工場の粉じん濃度監視システムを導入するとき、最初の論点はセンサーの価格ではありません。どの工程の、誰の判断を、何分早くするために、どの空気を測るのかです。切断、研磨、原料投入、袋詰め、清掃のたびに舞う粉じんを時系列で見たいという要望と、作業者の曝露を正式な方法で評価したいという要望は、重なりますが同一ではありません。本記事はタイおよびASEANの製造拠点を念頭に、測定目的、設置場所、光学式の限界、参照測定との照合、警報、保守、調達と受入試験を一つの導入仕様にまとめます。物質固有の健康リスクや適用法令の判断は、現地の有資格者と対象物質に合わせて行ってください。
工場の粉じん濃度監視で「何を測るか」を先に決める
「粉じんが多い」という現場の表現には、別々の観測対象が混ざります。設備の中を通る集じん空気、フィルターの前後で失われる圧力、建屋内に浮遊する粒子、作業者が吸い込む可能性のある空気は、それぞれ測定位置も機器も違います。集じん機のフィルター差圧はフィルターの抵抗や目詰まりを把握する手掛かりになります。しかし、差圧が通常範囲でも局所フードから粉じんが漏れる、作業姿勢が変わる、清掃で再飛散するといったことは起こり得ます。反対に差圧が変動しても、作業エリアの空気濃度が同じ割合で動くとは限りません。今回の主題は作業エリアに浮遊する粉じんを、時間と場所にひも付けて監視することです。差圧の監視を置き換える設計ではなく、別の信号として突き合わせる設計にします。集じん設備そのものの監視は集じん機のフィルター差圧監視で解説しています。
粉じんの種類も一括りにしません。原料、粒径、形状、化学組成、工程での加熱の有無によって、測るべき粒子分画と適切な採取方法が変わります。ISO 7708は健康影響を検討するための吸入性、胸郭性、呼吸性などの粒子分画を定義しています。ただし、どの分画が当該物質の評価に必要かは物質と評価目的に依存します。「PM2.5」と表示する廉価な室内センサーを置いただけで、作業者の吸入性または呼吸性粉じんの評価が終わるわけではありません。装置仕様書では、表示する値が粒子数か推定質量か、対象粒径は何か、採気口と分級器の構成は何かを明記します。
さらに、固定点のエリア監視と個人ばく露評価を分けます。固定センサーは工程間の比較、異常の発見、対策前後の傾向確認に役立ちます。一方で、作業者が工程を移動し、顔を発生源に近づける場合、壁面の一点から個人の呼吸域を代表させることはできません。NIOSHの直接読取技術は、時系列を得て対策や警報に結びつける用途を説明していますが、機器の選定と解釈には方法ごとの妥当性確認が必要です。導入前の要求書には「傾向監視」「発生源の発見」「対策効果の確認」「個人ばく露の評価」のどれを行うかを一行ずつ分けて書きます。
成果の定義はダッシュボードでなく現場の行動
高いグラフを見て誰が何を変えるのでしょうか。例えば袋詰め開始直後に数値が跳ねるなら、袋口の位置、吸引フード、投入速度、蓋の開け方、清掃手順を確認する必要があります。休憩中に上がるなら、換気の停止時刻、フォークリフトの走行、圧縮空気による清掃などを疑います。管理画面に色を付けるだけでは工程は変わりません。監視システムの成果は、発生時刻と作業記録を照合でき、責任者が現場を見て原因を記録し、対策を施し、同じ条件で再測定できる状態です。正式な曝露評価や法令への適合判断は、別途その目的に合った採取・分析・専門判断で扱います。
測定点は平面図と作業動線から決める
まず現場の平面図に、発生源、作業位置、作業者の移動、局所排気フード、給気口、扉、フォークリフトの経路、壁、天井ファンを重ねます。次に、工程ごとに粉じんが発生する動作と時間帯を書きます。原料の袋を開ける、切断を始める、ワークをエアブローする、集じん機の粉受けを交換するといった短い作業は、日平均だけでは消えます。固定点を「コンセントがある壁」だけで選べば、測りやすい空気を測る仕組みになります。粉じんの流れを確かめる現場観察と、一時的な移動測定を先に行い、常設点を後から絞ります。
候補点は少なくとも三つの役割に分けます。第一は発生源近傍の変化を捉える点。第二は作業者が通常立つ場所や滞在するエリアの変化を捉える点。第三は工程外の背景値を把握する点です。これらは同じ数値になる必要がありません。むしろ差を読むために置きます。吸気口を機械の吹出口やエアブローの直線上に置けば、極端な瞬間値ばかりになり、エリア全体の傾向を誤解することがあります。逆に高い梁の上や閉じた盤の中では、作業域の変動を見逃します。設置高さと向きは測定目的、気流、機器の採気条件を現場で確認して決め、図面と写真で記録します。
測定点は作業の変化にも耐える必要があります。搬送物が積まれると気流が変わる、パーティションが増える、ラインのタクトが変わる、ファンの稼働が季節で変わる。初回の配置図に「なぜここに置いたか」を残しておけば、変更時の再評価ができます。電源、通信、清掃時のアクセス、吸気口を塞がない保護、粉じんや水の侵入、振動、温湿度の範囲も点ごとに確認します。無線の電波が届くことと、データが欠けずに記録されることも別です。現場での通信調査と、停電・切断後の復旧テストを設置条件に含めます。

固定点だけで作業者を代表させない
研磨台の前を通る作業者、原料袋を肩に上げる作業者、フードの内側へ身を乗り出す作業者では、同じ室内でも呼吸域の空気が違います。固定点のピークが無くても個人の短時間作業が高いことがあり、固定点のピークが高くても人がいない場合があります。したがって、導入初期には作業観察票と固定点の時刻を合わせ、必要な工程では個人サンプリングや専門家による調査を別計画にします。固定点の値をそのまま「従業員の曝露濃度」と名付けてはいけません。画面上も「エリア測定点」「工程イベント」「個人測定結果」を別項目にします。

光学式のリアルタイム粉じん計が得意なことと苦手なこと
直接読取の光学式機器は、空気中の粒子による光散乱を使い、短い周期で値を表示します。現場で粉じんが増える作業やタイミングを見つけ、対策前後の変化を追うのに便利です。ただし表示値は、機器の原理、粒子の大きさ、形、屈折率、密度、湿度、サンプリング系の損失などに影響されます。NIOSHの職業環境向けレビューは、直接読取機器の選定、原理、データ解析の理解が導入上の課題だと述べています。EPAのセンサーガイドも、粒子種、粒径、温湿度が変わればセンサーの偏りが変わる可能性を示しています。EPAのガイドは主に一般環境用のセンサーを扱うため、職場用機器の性能保証として転用しません。ここで参考にするのは、センサー値を参照測定と照合し、設置環境で解釈するという考え方です。
工程が変われば、同じ表示値の意味も変わります。金属研磨の粉じんと樹脂の切削くず、湿った粉末と乾いた粉末では光の散乱が違います。加熱による煙やミストが混在すれば、粉じんとして計上される値が変わることもあります。機器カタログの「測定範囲」だけではこれを判定できません。RFPでは、測定原理、対象粒径帯、工場で想定する粉じんの種類、温湿度条件、応答時間、測定間隔、データ欠損時の振る舞い、清掃・交換部品を明記させます。必要なら特定物質を対象にした適切な分析方法を別途選びます。光学式一点の表示を、化学組成を区別する分析結果として扱いません。
光学式の短いスパイクも、そのまま対策の失敗とは限りません。作業者が機器の近くを通って衣服の粉を舞い上げた、清掃で一瞬だけ再飛散した、吸気口に水滴が付いたなど、原因は複数あります。元データの時間分解能を保ち、工程イベント、風向や換気の状態、センサー状態と突き合わせます。平滑化した平均値だけを保存するとピークの原因が消え、瞬時値だけを見せると現場が警報に慣れます。両者を残す設計が必要です。
校正、照合、比較は同じ言葉にしない
メーカーが定めるゼロ点確認や校正は機器の健全性を確かめる作業です。並置比較は、現場の粉じんを同じ時間・場所で測る参照機器または適切な採取法と、センサーの応答を比べる作業です。現場での補正は、得られた差を使って表示値の解釈や変換を管理する作業です。これらを「校正済み」の一言で済ませると、どこまで保証されたか分かりません。EPAは空気センサーの並置比較を、実際の条件下で性能を理解する方法として説明しています。光学式は散乱光から質量濃度を推定します。一方、対象粒径を選ぶ採取器でフィルターに捕集した粉じんの質量を秤量し、採取空気量で割った重量法の質量濃度が参照値になります。比較時は粒径区分、採気位置、採取時間を揃えます。職場では測定対象と評価目的に適した参照法を衛生管理の担当者と選び、粉じんの種類や湿度、操業条件を含む代表的な場面で比較します。
並置の記録には、機器番号、採気位置、比較した時間帯、工程、稼働設備、温湿度、採取法、参照値、センサーの生値と補正後の値、採用した変換式の版を残します。都合のよい一日の相関だけで全工程に適用しません。原料が変わった、センサーを交換した、設置位置を移した、定期清掃後に応答が変わった場合は再確認の条件です。参照測定の結果が出るまでに時間がかかっても、時系列センサーの役割は消えません。時系列で「いつ」を見つけ、参照測定で「その数値をどう解釈するか」を確かめる役割分担です。
粉じん監視の警報は「閾値」より運用の組を設計する
警報値だけを一つ設定すると、現場は二つの失敗に陥りがちです。頻繁に鳴って無視されるか、ほとんど鳴らず異常を見逃すかです。警報は「測定値」「継続時間」「測定点」「設備状態」「誰へ」「何を確認するか」「いつエスカレーションするか」の組として定義します。例えば袋詰め点の値が上がったときは、まず吸気口の汚れと工程イベントを確認し、その後にフードの位置、集じん機の運転、袋口の密閉、清掃方法を点検する、といった順序を定めます。値が下がっただけで自動的に対策完了にせず、原因と処置を記録します。
警報値に万人共通の数字は置けません。対象物質、測定原理、補正の妥当性、作業工程、適用される基準、現場で選ぶ管理目的で意味が変わるためです。初期のパイロットでは、通常運転、立ち上げ、清掃、停止の時系列を分けて観察し、どの変動なら誰が対応すべきかを合意します。暫定的な工程監視のアラームを設ける場合も、その数値を法令上の曝露限界と同一視せず、画面と手順書に用途を明記します。正式な遵法評価は別の測定計画で扱います。
センサー故障と粉じん上昇も表示を分けます。流量低下、吸気口閉塞、通信停止、時刻同期のずれ、電源断、測定範囲外は、環境が安全であることを意味しません。「欠測」をゼロ濃度としてグラフに描くと、対策後にきれいになったように見えてしまいます。警報の停止、保守モード、確認済み、未解決の状態を履歴として残し、勤務交代時に引き継ぎます。必要に応じてセンサー側にローカル保存を持たせ、ネットワーク復旧後の再送と重複排除を試験します。
清掃・換気・工程変更までつなげる
粉じん監視は、警報に反応して換気扇の設定を上げるだけの仕組みではありません。発生源での捕集、工程の囲い込み、原料投入の方法、乾式清掃の見直し、集じん設備の点検など、原因側の対策に戻す必要があります。OSHAは可燃性粉じんの案内で、捕集、封じ込め、適切な清掃を強調しています。ただし可燃性の有無や爆発リスクは物質と工程によって異なります。本記事の光学式エリア監視から爆発危険性を判定することはできません。該当可能性があれば別途専門的な危険性評価を行います。現場では、警報から対策までの管理番号を振り、作業標準や設備点検票に戻すところまで責任範囲にします。
工場の粉じん濃度監視システムの構成
最小構成は、採気するセンサー、時刻を保つ収集装置、保存先、画面、通知、保守台帳です。しかし実装ではその間の条件が品質を決めます。センサーが一分ごとに測っても、ゲートウェイが通信不良で後から一時間分を送るなら、通知には使えません。緊急時に通信が切れる可能性を考え、どの警報を現場側で出すか、どの分析をサーバー側で行うかを分けます。エリア監視のデータを設備のPLCへ直接書き戻して制御を変える構成は、工程安全の設計と変更管理を伴います。単なる可視化プロジェクトの付属機能として扱わず、別途承認の対象とします。
記録は測定値だけでは足りません。時刻とタイムゾーン、測定点ID、機器ID、測定単位、機器状態、測定値の種類(生値・補正値・平均値)、補正式の版、原料と工程のイベント、欠測理由が必要です。複数拠点では言語と現地時刻の混在に注意し、内部では共通時刻で保存し、画面で現地時刻を表示する設計が扱いやすいでしょう。作業者の氏名や個人測定を結び付ける場合は、アクセス権と保存期間を別途定めます。現場の改善に必要な粒度を超えて個人データを集めない設計も重要です。
保守台帳には、清掃、流量確認、ゼロ点確認、並置比較、部品交換、ファームウェア更新、設置位置変更、故障、復旧を記録します。保守予定だけでなく実施結果と次回の判断を残します。吸気口が汚れやすい工程なら、机上の年一回保守計画は使い物になりません。パイロットで汚れ方を確認し、点検周期を決め、条件が変われば見直します。メーカー推奨の保守手順、保証範囲、交換部品の調達期間、現地で対応できる範囲も見積比較に含めます。
データの「比較できる条件」を記録する
粉じんのグラフを週ごとに並べて改善を判断するときは、縦軸の数値だけを比較しません。何を何個加工したか、原料のロットや粒度は同じか、ラインの稼働率はどうか、局所排気は運転していたか、扉と給気口は同じ状態かを確認します。生産量が半分になれば、何も対策しなくても一日の平均値は下がる可能性があります。逆に新しい品目で粉じんの性状が変わった場合、光学式の表示が上がっても実際の質量が同じ割合で増えたとは限りません。改善効果を報告するなら、対象工程、作業量、気流条件、原料、測定機器の状態をそろえた比較を示します。
時刻の扱いも軽視できません。センサーが現地時間、PLCがサーバー時刻、作業日報が手書きの時刻という構成では、数分のずれで「どの作業がピークを作ったか」が入れ替わります。導入時に時計の同期方法、タイムゾーン、停電後の復旧方法を決めます。作業イベントには開始時刻だけでなく終了時刻と、実施した作業の種類を残します。後から原因を調べるため、設定変更と補正式の版も履歴化します。過去のデータを新しい補正式で再計算した場合は、当時の表示値と再計算値を区別できるようにします。
ダッシュボードの表示は、単位の明示から始めます。粒子数、推定質量濃度、補正後濃度を同じ色の折れ線として並べると、利用者は同じ意味の数値と誤解します。測定点ごとに機器の型式、測定原理、補正の適用範囲、最終点検日を確認できる構成が望まれます。値が高い画面から、該当する作業記録と警報への対応履歴へ移れるようにします。月次報告では平均値だけでなく、異常が起きた時刻、原因が確認できた件数、再測定の実施状況、欠測時間を示します。数値の変化と現場の対応を一緒に見て初めて、監視が管理に変わります。

見積依頼書に書くべき要件と比較表
三社から「粉じんセンサー一式」の見積を取っても、比較はできません。ある提案は固定点だけ、別の提案は参照測定を含み、別の提案はダッシュボードだけで警報の運用を含まないからです。発注側は、少なくとも測定目的、粉じんの種類、工程と稼働条件、候補点、必要な時系列粒度、表示と通知、参照測定、保守、受入試験、教育を同じ様式で提示します。特に「このシステムは何を主張でき、何を主張しないか」を提案者に書かせます。営業資料の「高精度」だけでは、現場での意味を判定できません。
比較表は本体価格を左端に置くだけでは不十分です。センサーと採気系、取付工事、電源、通信、収集・保存、画面、通知、設置時の並置比較、定期保守、消耗品、校正、教育、現地サポート、データ搬出、撤去・移設を行で分けます。将来の点数追加時に必要なライセンスやゲートウェイ容量も確認します。「初年度合計」と「継続年の運用内容」を同じ列で見れば、見積の安さが保守や照合の省略によるものかを判断しやすくなります。金額は現地条件に依存するため、他工場の単価をそのまま転記しません。
提案を評価するときは、次の問いを共通にします。原料が変わったら測定値の解釈はどう変わるか。湿度やミストが増えた場合はどう検知し、どう注記するか。通信が切れた間の値はどこに残るか。吸気口が詰まったら何が表示されるか。参照測定とずれた場合、誰が補正を承認するか。警報を受けた班長は何をするか。設備とネットワークの責任境界はどこか。この答えを文書で比較すれば、単に測定器を買う案件から、運用できる監視の調達に変わります。
既存設備へ後付けする場合の電源・通信・保守の考え方は、工場のIoT導入ガイドも参考になります。測定間隔からセンサーと収集経路を選ぶ考え方は、工場のIoTセンサー種類と選定で詳しく整理しています。ただし、粉じん用の光学式測定器には粒子特有の照合が必要であり、一般的なIoTセンサーの選定だけで測定妥当性は確保できません。
FAT・SATで「数値が出る」を超えて受け入れる
FAT(工場出荷前試験)では、機器単体とシステムのロジックを確認します。正常な測定値、測定範囲外、電源断、通信断、時刻のずれ、センサー故障、保守モード、通知の重複、復旧後の再送をテストケースにします。表示の単位と桁、原データと平均値の区別、測定点IDの一致、権限、記録のエクスポートも確認します。模擬信号で警報が出たことは、実際の粉じんに対する性能証明ではありません。FATの証跡には試験入力と期待結果、実際の結果、判定者、未解決事項を残します。
SAT(現地受入試験)では、まず設置位置、採気方向、電源、通信、接地、清掃アクセスを図面と突き合わせます。次に操業中の代表的な工程で時系列を取得し、並置比較を行い、作業記録との時刻合わせを確認します。清掃、原料切替、袋詰め、停止・再開など、現場で起きる状態を試験日程に入れます。警報を実際の担当者へ届け、確認、処置、閉鎖まで歩いてみます。停電や通信断から復帰した後、欠測が欠測として残り、保存値が重複せず、時刻がずれないことも確認します。合格条件は試験前に発注側と供給側で合意し、後から都合よく変更しません。
受入後は一定期間の運用レビューを設けます。検知した変動のうち原因を特定できた割合、誤報や見逃しが疑われる事象、欠測時間、保守に要した工数、対策後の再測定の実施状況を確認します。これらは他社の数値を借りて目標にするのではなく、自工場のパイロットで基準を作ります。粉じんの種類や工程が違えば、アラーム数の多寡だけを比較しても意味がありません。測定点を増やす前に、今ある点が意思決定につながっているかを見直します。
導入を小さく始める手順
最初の段階では、対象工程を一つに絞り、原料と発生動作、現行の局所排気、作業者の位置、清掃方法、既存の測定結果を棚卸しします。現場観察で粉じんの移動を見て、一時的な移動測定と作業記録で候補点を評価します。次の段階で、発生源近傍、作業エリア、背景を区別した少数の固定点を仮設し、通常運転だけでなく立上げ、清掃、停止も記録します。並置比較と専門家による解釈を行い、センサーの生値、補正値、参照値の関係を明らかにします。
その結果をもとに、警報から行動までの手順を現場の班長、保全、安全衛生、ITの担当者と試します。誰にも届かない通知、原因が分からない通知、値が下がるまで誰も動かない通知は、設定を直します。最後に、保守とデータ確認を含めた運用負担を評価し、常設点の場所と台数を決めます。初期段階の点数が少ないことは欠点ではありません。意味の分からない測定点を多数設けるより、判断と再測定に結びつく点を確実に維持するほうが成果になります。
現場の条件が変われば、この導入手順を繰り返します。生産品目の変更、研磨材の変更、フードの改造、ラインの移動、新しい清掃方法、勤務形態の変更は、測定点と警報の妥当性を再確認する契機です。工場の監視は「据え付けて終了」ではなく、工程の変更を測定計画に反映する管理業務です。現場に設計図、測定点の理由、照合記録、警報手順、保守履歴が残る構成にしておけば、担当者が交代しても意味が引き継がれます。
例:袋詰め工程のパイロットをどう判定するか
粉体を袋に詰める工程を想定します。現場からは「袋の交換時に白い粉が見える」という声が上がり、集じん機の差圧は通常範囲です。ここで差圧計を増やすだけでは、袋口から出た粉じんがどこへ流れるかは分かりません。まず袋の装着、充填、封緘、搬出、清掃の各作業時刻を記録し、発生位置と作業者の立ち位置、局所フード、給気の向きを図にします。一時的な測定器を動かして、発生源側と作業者の滞在エリアで波形がどう違うかを調べます。周囲の別工程が同時に動くなら、その影響を区別できる背景点も考えます。
仮設した固定点で袋交換時だけピークが繰り返し出るなら、値の高さだけを根拠に対策を決めず、作業記録と現場観察を照合します。袋の口径、クランプの締め付け、フードの位置、吸込みが実際に発生源を捉えているかを確認します。必要に応じて参照採取を同じ作業条件で実施し、光学式の値がこの粉体でどう応答するかを確かめます。対策を行った後は、同じ品目、作業量、換気条件で再度確認します。作業者の呼吸域について別の疑問が残れば、固定点のグラフだけで結論を出さず、個人サンプリングの計画へ進みます。
この試行の合格は「グラフが下がった」という一文ではありません。高い値が出たとき担当者に通知が届き、担当者が測定器の状態を確認し、実際の工程を見て、原因と措置を記録し、再測定で効果を確認できたかを評価します。さらに、センサーの清掃や参照測定を誰が続けられるか、データが失われた場合に誰が気づくかを決めます。パイロットでこの流れが回れば、次の充填機や研磨工程へ横展開できます。回らなければ点数を増やす前に手順と責任分担を直します。
よくある質問(FAQ)
工場の粉じん濃度監視システムを導入すれば、個人ばく露測定は不要ですか?
不要にはなりません。固定点はエリアの時系列を示しますが、作業者の移動、作業姿勢、呼吸域の位置を常に代表するわけではありません。個人ばく露や法令への適合を評価する必要がある場合は、対象物質と目的に合った別の採取・分析計画を専門家と組み立てます。固定点のデータは、いつ・どの作業を重点的に調べるかを決める補助情報として有用です。
光学式粉じんセンサーの表示値は、そのまま粉じん質量濃度ですか?
機器によります。粒子数を表示する機器、光散乱から質量濃度を推定する機器、対象粒径が異なる機器があります。粉じんの種類や湿度の影響を受けることもあります。仕様書で測定原理と表示値の意味を確認し、現場の対象粉じんについて適切な参照測定との比較を計画してください。カタログの数値だけから、全工程での質量濃度の妥当性は判断できません。
粉じん監視センサーは何台から始めるべきですか?
一律の台数はありません。まず工程、発生源、作業位置、背景を地図にし、一時測定と観察で常設点の役割を定義します。小規模なパイロットなら、異なる役割を持つ少数点の比較から始め、位置の妥当性と警報の運用を確かめてから増設します。単純な床面積当たりの台数より、粉じんの発生と人の動線に沿う配置が重要です。
集じん機の差圧監視と作業エリアの粉じん濃度監視は何が違いますか?
差圧は主にフィルターや流路の状態を見る設備信号です。作業エリアの粉じん計は、センサーが採気した場所の浮遊粒子の変化を捉えます。差圧だけで作業者周辺の空気を推定することも、エリアの粉じん値だけでフィルターの状態を断定することもできません。二つの時系列に工程イベントを重ねると、異常の切り分けに役立ちます。
警報値は何を基準に設定しますか?
測定目的、対象物質、参照測定との関係、工程の通常変動、対応できる行動をまず定義します。暫定の工程監視値と、個人ばく露や法令に関わる評価値を混同しません。専門家が適用基準を確認したうえで、パイロットのデータと現場の対応手順から警報条件を決め、導入後も誤報、見逃し、工程変更に応じて見直します。
まとめ
工場の粉じん濃度監視システムは、センサーを置けば完成する設備ではありません。測定目的を固定点のエリア監視と個人ばく露評価に分け、発生源・作業位置・背景を見て測定点を決め、光学式の値を適切な参照測定と照合し、欠測や機器故障を区別しながら警報を現場の対策へつなぐ仕組みです。RFPに測定値の意味と保守責任を書き、FATとSATで通信断、異常値、工程イベント、参照比較、担当者の行動まで確認すれば、導入後に使えるデータが残ります。まず一工程のパイロットで、測定と行動のつながりを確かめてください。
TOMAS TECHでは、タイの工場での測定点の整理、既存OT・IoTとの接続範囲、RFPと受入試験の設計について、検討段階から相談を受け付けています。対象工程と現在の困りごとを共有いただければ、お問い合わせから進め方を一緒に整理できます。
参考資料
- NIOSH Direct Reading and Sensor Technologies Center
- NIOSH, Direct-reading instruments for aerosols: instruments and good practices
- NIOSH Manual of Analytical Methods, real-time optical aerosol monitors
- US EPA, Enhanced Air Sensor Guidebook
- US EPA, Air Sensor Collocation Instruction Guide
- ISO 7708:1995, Air quality — Particle size fraction definitions
- OSHA, Protecting Workers from Combustible Dust Explosion Hazards