートで160,000、監査用の出力で100,000260,00072,000

層の意味は、トレーサビリティ全般の設計と同じ考え方に乗っています。どこまで作ると何が言えるようになるのか、費用がどの層で跳ねるのかという一般論はトレーサビリティシステム構築2026 費用が跳ねる層はどこかで4層モデルとして整理しているので、社内で層の切り方を説明する際の下敷きに使えます。

層ごとの効果の考え方を明示しておきます。層1と層2は、記録の欠落そのものを消します。したがって追跡不能と顧客監査での不適合に効きますが、委託先の受け入れ停止には直接効きません。層3は申請作業を速くしますが、減るのは事務工数だけです。層4は委託先の期限と完了証跡を管理するので、受け入れ停止の予兆を早く掴み、代替先の選定を速くします。

入れる順序で回収年数が2倍以上変わる

4つの層をどう組み合わせるかで比較します。効果の想定は、層1と層2だけの場合に追跡不能と顧客監査の損失が6割減、層4が加わると7割減、層4がある場合に受け入れ停止の損失が6割減、無い場合は2割減としました。事務工数は、層1と層2で搬出1回あたりが55分から25分になり年120時間の削減、層3まで入れると1回あたりが12分、月次の突合が年24時間、年次の集計が24時間まで下がって年260時間の削減としています。

構成初期投資(バーツ)年間運用(バーツ)年間便益(バーツ)純便益(バーツ)回収年数
案A層1と層2800,00072,000341,900269,9003.0年
案B層1から層31,250,000168,000372,700204,7006.1年
案C4層すべて1,510,000240,000674,690434,6903.5年
案D層1と層2と層41,060,000144,000643,890499,8902.1年

この表から読み取れることは1つです。層3を層4より先に入れると、回収年数が2.1年から6.1年へ悪化します。 案Bは案Dより初期投資が190,000バーツ多いのに、年間の純便益は295,190バーツ少なくなります。

理由は単純です。層3が減らすのは事務工数だけです。しかも層1と層2をすでに入れている前提では、層3を足したことによる追加の削減は年140時間、金額にして30,800バーツにしかなりません。これに対して層3の年間運用費は96,000バーツかかります。層3は単独では年間の収支がマイナスになる層です。一方の層4は、680,200バーツの事象を6割減らします。金額の桁が違います。

したがって、多くの工場にとっての正解は層1、層2、層4の順に入れ、層3は後回しにすることです。申請作業は当面、人が層2のデータを使って行えば足ります。層2で重量と時刻とコードが機械的に揃っていれば、申請の入力そのものは大幅に楽になっているからです。

層3が正当化されるのは、搬出回数が桁違いに多い工場に限られます。この点は次で数字にします。

前提を崩すとどうなるか

上の試算は3つの前提に強く依存しています。それぞれを動かしてみます。

前提1として、委託先の受け入れ停止が年1回ではなく2年に1回だった場合。委託先を大手に集約していて、ライセンスの更新管理がしっかりしている工場ではこちらに近くなります。受け入れ停止による年間期待損失は680,200バーツから340,100バーツに下がります。この条件では案Dの年間便益が439,830バーツ、純便益が295,830バーツとなり、回収年数は3.6年に伸びます。案Aは4.0年です。順序の結論は変わりませんが、差は縮まります。

前提2として、搬出回数が年240回ではなく年1,200回だった場合。多品種で少量ずつ、かつ有害の比率が高い化学系の工場ではこうなります。基準となる事務工数は、1,200回に55分を掛けた1,100時間へ月次96時間と年次40時間を足した年1,236時間です。層1と層2まで入れると1回あたりが25分になるので年636時間、層3まで入れると1回あたりが12分になり月次と年次も下がって年288時間になります。層3を追加することによる削減の増分は年348時間、金額にして76,560バーツです。これに対する年間運用費の増分は96,000バーツなので、この規模でも層3は年間の収支がまだマイナスです。損益分岐は搬出が年およそ1,600回で、それを超えて初めて初期費用450,000バーツの回収を語れるようになります。層3は費用対効果ではなく、担当者を張り付けられないという体制上の制約から選ぶ層だと考えたほうが実態に合います。

前提3として、有害廃棄物の比率が高く、委託先の受け入れ停止が年2回起きる場合。第20条の30日期限は有害廃棄物に適用され、非有害の60日より短く設定されています。有害の比率が高いほど、処理業者側で期限を超える確率が上がります。この条件では受け入れ停止による年間期待損失が1,360,400バーツになり、案Dの年間便益は1,052,010バーツ、純便益は908,010バーツ、回収年数は1.2年まで縮みます。

3つの前提のうち、自社で最も不確かなのは前提1です。だからこそ、まず委託先台帳を作って過去2年の実績を並べ、受け入れ停止や期限超過が何回あったかを数えることが最初の作業になります。この数字が出るまで、層3の是非を議論しても答えは出ません。

90日で何をやるか

産業廃棄物管理システムの導入は、90日を1区切りとして進めるのが現実的です。

第1期の30日でやるのは、棚卸しです。現在扱っている廃棄物の全品目に対して、附属書1の6桁コードを付け直します。付け直すと必ず、末尾99に逃げていた品目と、HMなのに分析をしていない品目が見つかります。同時に、過去24か月の搬出記録を集めて、委託先ごとの件数と重量と期限遵守の状況を1枚の表にします。この表が損失額の積算根拠になります。

第2期の30日でやるのは、現場の記録化です。保管区画に計量台と現場端末を置き、容器ラベルを新しいコード体系で刷り直し、収容の開始日と終了日が自動で記録される状態にします。全機器の時刻同期もこの期間に入れます。ここで行政システムへの自動連携を急がないことが重要です。

第3期の30日でやるのは、委託先台帳の立ち上げです。搬出1件ごとに、許可番号、引き渡し日、重量、受入確認、処理完了期限、完了証跡の受領状況を追える状態にします。同時に、収集運搬業者との契約にGPSログの提供方法を書き加えます。この台帳が動き始めてから、層3の申請自動化を検討しても遅くありません。

その後、雨季を含む6か月の運用を経て、実際の期限超過の回数を確定させます。急ぐ必要はありません。層1から層2までの整備だけで、監査で聞かれることの大半には答えられるようになっています。

よくある質問

産業廃棄物管理システムとは何ですか

工場から出る廃棄物を、分類コードと重量と時刻で機械的に記録し、搬出の許可申請から処理の完了確認までを1つの台帳で追えるようにする仕組みです。製品のトレーサビリティが出荷で完結するのに対して、産業廃棄物のトレーサビリティは処理または処分の完了までを対象にする点が違います。タイでは工業省告示の仏暦2566年版が、搬出許可、車両の追跡、年次報告、処理業者からの記録の受領といった要求を具体的に定めています。

産業廃棄物のマニフェストは電子化が義務ですか

タイでは日本のマニフェストに相当するものが「管理文書」として定義され、工業省の中央データ報告システムを通じて発生事業者が発行するものとされています。搬出許可の申請も、電子システムを主たる方法として行うことになっています。したがって紙の伝票だけで運用することは制度の想定から外れています。電子システムでの申請ができない場合に限り、工場局の窓口での手続きが認められています。

産業廃棄物管理システムの費用はどのくらいですか

本記事のモデルケースでは、分別と識別の層が初期180,000バーツ、計量と搬出記録の層が620,000バーツ、申請と報告の連携の層が450,000バーツ、完了確認と委託先台帳の層が260,000バーツで、4層すべてで初期1,510,000バーツ、年間運用240,000バーツと試算しました。ただし全層を一度に入れる必要はなく、層1と層2と層4の3つに絞れば初期1,060,000バーツ、年間運用144,000バーツで、回収年数はむしろ短くなります。

廃棄物のIoT記録は何から始めればよいですか

重量からです。保管区画に可搬型の計量台と現場端末を1組置き、容器のバーコードと一緒に読む運用を作るところから始めます。これだけで、容器表示に必要な発生事業者名と分類コードと収容の開始日と終了日が自動で揃い、搬出許可の数量と月次の集計もそのデータから作れます。車両のGPSログは自社では作れないので、収集運搬業者との契約に受領方法を書き込む形で押さえます。

工場局への報告義務はいつまでにどこへ出しますか

発生事業者は、前年の保管状況と構内での処理状況を、翌年の4月30日までに工業省の中央データ報告システムを通じて電子的に報告することになっています。処理業者の側には別の義務があり、受け入れた原料と製品の処理状況を翌月15日までに同じシステムへ月次で報告します。自社が処理業者から受け取る記録は、この月次報告と受入時の検査結果および管理文書です。

EPR、つまり拡大生産者責任は製造業にいつ影響しますか

時期は確定していません。産業廃棄物管理法案は2025年4月1日までパブリックヒアリングにかけられましたが、立法プロセスは完了しておらず、電気電子機器廃棄物法案と統合される可能性も指摘されています。ただし方向は明確で、責任を負う主体の定義が製造者だけでなく輸入者やブランド所有者にまで広がる案になっています。制度がどう固まっても、市場に出した量と回収した量を数字で報告できることが前提になるため、重量を機械的に記録する仕組みは先に作っておく価値があります。

まとめ

産業廃棄物管理システムは、生産のトレーサビリティの延長ではありません。責任の終点が出荷ではなく処理の完了に置かれているため、記録の半分が自社の外にあります。ここを理解しないまま自社システムだけを作り込んでも、監査で聞かれることには答えられません。

タイの制度は2023年11月にすでに切り替わっています。工業省告示の仏暦2566年版は、搬出許可を電子システムで申請すること、運搬車両を追跡すること、前年の状況を翌年4月30日までに報告すること、処理業者から処理不能の通知を受けたら5日以内に行政へ通知し30日以内に再委託を申請することを求めています。処理業者の側には、有害30日、非有害60日という処理完了の期限が課されています。この時計を人が記憶で管理するのは無理があります。

モデルケースの試算では、記録が無いことによる年間の期待損失が979,300バーツでした。これに対して、層1と層2と層4を入れた場合の回収は2.1年、4層すべてで3.5年、層4を飛ばして層3を先に入れると6.1年でした。層3が減らすのは事務工数だけで、搬出回数が5倍の工場でも年間の収支はまだマイナスのままです。入れる順序そのものが費用対効果を決めています。

そしてEPRの方向に制度が動いていることを考えると、いま作るべきものははっきりしています。市場に出した量と処分した量を、コードと重量で毎年同じ方法で数え続けられる仕組みです。法案の中身が固まってから作り始めると間に合いません。

産業廃棄物の記録や搬出の管理について、まだ社内で方針が固まっていない段階でも構いません。現在の廃棄物品目に6桁コードを振り直すところから、委託先台帳の項目の決め方、計量と識別をどこまで自動化するかの線引きまで、実務の順序に沿ってご相談に応じています。廃棄物の品目一覧と直近1年の搬出実績があれば、より具体的な話ができます。お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。

参考情報