工場 Wi-Fi サイトサーベイの導入を検討するとき、最初に決めるべきことは測定器の機種でもアクセスポイント(AP)の台数でもありません。「どの端末が、どの場所を、どの作業状態で移動し、通信が失われると何が止まるか」を業務の言葉で定義することです。ハンディ端末がラックの間で再接続を繰り返す、AGVがシャッター付近で停止する、設備の稼働データが溶接中だけ欠ける。これらを一枚の電波強度マップだけで合格と判定すると、施工後の手戻りが発生します。本稿はタイの稼働中工場を想定し、予測・現地・稼働後の調査をどう発注し、何を測り、誰がどの証跡で受け入れるかを実務順に整理します。
工場の電波調査は「AP配置図」では終わらない
工場の無線LANは、金属の生産設備、製品を積んだラック、液体の入った容器、シャッター、稼働する搬送車によって電波の見え方が変わります。同じ通路でも、空棚の状態と満載の状態で測定結果が異なり得ます。電波が届くことと、業務アプリケーションが途切れずに使えることも別の判定です。Ciscoの工場向けCURWB(Ultra Reliable Wireless Backhaul)設計資料は、詳細な平面図、金属物、障害物、車両の台数と速度、電源・バックボーン、周波数スペクトラム、アクティブサーベイを設計入力として挙げています。CURWBは通常のWi-Fi WLANとは異なる方式ですが、工場の現地調査で確認する物理条件と移動経路を考える参考になります。Cisco CURWB Factory Design
HPE ArubaのRF設計ガイドも、製造現場のように複雑な環境では、現場のWi-Fi信号とWi-Fi以外の干渉を実測する物理的なサイトサーベイが、AP設計の精度を高めると説明しています。HPE Aruba RF Design したがって、発注書の成果物を「ヒートマップ提出」とだけ書くのは不十分です。業務経路、端末別の通信、干渉、ローミング、修正後の再測定、完成図書まで含む範囲を指定します。
このページはサーベイの実行と受入に焦点を当てています。AP・有線基盤・OT/IT境界を含む全体の構築方針は、既公開の工場無線LAN構築の設計・RFP・受入ガイドを参照してください。構築費用と産業用ネットワークの範囲は工場の無線LAN構築ガイドにまとめています。有線側に症状がある場合の切り分けにはPROFINETネットワーク診断ガイドも参考になります。
まず用途別に「途切れると困る場所」を描く
サイトサーベイの対象範囲は、建屋の床面積から機械的に決めません。運用担当者と現場を歩き、ハンディで読み取る場所、タブレットで確認・承認する場所、AGV・AMRが旋回または停止する場所、設備データを送る端末の位置を平面図に重ねます。倉庫から生産棟へ抜ける渡り廊下、シャッターの前後、ラック列の端、充電場所、交差点、搬入口、屋外との境目は、平均値で埋もれやすいので別の測定区間にします。
用途を端末・動線・停止影響まで分ける
端末名だけの一覧では試験計画になりません。例えば「ハンディ端末」は機種、無線仕様、使用する帯域、認証方式、アプリの再送・オフライン動作、持ち方や置き方で体験が変わります。「AGV」は速度、走行方向、停止と再発進、搭載無線機、アクセスポイント間の切替、通信断時の安全側動作を確認します。センサーやゲートウェイは固定設置でも、機械の運転モードや隣接ラインの稼働によって妨害条件が変わります。端末ベンダーとアプリ担当者に、この入力を確認してから調査を始めます。
用途ごとの要件シートには、最低限、端末の型式とソフトウェア版、ネットワーク接続方法、実際の業務トランザクション、移動経路、同時稼働の時間帯、通信断時の挙動、合否を判断する担当者を記録します。値を決める場合は、機器メーカーの仕様と業務側の許容時間を根拠にして、対象端末ごとに設定します。別の工場や音声通話向けに公表されたRSSI・SNRの目安を、AGVやスキャナーの一律の受入値に転用しないことが重要です。
平面図に「環境の変化」を残す
図面には寸法と天井高だけでなく、ラック高さ、金属設備、液体タンク、移動棚、開閉するシャッター、増設予定の設備、APを取り付けられる場所、PoE給電と有線の引込位置を示します。既設APの位置、帯域、チャネル、出力、アンテナ方向、接続スイッチも可能なら記録します。図面と現物が違う箇所は現物を優先し、差異一覧にします。測定時に「ライン停止中」「満載」「シャッター開」などの運転状態を残しておけば、後日発生した障害を当時の条件と比較できます。

予測・パッシブ・アクティブをどう組み合わせるか
Ciscoのサイトサーベイガイドは、予測、パッシブ、アクティブの三方式を区別しています。予測は図面と材料の入力からAP配置を見積もる方法であり、現地の測定そのものではありません。パッシブは端末がAPに接続せずビーコンなどを受信し、周囲の電波分布を見ます。アクティブは端末がAPに接続し、送受信や再送、接続先の切替を観察します。Cisco Site Survey Guidelines
予測サーベイは設計仮説を作る段階
新棟の図面しかない段階でも、候補AP位置、アンテナ、給電・配線、調査対象の動線を計画できます。ただし、遮蔽物の材質や実際の設備配置が変われば結果は変わります。HPE Arubaは予測ヒートマップとAP配置図を予測調査の典型的成果物に挙げていますが、製造フロアでは物理的な現地調査が必要になる場合を明示しています。HPE Aruba Wireless Survey 予測図は発注の起点として扱い、完成後の受入証明にはしません。
パッシブサーベイは分布・混雑・干渉の観察
既設APと周辺無線の電波を歩きながら記録し、カバレッジの穴、同一チャネルの重なり、予期しない送信源、候補設置場所を調べます。ただしパッシブ方式は受信した信号を主に見るため、実端末が上り方向へ送れるか、業務データが何回再送されたかを直接証明できません。Ciscoはパッシブ方式だけでは上り情報や再送を失うと説明しています。干渉源はWi-FiのAP一覧だけに限らないため、必要に応じてスペクトラム解析も含めます。Cisco Site Survey Guidelines
アクティブサーベイは実端末で業務を再現
完成後の主要な判定には、実際に使う端末を対象SSIDへ接続し、所定の動線で送受信、再送、遅延、切替、アプリケーションの継続を記録します。測定用ノートPCだけでは、ハンディやAGV車載機のアンテナ・ドライバー・省電力動作を代表できません。HPE Arubaの導入ガイドも対象となるエンドユーザー端末での調査・試験・検証を勧めています。HPE Aruba Planning and Deployment 端末の型式が複数ある場合は、代表端末を選んだ理由と未測定機種を報告書に残します。
工場 Wi-Fi 電波調査の実施計画を作る
発注前に「誰が」「いつ」「どこを」「何を使って」測るかを一枚の計画にします。現場の立入許可、安全教育、撮影許可、停止できない工程への配慮は、測定器の準備と同じくらい重要です。測定者は施工担当だけでなく、現場の工程責任者、OT/IT担当、端末担当と短時間でも事前の歩行確認を行うと、図面にない遮蔽物やピーク稼働の時間帯を把握できます。
測定時点を三つに分ける
第一は施工前です。既設環境を把握し、予測モデルの入力を補正します。第二は仮設APまたは本設予定位置での設計確認です。設置高さ、アンテナ角度、配線可能性を現物で照合します。第三は施工後の受入調査です。運用時と同じSSID・認証・チャネル・出力・端末を用い、合否判定を行います。調査時点ごとの設定が混ざると、施工前後を比較できません。設定の写しと採取日時を必ず付けます。
区間と状態を掛け合わせる
各動線を「通常直進」「曲がり角」「シャッター通過」「交差点」「停止・再発進」などに分け、必要な業務状態で繰り返します。生産を止めない範囲で、設備停止中と稼働中、空棚と満載、搬送車が少ない時と多い時を区別します。すべての組み合わせを機械的に試す必要はありません。過去の障害、工程の重要度、変動の大きさで優先順位を決め、測っていない状態を明記します。成功例だけを抜き出す報告書を避けるため、失敗イベントにも場所・時刻・端末・設定・再現手順を記録します。
生データと業務ログを同じ時刻で残す
受入時にはヒートマップの画像だけでなく、測定点と歩行・走行経路、接続したAP、信号・雑音、チャネル利用、再送、ローミングイベント、アプリログ、端末ログを照合できる形式で残します。時刻同期がずれていると「曲がり角でアプリが止まった」という事象と無線イベントを結び付けられません。ログ取得の範囲と個人情報・生産情報の扱いは、工場の規則に合わせて事前に決めます。ツールごとに取れない項目もあるため、発注時に取得可能な項目と代替証跡を確認します。
「問題がなかった時間」も測定条件と一緒に残す
障害が出なかった記録にも意味があります。ただし「正常だった」という一文だけでは、後日同じ条件を再現できません。何曜日のどの時間帯か、隣接ラインが動いていたか、棚がどの程度埋まっていたか、扉が開いていたか、同時に何種類の端末が使われていたかを記録します。電波環境には時間による変化があるため、昼休みの短い測定だけで夜勤や搬送ピークを代表させる場合は、その制約を受入表に記載します。夜間測定が必要かどうかは、過去の障害の時間帯と工程への影響から判断します。
現場で一度しか入れない場所では、再測定できないリスクも考えます。測定点の位置を図面上の座標と現場写真で紐付け、測定者が変わっても同じ経路を歩けるようにします。写真に機密設備や作業者が写る場合は、撮影可否と保管先を決めます。位置の特定に写真が使えない場合は、柱番号、設備番号、ラック列など現場の識別子を使います。ここまで決めると、導入時だけでなく保守時の再調査にも同じ計画を利用できます。
調査会社へ渡す障害履歴は、問い合わせメールの件名だけではなく、発生した業務操作まで書き出します。「電波が弱い」という報告は、実際には認証失敗、スイッチの給電不安定、アプリのタイムアウトなど別の現象を指している場合があります。現場の申告を否定する必要はありません。まず申告された時刻と場所を基準にログを集め、どの段階で通信が止まったのかを分類します。無線以外の原因が見つかった場合も、サーベイの報告に切り分け結果を残せば、APの不要な増設を避けられます。既設システムを止められない工場ほど、変更の前に証拠を集める手順が重要です。
測定の途中で業務に影響が出たときの中止条件も事前に決めます。仮設APの電波が既設網へ干渉する可能性や、試験用の認証設定が本番端末へ作用する可能性を確認し、誰が試験を止めて元の設定へ戻すかを明確にします。変更前の設定を保存し、復旧に必要な担当者が現場にいる時間帯で実施します。調査そのものが生産障害の原因にならないよう、試験環境と本番環境の境界を管理するためです。
ヒートマップの見栄えを合否と取り違えない
色のついたマップは関係者に説明しやすい一方、測定点の少ない領域が補間によって滑らかに見える場合があります。提出図には採取点と歩行経路、未測定の区画、対象帯域、描画条件を併記します。通路の中心だけで測った結果を、ラックの中や設備の裏側まで保証する図として扱わないようにします。現場の合否会議では、緑色の面積よりも、重要な業務操作を実施した測定点と、例外が残る位置を確認します。ベンダーの報告ソフトが出す「合格」表示も、発注者が定めた用途別条件と一致するかを見てから採用します。
AGV Wi-Fi ローミング試験で静止測定を補う
AGVやAMRでは、静止した一点の電波強度だけでは運用できるかを判断できません。車体の金属、荷物、搭載アンテナの位置、旋回、停車後の再発進、車速によって、AP候補の見え方と切替タイミングが変わります。Ciscoの工場向けCURWB資料は、車両の種類・速度、ローミング要件、金属物、干渉、アクティブ調査を調べるよう求めています。これはCURWBの設計指針であり、Wi-Fi WLANの性能保証値ではありません。ここでは移動体の調査項目を考える類例として参照しています。Cisco CURWB Factory Design
実車・実ルート・実アプリで試す
試験車両は現場で使用する無線機とアンテナを搭載し、通常速度だけでなく停止・発進・旋回を再現します。ルート上の交差点、棚の端、扉の前後で、端末がどのAPからどのAPへ移ったか、業務セッションが継続したかを一緒に見る必要があります。ハンディでは、バーコード読取後の送信、連続スキャン、画面遷移、休止から復帰した直後を確認します。実端末での試験が発注範囲外なら、誰が別途実施し、どの証跡を提出するかを明記します。
無線だけでなくアプリの回復も確認
ローミング後にAP接続が維持されたとしても、アプリがタイムアウトし二重登録や欠落を生めば業務上は失敗です。許容される停止時間、再試行、バッファ、重複防止、警報、安全停止は、制御・搬送・ITの担当者が用途別に決めます。無線設計の受入表と、AGV制御やアプリケーションの受入表を対応付けるのが有効です。安全関連の通信は専用のリスク評価とシステム設計の対象であり、Wi-Fiの一般的な品質指標だけで安全性を認定しません。
端末の責任範囲とAPの責任範囲を分けて見る
ローミングのきっかけと相手APの選択は端末側の実装・設定にも左右されます。APを増やしただけで望む場所へ必ず切り替わるとは言えません。試験では、AP設定と端末設定の両方を記録し、切替が遅いときは「電波が弱いからAPを追加」と短絡せず、端末がどの候補を認識していたか、認証が繰り返されたか、チャネルと出力の重なりが適切かを切り分けます。改善策は、アンテナ位置、チャネル・出力、端末設定、アプリの再接続動作など複数あり得ます。変更のたびに同じルートで再走行し、隣のルートが悪化していないかも確かめます。
制御系や搬送系の通信要件が厳しい場合には、Wi-Fiが必ず適切な方式だと前提しません。必要な稼働率、動線、フェイルセーフ動作をもとに、対象システムに合う通信方式を設計段階で評価します。ただし、通信方式を比較する前にも現地の遮蔽・干渉・設置制約を把握する価値があります。調査の目的は特定機器の採用を正当化することではなく、運用条件に対して成立する設計を選べるようにすることです。

工場 無線LAN 受入基準をどう定義するか
「全域でつながる」は合否の文として曖昧です。図面上のどの範囲、どの端末、どの稼働条件、どの業務操作について、何を測り、誰が判断するかに分解します。受入基準は契約後に測定結果を見て決めるのではなく、発注時点に暫定版を入れ、現場調査で変更する手順と承認者を定めます。値を設定する際は端末仕様、用途の要求、現地の予備測定を根拠にします。
RF・端末・業務を三層で判定
RF層では対象範囲の電波分布、干渉、チャネルと出力の設定、APの設置位置を確認します。端末層では対象機種の接続、上りと下り、再送、AP切替、再認証、切断・復帰を見ます。業務層では実際のスキャン、搬送指示、設備データ送信が所定の条件で完了するかを見ます。一層が合格でも他の層を代用しないことが大切です。問題が出た区間は原因仮説、設定変更、再試験結果を一組にして残します。
受入表の一行をどう書くか
例えば「完成品倉庫のラック列から出荷口までハンディで連続スキャンする」という用途なら、まず始点と終点、通過する棚列、シャッターの開閉、端末の型式とアプリ版を記入します。次に、読み取るバーコードの種類、送信先、送信後に画面へ返る確認、通信が切れたときの再試行を定義します。測定側には、歩いた経路、接続先APの変化、無線ログとアプリログの取得方法、失敗時のスクリーンショットや時刻を記入します。最後に、業務責任者がどの結果を見て合格とするかを記入します。この一行が書けない場合、測定者は何を測っても判断に迷い、発注者も報告書を受け取ってから合否を決めることになります。
AGVなら同じ表の「端末」を車載無線機と制御アプリへ置き換え、動線を通常走行、交差点の減速、荷物を積んで旋回、停車から再発進という区間へ分けます。通信が一時的に失われた場合の車両の動作、指示の再取得、二重実行の防止、安全側への移行は、搬送設備メーカーと工場側の責任者が試験前に合意します。合否は無線機の接続画面だけで判断せず、実際の搬送指示が正しく完了した記録と合わせます。車両が複数機種あるなら、代表機種の選定理由と残りの機種をいつ確認するかを同じ表に残します。
受入表は長い仕様書の代わりではなく、仕様書に書いた要求を現場の一つの行動へ結び付ける索引です。重要な業務ごとに作り、施工会社だけでなく業務部門が読み返せる表現にします。測定値が基準を満たしていても、バーコードが送れていなければ業務層は不合格です。逆に一回だけ送れたことを根拠に、全動線や別シフトを合格へ広げることもできません。どの条件を実際に試したのかを限定して記録することが、無線担当と現場担当の認識を揃えます。
試験当日に受入担当者が不在だと、測定者が後から状況を説明するだけの会議になりがちです。主要な経路では現場責任者が立ち会い、画面に何が表示され、作業者がどう判断したかをその場で確認します。安全上または生産上の理由で立会いが難しい場合は、事前に代理者と採取する証跡を決めます。判定保留を許すなら、何が揃えば判定できるか、誰がいつ再確認するかを一緒に記録します。合否に迷った項目を口頭のまま残さないことが、SATの後に本番運用を始める際の条件整理につながります。
また、測定機器と端末の時刻、図面の版、AP設定の版を受入表へ関連付けます。工事の途中でAPの位置や設定が変わった場合、旧版のヒートマップだけを最終報告に残してはいけません。変更日以降の対象区間を再測定し、旧版を参考記録として区別します。これにより、障害時に参照する完成図書が一つに定まり、工場側の保全担当が「どの設定が実際に動いているのか」を調べ直す負担が減ります。複数の施工会社が参加する場合にも、版の管理は責任分界の共通の土台になります。
受入後の変更管理も、同じ表の延長で考えられます。ラックの増設、シャッターの交換、AGVの機種変更、端末のOS更新、APのファームウェア更新は、いずれも再確認のきっかけになり得ます。ただし、すべての変更で工場全体を測り直す必要があるわけではありません。変更が影響する動線と端末を絞り、完成時の基準線と比較し、問題がなければ変更履歴として残します。影響範囲が分からないときにだけ、調査範囲を広げます。この運用を保全手順に含めておくと、サイトサーベイが導入時の一度きりの報告書で終わらず、工場の変化に追随する判断材料になります。
合否表には「測定不能」も列を用意
生産の都合で走行できないルート、未納の端末、まだ設置されていないラックがあれば、未検証として記録します。未検証を自動的に合格へ繰り入れると、稼働後の責任が曖昧になります。代替試験を行うなら、なぜ代替可能としたかを記録し、実条件での追試日と担当者を決めます。受入表は、区間、条件、端末、測定方法、合否、例外、残課題、再試験日、承認者を持たせると現場で使いやすくなります。
変更後の基準線を保存する
運用開始後にラックやラインを移設すると、無線環境も変わります。完成時のヒートマップ、AP位置、アンテナ方向、チャネル、出力、ファームウェア、端末版、代表ルートの試験ログを一組の基準線として保管します。障害が起きたら、まずこの基準線との差分を確認します。設置したAPの台数よりも、後から比較できる測定記録が保守の負担を左右します。HPE Arubaの資料でも、予測図と現地測定の成果物を分け、現地では設置・配線の条件を記録する考え方が示されています。HPE Aruba Wireless Survey
工場 Wi-Fi RFP・FAT・SATにサーベイを落とし込む
調査会社や施工会社へのRFPには「電波調査一式」と書く代わりに、対象エリア、業務動線、端末、稼働条件、調査方式、提出データ、再測定条件、受入会議の参加者を記載します。発注者側が全数値を先に知っている必要はありません。ただし、測定で何を決めるかと、変更を誰が承認するかは先に決められます。既存工場では施工会社と端末・アプリの供給者が別のことが多いため、切り分けの窓口もRFPに含めます。
RFPに書くべき成果物
提出物は、最新版の平面図、現地確認と制約の記録、予測モデルの前提、パッシブ・アクティブの測定経路と生データ、干渉観察、AP・アンテナ・給電・有線接続の配置、チャネル・出力の完成設定、端末別ローミング試験、例外一覧、修正・再試験の記録、運用引継ぎ資料です。どのツールのファイルを提出するか、発注者が後から読める形式かも確認します。ベンダーの独自形式だけでは、次の改修時に比較できない場合があります。
FATとSATの役割を混ぜない
FATは工場出荷前または設置前に、設定テンプレート、SSID・認証、セグメント、監視、端末との基本接続を確認する場として使います。金属設備やシャッターによる実際の伝搬はFATでは証明できません。SATは実工場の設置状態で、RF測定、対象端末、動線、業務トランザクションを確認します。SATで見つかった不合格箇所を修正した場合は、修正した点だけでなく隣接区間の影響も再測定します。FAT/SATの名称に固定の測定項目があるわけではないので、契約で試験範囲を具体化することが重要です。
責任分界を実験可能な形にする
「Wi-Fi側の問題」「アプリ側の問題」と口頭で往復すると復旧が遅れます。無線、スイッチ・給電、認証、端末、アプリ、AGV制御の各担当者が取得できるログと一次切り分け手順を決めます。再現試験では時刻、場所、端末、SSID、AP、業務操作を共通のチケットに記録します。契約書には、受入までの設定変更を誰が行い、測定のやり直しを誰が負担し、残課題をどう閉じるかを明示します。技術的な品質だけでなく、問題が出たときに証拠で会話できる体制が必要です。
見積の比較は調査の深さを揃えて行う
同じ「サイトサーベイ」という名称でも、図面による予測だけ、完成後のパッシブ測定だけ、実端末を使うアクティブ試験まで含む提案では工数が異なります。見積額を比べる前に、対象面積だけでなく対象ルート、端末の種類、測定する稼働状態、夜間や休日の入場、報告書の言語、設置後の再測定回数を同じ条件に揃えます。低い価格が合理的な場合もありますが、受入に必要な走行試験が別契約なら総費用と日程は変わります。発注者が自社で担う作業も明確にします。端末の貸与、アプリのテスト環境、AGV走行の立会い、現場の安全管理を施工会社に暗黙に期待すると、調査当日に進められません。
提案書を評価するときは、測定器の名称よりも、失敗が出たときの再現と修正の進め方を確認します。例えばシャッター前で切断した場合、どのログを取り、誰が設定変更を提案し、変更前後をどう比較するかを説明してもらいます。報告書のサンプルに生データ、未測定区間、例外一覧があるかも確認します。予測図だけが美しい提案より、現場で判断できる証跡を残す提案のほうが、稼働後の改善につなげやすくなります。
受入会議で決めることを先に決める
最終会議では報告書を受け取るだけで終わらせず、合格した範囲、条件付きで使う範囲、未検証の範囲を図面上で確定します。不合格の区間には是正担当と期限、再測定の方法を付けます。業務側が代替手順で一時運用を認める場合は、その範囲と終了条件を明文化します。AP配置や設定を変えた場合の最新版の完成図書を誰が保管し、保全・IT・搬送担当のどこまで配布するかも決めます。これにより、次の設備増設で同じ議論を最初からやり直す必要が減ります。

タイ工場で実施する際の現場調整
タイの稼働中工場では、調査日程を製造計画、物流ピーク、保全停止、入退場手続きに合わせます。測定者が設備の近くへ入れる時間が限られることもあるため、現場と調査会社が事前にルートを確認し、必要な保護具や同行者を揃えます。高所のAP位置や盤内の給電を確認する作業は、工場の安全手順に従います。対象が屋外の搬送路や複数棟に広がるなら、図面の境界を越える通信と有線バックボーンも調査範囲に含めます。
報告書の言語も早期に決めます。現地の施工・保全部門が使えるタイ語の運用図と、日本側または地域統括が承認できる要約を組み合わせると、設定値と引継ぎ責任が伝わりやすくなります。受入会議ではヒートマップの色より、未測定区間、不合格区間、業務試験の結果、次の変更担当を先に確認します。周波数帯や無線機器の型式認証は導入時点のタイ当局の条件を調達担当者が確認し、測定計画も実際に使用できる構成に合わせます。本稿は特定周波数の利用を一律に保証するものではありません。
よくある質問
工場 Wi-Fi 電波調査は予測図だけで十分ですか?
新設前の配置検討には予測図が有用ですが、工場の金属設備、実際のラック、非Wi-Fi干渉、端末のローミングを完成前に実証するものではありません。施工前の現地確認と、施工後のパッシブ・アクティブ調査、実端末の業務試験を計画してください。どこまで必要かは用途の停止影響で決めます。
AGV Wi-Fi ローミング試験は歩行測定で代用できますか?
歩行測定は不良区間を見つける手掛かりになりますが、実車の速度、車体による遮蔽、アンテナ位置、制御アプリの再送・停止動作まで代表するとは限りません。最終受入には実車・実ルート・実アプリでの試験を含め、未実施なら未検証と明記します。
工場 無線LAN 受入基準の数値は何を使えばよいですか?
一律のRSSIや遅延値を先にコピーしないでください。端末メーカーの仕様、アプリの許容時間、業務停止の影響、予備測定の結果から用途ごとに決めます。数値に加えて、測定端末、稼働状態、経路、測定方法、失敗時の扱いを同じ表に入れることが重要です。
RFPでサーベイ会社に何を渡すべきですか?
現行の平面図と改修予定、主要な業務動線、端末一覧、既設AP・スイッチ情報、障害履歴、立入・安全上の制約を渡します。受け取る側の成果物として、測定経路、生データ、設定、業務試験、例外、再試験の証跡を指定します。情報が未確定なら、その確認作業と承認期限をRFPに入れます。
FATが合格ならSATの電波測定は省略できますか?
省略できません。FATは設定・基本接続の確認に向きますが、工場に設置して初めて現れる遮蔽・反射・干渉・移動端末の挙動はSATで確かめます。SATの対象ルートと業務試験を契約で明確にしてください。
まとめ
工場 Wi-Fi サイトサーベイの導入は、ヒートマップを買う仕事ではなく、現場の通信要件を測定可能な受入条件へ変える仕事です。用途と重要動線を先に定義し、予測・パッシブ・アクティブを役割に応じて組み合わせ、AGVやハンディの実端末で業務継続を確認します。RFPでは生データと再試験まで指定し、FATで設定、SATで実工場の通信を検証します。最後に完成時の設定とログを基準線として残せば、設備変更後の不具合にも根拠を持って対応できます。
タイ工場の無線LANについて、まだAP機種や予算が固まっていない段階でも、調査範囲、重要ルート、端末別の受入項目を一緒に整理できます。サイトサーベイの発注準備や既設環境の再調査をご検討なら、TOMAS TECHへのお問い合わせから現場の状況をお知らせください。