タイの工場の電気代を決めているのは、1ヶ月に使った電力量ではありません。その月にいちばん電気を使った15分間です。日本の高圧受電は30分平均で山を測りますが、タイのMEA・PEAの計測窓は15分。窓が半分なら、山を薄める猶予も半分です。日本の感覚のままデマンドコントロールを設計すると、まったく同じ操業でも記録値が100 kW高く出ることがあります。本記事は、料金表の定義から投資回収まで数字だけで追います。
デマンドコントロールとは — 15分の最大値が基本料金を決める仕組み
デマンドコントロールとは、一定時間内の平均需要電力(デマンド)が設定値を超えないように、負荷を監視し、必要なら止める仕組みのことです。目的は電力量の削減ではありません。その月に一度だけ立つ山を低くすることです。
ここが省エネ活動といちばん食い違うところです。工場でよく行われる「照明のLED化」「待機電力の削減」「歩留まり改善による総生産電力の低減」は、いずれも電力量(kWh)を減らします。請求書のうち電力量料金の部分は確かに下がります。しかし、その月の最大需要電力(kW)が変わらなければ、デマンド料金の部分は1バーツも下がりません。
逆に、生産量を1台分も減らさずにデマンド料金だけを下げることもできます。コンプレッサーの起動と電気炉の昇温と昼休み明けの空調一斉復帰が、たまたま同じ15分に重なっていた。この重なりをずらすだけで、生産は同じまま山だけが下がります。デマンドコントロールが「省エネ」と別枠で語られるのは、このためです。
なぜ15分なのか:タイの料金表の定義
タイの電力料金でデマンド料金の対象になるのは、当月の15分平均需要電力の最大値です。メーターは連続する15分ごとの平均kWを記録し続け、月末にその最大値を1つだけ拾います。拾われた1つの値に、契約種別と受電電圧で決まる単価(THB/kW)を掛けたものが、その月のデマンド料金です。
適用される契約種別は、需要規模で分かれます。
| 区分 | 適用範囲 | デマンド料金の扱い |
|---|---|---|
| Type 3(中口) | 30〜999 kW | デマンド料金あり。TOUは選択制 |
| Type 4(大口) | 15分平均の最大需要が1,000 kW以上、または単一メーターで月250,000 kWh超 | デマンド料金あり。TOU / TOD から選択 |
日系の中規模工場はType 3、成形機や炉、大型の空調負荷を抱える工場はType 4に入ることが多い区分です。なお、バンコク・ノンタブリー・サムットプラカーンはMEA、それ以外の県はPEAが供給者になります。両者は料金表の構造が同じで単価が別建てなので、自社の請求書がどちらの表で計算されているかは最初に確認してください。本記事の単価はMEA Type 4のものを使います。
もうひとつ、請求書にはサービス料金312.24 THB/月と、燃料費調整にあたるFtが乗ります。2026年5〜8月のFtは+0.1623 THB/unitです。ここで押さえておきたいのは、Ftは使用電力量1ユニットあたりに加算される調整費であり、デマンド料金(kW)には乗らないという点です。Ftが上がったときに効くのは電力量削減、デマンド料金に効くのはピーク削減。効き先が違う2つの対策を、同じ「電気代削減」という言葉でまとめないでください。
日本の30分デマンドとの違い(同じ操業で100 kWずれる)
日本から赴任してきた生産技術の担当者は、ほぼ例外なく「30分デマンド」の頭で来ます。ここが最初の断層です。
| 論点 | 日本(高圧) | タイ(MEA/PEA Type 3・4) |
|---|---|---|
| 計測窓 | 30分平均 | 15分平均 |
| 基本料金の決まり方 | 契約電力=当月と過去11ヶ月の最大デマンド(500 kW未満の実量制) | 月ごとの最大15分デマンド × デマンド料金率 |
| 記録後の影響 | 記録されたら12ヶ月間そのまま引きずる | 月次でリセット。ただし過去12ヶ月の最大デマンド料金の70%が下限 |
| 帰結 | 山は薄まりやすいが、記録されると重い | 山はそのまま記録されやすいが、後遺症は軽い |
この違いが、どれくらいの金額差になるのかを1つの負荷事象で見ます。ベース負荷1,200 kWの工場で、300 kWの設備を10分だけ動かしたとします。
- 15分窓の記録値 = 1,200 + 300 × (10 ÷ 15) = 1,400 kW
- 30分窓の記録値 = 1,200 + 300 × (10 ÷ 30) = 1,300 kW
操業はまったく同じです。動かした設備も、動かした時間も、消費した電力量も1 kWhも変わりません。それでも記録値は100 kW違います。12〜24 kV受電のType 4であれば、この100 kWは月13,293 THB(100 × 132.93)の差です。

差が出る理由は単純で、10分の投入が15分窓では時間の3分の2を占めるのに、30分窓では3分の1にしかならないからです。日本では窓の広さが分母として働き、短時間の突入を自動的に薄めてくれていました。タイではその分母が半分になります。
実務上さらに重いのが、猶予も半分になるという点です。日本仕様のデマンド警報器は、30分窓の経過時間と現在の積算電力量から窓終了時点の着地値を予測し、危険なら警報を出します。窓の前半で異常を検知しても、後半の15分以上を使って負荷を落とし、平均を引き下げる余地がありました。15分窓では、同じ「窓の前半で検知」でも残り時間は7分前後です。人が警報を聞いて現場に向かい、確認して停止操作をする時間としては、明らかに足りません。
したがって、日本で使っていたデマンドコントローラの設定値と警報ロジックをそのまま持ち込むのは危険です。持ち込むなら、少なくとも次の3点は作り直しになります。
- 窓の同期。コントローラの計測窓開始時刻を、電力会社メーターの窓と一致させる。ずれていると、コントローラ側では収まっているのにメーター側で山が立ちます。
- 警報の前倒し。着地予測ではなく、瞬時値と立ち上がり速度で早い段階に一次警報を出す設計にする。
- 自動での遮断。7分で人が動く前提を捨て、あらかじめ決めた負荷をコントローラが自分で切る。この判断が費用を大きく変えるので、後段で回収年数として比較します。
タイの工場の電気料金はどう決まるか(Type 3 / Type 4、TOU と TOD)
工場の請求書は、大きく「デマンド料金(kW)」「電力量料金(kWh)」「サービス料金」「Ft」「力率課金」で構成されます。このうちデマンド料金が請求額に占める割合は、一般に20〜30%です。
製造業のエネルギーコスト削減というと電力量の話になりがちですが、電力量ばかり見ていると、請求額の2〜3割を占めるこの部分に一度も手を触れないまま終わります。しかも、デマンド料金は設備投資なしで下げられる余地が最も大きい部分でもあります。エネルギー監視の全体像はエネルギー監視システムの構成と選び方にまとめていますが、デマンドはその中でも「計測を始めた月の請求から金額が動く」数少ない指標です。
デマンド料金率は受電電圧で2.83倍違う
同じ工場、同じ操業、同じ削減量でも、受電電圧が違うだけで効果額が変わります。MEA Type 4のTOUデマンド料金率は次のとおりです。
| 受電電圧 | TOU デマンド料金(THB/kW-月) | TOD on-peak デマンド料金(THB/kW) |
|---|---|---|
| 69 kV以上 | 74.14 | 224.30 |
| 12〜24 kV | 132.93 | 285.05 |
| 12 kV未満 | 210.00 | 332.71 |

140 kWのピーク削減に成功したときの年削減額を、電圧階級ごとに並べます。
| 受電電圧 | 月削減 | 年削減 |
|---|---|---|
| 69 kV以上 | 140 × 74.14 | 124,555 THB |
| 12〜24 kV | 140 × 132.93 | 223,322 THB |
| 12 kV未満 | 140 × 210.00 | 352,800 THB |
最大と最小の比は2.83倍(352,800 ÷ 124,555)です。まったく同じ140 kWの削減が、12 kV未満で受電している工場では年352,800 THBの価値を持ち、69 kV以上で受電している工場では年124,555 THBにしかなりません。
ここから出る判断軸は明快です。デマンド監視やピークカットの投資判断は、電圧階級を確認してから始めてください。同じ投資額、同じ削減量でも、12 kV未満の工場では回収年数が69 kV以上の工場の3分の1近くになります。他社の成功事例を持ってきて「うちも2年で回収できるはず」と考える前に、その事例の受電電圧を聞く。これだけで判断の精度がかなり変わります。
なお、TOD on-peakのデマンド料金率はTOUより高く見えますが、これは後述するとおりoff-peakのデマンド料金が0であることとセットになっています。単価だけを並べて高い安いを判断することはできません。
TOU と TOD はどちらが安いか — 夜間稼働比率で逆転する
Type 4では、TOU(Time of Use)とTOD(Time of Day)のどちらかを選びます。両者はデマンド料金の課され方が根本的に違います。
| 項目 | TOU | TOD |
|---|---|---|
| デマンド料金の対象 | on-peak(平日09:00〜22:00)の最大デマンド | on-peak(18:30〜21:30)/partial peak(日中帯)/off-peak(深夜帯)それぞれの最大デマンド |
| on-peak デマンド料金(12〜24 kV) | 132.93 THB/kW | 285.05 THB/kW |
| partial peak デマンド料金(12〜24 kV) | — | 58.88 THB/kW |
| off-peak デマンド料金 | 課金対象外 | 0 |
| 電力量料金 | on-peak / off-peak で単価が分かれる | 時間帯で分かれる |
TOD on-peakの12〜24 kVは285.05 THB/kWで、TOUの132.93 THB/kWの2倍以上です。ただしTODでは、夜9時半以降と早朝のデマンドには料金が付きません(off-peakのデマンド料金が0)。partial peakも12〜24 kVで58.88 THB/kWと低く抑えられています。
したがって選択の分岐は、山がどの時間帯に立っているかの一点です。
- 昼勤中心で、夕方18:30〜21:30には生産がほぼ落ちている工場 — TODが有利になり得ます。日中の山にはpartial peakの安い単価しか掛からず(partial peakはon-peakのデマンドを超過した分にのみ課金されます)、夕方の高い単価が掛かる時間帯には山がないからです。
- 夕方から夜まで連続で操業する工場、あるいは2直・3直で夜間も定常負荷が高い工場 — 夕方帯に必ず山が立つのでTODのon-peak単価をまともに受けます。TOUのほうが安く収まる可能性が高くなります。
- 夜間主体で日中の負荷が軽い工場 — TODのoff-peakデマンド料金が0であることが強く効きます。
この判断に必要なのは意見ではなくデータです。時間帯別の15分デマンドの実測が1〜2ヶ月分あれば、両方の料金表に当てて計算し、どちらが安いかを金額で出せます。逆に言えば、実測がないままTOU / TODを選んでいる工場は、根拠なく選んでいることになります。契約の切り替えには手続きと期間の制約があるため、まず計測、次に試算、それから申請という順番になります。
さらに注意が要るのは、TODを選ぶと操業設計そのものが変わることです。off-peakのデマンド料金が0であるため、重い工程を夜間に寄せるインセンティブが強く働きます。ただし夜間シフトの人件費、品質管理体制、保全要員の配置が伴わなければ、電気代で得た分を別のコストで失います。料金表だけを見て操業を動かさないでください。
力率課金を見落とさない
デマンドと同じ請求書に、もう1つkWでない課金項目が乗っています。力率(Power Factor)課金です。
ルールは単純で、最大15分平均の遅れ無効電力(kVAR)が、最大15分平均の有効電力(kW)の61.97%を超えた分に、1 kVARあたり56.07 THBが課金されます。ここでも基準は15分平均の最大値です。61.97%という数字は力率0.85に相当します(力率0.85のときの無効電力/有効電力比が0.6197)。つまり実質的に「力率0.85を下回ったら課金」という制度です。
たとえば最大15分平均の有効電力が1,400 kWの月であれば、課金されないラインは 1,400 × 0.6197 = 867.58 kVAR。これを超えた分だけが56.07 THB/kVARで課金されます。
この項目は、デマンドだけを見ていると取りこぼします。しかも取りこぼしやすい理由がはっきりしています。
- 進相コンデンサは劣化する。設置から10年以上経ったコンデンサは容量が抜けていることがあり、竣工時の力率が維持されている保証はありません。
- 軽負荷時に悪化する。インバータ化した設備が増えると、低負荷帯で力率が落ちる挙動が出ることがあります。夜間や休日の軽負荷運転が長い工場では要注意です。
- 測っていない。多くの工場でkWhは検針していますが、kVARhを継続して記録している工場は多くありません。
デマンド監視のためにメーターを入れるなら、同じ計器でkVARと力率も取れます。追加費用はほぼゼロで、請求書のもう1項目が見えるようになります。センサーと計器の選定については工場のIoTセンサー選定も併せて参照してください。
70%の床(最低料金)— 改善は早く効き、事故は12ヶ月尾を引く
タイの料金制度で日本と最も構造が違うのが、この「床」です。
タイの最低料金は、過去12ヶ月の最大デマンド料金の70%と定められています。つまり、その月の実際のデマンドがどれだけ低くても、過去1年でいちばん高かった月のデマンド料金の70%は必ず請求されます。
日本の実量制(500 kW未満)では、過去11ヶ月と当月の最大値がそのまま契約電力になるため、一度記録された山は12ヶ月間100%引きずります。タイは月次でリセットされ、引きずるのは70%だけです。この差が、次の2つの非対称な帰結を生みます。
10%削減なら床は当たらない
まずモデル工場を1つ置きます。以降の数値はすべてこの前提から出ています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 受電電圧 | 12〜24 kV |
| 契約種別 | Type 4 / TOU |
| 月最大デマンド | 1,400 kW |
| デマンド料金率 | 132.93 THB/kW-月 |
| 月額デマンド料金 | 1,400 × 132.93 = 186,102 THB |
| 年額デマンド料金 | 2,233,224 THB |
この工場が10%、すなわち140 kWのピーク削減に成功したとします。
- 月削減 = 140 × 132.93 = 18,610.2 THB
- 年削減 = 223,322 THB
- 削減後のデマンド = 1,260 kW
- 70%の床 = 1,400 × 0.7 = 980 kW
削減後の1,260 kWは床の980 kWより高いので、床には当たりません。削減した140 kW分がそのまま請求額の減少になります。
床が効き始めるのは、削減率が30%を超えたときです。1,400 kWの30%は420 kW。420 kWを超えて削減すると、削減後のデマンドが床の980 kWを下回り、それ以上削っても請求額が下がらなくなります。
ここから出る実務的な結論はこうです。多くの工場が現実的に狙う10〜20%のピーク削減では、床は障害になりません。改善はそのまま金額になります。しかも日本と違って前年の記録に引きずられないため、改善した翌月から効果が出ます。日本で「一度作ってしまった契約電力が下がるのは12ヶ月後」という経験をしてきた人ほど、この即効性は意外に感じるはずです。タイは、デマンド改善が早く効く制度です。
ただし床を意識すべきケースもあります。太陽光を大規模に導入した、あるいは1ラインを他工場に移管したなど、デマンドが30%を超えて構造的に落ちる場合です。この場合、落ちた直後の12ヶ月間は床が効き、実力より高い請求が続きます。投資回収の試算でこの12ヶ月を無視すると、初年度の効果を過大に見積もることになります。
15分の事故ピーク1回で167,492 THB
床は、逆向きにも働きます。こちらが本題です。
通常1,200 kWで安定して操業している工場が、たった一度だけ15分間1,800 kWを記録したとします。設備の同時起動、試運転、冷凍機の一斉復帰、あるいは新規ラインの立ち上げ日。原因は何でも構いません。このとき何が起きるか。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 事故月の増分 | (1,800 − 1,200) × 132.93 | 79,758 THB |
| その後の床 | 1,800 × 0.7 = 1,260 kW(通常の1,200 kWより高い) | — |
| 残り11ヶ月の増分 | (1,260 − 1,200) × 132.93 × 11 | 87,734 THB |
| 合計 | 79,758 + 87,734 | 167,492 THB |

15分です。15分の判断ミスに、167,492 THBの値札が付きます。しかも痛いのは、事故月の79,758 THBよりその後11ヶ月の87,734 THBのほうが大きいという点です。事故月の請求書を見て「今月は高かったな」で終わらせた工場は、その後1年、毎月約7,976 THB(60 kW × 132.93 = 7,975.8 THB/月)を静かに払い続けます。
床が70%であることは、平常時には救いです。しかし一度高い山を作ってしまうと、その70%が「下げられない下限」として1年間居座ります。日本の100%引きずりよりは軽いというだけで、軽くはありません。
この構造が、次章の投資判断に直結します。デマンド監視の価値は「毎月コツコツ下げる」ことだけではなく、この1回を発生させないことにあります。
デマンド監視・ピークカットの費用は3層で分かれる
「デマンド監視装置の費用はいくらか」という質問には、単一の答えがありません。何をどこまでやるかで桁が変わるからです。実務上は3つの層に分けて考えると、見積書の比較ができるようになります。
層1 見る / 層2 分ける / 層3 止める
| 層 | やること | 主な構成 | 費用レンジ |
|---|---|---|---|
| 層1 見る | 受電点の15分デマンドを常時監視し、閾値超過を警報する | 既設メーターのパルス/Modbus取り込み、デマンドコントローラ1台、警報灯 | 120,000〜250,000 THB |
| 層2 分ける | どの設備が山を作っているかを特定する | 主要フィーダー10〜20点にCT・電力計・ゲートウェイ | 400,000〜900,000 THB |
| 層3 止める | 閾値接近時に自動で負荷を落とす | 空調・コンプレッサー・充電器等の自動デマンド制御、インターロック、PLC改造 | 追加 300,000〜800,000 THB |
3層の性格はそれぞれ違います。
層1は必須です。受電点の15分デマンドが見えていない工場は、そもそも自分の山がいつ立っているかを知りません。ここに手を入れずに省エネ投資を検討するのは、体重計を持たずにダイエットの器具を買うのと同じです。費用は120,000〜250,000 THBで、既設メーターにパルス出力やModbus通信が付いていれば下限側、計器そのものの更新が要れば上限側になります。
層2は原因特定のための投資です。受電点だけを見ていると「今月も1,400 kWだった」までは分かりますが、その1,400 kWの内訳が分かりません。設備ごとの消費電力を計測してフィーダー単位で分けて初めて、「毎週火曜の朝、炉の昇温とコンプレッサー2台の起動が重なっている」といった具体的な事実にたどり着きます。どの設備の消費電力を計測するかは、この段階で費用が決まる要素でもあります。400,000〜900,000 THBという幅は、計測点数(10〜20点)とCTの設置工事の難易度、盤の停電確保ができるかどうかでほぼ決まります。
層3は保険です。この位置づけを次項で数字にします。
投資回収:人手運用2.69年 vs 自動制御3.58年、それでも自動を選ぶ理由
モデル工場(12〜24 kV / Type 4 TOU / 月最大1,400 kW)で、2つの構成の投資回収を比較します。
| 構成 | 初期投資 | 年間運用 | 実効削減 | 年削減 | 純年削減 | 単純回収 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 層1のみ(見る+人手停止) | 220,000 THB | 30,000 THB | 70 kW | 111,661 THB | 81,661 THB | 2.69年 |
| 層1+層3(見る+自動停止) | 620,000 THB | 50,000 THB | 140 kW | 223,322 THB | 173,322 THB | 3.58年 |
層1で実効削減を70 kWとしたのは、警報を受けてから人が止めるため、自動制御の半分しか実際には削れないと置いたからです。15分窓で警報から停止操作までに使える時間が7分前後しかない以上、これは楽観的な仮定ではありません。
結果は、多くの人の直感と逆になります。回収年数では人手運用(2.69年)が自動制御(3.58年)に勝ちます。理由も明快で、自動制御は初期投資が400,000 THB(620,000 − 220,000)増え、年間運用も20,000 THB増えるのに対し、削減量は2倍にしかならないからです。
増分だけで見るとさらにはっきりします。
- 増分の純年削減 = 173,322 − 81,661 = 91,661 THB
- 増分投資400,000 THB ÷ 91,661 THB = 約4.4年
追加の400,000 THBだけを取り出すと、回収は約4.4年です。稟議の数字としては弱い。ここで多くの工場が「まずは層1だけ入れて、様子を見ましょう」と結論します。
その判断が間違っているとは言いません。ただし、比較している土俵が違います。
回収年数の計算に入っているのは「毎月コツコツ削る効果」だけです。前章で見た事故ピーク1回のコスト167,492 THBは、この表のどこにも入っていません。なお事故ピークの試算は通常1,200 kWの工場を前提にしたもので、上の表のモデル工場(月最大1,400 kW)とは条件が違います。金額をそのまま足し込むのではなく、桁感として読んでください。そして事故ピークは、定義上、人が対応しきれなかったときに起きます。層1の人手運用が防げるのは、予見できる山であり、想定外の同時起動ではありません。
5年の評価期間で考えます。この間に事故ピークが3回起きれば、コストは 167,492 × 3 = 502,476 THB。自動制御の増分投資400,000 THB(5年ぶんの増分運用費20,000 THB/年を含めれば約500,000 THB)を上回ります。2回なら下回ります。
つまり判断は、次の問いに還元されます。「うちの工場で、想定外の15分ピークは5年に何回起きるか」。
この問いに答えるための材料は、実は層1を入れれば手に入ります。半年から1年、受電点の15分デマンドを記録すれば、「閾値を超えかけたが人が間に合った回数」と「気づかず超えた回数」が実データとして出てきます。したがって現実的な進め方は、次の順序です。
- まず層1を入れて、山の頻度と原因を実測する(回収2.69年で、それ自体が単独で成立する投資)
- 6〜12ヶ月の実測データで、事故ピークの発生頻度を確認する
- 頻度が5年に3回以上のペースなら層3へ進む。それ未満なら層1の運用を磨く
自動制御を回収年数で正当化しようとすると、稟議は通りません。保険として提案してください。そして保険料が妥当かどうかは、層1の実測データが答えます。
何から止めるか — 負荷の優先順位設計
装置を入れても、「何を止めるか」が決まっていなければ警報が鳴るだけで終わります。ここは技術の問題ではなく、生産部門との合意形成の問題です。
止めてよい負荷・止めてはいけない負荷
判断基準は「止めたときに、何がどれだけの時間で元に戻るか」です。
| 分類 | 該当する負荷の例 | 判断 |
|---|---|---|
| 熱容量が大きく、短時間の停止で状態が変わらない | 事務所・食堂の空調、倉庫の空調、給湯 | 止めてよい。15分程度なら室温はほとんど動かない |
| バッファがあり、下流が即座に影響を受けない | コンプレッサー(レシーバータンクに余裕がある場合)、冷却水ポンプの一部、貯湯槽 | 条件付きで止めてよい。バッファ残量の監視とセット |
| 時間をずらせる | フォークリフト・AGVの充電器、バッチ洗浄、試験設備、非稼働ラインの予熱 | 止める、またはずらす。最も安全な削減先 |
| 停止すると品質が変わる | 恒温槽、めっき槽、乾燥炉、クリーンルームの空調 | 止めない |
| 停止すると再立ち上げが長い | 電気炉、押出機のヒーター、射出成形機のバレル | 止めない。止めると削減額より復旧コストが大きい |
| 安全・法令に関わる | 排気ファン、消防設備、防爆エリアの換気、非常照明 | 絶対に止めない。インターロックで対象外に固定する |
この表を作る作業自体が、プロジェクトの核心です。設計段階で「絶対に止めない負荷」をハード側のインターロックで対象から外しておくこと。ソフトの設定値だけで守ろうとすると、いつか誰かが設定を触ります。
削減量を稼ぎやすいのは、圧倒的に「時間をずらせる」の行です。フォークリフトの充電器は台数が多く、1台あたりの電力も小さくないうえ、充電の時間帯をずらしても業務に支障が出にくい負荷です。にもかかわらず、多くの工場で「シフト終わりに全台一斉に挿す」運用になっています。これはデマンド的には最悪の設計です。充電開始時刻を台数分ばらすだけで、投資ゼロで山が下がります。
コンプレッサーも同様に効きます。ただしこちらは前提があります。エア漏れが放置されている工場でコンプレッサーを止めると、圧力が即座に落ちて生産が止まります。エア漏れ対策は省エネ施策として語られがちですが、デマンドコントロールの観点では「コンプレッサーを止められる状態を作るための前提工事」です。詳しくはコンプレッサーのエア漏れ対策を参照してください。
タイ現場での運用設計(多言語の警報、シフト交代、旧正月・ソンクラーン)
制御ロジックが正しくても、現場で運用が回らなければ山は下がりません。タイの工場で特に設計が必要な点を挙げます。
警報の言語と伝え方。デマンド警報が日本語でしか出ない、あるいは英語の略語でしか出ないシステムは、実際に操作する人に届きません。警報はタイ語で、かつ「何を止めるか」を名指しで出してください。「デマンド超過警報」ではなく「第2倉庫の空調を止めてください」です。判断を現場に投げないことが、7分しかない時間内に動いてもらう条件です。
シフト交代の時間帯。交代の前後は、前直の設備がまだ動いていて、次直の設備が立ち上がる時間帯です。構造的に山が立ちやすく、しかも引き継ぎで人の注意が分散しています。交代時刻をまたぐ15分窓は、要注意時間として個別に監視設定を分けるだけの価値があります。
昼休みの一斉復帰。休憩明けに空調と設備が同時に立ち上がると、その15分に山が集中します。復帰の時刻をエリアごとに数分ずらす運用は、費用がかからず効果が確実です。
長期休暇明け。ソンクラーン(4月)と旧正月、年末年始の連休明けは、止まっていた設備が一斉に立ち上がります。冷凍機、炉、空調が同時に起動すれば、通常操業では絶対に出ない山が出ます。事故ピークが最も出やすいのは、生産が最も少ない日の朝という逆説がここにあります。連休明けの立ち上げ手順書に、起動順序と時間間隔を明記してください。手順書に書かない限り、必ず一斉に入ります。
担当者の交代。デマンド管理を特定の1人の勘に依存させないでください。閾値、止める順序、連絡先を文書化し、シフトごとに掲示する。タイの製造現場は日本より人の入れ替わりが早い前提で設計するほうが、結果的に長持ちします。
導入の進め方(90日ロードマップ)
限られた予算で確実に前に進めるための、90日の標準的な流れです。
| 期間 | やること | 完了の判定基準 |
|---|---|---|
| 1〜15日目 | 請求書12ヶ月分の分析。契約種別(Type 3 / 4)、TOU / TOD、受電電圧、月別の最大デマンド、力率課金の有無を確定する | 過去12ヶ月の最大デマンドと、そこから計算した70%の床の値が出ている |
| 16〜30日目 | 層1の設置。受電点の15分デマンドを記録開始。既設メーターの出力仕様を確認し、必要なら計器を更新 | 15分値が電力会社メーターの窓と同期して記録されている |
| 31〜60日目 | 実測。山が立つ曜日・時刻・作業の特定。並行して負荷の優先順位表(止めてよい/止めてはいけない)を生産部門と作成 | 上位3件のピーク発生パターンが、原因設備の名前で特定できている |
| 61〜75日目 | 投資ゼロの対策を実行。充電器の分散、休憩明けの復帰時刻ずらし、起動順序の手順化 | 実行前後で最大デマンドの変化が数値で確認できている |
| 76〜90日目 | 層2 / 層3の要否判断。実測した事故ピークの頻度と、TOU / TOD 切り替えの試算を添えて稟議 | 「何回起きたから、いくらの保険を買う」という形で説明できている |
この順序で重要なのは、61〜75日目の「投資ゼロの対策」を必ず先に実行することです。ここで数値が動けば、層2・層3の稟議に「この工場では実際に効いた」という実績が付きます。動かなければ、層1で見えた原因が間違っていたということなので、そのまま追加投資に進まなくて済みます。
また、1〜15日目の請求書分析は、外部に依頼しなくても社内でできます。最初の2週間は費用ゼロで、しかも最も情報量が多い工程です。ここを飛ばして見積もりを取り始めると、何を買えばいいのか分からないまま比較することになります。
よくある質問
デマンドコントロールとは何ですか?
一定時間内の平均需要電力(デマンド)が設定値を超えないよう、電力を監視し、必要に応じて負荷を制限する仕組みです。タイでは15分平均の月間最大値がデマンド料金の対象になるため、その月に一度だけ立つ最大の山を低く抑えることが目的になります。電力量(kWh)の削減とは目的も手段も別で、生産量を減らさずにデマンド料金だけを下げることが可能です。デマンド料金は工場の請求額の一般に20〜30%を占めます。
デマンド監視装置の費用はいくらかかりますか?
やる範囲で3層に分かれます。受電点を監視して警報を出すだけの層1(見る)で120,000〜250,000 THB、主要フィーダー10〜20点を個別計測する層2(分ける)で400,000〜900,000 THB、閾値接近時に負荷を自動停止する層3(止める)で追加300,000〜800,000 THBが目安です。12〜24 kV受電で月最大1,400 kWのモデル工場では、層1のみ(初期220,000 THB・年間運用30,000 THB・実効削減70 kW)で単純回収2.69年、層1+層3(初期620,000 THB・年間運用50,000 THB・実効削減140 kW)で3.58年という試算になります。
契約電力を削減するにはどうすればいいですか?
前提として、タイには日本の実量制のような「12ヶ月間引きずる契約電力」はありません。請求の対象は毎月の最大15分デマンドで、月ごとにリセットされます。したがって「契約変更の手続き」ではなく「山を立てない運用」が削減手段になります。具体的には、(1) 受電点の15分デマンドを計測する、(2) 山が立つ時刻と原因設備を特定する、(3) ずらせる負荷(充電器、バッチ処理、予熱)を分散する、(4) 止めてよい負荷を決めて自動または人手で落とす、の順です。ただし過去12ヶ月の最大デマンド料金の70%が下限として残るため、30%を超える大幅削減をした直後の12ヶ月は、その床の分だけ効果が目減りします。
ピークカットとピークシフトの違いは何ですか?
ピークカットは、山の時間帯の負荷そのものを止めて需要を減らすことです。空調を切る、充電を止める、といった操作が該当します。ピークシフトは、需要を消さずに時間帯を移すことです。夜間に蓄電池を充電して昼のピーク時に放電する、バッチ処理を深夜に回す、といった手法が該当します。デマンド料金の削減という結果は同じですが、ピークカットは生産や快適性を一部犠牲にし、ピークシフトは設備投資か操業変更を必要とします。TODを選んでいる工場では、off-peakのデマンド料金が0であるためピークシフトの価値が特に大きくなります。
蓄電池(BESS)によるピークシフトについては、期待値の置き方に注意が必要です。産業用LFP BESSはPCS・BMS・工事込みでグローバルに概ねUS$180〜580/kWh、タイでは輸入と工事を含めてレンジの上半分に着地しやすい水準です。単純計算で2 MWhなら US$360,000〜1,160,000(180〜580 × 2,000 kWh)になります。LFPのサイクル寿命は4,000〜6,000回超、往復効率85〜90%、寿命10〜15年です。
問題は収益側です。タイの産業用の on-peak / off-peak 電力量価格差は約1.5〜1.7 THB/kWhしかありません(MEA Type 4・69 kV以上のTOU電力量料金は on-peak 4.1025、off-peak 2.5849 THB/kWhで、差は1.5176 THB/kWh)。この差だけで蓄電池の投資を回収することはできません。デマンド料金の削減、既設太陽光の余剰活用、停電時のバックアップ価値を積み上げて、初めて検討の土俵に乗ります。1 MW / 2 MWhで3.5年回収という事例は存在しますが、これはピークシフト40〜50%に加えて周波数調整20〜30%といった収益スタックが組める前提の海外事例であり、タイの一般的な工場にそのまま当てはまるものではありません。タイの工場が周波数調整のような系統サービスから収益を得られるとは限らないためです。BESSを検討するなら、まず自社のデマンド料金削減額(前述のとおり受電電圧で2.83倍変わります)を確定させてから、他の価値を積み上げてください。
太陽光発電を入れれば最大需要電力は下がりますか?
下がることもありますが、保証はありません。理由は3つあります。
第一に、デマンドは月に一度の15分で決まります。その15分に雲がかかっていれば、発電量は落ち、デマンドは下がりません。年間の発電量が多いことと、たまたまその15分に発電していることは別の話です。
第二に、山が立つ時間帯と発電時間帯が一致するとは限りません。夕方や夜間に山が立つ工場では、太陽光はデマンド料金にほとんど寄与しません。TODを選んでいる工場のon-peakは18:30〜21:30なので、この時間帯の発電はほぼゼロです。
第三に、前述の70%の床です。太陽光でデマンドが30%を超えて構造的に下がった場合、その後12ヶ月は床が効きます。
したがって、太陽光の投資回収を計算するときにデマンド料金の削減を確実な収入として計上するのは危険です。電力量料金の削減は計上できますが、デマンド削減は「発電の下振れ時にどこまで落ちるか」を見て保守的に置くべきです。逆に、蓄電池と組み合わせて「ピーク時間帯に確実に放電する」設計にすれば、デマンド削減を計画値として扱えるようになります。発電の実測と請求書の突き合わせについては工場の太陽光発電の監視にまとめています。
まとめ
タイの工場のデマンドコントロールで押さえるべき点を整理します。
- 計測窓は15分。日本の30分ではありません。ベース1,200 kWに300 kWを10分投入すると、15分窓では1,400 kW、30分窓では1,300 kWが記録されます。同じ操業で100 kW、12〜24 kV受電なら月13,293 THBの差です。
- 猶予も半分。日本仕様の着地予測型の警報ロジックは、15分窓では間に合いません。窓の同期、警報の前倒し、自動遮断の3点は作り直しになります。
- 効果額は受電電圧で2.83倍違う。同じ140 kWの削減が、69 kV以上で年124,555 THB、12〜24 kVで年223,322 THB、12 kV未満で年352,800 THBです。投資判断の前に電圧階級を確認してください。
- TOU と TOD は夜間稼働比率で逆転する。TOD on-peak(18:30〜21:30)のデマンド料金は12〜24 kVで285.05 THB/kWと高い一方、off-peakは0です。実測データを両方の料金表に当てて金額で比較してください。
- 力率も同じ請求書に乗る。最大15分平均の遅れ無効電力が、最大15分平均の有効電力の61.97%(力率0.85相当)を超えた分に56.07 THB/kVAR。有効1,400 kWなら867.58 kVARが課金ラインです。
- 70%の床は、改善には邪魔をせず、事故には効く。1,400 kWの工場が10%(140 kW)削っても床の980 kWには当たらず、年223,322 THBがそのまま効果になります。床が効き始めるのは30%超(420 kW超)の削減からです。
- 事故ピーク1回は167,492 THB。通常1,200 kWの工場が一度だけ1,800 kWを15分作ると、事故月79,758 THB、その後11ヶ月87,734 THB。後遺症のほうが大きい構造です。
- 自動制御は回収年数では負ける。層1のみ2.69年に対し、層1+層3は3.58年。増分だけなら約4.4年です。自動制御は保険として提案してください。判断材料は、層1を6〜12ヶ月回して得られる事故ピークの発生頻度です。
最初にやることは投資ではありません。請求書12ヶ月分を並べて、契約種別・受電電圧・月別最大デマンド・力率課金の有無を確定させることです。この2週間の作業に費用はかからず、それ以降のすべての判断の前提になります。
デマンドコントロールの検討にあたって、自社の請求書がどの料金表で計算されているのか、受電電圧から見て投資に見合うのか、TOU と TOD のどちらが自社の操業に合うのか——この段階で判断がつかないことは珍しくありません。TOMAS TECHでは、請求書と操業パターンをもとにした現状整理から、層1の計測導入、層3の自動制御まで対応しています。まだ導入を決めていない検討段階でのご相談でも構いません。お問い合わせからお気軽にご連絡ください。