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2026.08.15

契約書レビューAI導入2026|タイの賃貸契約は3年で切れる

契約書レビューAI導入2026|タイの賃貸契約は3年で切れる

「タイ語の原本と日本語の訳文、どちらが正なのですか」。タイで工場を運営する日系企業の契約実務では、この一言で話が止まることが珍しくありません。工場や倉庫の賃貸借契約、サプライヤー契約、BOI関連の覚書が、日本語・タイ語・英語で並行して動き、法務の専任者は日本本社にしかいない。この記事では、契約書レビューAIで何ができて何ができないのかを、タイの工場運営に固有の契約リスクとあわせて整理します。

タイの日系工場で契約書が読みきれなくなる理由

日本本社の法務部門が扱う契約と、タイの製造子会社が扱う契約は、量も種類も性質も違います。本社側は同じ日本語で書かれた取引基本契約や業務委託契約を、法務の専門家が読みます。一方、タイの拠点で回っているのは次のような文書です。

  • 工業団地の事業者や地主と結ぶ工場・倉庫の賃貸借契約
  • 現地サプライヤーとの購買契約、外注加工の委託契約
  • BOI(タイ投資委員会)の投資奨励条件に紐づく設備調達や増設の契約
  • 人材派遣、警備、清掃、廃棄物処理といった役務提供契約
  • 日本本社との間の技術支援契約やライセンス契約

これらのうち、現地企業との契約はタイ語が原本で、参考として英語版が添えられ、社内説明のために日本語の要約がつくという三層構造になりがちです。三つの版が完全に一致している保証はどこにもありません。そして、この束を読む担当者は、多くの場合、管理部門長や購買課長が本来業務と兼務で担っています。

もう一つの事情は、契約書が「読まれるタイミング」の遅さです。工場運営では、契約書は締結時に一度確認されたきり、契約書棚に入って動かなくなります。問題が表面化するのは、賃貸借契約の更新時、BOIの報告時、あるいは取引先とのトラブル発生時です。そのときに初めて「この条項はどうなっていたか」と探しはじめ、日本語版とタイ語版で書いてあることが違うと気づく。この時間差が、タイの拠点で契約リスクが顕在化しにくく、顕在化したときには手遅れになりやすい構造をつくっています。

人手を増やせば解決するかというと、そう単純でもありません。タイの拠点に日本の弁護士資格を持つ人材を常駐させるのは現実的ではなく、現地の法律事務所に全件を回せば費用が膨らみます。結果として「重要そうな契約だけ外部に見てもらい、それ以外は担当者が目を通す」という運用に落ち着きます。この「それ以外」の山を、機械の力で一次的にふるいにかけようというのが、契約書レビューAIの出発点です。

なお、AIツールを海外拠点で使う場合、どのアカウントで、どの法人名義で契約するのかという論点が先に来ます。日本本社の契約を現地でそのまま使ってよいのか、現地法人が別途契約すべきなのかは、料金以前の問題です。この点はChatGPT企業導入2026|決まるのはプランでなく契約主体で整理しているので、ツール選定に入る前に一度目を通しておくことをおすすめします。

契約書レビューAIとは何か|基本の機能を分解する

契約書レビューAIは、契約書のファイルを読み込ませると、条項ごとにリスクを指摘し、修正案を提示するソフトウェアです。ITreviewが整理しているカテゴリ情報によれば、この領域の製品に共通して備わる主要機能は、リスク検出、修正案の自動生成、バージョン比較、英文契約対応、コンプライアンスチェック、ワークフロー管理です。ひとつずつ、工場運営の目線で何を意味するのかを見ていきます。

リスク検出と修正案の自動生成

もっとも中心にあるのがリスク検出です。契約書を読み込ませると、自社にとって不利になりうる条項、あるべきなのに欠けている条項、表現が曖昧で解釈が割れる条項に印がつきます。重要なのは、単に条項を色づけするだけでなく、「なぜそれがリスクなのか」という理由と、「どう直すか」という代替文案がセットで出てくる点です。

契約書レビューAI導入2026|タイの賃貸契約は3年で切れる - figure 1

工場運営でいえば、たとえば購買契約に検収条項はあるが検収期間の定めがない、損害賠償の上限が定められていない、不可抗力条項の対象事由に洪水が含まれていない、といった欠落が典型です。タイの工業団地では洪水リスクが現実的な論点になりますが、日本本社のひな形をそのまま持ってきた契約書には、この観点が入っていないことがあります。人が読む場合、書いてあることの誤りには気づけても、書かれていないことの欠落には気づきにくい。ここが機械の得意分野です。

バージョン比較とコンプライアンスチェック

バージョン比較は、修正のやり取りが何往復もする契約で効きます。相手方から返ってきた版が、こちらが送った版と比べてどこが変わったのかを条項単位で示します。コンプライアンスチェックは、関連する法令や自社の契約基準に照らして問題がないかを確認する機能です。自社基準を登録しておけば、「紛争解決の方法は仲裁とする」「賠償上限は契約金額の範囲内とする」といった社内ルールからの逸脱を自動で拾えます。

英文契約対応とワークフロー管理

英文契約対応は、タイの拠点にとってはとりわけ重要です。現地企業との契約で英語版が実務上の作業言語になる場面は多く、日本語の契約書しか扱えないツールでは用をなしません。ワークフロー管理は、契約書の申請から承認、締結、保管までの流れをシステム上で回す機能で、誰がいつ何を承認したのかという記録が残ります。海外拠点の契約が「担当者のメールボックスの中にしかない」状態を避けるという意味で、地味ですが効きます。

AI契約書レビューの導入はどこまで進んでいるのか

導入の広がりを示す調査があります。LegalOn Technologiesが公表した生成AIに関する調査レポート(実査は株式会社クロスマーケティング、調査時期は2025年2月21日から26日、企業法務業務関連者500名が対象)によると、「生成AIを使用している」と回答した人は6割以上にのぼりました。

この調査で注目したいのは、活用されている業務の内訳です。もっとも多かったのが「契約書のレビュー・作成支援」で44%。つまり、企業法務における生成AIの使いどころとして、契約書レビューが筆頭に挙がっているということです。利用しているサービスはChatGPT(OpenAI)が約7割で最多、活用を開始した時期は2024年が最多で51%でした。

この数字の並びから読み取れることは二つあります。ひとつは、契約書レビューが生成AIの適用先として実務で選ばれているという事実。もうひとつは、多くの企業がまず汎用のチャット型AIから入っているという実態です。後者は、次に述べる論点につながります。

市場の規模も見ておきます。Global Informationが公開している法務向け人工知能の市場レポート概要によれば、法務領域のAI市場は2025年に45.9億米ドル、2026年に55.9億米ドルへ拡大すると予測されています。さらに2030年には124.9億米ドル、年平均成長率22.3%で伸びるという推計が示されています。あくまで推計値ですが、この領域が一過性の流行ではなく、継続的に製品が投入される市場だと見込まれていることは確かです。ツールを選ぶ側から見れば、数年単位で製品の入れ替わりや機能追加が続くことを前提に、乗り換えやすさも含めて検討したほうがよい、ということになります。

汎用の生成AIチャットで代用できるか

ChatGPTのような汎用の生成AIに契約書を貼りつけて「リスクを指摘してください」と聞けば、それらしい答えは返ってきます。実際、前掲の調査でもChatGPTの利用が約7割で最多でした。では専用ツールは不要かというと、そうではありません。

LegalOn Technologiesが自社サイトで整理している論点によれば、汎用の生成AIチャットは、契約書レビュー専用ツールと比べて条項の抜け漏れ検出などで劣るとされています。理由は構造的なものです。汎用チャットは、与えられたテキストの中身について答えることは得意ですが、「本来あるべきなのに、このテキストには存在しない条項」を体系的に指摘するには、契約類型ごとの標準的な条項構成を基準として持っている必要があります。専用ツールはその基準を製品として内蔵しているのに対し、汎用チャットは毎回の指示に依存します。

もうひとつ実務で問題になりやすいのが再現性です。同じ契約書であっても、担当者やプロンプトが変われば指摘の内容が揃わないことがあります。契約審査という業務は、担当者が代わっても同じ基準で判断されることに意味があるので、この差は小さくありません。加えて、機密性の高い契約書を汎用サービスに投入してよいかという情報管理の判断も、別途必要になります。

契約書のバージョン比較で事故が起きる場所

契約審査の実務でもっとも事故が起きやすいのは、条項を読み違えるところではなく、どの版が最新かを取り違えるところです。

契約書レビューAI導入2026|タイの賃貸契約は3年で切れる - figure 2

タイの拠点でよくある経路を具体的に描くと、こうなります。現地サプライヤーから英語のドラフトが届く。購買担当が日本語に要約して日本本社に送る。本社の法務が日本語の要約に対してコメントを返す。購買担当がそのコメントを英語に直してサプライヤーに送る。サプライヤーがタイ語版と英語版を修正して返す。ここまでで、原本が三言語に分かれ、コメントは要約に対して付けられ、修正がどの版に反映されたのかを追える人が誰もいない状態ができあがります。

バージョン比較機能は、この経路の一部を機械に肩代わりさせます。前の版と今の版を突き合わせ、追加・削除・変更された条項を提示する。人がやると見落とすのは、目立つ数字の変更ではなく、「することができる」が「するものとする」に変わったような、権利が義務に変わる小さな書き換えです。差分として提示されれば、少なくとも見落としは減ります。

ただし、機械が差分を出したあと、それが受け入れられる変更なのかを判断するのは人です。ここを混ぜてしまうと自動化は止まります。判断と処理が混在する業務をどう切り分けるかという論点は、RPA×生成AI連携2026|自動化が止まるのは判断が混ざる場所で詳しく扱っています。契約審査は、まさに「処理の部分だけを機械に渡し、判断は人が持つ」設計が求められる領域です。

契約審査AIツールの主要製品|国内外の顔ぶれ

ITreviewのカテゴリ情報で挙げられている国内の代表的な製品と、海外で名前の挙がるツールを整理すると次のようになります。製品ごとの細かな機能差は各社の公式情報で確認していただく前提で、まずはどのような顔ぶれがあるのかを把握してください。

ツール名提供元掲載区分
LeCHECK株式会社リセ国内カテゴリ掲載
OLGAGVA TECH国内カテゴリ掲載
クラウドサイン弁護士ドットコム国内カテゴリ掲載
BoostDraftBoostDraft国内カテゴリ掲載
LAWGUEFRAIM国内カテゴリ掲載
クラウドリーガルa23s国内カテゴリ掲載
LegalOnLegalOn Technologies海外ツール例
JuroJuro海外ツール例
KiraKira海外ツール例

表の「掲載区分」は、どちらの出典に掲載されていたかを示すもので、提供元企業の国籍を表すものではありません。たとえばLegalOnを提供するLegalOn Technologiesは日本の企業ですが、ここでは海外向けの解説記事でツール例として挙げられていたため「海外ツール例」に分類しています。

この一覧は、どれが優れているかを示すものではありません。契約書レビューに特化した製品もあれば、電子契約や契約書作成支援を主軸に据えてレビュー機能を備える製品もあり、出発点が違います。タイの拠点で使うことを前提にするなら、比較の軸は次のように整理できます。

比較の軸確認すべき点タイ拠点での意味
対応言語日本語のほかに英語の契約書を扱えるか現地企業との契約は英語版が作業言語になりやすい
契約類型の網羅性賃貸借、購買、業務委託などの型を持つか工場運営は取引基本契約以外の比重が高い
準拠法の前提どの国の法律を前提に基準が組まれているかタイ法準拠の契約は基準の外に出る可能性がある
情報の取り扱い入力した契約書が学習に使われないか現地の取引条件は機密性が高い
保管と検索締結済み契約を検索できるか更新時期や報告時に過去契約を引く必要がある
承認の記録誰がいつ承認したかが残るか本社と現地の二重承認を追跡できる

この六つの軸のうち「準拠法の前提」は、日本の製品を海外拠点で使う際にもっとも見落とされやすい点です。日本の契約審査AIツールの多くは、日本法を前提とした標準的な条項構成を基準として持っています。タイ法に準拠する契約をそのまま読ませても、基準そのものが噛み合わない場面が出てきます。この限界を理解したうえで、後述するように「拾える論点」と「拾えない論点」を分けて運用することが前提になります。

タイの工場・倉庫賃貸借契約の落とし穴|民商法典第538条

タイの工場運営に固有の契約リスクのうち、もっとも金額インパクトが大きく、かつ日本の常識では気づきにくいのが、不動産賃貸借契約の期間に関する規制です。

契約書レビューAI導入2026|タイの賃貸契約は3年で切れる - figure 3

タイの民商法典第538条により、不動産の賃貸借は、3年を超える期間の契約を結んでも、登記をしていなければ3年間しか法的効力を持ちません。つまり、10年間の賃貸借契約書に署名し、双方が納得していたとしても、登記がなされていなければ、法的に主張できるのは最初の3年分だけということになります。

これが工場運営にとって何を意味するか。設備を据え付け、認証を取得し、人を採用して立ち上げた工場が、4年目に貸主から「契約は法的には終了している」と言われうる、ということです。実務上は多くの場合、双方の合意で継続されるでしょう。しかし、貸主が代替わりしたり、土地が売却されたり、賃料の大幅な引き上げ交渉に使われたりしたとき、交渉のカードとして持っているものが法的な裏づけを欠く状態になります。

対応の方向はふたつです。ひとつは、3年を超える契約について登記を行うこと。もうひとつは、登記が難しい場合に、貸主から契約延長についての確約を明示的に取り付けることです。長期の操業を予定しているなら、契約交渉の段階で登記の可否を確認しておくべき論点です。

BOIの投資額算定と3年ルールの連動

さらに厄介なのは、この3年ルールがBOIの投資奨励制度と噛み合っている点です。BOIの投資奨励では、投資額の算定に含められる賃貸契約は「3年を超える賃貸契約額のみ」とされています。

ここに矛盾が生まれます。第538条の制約を避けるために契約期間を3年以内に収めると、その賃貸契約額はBOIの投資額算定に入りません。結果として、恩典を十分に受けられなくなる可能性が出てきます。逆に、BOIの投資額に算入するために3年を超える契約を結ぶなら、登記をするか、少なくとも登記に相当する手当てを考えなければ、契約自体の法的効力が3年で切れます。

つまり、賃貸借契約の期間という一点が、法的効力の問題と税制恩典の問題を同時に決めているわけです。これは契約書の一条項を読むだけでは見えず、BOIの申請条件と突き合わせて初めて意味がわかる論点です。契約書レビューAIは「契約期間が3年を超えるかどうか」「登記に関する条項があるかどうか」を機械的に抽出できますが、それがBOIの恩典にどう効くかまでを判断するのは人の仕事です。この分業を最初に決めておくことが重要です。

BOIの投資奨励条件と契約書の関係

BOIの制度そのものについても、契約実務に効く前提を押さえておきます。BOI発行のガイドによれば、BOIの認可は企業単位ではなく事業(プロジェクト)単位で行われ、業種ごとに恩典の内容が異なります。同じ法人が複数のプロジェクトを持つ場合、それぞれに条件がつくということです。

金額と手続の条件としては、次の点が示されています。

  • 最低投資額は1,000,000バーツ以上(土地代と運転資金を除く)
  • 奨励証書の交付前に、登録資本の4分の1以上の払込が必要
  • 奨励証書の交付後、原則として36か月以内に操業を開始する必要がある
  • BOIプロジェクトには監査と定期報告の義務がある

これらの条件は、契約書の中の期日や金額と直接ひもづきます。たとえば36か月以内の操業開始という条件がある以上、設備の納入契約における納期条項、据付や試運転の完了日の定め、遅延した場合の責任分担は、単なる商取引上の論点ではなく、恩典の維持に関わる論点になります。納期遅延が積み重なって操業開始が期限に間に合わなければ、影響は契約の当事者間にとどまりません。

同じことが土地代と運転資金の除外にも言えます。投資額に算入されるものとされないものが分かれる以上、契約書上でどの費用がどの項目として計上されるかが、算定結果を変えます。契約書のAIチェックを導入するなら、こうしたBOI関連の期日や金額を抽出する使い方を、最初のユースケースに据えるとよいでしょう。抽出は機械が得意で、判断は人が担うという役割分担が、そのまま当てはまります。

PDPAと契約書|個人情報条項をどう点検するか

タイの個人情報保護法(PDPA)は2022年6月に全面施行されました。GDPRを参考にした制度で、本人同意の原則、データ主体の権利保障、国外移転時の安全性確保など、GDPRと共通する点が多いとされています。

工場運営で個人情報が動く場面は、想像より広い範囲に及びます。従業員の人事情報、入退場管理の記録、健康診断の結果、取引先の担当者情報、監視カメラの映像。これらの取り扱いは、人材派遣契約、警備委託契約、システム保守契約、クラウドサービスの利用規約といった文書の中に条項として現れます。

契約書の観点で確認すべきは、おおむね次の点です。

  • 委託先に個人情報を渡す場合、その取り扱い範囲と目的が明記されているか
  • 国外移転が発生する場合、その旨と安全性確保の措置が定められているか
  • 契約終了時のデータ返還または削除の義務が定められているか
  • 漏えいが発生した場合の通知義務と、その期限が定められているか
  • 再委託の可否と、再委託先に同等の義務を課す条項があるか

M&Aの文脈では、デューデリジェンスの過程で契約書内の個人情報の取り扱いを確認することの重要性が指摘されています。これは買収時に限った話ではありません。既存の契約群を棚卸しし、個人情報条項の有無を横串で確認するという作業は、契約書レビューAIがもっとも力を発揮する使い方のひとつです。手元にある契約群から「個人情報に言及している条項」を抽出し、必要な要素が揃っているかを一覧化する。人手でやれば相応の工数がかかる作業ですが、抽出の部分だけなら大幅に短縮できます。

タイ工場運営でAIレビューが役立つ契約類型

ここまでの論点を、契約類型ごとに整理します。それぞれについて、主な論点と、契約書レビューAIで拾いやすい部分を対応させました。

契約類型主な論点AIレビューで拾いやすい点
工場・倉庫の賃貸借契約期間と登記、更新条件、原状回復契約期間の抽出、登記条項の有無、更新に関する定めの欠落
サプライヤーとの購買契約検収、品質保証、賠償上限、不可抗力検収期間の欠落、賠償上限の不記載、不可抗力の対象事由
外注加工の委託契約支給材の所有権、不良の負担、再委託所有権条項の有無、再委託の可否に関する定め
設備の納入契約納期、据付と試運転、遅延の責任期日の抽出、遅延損害金条項の有無
役務提供契約個人情報の取り扱い、再委託、契約終了時の処理個人情報条項の有無、データ削除義務の欠落
本社との技術支援契約対価の算定根拠、知的財産の帰属知的財産条項の有無、対価算定方法の記載

この表を見ると、AIレビューが拾えるのは「ある/ない」と「何が書いてあるか」の水準であることがわかります。裏を返せば、その水準の確認を機械に任せられれば、人は「この条件を飲んでよいか」という判断に時間を使えます。契約審査AIツールの価値は、判断を代替することではなく、判断に至るまでの下ごしらえを引き受けることにあります。

AI契約書レビューの導入をどう進めるか

導入の進め方を、実務的な順序で整理します。

第一に、対象範囲を絞ることです。 全社の全契約をいきなり対象にすると、運用ルールの設計だけで止まります。タイの拠点であれば、まずは購買契約と役務提供契約という、本数が多く定型性が高い領域から始めるのが現実的です。賃貸借契約やBOI関連契約は、本数は少ないが個別性と金額インパクトが大きいので、AIの一次確認に加えて必ず人が精査する類型として、最初から別扱いにします。

第二に、既存契約の棚卸しをすることです。 導入の効果がもっとも早く出るのは、新規の契約審査よりも、締結済み契約の総点検です。どこに何本の契約があり、いつ更新期限が来るのか、個人情報条項が入っているのかを一覧にする。この作業自体に価値があり、同時に、ツールが自社の契約をどれだけ読めるのかを測る試験にもなります。

第三に、自社の基準を明文化することです。 コンプライアンスチェック機能を使うには、何が逸脱なのかという基準が要ります。準拠法をどうするか、紛争解決は裁判か仲裁か、賠償の上限をどう置くか。これまで担当者の経験で判断してきたことを、文書にする作業です。ツール導入をきっかけに社内基準を整備できるなら、それ自体が成果です。

第四に、人と機械の分担を決めることです。 AIの指摘をそのまま相手方に送ることはできません。指摘を受けて、どれを交渉のテーブルに載せ、どれを飲むかを決めるのは人です。誰がその判断をするのか、金額や類型によって承認者が変わるのか。この線引きを先に決めておかないと、AIが出した大量の指摘の前で作業が止まります。

第五に、外部の専門家との役割を再設計することです。 AIを入れたから弁護士が不要になるのではなく、弁護士に相談する内容が変わります。条項の有無や形式的な不備は機械が拾うので、専門家には「タイ法のもとでこの条件が有効か」「BOIの条件と矛盾しないか」といった、判断を要する論点を集中して聞けるようになります。費用を減らすことより、同じ費用でより重要な論点を見てもらえるようになることが本質的な効果です。

導入時に注意したい三つの落とし穴

ひとつ目は、タイ語対応への期待過剰です。日本の契約審査AIツールの多くは日本語と英語を前提にしており、タイ語の契約書をそのまま高精度で読めるとは限りません。タイ語の原本が正本である契約について、AIのレビュー結果だけで判断するのは危険です。運用としては、英語版でAIレビューを行い、タイ語の原本との一致は別途確認するという二段構えになります。

ふたつ目は、機密情報の取り扱いです。契約書には取引価格、供給条件、技術情報といった、外に出てはいけない情報が詰まっています。入力したデータが学習に使われないか、どこのサーバーに保存されるか、タイのPDPAの観点で問題がないかを、導入前に確認する必要があります。汎用のチャット型AIに契約書を貼りつける運用が広まっている企業ほど、この点の整理を先にすべきです。

みっつ目は、AIの出力を最終判断にしてしまうことです。契約書レビューAIは指摘を出しますが、その指摘が正しいかどうかは保証されません。指摘が出なかったから問題がない、とも言えません。あくまで一次スクリーニングであり、最終的な責任は契約を締結する側にあります。この前提を運用ルールに明記しておかないと、後から責任の所在が曖昧になります。

よくある質問

契約書レビューAIの費用はどのくらいかかりますか

製品によって価格体系が大きく異なるため、一律の相場を示すことはできません。契約書の本数に応じた従量課金、利用者数に応じたライセンス、機能単位のオプションといった組み立てがあり、契約書作成支援や電子契約と一体になった製品では、レビュー機能単独の価格が示されないこともあります。比較の際は、金額そのものより、想定する年間の契約本数で試算したときにどうなるか、海外拠点からの利用が追加費用になるかを各社に確認することをおすすめします。

契約書レビューAIは日本語以外の契約書にも対応できますか

英文契約への対応は、この領域の製品に共通して挙げられる主要機能のひとつです。したがって英語の契約書については、多くの製品が扱えると考えてよいでしょう。一方でタイ語やベトナム語といった言語については、対応の有無と精度が製品ごとに大きく異なります。タイの拠点で使う前提なら、対応言語を最初に確認し、タイ語の原本については人による確認を残す運用を組んでおくのが安全です。

契約書のAIチェックは弁護士によるレビューの代わりになりますか

代わりにはなりません。AIが得意なのは、条項の有無や形式的な不備の抽出、複数の契約を横断した検索、版と版の差分の提示といった作業です。タイ法のもとでその条項が有効か、BOIの条件や現地の規制と矛盾しないかといった判断は、専門家の領域です。実務的には、AIで一次スクリーニングをかけ、そこで浮かんだ論点を専門家に集中して相談するという組み合わせが、費用と品質の両面で合理的です。

契約審査AIツールを選ぶときの比較ポイントは何ですか

本記事の比較表で示した通り、対応言語、契約類型の網羅性、準拠法の前提、情報の取り扱い、保管と検索、承認の記録の六点が基本の軸です。海外拠点で使う場合は、このうち「準拠法の前提」と「情報の取り扱い」の重みが日本国内よりも大きくなります。日本法を前提に組まれた基準がタイ法準拠の契約にどこまで通用するか、入力した契約書がどこに保存されるかは、トライアルの段階で自社の実物の契約書を使って確かめてください。

AI契約書レビューの導入にはどのくらいの期間が必要ですか

期間は対象範囲の広さで決まります。特定の契約類型に絞り、既存契約の棚卸しから始めるなら、トライアルと運用ルールの整備を並行して進められます。逆に、社内の契約基準がまったく文書化されていない状態から始める場合は、基準づくりの工数が支配的になります。ツールの設定作業よりも、自社の判断基準を言語化する作業のほうが時間を要する、と考えておくと見積もりを外しにくくなります。

まとめ

タイで工場を運営する日系企業の契約実務は、日本本社とは前提が違います。日本語・タイ語・英語が混在し、契約類型は取引基本契約にとどまらず、賃貸借やBOI関連にまで広がり、それを見る人員は限られています。この構造のもとでは、すべての契約を人が精読するという方針そのものが成り立ちません。

契約書レビューAIは、この状況に対して、条項の有無や差分といった機械的な確認を引き受ける道具です。企業法務における生成AIの活用業務として「契約書のレビュー・作成支援」が最多の44%を占めているという調査結果は、この使い方が実務で選ばれていることを示しています。ただし、汎用のチャット型AIは条項の抜け漏れ検出などで専用ツールに劣るとされており、何を使うかの選択は結果を左右します。

そして、タイに固有の論点は機械だけでは閉じません。民商法典第538条による3年の制約と、3年を超える賃貸契約額のみが対象となるBOIの投資額算定は、契約書の一条項を読むだけでは見えない関係にあります。抽出は機械に任せ、判断は人が持つ。この線引きを最初に決めることが、導入を成功させる条件です。

自社の契約をどこから整理すべきか、どのツールが拠点の実情に合うのかは、契約の本数や類型によって変わります。TOMAS TECHでは、タイに拠点を持つ日系製造業のバックオフィス業務のデジタル化について、導入前の整理段階からご相談を承っています。まだ検討を始めたばかりで構いませんので、現状を伺うところからでもお気軽にお問い合わせはこちらよりご連絡ください。

参考情報