タイ工場で納期管理システムを比較するとき、画面の見やすさや機能数だけでは良し悪しを判断できません。重要なのは、顧客の希望納期を受けた瞬間に、在庫、購買予定、生産能力、工程進捗、倉庫作業、輸送日数を一つの判断につなぎ、「いつなら約束できるか」を根拠付きで返せることです。さらに、約束後に材料遅延や設備停止が起きた場合、影響注文を早く特定し、誰が納期変更を承認したかを残せなければ、数字が表示されても実務は変わりません。
本稿は一般的な納期遅延対策の解説ではなく、タイの製造拠点が調達仕様書(RFP)を作り、90日PoCを行い、受入テストで合否を判断するための実務ガイドです。ATPとCTP、4種類の納期、マスタ、イベント、例外管理、ERP・MES・WMS連携、ROI/TCOの検算式までを、ベンダー名に依存せず整理します。
納期管理システムを探す人の検索意図と意思決定基準
「納期管理 システム」と検索する担当者には、少なくとも三つの状況があります。営業部門は回答速度と顧客別の約束ルールを求め、生産管理は負荷と材料制約を反映した現実的な計画を求め、経営・ITは既存ERPを生かしながら属人化を減らせる投資を求めます。この三者の要求を「進捗が見える」という一言にまとめると、RFPは曖昧になり、デモでは良く見えた製品が本番で使えないという結果になりがちです。
意思決定基準は、機能の有無ではなく、次の問いに対する再現可能な答えで置きます。
| 判断領域 | RFPで確認する問い | 合否を示す証拠 |
|---|---|---|
| 約束可能性 | 希望納期に対してATPまたはCTPで回答できるか | 入力データ、計算ルール、結果、計算時刻の履歴 |
| 制約反映 | 材料、能力、金型、人員、外注、輸送のどこまで考慮するか | 制約を一つずつ変えた再計算結果 |
| 変更統制 | 顧客約束を誰が、なぜ、いつ変えたか | 変更前後、理由コード、承認者、通知記録 |
| 例外管理 | 全件監視ではなく、危険な注文を優先できるか | 例外ルール、担当、期限、エスカレーション |
| 多言語運用 | タイ語・日本語・英語で同じ意味を共有できるか | 用語辞書、理由コード、時刻・休日・単位の表示 |
| 連携 | ERP・MES・WMSの責任境界が明確か | API仕様、再送、重複排除、照合レポート |
| 運用品質 | 障害や遅延データを検知し復旧できるか | 監視、ログ、バックアップ、運用手順、SLA |
| 経済性 | 効果と費用を同じ前提で検算できるか | ベースライン、計算式、感度分析、TCO内訳 |
ATPとCTPの違い――「在庫がある」から「作れる」まで
ATP(Available to Promise)は、未引当在庫、入荷予定、既に約束した需要などから、特定日に顧客へ割り当て可能な数量を判断する考え方です。Microsoftの公式説明では、ATPは未引当在庫、リードタイム、予定入荷と出庫を含む計算として整理されています。OracleのGlobal Order Promisingも、手持ち、輸送中、購買、移送、計画供給など、設定した供給源から約束を組み立てます。
CTP(Capable to Promise)は、現時点の供給だけで足りないときに、材料と生産能力を踏まえて「新たに作る、買う、移すならいつ可能か」を判断します。Microsoftは、ATPが材料可用性を中心に扱い能力を無限と仮定するのに対し、CTPは材料と能力の両方を考慮すると説明しています。ただし、製品によってCTPが見る制約、計画エンジン、精度、計算時間は異なります。「CTP対応」というチェック欄だけでは評価できません。

| 状況 | ATPで答えられるか | CTPが必要か | 確認すべきルール |
|---|---|---|---|
| 完成品在庫が未引当で存在 | 原則として可能 | 通常不要 | ロット、保留在庫、顧客引当、倉庫別在庫 |
| 確定購買・確定製造の入荷予定がある | 設定次第で可能 | 通常不要 | 供給の信頼度、遅延入荷の扱い、時間柵 |
| 部材はあるが完成品供給がない | 不十分な場合がある | 必要 | BOM、工程、能力、カレンダー、段取 |
| 部材も能力も不足 | 不可または将来日の回答 | 必要 | 代替材、外注、追加シフト、調達LTの権限 |
| 一つの拠点だけでは不足 | 分割ルール次第 | 場合による | 拠点優先、分納、輸送費、顧客許容 |
良いRFPは「ATP/CTPを備えること」ではなく、「どの供給タイプを含め、どの時点で供給を信頼し、どの制約を有限として扱い、どの単位で再計算するか」を問います。営業担当が納期回答のために計画全体を毎回回す設計は重すぎることがあります。反対に、前夜のスナップショットだけでは当日の設備停止を反映できません。即時ATPと、条件付きで走らせるCTP、定期的な全体再計画を分ける設計が現実的です。
希望・回答・計画・実績の4日付を分ける
納期管理が破綻する典型は、ExcelやERPの「納期」一列に異なる意味が上書きされることです。最低限、次の四つを独立して保持します。
| 日付 | 定義 | 所有者 | 上書きルール |
|---|---|---|---|
| 希望納期(requested) | 顧客が到着を希望する日 | 顧客/営業 | 顧客要求の変更を新履歴として記録 |
| 回答納期(promised) | 会社が顧客に正式回答した日 | 営業+承認権者 | 理由と承認なしに変更不可 |
| 計画納期(planned) | 現在の供給・能力計画から算出した見込み日 | 生産管理/計画エンジン | 再計画で更新可、回答納期は自動上書きしない |
| 実績納期(actual) | 出荷、引渡し、顧客到着など定義済みの実績日 | WMS/物流/受領連携 | 原イベントを修正せず取消・訂正イベントで処理 |
Microsoft Business Centralの公式文書は、希望納期から輸送時間と倉庫出庫処理時間を逆算し、出荷日を確認する考え方を示しています。ここで重要なのは、工場完成日と顧客到着日が同じではないことです。タイ国内配送、輸出通関、顧客の受入可能日、工場・倉庫・運送会社の休日カレンダーを別々に扱う必要があります。
さらに「納期遵守率」の分母と判定点も固定します。受注明細単位か注文単位か、分納を合格とするか、日付だけか時刻まで見るか、顧客到着実績が取れない場合に出荷実績を代替するかをデータ辞書に記します。定義が違うKPIを同じグラフに並べても改善には使えません。
マスタデータは納期計算の前提条件
納期管理システムの精度は、アルゴリズム名よりマスタの現実性に左右されます。マスタは導入前に「存在するか」ではなく、「所有者、更新頻度、承認、欠損時の動作」が決まっているかを監査します。
| マスタ | 最低限の項目 | タイ工場で見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 品目・単位 | 品目ID、基本単位、換算、ロット、期限 | kg・piece・pack換算、二重品番、顧客品番 |
| BOM・代替 | 有効期間、数量、歩留、代替条件 | 設計変更の発効日、顧客承認が必要な代替 |
| 工程・能力 | 工程順、標準時間、設備・人員能力、段取 | 休憩、技能者、金型、共有設備、追加シフト |
| カレンダー | 工場、倉庫、仕入先、運送、顧客休日 | タイ祝日、企業休日、日本本社との時差 |
| 調達 | 仕入先、調達LT、最小ロット、入荷検査 | 通関、検査保留、確定と予測の区別 |
| 物流 | 出庫処理、ルート、輸送LT、締切時刻 | 集荷締切、越境輸送、顧客入構時間 |
| 顧客・注文 | 優先度、分納可否、代替可否、サービス水準 | 口頭特急、顧客別ラベル、Incotermsの責任点 |
欠損値をゼロとして計算するのは危険です。例えば輸送日数が空なら「即日」とみなすのではなく、回答を保留してマスタ責任者に例外を出すべきです。また、標準リードタイムと実績分布を混同しないようにします。標準値は計画ルール、実績は改善材料です。実績に外れ値があるからといって、承認なしに標準値を自動変更すると、約束ルールが説明不能になります。
工程進捗を見える化するイベントモデル
現在値だけを同期する方式では、「なぜ昨日は間に合う表示だったのか」を追跡できません。推奨は、業務イベントを追記し、現在状態はイベントから導出する設計です。GS1 EPCISは、可視化イベントをwhat、when、where、why、howなどの次元で表現する標準です。すべての工場がEPCISを導入する必要はありませんが、この問いをイベント設計のチェックリストとして使えます。
| イベント例 | 主キー・時刻 | 必須コンテキスト | 納期への作用 |
|---|---|---|---|
| ORDER_ACCEPTED | 注文明細、受信時刻 | 数量、希望納期、顧客、優先度 | 初回ATP/CTPを起動 |
| SUPPLY_CONFIRMED | 供給行、確定時刻 | 品目、数量、入荷予定、信頼区分 | ATP供給を増減 |
| OPERATION_STARTED | 製造指図・工程、開始時刻 | 設備、作業者、数量 | 計画と実績の差を更新 |
| PROGRESS_REPORTED | 製造指図・工程、報告時刻 | 良品、スクラップ、残数、状態 | 完了予測を再計算 |
| DOWNTIME_OPENED | 設備、発生時刻 | 理由、影響工程、復旧見込み | 能力を減らし影響注文を抽出 |
| SHIPMENT_CONFIRMED | 出荷、確定時刻 | 数量、ロット、運送、出発 | 実績と輸送見込みを更新 |
| PROMISE_CHANGED | 注文明細、変更時刻 | 変更前後、理由、申請者、承認者 | 顧客約束履歴を確定 |
Microsoftの現行生産フロア実行文書でも、ジョブ状態、要求・開始・完了・スクラップ・残数量と進捗報告が扱われます。納期予測に必要なのは、派手なダッシュボードより、現場が無理なく正しい時刻と数量を報告できる入力設計です。端末がオフラインになる工場では、イベントIDを発行し、再接続後の再送で二重計上しない冪等性が必要です。
例外管理は「赤くする」だけでは足りない
納期管理の画面に赤い注文が大量に並ぶと、担当者は結局Excelや電話へ戻ります。例外は、原因、影響、責任者、次の行動、期限、承認状態まで一つのワークアイテムにします。
- システムが材料遅延、能力超過、進捗停滞、品質保留、輸送遅延などの兆候を検出する。
- 影響する注文明細と回答納期、顧客優先度、代替案を計算する。
- 担当ロールへ割り当て、確認期限を設定する。
- 前倒し、代替、分納、残業、外注、納期変更などの選択肢を比較する。
- コスト・品質・顧客条件に応じた権限者が承認する。
- 計画を確定し、必要な相手へ同じ内容を通知する。
- 解消まで監視し、結果と理由コードを改善分析へ戻す。
変更承認は、単なる電子印ではありません。顧客約束を変える権限、追加費用を使う権限、代替材を採用する権限は別です。RFPでは金額や日数の閾値を固定値で書くより、組織、顧客、品目群、影響度に応じた承認マトリクスを設定できるかを確認します。

タイ工場の多言語運用を設計する
日本語、タイ語、英語が混在する工場で、画面翻訳だけを多言語対応と呼ぶのは不十分です。最も危険なのは、理由コードや日付の意味が言語ごとにずれることです。例えば「納期」は、工場完成、出荷、顧客到着のどれかを明示しなければなりません。
- 用語辞書は業務オーナーが承認し、画面、帳票、教育資料、API項目で同じ定義を使う。
- 理由コードは翻訳表示と一つの共通コードを持ち、自由記述だけにしない。
- タイムスタンプはUTCで保持し、画面ではICTなど利用者のタイムゾーンを明示する。
- 日付表示、週の開始、祝日、シフト跨ぎ、締切時刻をテストする。
- 氏名表記や検索はタイ文字、ラテン文字、日本語の別名を許容する。
- 現場入力は短くし、色だけに依存せず、記号と文言を併用する。
翻訳の受入テストは、翻訳者だけでなく、実際に受注、計画、製造、倉庫を担当する各言語の利用者が行います。正しい翻訳でも、現場で使わない用語なら入力品質は上がりません。
ERP・MES・WMSの責任境界
ISA-95はERPなどの業務計画領域とMESなどの製造運用領域の境界を整理する参照枠です。納期管理では「全部を新システムへ移す」のではなく、一つのデータに一つの正本を決めます。
| 情報 | 推奨する正本 | 連携方向 | 統制ポイント |
|---|---|---|---|
| 顧客・受注・価格条件 | ERP/受注管理 | ERP → 納期管理 | 取消、変更、行分割、優先度 |
| 在庫・引当・入出庫 | ERPまたはWMS | 双方向またはイベント | 保留、ロット、倉庫、更新時刻 |
| 生産指図・基準計画 | ERP/生産計画 | 計画 → MES | 版、凍結範囲、指示変更 |
| 工程実績・停止・不良 | MES | MES → 納期管理 | 時刻、数量、理由、訂正 |
| 出荷実績 | WMS/ERP | WMS → ERP・納期管理 | 分納、取消、運送ID |
| 回答納期・変更履歴 | 納期管理またはERP | 双方向 | 正式回答点、承認、競合解決 |
連携要件には、項目対応表だけでなく、遅延、順不同、重複、欠損、訂正、再送を含めます。APIが成功を返しても相手の業務処理が失敗する場合があります。業務キーとイベントID、送信時刻、処理状態、エラー理由を突合できる管理画面が必要です。より広い受発注・購買の正本設計は、受発注・購買管理システムの実務ガイドも参照してください。
納期管理システムRFPに入れる要求
RFPは「できる/できない」の回答表ではなく、デモシナリオ、データ量、性能条件、例外、証跡、責任範囲を含む試験可能な文にします。以下はベンダー中立のたたき台です。
業務・計算要求
- 注文明細ごとに希望、回答、計画、実績の各日付と時刻を保持し、履歴を削除しない。
- ATPの供給・需要要素、割当順序、時間柵、顧客優先、分納・代替のルールを設定できる。
- CTPで参照するBOM、工程、材料、有限能力、カレンダー、調達・輸送LTを提示できる。
- 計算結果から、使用した供給、制約、除外理由、次に可能な日を説明できる。
- 材料遅延、能力不足、工程停滞、品質保留、出荷遅延から影響注文を逆引きできる。
- 回答納期変更は理由、影響、申請者、承認者、時刻を保存し、権限外の変更を拒否する。
データ・連携要求
- ERP、MES、WMSの正本と更新方向をデータ項目単位で合意できる。
- APIまたはイベント連携は、認証、暗号化、冪等性、再送、順序、監視、保管期間を定義する。
- マスタ欠損や古い進捗データを検知し、無言で計算を続けない。
- 過去の約束計算を、当時のマスタ版、入力スナップショット、ルール版で再現できる。
- データ移行は件数照合、金額・数量照合、サンプル照合、差異承認を含む。
非機能・運用要求
- 代表シナリオとピーク負荷で応答時間を測定し、計測点を画面、API、バッチに分ける。
- ロール、最小権限、職務分離、アクセス履歴、退職・異動時の失効を備える。
- タイ語、日本語、英語の用語、検索、帳票、通知を実利用者が検証できる。
- バックアップ、復旧目標、障害連絡、保守時間、変更管理を契約付属書にする。
- 本番後のマスタ品質、例外滞留、計算失敗、連携遅延を誰が監視するか明記する。
90日PoC――小さくても本番と同じルールで試す
以下の90日は導入例としての編集上の枠組みであり、業界標準期間ではありません。対象製品、拠点、繁忙期、連携難度に応じて調整してください。重要なのは、きれいなサンプルではなく、自社の不完全なマスタと例外を含む注文で検証することです。
| 期間 | 目的 | 主な作業 | ゲート成果物 |
|---|---|---|---|
| 1〜15日 | 定義と基準線 | 対象範囲、4日付、KPI、現行フロー、データ所有者を確定 | 用語辞書、データ台帳、ベースライン |
| 16〜30日 | データ成立性 | 品目、BOM、工程、能力、カレンダー、受注、供給を取込 | 欠損率、照合差異、修正責任表 |
| 31〜50日 | 約束ロジック | ATP、CTP、優先、分納、代替、輸送を設定 | シナリオ別期待値と説明ログ |
| 51〜65日 | 例外・承認 | 遅延、停止、不良、特急、変更承認を模擬 | ワークフロー履歴、通知、権限試験 |
| 66〜80日 | 連携・現場 | ERP/MES/WMS連携、再送、オフライン、三言語UAT | 照合レポート、運用手順、教育結果 |
| 81〜90日 | 並行稼働と判定 | 現行回答とPoC回答を比較し、差を原因分類 | 受入結果、残課題、TCO、移行判断 |
PoCでは一つの製品群だけに絞っても、通常受注、在庫不足、材料遅延、能力超過、設備停止、品質保留、分納、代替、顧客変更、注文取消を含めます。精度が悪い差分を「ユーザーの慣れ」で片づけず、マスタ、イベント遅延、ルール、計算、業務承認のどこに原因があるか分類します。

受入テストは「画面が開く」ではなく約束を検証する
下表の閾値はすべて例示仮定です。実契約では現状値、注文量、重要顧客、インフラ条件から数値を置き換えてください。
| テスト | 入力・操作 | 期待結果 | 例示の合格条件(仮定) |
|---|---|---|---|
| ATP在庫競合 | 同じ在庫を複数注文が要求 | 優先ルールに従い二重約束しない | 既知シナリオ全件が期待割当と一致 |
| CTP能力制約 | ボトルネック能力を減らす | 約束可能日が後ろへ動き制約を表示 | 期待日と一致し理由を説明可能 |
| 遅延入荷 | 予定入荷を遅らせる | 影響注文と代替案を抽出 | イベント取込後5分以内に例外化 |
| 設備停止 | MESから停止と復旧見込みを送る | 能力と計画日を再評価 | 対象注文の欠落ゼロ |
| 変更承認 | 権限のない利用者が回答日を変更 | 保存拒否または承認待ち | 変更前後と操作者が全件記録 |
| 重複イベント | 同じイベントIDを再送 | 数量を二重計上しない | 再送後の在庫・進捗差異ゼロ |
| 順不同イベント | 完了より後に開始イベントが到着 | 規定ルールで処理・警告 | 状態破損なし、監査ログあり |
| 三言語UAT | 同じ例外を各言語で処理 | 共通コードと同じ結果 | 重大な意味差ゼロ |
| ピーク性能 | 想定ピークを模した同時回答 | タイムアウトせず結果を返す | 95パーセンタイル3秒以内 |
| 復旧 | 連携停止後に再開・再送 | 欠落なく追いつき照合可能 | 復旧後の業務キー差異ゼロ |
「約束精度」は実績が出るまで完全には検証できません。PoC期間中は過去データのバックテストと並行回答を使い、本番後に回答納期と実績の差を追跡します。長期の製造リードタイム短縮と、今日の注文に何日を回答するかは関連しますが、同じKPIではありません。短縮だけを追うと、無理な前倒しで回答精度を悪化させる可能性があります。
ROIとTCOを例示モデルで検算する
ROIは「納期遵守率が上がるはず」という期待だけで計算しません。まず削減可能な作業と損失を定義し、現行値を測り、システムが寄与できる割合だけを置きます。以下の数値はすべて説明用の仮定であり、TOMAS TECHの実績、相場、効果保証ではありません。
例示仮定
- 月間注文明細:4,000行
- 納期照会・再回答が必要な割合:20%
- 1件当たりの調査・調整:15分
- 対象担当者の総人件費:1時間当たり600バーツ
- システムで削減できる調査時間:50%
- 緊急輸送・残業・特急購買の現行費用:月600,000バーツ
- そのうち早期例外検知で回避できる割合:10%
- 初期費用:3,000,000バーツ
- 年間のライセンス、保守、クラウド、運用、改善費:1,800,000バーツ
| 項目 | 式 | 例示結果 |
|---|---|---|
| 月間調整時間削減 | 4,000 × 20% × 15分 × 50% | 100時間 |
| 月間人件費換算 | 100時間 × 600バーツ | 60,000バーツ |
| 月間緊急費回避 | 600,000 × 10% | 60,000バーツ |
| 年間便益 | (60,000 + 60,000) × 12 | 1,440,000バーツ |
| 初年度TCO | 初期3,000,000 + 年間1,800,000 | 4,800,000バーツ |
| 初年度純効果 | 年間便益1,440,000 − 初年度TCO4,800,000 | −3,360,000バーツ |
この仮定では初年度だけを見れば投資回収しません。だからこそ、都合の良い割合を上げるのではなく、複数年TCO、売上機会、顧客ペナルティ、在庫、緊急費、担当工数を分けて感度分析します。売上維持を便益に入れるなら、「危険注文を検出したこと」と「その対応で失注を防いだこと」を案件単位で承認できる証跡が必要です。
TCOにはライセンスだけでなく、データ整備、インターフェース、端末、教育、翻訳、運用監視、バージョン更新、追加レポート、ベンダー支援、社内担当時間、将来の撤退・データ出力費を含めます。RFPの価格表は初期と反復、必須と任意、固定と従量を分け、前提数量を同じにして比較します。
よくある失敗モード
1. ダッシュボード導入を納期管理導入と取り違える
見える化は結果であり、希望・回答・計画・実績の定義、計算、例外処理、承認が先です。赤い注文を表示するだけでは、担当者の判断負荷が増えます。
2. ATPの供給を過信する
遅延した購買予定や品質保留在庫まで供給に含めれば、見かけのATPは増えます。供給タイプごとに信頼条件、時間柵、除外ルールを設けます。
3. CTPをブラックボックスにする
答えの日付だけでは営業も生産管理も納得できません。使用したBOM版、工程、能力、カレンダー、制約、代替案を説明できることが必要です。
4. 顧客約束を再計画で自動上書きする
計画が変わるたびに回答納期を変えると、顧客との約束と内部見込みが混ざります。危険を検出したら例外化し、承認後に回答を変更します。
5. マスタ浄化を一度きりの移行作業にする
本番後も新製品、新仕入先、設備変更、休日変更が続きます。欠損、古さ、重複、異常値を継続監視し、責任者と期限を設定します。
6. 現場入力の負担を無視する
正確な進捗が遅れて入力されれば、納期予測も遅れます。スキャン、既定値、短い理由コード、オフライン再送を使い、入力と確認の動線を実機で測ります。
7. 多言語の意味差を放置する
翻訳済みでも業務定義が違えば、同じ理由コードから異なる行動が生まれます。共通コードと用語辞書を正本にし、各言語の実利用者が同じシナリオを処理します。
8. ベンダーデモ用データだけで決める
整ったデータでは例外が見えません。重複品番、古いLT、順不同イベント、分納、取消、口頭特急など、自社で実際に困るケースを匿名化して使います。
FAQ:納期管理システムの選定でよくある質問
納期管理システムと受注管理システムの違いは何ですか?
受注管理は注文、顧客、価格、数量、出荷・請求などの取引を正しく保持することが中心です。納期管理は、その注文へいつを約束できるかを在庫、供給、能力、進捗、物流から計算し、約束後のリスクと変更を統制します。製品として一体の場合もありますが、RFPでは責任を分けて確認します。
納期遅延対策にはERPだけで十分ですか?
ERPに必要なATP、能力計画、進捗、例外、承認、履歴が揃い、運用できるなら追加製品は不要です。一方、現場実績が遅い、有限能力を見ない、理由を説明できない、例外がメールに分散する場合は、MESや計画・納期管理機能との組合せを検討します。
工程進捗の見える化はリアルタイムであるべきですか?
すべてを秒単位にする必要はありません。納期判断が変わる速度に合わせます。設備停止や重要工程完了は早い方が有効ですが、安定工程の集計は一定間隔でも足ります。RFPでは「リアルタイム」という語ではなく、イベント別の許容遅延と古さ表示を定義します。
生産計画システムとCTPは同じですか?
同じではありません。生産計画は需要と供給から全体の計画を作る範囲が広く、CTPは特定の需要に対して材料と能力を踏まえ約束可能日を求める機能です。実装では同じ計画エンジンを使う場合があるため、計算範囲、固定計画、優先順位、応答時間を確認します。
納期回答精度はどう測りますか?
回答時点の回答納期と、定義済みの実績納期との差を注文明細ごとに保存します。期限内かだけでなく、何日前の回答か、変更回数、遅れ・早着日数、分納、原因も分析します。KPIの分母と実績点を固定し、後から都合よく定義を変えないことが重要です。
90日PoCで本番効果まで証明できますか?
すべては証明できません。季節性や長い調達LTを含む効果には観測期間が必要です。90日PoCは、データ成立性、計算再現性、例外・承認、連携、利用性を判断する枠組みとして使い、長期効果は本番後の基準線比較で検証します。
タイ工場で最初に整備すべきマスタは何ですか?
対象製品群を決め、品目・単位、BOM、工程、能力、カレンダー、調達LT、輸送LT、顧客条件を優先します。全社マスタを完全にしてから始めるのではなく、PoC範囲で欠損と所有者を可視化し、更新統制を作る方が実行しやすいです。
まとめ
納期管理システムの価値は、納期一覧を表示することではなく、希望納期から回答納期を作る根拠を明らかにし、計画と実績の変化をイベントで捉え、危険な注文を例外として処理し、約束変更を承認・監査できることにあります。ATPとCTP、4日付、マスタ、ERP/MES/WMS境界をRFPで試験可能に書き、自社データの90日PoCと受入テストで証拠を取れば、製品名やデモの印象に左右されない判断ができます。
タイ工場の納期回答ルールをRFPやPoCシナリオへ落とし込む段階から、既存ERP・MES・WMSを前提に整理できます。製品選定前の要件棚卸しでも、TOMAS TECHへご相談ください。
参照した一次情報
- Oracle: Overview of Global Order Promising
- Oracle: Try Different Availability Options
- Microsoft Learn: Order promising
- Microsoft Learn: Calculate order promising dates
- Microsoft Learn: How workers use the production floor execution interface
- ISA: ISA-95 Series of Standards
- GS1: EPCIS and CBV 2.0.1
- GS1: Global Traceability Standard, Issue 2
- Thailand BOI: 1H 2026 investment release
*本稿の事実関係は2026年9月1日時点で確認しました。製品仕様、契約条件、規制、サービス提供範囲は導入判断の直前に公式情報で再確認してください。*