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2026.10.09

ボイラー遠隔監視の導入|タイ工場の計測点・法令・RFP

ボイラー遠隔監視の導入|タイ工場の計測点・法令・RFP

「ボイラーが止まってから、現場の電話で初めて知る」「燃料の請求書を見て、先月より多いことに気づく」「日本の本社から、ボイラー室の状態を見られない」。タイで蒸気ボイラーや熱媒ボイラーを使う工場から、ボイラー遠隔監視の導入について相談を受けると、たいていこの3つのどれかが出発点になっています。バンコク近郊、アユタヤ、チョンブリー、ラヨーン、サムットプラーカーンの食品・飲料、化学、ゴム・樹脂、繊維・染色、自動車部品の塗装・洗浄ラインなど、蒸気を多く使う日系工場では珍しくない話です。

この記事は、そうした工場の工場長、設備・ユーティリティ担当、日本本社の生産技術・設備管理部門に向けて、ボイラーの遠隔監視を「何を測り、どうつなぎ、法令上どこに注意し、いくらかかり、どう発注・検収するか」を整理した実務ガイドです。

この記事の主張は一つです。ボイラーの遠隔監視が成功するかどうかは、「画面で状態が見えること」ではなく、次の3つを先に決めたかどうかで決まります。

  • ①人と法令の境界:タイの労働省省令が求める制御者の配置、年1回の安全試験、記録は、遠隔監視を入れても工場の義務として残る。遠隔監視は「現場の制御者を補う道具」として設計する
  • ②効率を決める3つの数字:排ガスO2(空気過剰率)、排ガス温度、ブロー率。これを連続で取れない監視は「止まった/動いた」しか分からない
  • ③安全回路に触らない接続:バーナー管理(BMS)や燃焼安全回路のデータは、メーカーが用意した表示器やゲートウェイ経由で読み取るだけにし、遠隔からは操作しない。外部接続はいつでも遮断できるようにする

そのうえで、計測点を「法令・記録」「効率」「停止予兆」の3層に分けて、RFP(提案依頼書)とFAT/SAT(工場出荷試験/現地受入試験)に落とし込む。これが、この記事で提案する進め方です。

なお、この記事は特定の製品やサービスを推奨したり、ランキングを付けたりするものではありません。法務・税務のアドバイスでもありません。法令の条文は改正されることがあるため、最新の内容は工場局(DIW)と労働保護福祉局(กสร.)で確認してください。試算の金額・時間・回数は、すべてこの記事のために置いた仮の数字です。

なぜ今、ボイラーの遠隔監視を検討するのか

生産は伸び、蒸気の負荷も動く

タイの製造業の直近の数字は、生産が増えていることを示しています。ロイターの報道によると、タイ工業省の製造業生産指数(MPI)は2026年8月に前年同月比+4.44%で、ロイター調査の市場予想+1.0%を上回りました。ただし工業省はこのとき、新しい電子製品を加えウエイトを変えるなど算出方法を改定しており、旧系列とは単純に比べられない点に注意が必要です。工業省は2026年のMPI成長見通しを2.75〜3.55%に引き上げています。S&P GlobalのタイManufacturing PMIも、2026年9月に54.3(8月は53.8)と、2025年12月以来の高い水準でした。

生産が増えると、ボイラーにかかる蒸気負荷も変わります。常用1台で回していた工場が予備機を動かす時間が増えたり、負荷が日中と夜間で大きく振れたりします。負荷が変わると燃焼の状態も変わるので、「設置時に調整した状態のまま」で効率よく燃えているかは、測らないと分かりません。

エネルギーの価格は「据え置き」の中身を見る

電気料金は据え置かれました。エネルギー規制委員会(ERC)は、2026年9〜12月期の平均電気料金を3.95バーツ/kWh(VAT別)に据え置くと決めています。ただし、これは電力公社の超過利益の返還分(Claw back)約16,127百万バーツを充てて、Ftを引き下げた結果です。決定前に示された4案の中には、平均4.73バーツ/kWh(+20%)の案もありました。4案を伝えた報道では、LNGのスポット価格の前提を17.6ドル/MMBTUに下げたこと、発電公社(EGAT)が立て替えている累積負担が31,268百万バーツあること、中東情勢などが変動要因であることも示されています。

工業向けの燃料(天然ガス、LPG、重油)の2026年の価格は、この記事では一次情報を確認できなかったため書きません。ただ、FTI(タイ工業連盟)は2026年8月の産業景況感指数(89.70)の下押し要因の一つに、エネルギー・石化原料価格の高止まりを挙げています。燃料費の比率が高いボイラーでは、効率が1ポイント違うだけで年間の燃料費が大きく変わります。その1ポイントを見える形にするのが、遠隔監視の大事な役割です。

省エネの制度と資金

省エネ法の「指定工場」は、受電設備容量1,000kW超、変圧器容量1,175kVA超、年間エネルギー消費2,000万MJ超のいずれかに当たる工場で、エネルギー責任者の任命、エネルギー管理システムの運用、年次報告の提出が求められます(省エネルギーセンター〔ECCJ〕のアーカイブによる)。ボイラーを持つ工場も、規模によってはこの対象になり得ます。年次報告のための燃料・蒸気のデータを手で集めている工場では、遠隔監視のデータをそのまま使えるかどうかが、導入の効果の一つになります。

資金面では、国家エネルギー政策委員会が2025年10月、省エネ促進基金の2026〜2028会計年度の支出枠を総額15,000百万バーツ(初年度9,000百万バーツ)と承認しました。初年度の多くは公共向けですが、事業者・個人の省エネ改善向けの低利融資も挙げられています。ボイラー向けの個別メニューや補助率は、公表資料では確認できませんでした。利用を考える場合は、エネルギー省代替エネルギー開発・効率局(DEDE)の最新の募集を確認してください。

ボイラー遠隔監視とは:できること・できないこと

監視は「読む」、操作は「現場で」

この記事でいうボイラー遠隔監視は、ボイラーの運転データを離れた場所(工場の事務所、タイ国内の本部、日本の本社)から読み取り、記録し、異常を知らせる仕組みのことです。ボイラーを遠隔で起動・停止したり、設定値を変えたりする「遠隔操作」は含めません。

理由は二つあります。一つは安全です。ボイラーの燃焼安全回路は、失火や低水位のときに燃料を止めるための回路で、外から書き込める経路を増やすほど、誤操作や不正アクセスの入口が増えます。もう一つは法令です。後で説明するとおり、タイの法令は現場の制御者の配置を前提にしています。遠隔から操作する設計にすると、「誰がその操作の責任を持つのか」が法令上あいまいになります。

遠隔監視でできるのは、次のようなことです。

  • 運転・停止、トリップ(失火、低水位など)の発生を、発生時刻と一緒に知る
  • 蒸気量、燃料量、排ガスO2、排ガス温度、ブロー量の推移を見て、効率の悪化に早く気づく
  • 複数台・複数工場のボイラーを同じ形式で並べて比べる
  • 法令の記録や月次報告に使うデータを、手書きの転記なしでそろえる

逆に、遠隔監視だけではできないこともあります。水面計の目視、異音・異臭・漏れの確認、安全弁の作動確認、年1回の安全試験は、現場で人が行う作業です。

メーカー型と自社基盤型

ボイラーの監視システムを入れる方法は、大きく2つに分かれます。

一つは、ボイラーメーカーが提供する遠隔監視サービス(メーカー型)です。公開されている情報から、データの持ち方の違いを示す例を挙げます。これは推奨や比較評価ではありません。またタイでの提供条件や価格は、公開情報では確認できませんでした。

サービス(公開情報)接続・データの置き場所主な内容
三浦工業(米国法人)Miura Online Maintenanceボイラーの制御器から三浦の事務所へ、アナログ電話回線または携帯回線で通信月次レポート(蒸気出力履歴、故障履歴・診断、保守データ、スケールモニター値、燃料消費の推定値)、異常・警告の通知
Bosch Industrial MEC Remoteポータル経由で表示。運転データはボイラー側に保存し、クラウドには保存しない。外部接続はボイラー室のハードウェア鍵でオン/オフ運転状態の表示、複数拠点の一覧、技術者によるサービスアクセス
Bosch Industrial MEC Optimize全データを長期保存エネルギー消費増の検知、部品摩耗の予測、電子ボイラー日誌、SMS/メール通知
Cleaver-Brooks Boiler Monitor暗号化通信でクラウドへ一方向。クラウドからボイラーへの書込みなし運転サイクル、温度、異常をアプリ/ダッシュボードで表示、ロールベースのアクセス制御
Spirax Sarco CONNECTクラウドでデータ提供蒸気トラップの状態、復水の温度・汚染、給水温度、エネルギー消費などの監視(ボイラー本体の燃焼データ収集は明記なし)

表から分かるのは、「データをボイラー側に置くか、クラウドに置くか」「メーカーの技術者が遠隔から設定に入れるか、読み取り専用か」が、サービスによって違うということです。どちらが正しいということではなく、自社のセキュリティ方針と、データを誰のものとして扱うかに合わせて選ぶ必要があります。

もう一つは、電力・圧縮空気・水と同じ自社の監視基盤にボイラーのデータを入れる方法(自社基盤型)です。工場全体のユーティリティ監視として、ボイラーの燃料と蒸気を電力量と同じ時間軸で並べられるのが利点です。データを長期に持つ仕組みは、産業用ヒストリアン導入の記事で、エネルギー監視全体の発注の仕方は、タイ エネルギー監視 RFPの記事で扱っています。

実際には、メーカーの保守サービスは残しつつ、効率と停止予兆に必要なデータを自社基盤にも取り込む、という組み合わせが多くの工場で現実的です。その場合に大事なのは、同じデータを二つの経路で取るときに、どちらの値を正とするかを決めておくことです。

計測点を3つの層に分ける

ボイラー遠隔監視の導入|タイ工場の計測点・法令・RFP - figure 1

上の図は、ボイラーの計測点を3つの層に分けたものです。

  • 法令・記録層: 運転・停止、蒸気圧力、水位、給水・缶水の水質、トリップの履歴。制御者の記録や月次報告の元になるデータ
  • 効率層: 排ガスO2、排ガス温度、燃料流量、蒸気流量、給水量、ブロー量、缶水の導電率。燃料をどれだけ蒸気に変えているかを示すデータ
  • 停止予兆層: 失火・着火失敗の回数、低水位警報の回数、バーナーの起動・停止の回数、給水ポンプの運転状態、ブロワーの電流。止まる前に変化が出やすいデータ

「とりあえず全部つなぐ」と、法令・記録層だけが整い、効率層のセンサーが付いていない、ということがよく起こります。既設のボイラーには排ガスO2計や蒸気流量計が付いていないことが多いからです。3層に分けて、どの層のデータが今あり、どの層のデータを追加するのかを先に数えておくと、費用と効果の見積もりがぶれにくくなります。

タイの法令で押さえること

この章は、公開されている法令・資料を読んだ範囲の整理です。法務アドバイスではありません。条文の最新版と自社への当てはめは、DIWと労働保護福祉局(กสร.)、または専門家に確認してください。

労働省省令 B.E.2564(2021年)の要点

ボイラーの安全について、労働省は「機械・クレーン・ボイラーに関する安全衛生管理基準を定める省令 B.E.2564」を2021年に定めています。2021年8月6日に官報に掲載され、掲載後90日で施行されました。根拠法は労働安全衛生環境法 B.E.2554(2011年)で、旧省令 B.E.2552(2009年)は廃止されています。熱媒ボイラーも対象です。

省令の主な要求を、遠隔監視との関係で整理します。

項目省令の主な内容遠隔監視との関係
制御者の配置使用者はボイラー・熱媒ボイラーの制御者を置く。資格は工場法に基づく講習などの修了、または所定の科目を履修した高等職業証書遠隔監視を入れても配置義務は残る。通知先に制御者を必ず入れる
制御者の再訓練制御者は安全運転の講習を少なくとも2年に1回受講講習の期限を設備台帳で管理すると漏れにくい
使用の届出使用開始・使用廃止から30日以内に届け出る監視システムの台帳とボイラーの届出の台帳をそろえる
設置場所計器・付属機器を読み取り操作できる照明、非常照明、停電時にも見える制御盤など現場の計器が主。遠隔の画面は現場の計器の代わりではない
設置の監督ボイラー設置はエンジニアの監督下で行い、試験記録の写しを保管後付けセンサーの工事範囲を、設置時の記録と照らす
給水・缶水の水質工場法、ASME、JIS、EN、ISOなどに適合させる導電率の連続監視は水質管理の記録を補う
安全試験少なくとも年1回の安全試験を行い、試験後30日以内に労働安全監督官へ報告(熱媒ボイラーも同様)試験の予定と報告期限を通知の対象にできる

ここでいう「試験」は、OSH法に基づく登録者または許可法人が行う検査・試行・使用認証のことで、それらが整うまでの経過措置として、省令の定める「エンジニア」が行うとされています。また、第3章には、水量が非常に少ない小型ボイラーや、一定の条件の温水ボイラーなどの適用除外があります。自社のボイラーが対象かどうかは、まず確認しておきたい点です。

工場法側の規定との関係

この省令には、工場法(工業省)に基づくボイラーの安全基準を満たしていれば、省令の一部の条項(第105条、第107〜111条、第113〜115条、第117条)を守ったものとみなす、という規定(第106条)があります。つまり、工業省(DIW)の規定と労働省の規定が並び立ち、工場法側を守ることで労働省側の一部を満たす構造です。

工業省側には「ボイラー及び熱媒ボイラーの安全措置」に関する告示 B.E.2549(2006年)と、その改正版 B.E.2559(2016年)があり、関連してボイラー用水の性状や安全装置の告示もあります。ただし、この記事の調査では、DIWの告示の条文本文を取得できませんでした。制御者の職務や記録の様式など、工場法側の詳しい要件は、DIWの原本で確認することをお勧めします。

遠隔監視で制御者を代替できるか

ここが、ボイラー遠隔監視の導入で最も聞かれる点です。労働省省令の第3章を読んだ範囲では、「制御者が運転中つねに現場に立ち会う」という明文も、「遠隔監視で代替できる」という規定も見当たりませんでした。逆に「遠隔監視は認めない」という明文も確認できていません。現時点では、法令上明確ではない、というのが正確なところです。

一方で、省令は制御者の配置、制御者の定期的な講習、年1回の安全試験、現場の計器を読み取れる照明や停電時にも見える制御盤を求めています。現行の法令は、現場に制御者がいて、現場の計器で状態を確かめることを前提に組み立てられている、と読むのが自然です。

そのため、この記事では、遠隔監視を「現場の制御者を補う道具」として設計することをお勧めします。たとえば、異常の通知を制御者と当直責任者に同時に送る、制御者が見落としやすい夜間の傾向変化を本社の技術者も見られるようにする、といった使い方です。人員配置を変えることを考える場合は、事前にDIWと労働保護福祉局に確認してください。

この点が大事なのは、ボイラーの事故が実際に起きているからです。2014年8月17日、サムットプラーカーン県の染色工場でボイラーが爆発し、21人が負傷しました。警察は缶内の水不足を原因と推定しています。このとき労働保護福祉局は、法定講習を修了した制御者が配置されていたか、エンジニアによる年1回以上の安全試験が行われていたかを確認すると表明しました(当時の根拠は2009年の省令)。低水位を遠隔で知る仕組みは役に立ちますが、それは現場の制御者と現場の安全装置があってこその話です。

DIWのオンラインボイラー管理システム

DIWは、ボイラー・熱媒ボイラーの管理システム(safety-boiler.diw.go.th)を運用しています。公開されている利用者マニュアルによると、工場向けには、機器の登録、年次検査、一時停止・廃止、制御者の追加・取消、月次ボイラー報告の取込とフォームの取得といった機能があり、検査者が安全試験の結果を登録する機能もあります。このシステムは、DEDEとDIWのビッグデータ統合プロジェクトの一環とされています。

遠隔監視のデータを集めていても、月次報告を別に手で作っていては二度手間です。月次報告の取込に必要な項目と形式を確かめ、監視システムから出力できるようにしておくと、運用の負担が減ります。

煙突の排出規制とCEMS

ボイラーの煙突は、大気排出の規制の対象にもなります。工業省告示「工場から排出される空気中の汚染物質量 B.E.2549」の基準表では、燃焼を伴う発生源について、燃料の種類ごとに粒子状物質、SO2、NOxの基準値が定められています。自社のボイラーの燃料に当てはまる基準値と補正条件は、DIWが公開する基準表の原本で確認してください。また煤煙の告示では、第3種工場の1トン以上のボイラー(LPG・天然ガス焚きを除く)について、リンゲルマン煤煙濃度表で不透明度10%以下が求められています。

さらに、工業省告示「工場煙突の大気汚染を報告するための特殊機器設置 B.E.2565」(2022年6月10日官報)により、対象工場は煙突の連続排出監視装置(CEMS)を設置し、DIWへ報告することになりました。DIWの研修資料によると、既存工場の設置期限は2024年6月10日(2027年12月31日まで延長可)、新設・増設は操業開始前で、測定項目はNOx、SOx、TSP、O2、CO、TRS、温度、1時間平均を24時間連続で報告し、データ取得率が80%未満になると故障の届出が必要です。天然資源環境政策計画局(ONEP)は、対象を13業種・600超の大規模工場と説明しています。

どのボイラーがCEMSの対象になるかは、業種と規模によって決まるため、自社が対象かどうかはDIWの告示で確認してください。対象になる場合、煙突のO2は報告用にも測ることになります。燃焼管理に使うO2計と兼用できるかどうかは、測定位置や要求される精度が違うことがあるため、個別に確かめる必要があります。CEMSの導入と報告の仕組みについては、排ガス監視CEMS導入の記事で詳しく扱っています。

ボイラー効率の改善に効く3指標:排ガスO2・排ガス温度・ブロー率

この章で紹介する経験則と計算例は、米国エネルギー省(DOE)の省エネ技術資料(Steam Tip Sheet、2012年)によるものです。主に米国の天然ガス焚きボイラーを前提にした目安で、燃料の種類や設備によって当てはまり方は変わります。DOEの計算例は「試算例」であり、実測の事例ではありません。

排ガスO2:空気が多すぎても少なすぎても損をする

DOEのSteam Tip Sheet #4は、排ガス温度と排ガスO2(またはCO2)濃度を、燃焼効率の主要な指標としています。燃焼用の空気が足りないと、未燃の燃料やすす、COが出ます。逆に空気が多すぎると、余分な空気を温めて煙突から捨てることになり、熱損失が増えます。排ガスO2は、この「余分な空気」の量(空気過剰率)を示す数字です。

同じシートには、天然ガスの燃焼効率の表があります。排ガス温度と燃焼用空気温度の差が400°F(約222℃の温度差)の場合の値を抜き出すと、次のとおりです(完全燃焼、燃焼空気に水蒸気を含まない前提)。

排ガスO2空気過剰率燃焼効率
2.0%9.5%80.8%
3.0%15.0%80.4%
5.0%28.1%79.5%
7.0%44.9%78.2%
10.0%81.6%75.6%

DOEは、設計の良い天然ガス焚きボイラーでは空気過剰率10%が達成可能だとし、経験則として「空気過剰率を15%減らすごと、または排ガス温度を40°F(約22℃)下げるごとに、ボイラー効率が約1%上がる」としています。

DOEの試算例では、年間8,000時間運転・年間天然ガス500,000MMBtuのボイラーで、空気過剰率44.9%・温度差400°F(効率78.2%)を、調整によって空気過剰率9.5%・温度差300°F(効率83.1%)にすると、燃料が年29,482MMBtu減り、8ドル/MMBtuで年235,856ドルの削減になる、と計算しています。これは米国の価格と条件による試算です。

大事なのは、燃焼の状態は時間とともに変わるという点です。DOEのシートは、排ガスO2をオンラインで監視することで、エネルギー損失の傾向を早く把握し、制御の故障の早期警報にすることを勧めています。また、燃料の組成や蒸気の負荷が大きく変わる場合には、排ガスO2をバーナー制御に戻して空燃比を自動で合わせるO2トリム制御を検討すべきだとしています。

排ガス温度:上がってきたら伝熱面を疑う

排ガス温度は、ボイラーが燃焼の熱をどれだけ水に渡せたかを示します。同じ負荷・同じO2なのに排ガス温度がじわじわ上がる場合、伝熱面の汚れやスケールの付着が疑われます。前述のDOEの経験則では、排ガス温度40°F(約22℃)が効率約1%に相当します。月に一度の手計測では、この変化を負荷の違いと区別しにくいため、負荷(蒸気量)と一緒に連続で記録しておくことが有効です。

ブロー率:シートごとに目安が違う

ボイラーの水は蒸発するにつれて溶け込んだ固形分が濃くなるため、缶水の一部を抜いて(ブローダウン)濃度を保ちます。抜いた水は発生蒸気と同じ温度なので、ブローを多くしすぎるとその分の燃料が無駄になり、補給水や薬品も増えます。ボイラーのブロー管理が効率に効くのはこのためです。

ブロー率の目安は、DOEの資料の中でもシートによって幅が違います。混ぜずに書くと次のとおりです。

  • Steam Tip Sheet #9: ブローダウン率は通常、給水量の4〜8%。補給水の固形分が高い場合は10%まで
  • Steam Tip Sheet #23: ブローダウン率は給水量の1〜8%。補給水の固形分が高い場合は20%に達し得る
  • Steam Tip Sheet #10: 連続ブローダウンが蒸気量の5%を超えるボイラーは、ブローダウンの熱回収の良い候補

#9には試算例もあります。150psig・100,000lb/hの天然ガス焚き連続運転ボイラー(効率80%、燃料8ドル/MMBtu)で、自動ブローダウン制御によりブロー率を8%から6%にすると、燃料で年62,913ドル、水・薬品で年9,718ドル、合計年72,631ドルの削減になる、という計算です。これも米国の条件による試算例です。

#23は、手動の表面ブローでは缶水の溶解固形分の濃度も、最適なブロー率も分からないと指摘しています。自動ブローダウン制御は、導電率プローブで缶水を測り、設定値と比べて調整弁を動かします。

導電率とTDS

缶水の濃度は、導電率で連続的に測るのが一般的です。Spirax Sarcoの解説によると、炉筒煙管ボイラーの許容TDS(溶解固形分)は小型で約2,000ppm、大型で最大3,500ppmが目安で、導電率(μS/cm)に0.7を掛けるとTDS(ppm、25℃)の目安になります。導電率は温度が1℃上がるごとに約2%(25℃の値に対して)増えるため、温度補償が必要です。また、手動の底部ブローでは、平均のTDSが許容値を大きく下回る、つまりブローが多すぎる運転になりやすいとしています。

導電率でブローを管理する考え方は、冷却塔の水管理とよく似ています。センサーの校正やブロー制御の受入試験の進め方は、冷却塔の水質監視導入の記事も参考になります。

計測点の設計:ボイラーの監視システムで何を、どの周期で取るか

計測点リスト

ボイラーの監視システムで取る計測点を、3つの層ごとに整理します。周期は、この記事として示す設計の目安です。ボイラーの容量、負荷の変動、通信の条件に合わせて調整してください。

層計測点主な用途取り方の目安
法令・記録運転・停止稼働時間、月次報告状態が変わった時刻を記録
法令・記録蒸気圧力運転状態、異常の確認1分程度
法令・記録水位(高・低警報)低水位の早期把握警報は発生時刻を記録
法令・記録トリップ(失火、低水位、圧力異常など)停止原因の記録発生時刻と原因コードを記録
効率排ガスO2空気過剰率の監視1分程度
効率排ガス温度伝熱面の汚れの兆候1分程度
効率燃料流量(積算)燃料原単位積算値を1分〜15分
効率蒸気流量(積算)蒸気量、原単位の分母積算値を1分〜15分
効率給水量(積算)ブロー率の算出積算値を1分〜15分
効率缶水の導電率ブロー管理1分程度(温度補償つき)
効率ブロー量またはブロー弁の開閉ブロー率の算出開閉の時刻と時間を記録
効率復水の戻り温度・戻り量熱の回収の状態1分〜15分
停止予兆着火失敗・失火の回数バーナーの劣化回数を集計
停止予兆バーナーの起動・停止回数負荷と容量の不一致回数を集計
停止予兆給水ポンプ・ブロワーの運転状態、電流補機の劣化1分程度

ブロー率は、給水量とブロー量から計算します(ブロー量÷給水量)。ブロー量を直接測れない場合は、導電率とブロー弁の開閉時間から推定する方法もありますが、その場合は推定であることを画面に明示しておきます。燃料と蒸気の流量計を新たに付けるときの選び方や受入の注意点は、流量計 監視の実務ガイドの記事にまとめています。

周期より大事な「時刻」と「欠測」

ボイラーの監視では、データの周期よりも、時刻が正しいことと、欠測が分かることのほうが大事な場面が多くあります。トリップが起きたときに「低水位警報が先か、給水ポンプの停止が先か」を判断するには、それぞれの信号の時刻がそろっている必要があります。監視システムの時計とボイラー制御器の時計がずれていると、原因の切り分けを誤ります。ゲートウェイ、制御器、サーバーの時刻を同じ基準に合わせることを、仕様書に書いておきましょう。

欠測も同じです。通信が切れていた時間の燃料流量が「0」として記録されると、その月の原単位が良く見えてしまいます。欠測は欠測として記録し、画面と月次の集計で区別できるようにします。

保存期間とデータの持ち主

保存期間は、法令の記録、省エネの年次報告、効率の前年比較に使うことを考えて決めます。少なくとも前年同月と比べられる期間は手元に残したいところです。またメーカー型のサービスを使う場合は、データがどこに保存されるか、契約が終わったときにデータを取り出せるかを、契約前に確認してください。

蒸気系の後段もつなぐ

ボイラーの効率が良くても、蒸気配管や蒸気トラップで漏れていれば、工場全体の燃料は減りません。ボイラーの監視が軌道に乗ったら、後段の蒸気系にも広げると、どこで蒸気が失われているかが見えてきます。蒸気トラップの監視については、蒸気トラップ 無線監視の導入の記事で扱っています。

接続方式:BMS・ボイラー制御からのデータの取り方

安全回路には触らない

ボイラーのデータは、大きく3つの経路で取れます。

  1. ボイラー制御器・BMSの通信ポートから読む: メーカーが用意した表示器やゲートウェイの通信機能を使う
  2. 後付けのセンサーから読む: 排ガスO2計、流量計、導電率計などを追加し、監視用のI/Oやゲートウェイに配線する
  3. 既存の信号を分岐して読む: 運転・停止や警報の接点を、監視用の入力に取り込む

このうち最も注意が必要なのは3つ目です。燃焼安全回路やBMSの配線に、監視のための配線を足すことは避けてください。安全回路の動作に影響する可能性があり、メーカー保証にも関わります。どうしても接点を取りたい場合は、メーカーが監視用に用意した出力端子を使い、その旨をメーカーに確認します。

メーカーの設計を確かめる例

BMSのメーカー資料を見ると、安全系と監視系を分ける設計が読み取れます。たとえばSiemensのバーナー管理システムLMV5のデータシート(2018年)では、表示器、アクチュエータ、O2モジュールなどの構成機器は安全関連の専用バスで接続され、安全上の理由から外部のCANバスには統合できないとされています。一方で、表示器(AZL5)がビル自動制御などの上位システムやPCソフトへのインターフェースとなり、設定や運転状態の読み出し、トレンドの記録ができます。メーカー・技術者向けのパラメータはパスワードで保護されています。

Bosch Industrialのカタログ(2020年)では、同社のボイラー制御は、Modbus、Profibus、BACnetなどの一般的なプロトコルのデータポイントを事前に設定しており、顧客の中央監視やエネルギー管理システムへ接続できるとしています。

つまり、安全系のバスには触らず、メーカーが用意した表示器やゲートウェイの通信機能から読むのが基本です。どのデータが読めるか、読み取り専用にできるかは、機種や制御器の世代によって違うため、RFPの前にメーカーへ「読めるデータの一覧」と「書込みを無効にする方法」を問い合わせておきましょう。

接続の構成

ボイラー遠隔監視の導入|タイ工場の計測点・法令・RFP - figure 2

上の図は、この記事で勧める接続の構成です。

  • ボイラー制御器・BMSのデータは、メーカーのゲートウェイまたは表示器から読み取り専用で取り出す
  • 後付けのセンサー(排ガスO2、流量、導電率)は、BMSとは別の監視用の入力に配線する
  • 両方を、工場のOTネットワーク側のゲートウェイでまとめ、ヒストリアンやダッシュボードに送る
  • 工場の外への接続は、OTとITの間の緩衝区画(DMZ)を通し、物理的にいつでも遮断できるようにする

古いボイラーで制御器に通信機能がない場合は、後付けセンサーと接点入力だけで始めることになります。その場合でも、効率層の計測点(排ガスO2、排ガス温度、燃料・蒸気の流量、導電率)を後付けで取れれば、効率の悪化に早く気づくという遠隔監視の主な目的は果たせます。

遠隔アクセスとOTセキュリティ

5つの基本

ボイラーのデータを工場の外から見るということは、OTネットワークに外からの経路を作るということです。米国のCISA、FBI、EPA、DOEが2025年5月に共同で出したファクトシートは、OTのサイバー脅威を減らす基本として次の5つを挙げています。

  1. OTの公衆インターネットへの接続をなくす
  2. 初期パスワードをすぐに変え、強く固有のパスワードにする
  3. 必要な遠隔アクセスは、私設IP網やVPN、フィッシング耐性のある多要素認証、最小権限で守る
  4. ITとOTのネットワークを分け、間に緩衝区画(DMZ)を置く
  5. OTを手動で運転できる能力を保ち、訓練しておく

5つ目は、ボイラーでは特に大事です。監視システムやネットワークが止まっても、現場の制御者が現場の計器と操作盤でボイラーを運転できる状態を保つ、ということです。遠隔監視は「なくても運転できる」ものとして設計する必要があります。

ボイラーに当てはめると

先に挙げたBoschのMEC Remoteの資料では、外部のデータ接続をボイラー室のハードウェア鍵でいつでもオン/オフでき、ログインにはhttpsの暗号化、ユーザー名とパスワード、携帯へのワンタイム番号を使う、としています。メーカー型でも自社基盤型でも、次の点を仕様にしておくと安心です。

  • 外部接続を現場で物理的に遮断できるスイッチや鍵がある
  • 監視の経路は読み取り専用で、遠隔からの書込み経路がない(または、使うときだけ現場の承認で開く)
  • メーカーの技術者がサービスで接続する場合は、接続の日時・担当者・作業内容が記録される
  • アカウントは個人ごとに発行し、退職や担当替えで止められる

産業用制御システムのセキュリティの国際規格としては、ISA/IEC 62443があります。用語・概念、資産所有者とサービス事業者のプログラム要件、リスク評価とシステム要件、製品開発・部品の要件の4部で構成され、資産所有者、製品の供給者、システムインテグレーター、サービス事業者を対象にしています。発注の際には、ベンダーにこの規格への対応状況を聞くのも一つの方法です。

設備ベンダーの遠隔保守の経路を安全に作る方法は、OT リモートアクセス導入の記事で、OTセキュリティの要件をRFPに落とす方法は、OTセキュリティ対策の導入の記事で扱っています。日本の本社からタイの工場を監視する場合の全体設計は、日本からタイ工場を監視する方法の記事も参考にしてください。

費用のモデル試算(仮の数字)

ここでは、ボイラー遠隔監視を導入した場合の効果と費用を、仮置きの数字で試算します。以下の燃料費、効率、比率、時間、単価、費用はすべてこの記事のための仮の数字です。 実際の判断には、自社の数字に置き換えてください。

モデルの前提

  • 食品工場、天然ガス焚きの炉筒煙管ボイラー2台(うち常用1台)
  • 年間の燃料費 24,300,000バーツ
  • 通貨はタイバーツ(THB)
  • 現在、排ガスO2の連続監視とO2トリム制御はなく、ブローは手動

効果①:空気過剰率の見直し

排ガスO2の連続監視で燃焼調整の劣化に早く気づき、空気過剰率を適正に保つことで、ボイラー効率が80%から81%に上がると置きます(+1ポイント)。DOEの経験則「空気過剰率15%低減ごとに約1%」に照らして、控えめな仮定にしています。

同じ量の蒸気を作るのに必要な燃料は、効率に反比例します。

  • 改善後の燃料費: 24,300,000×80÷81=24,000,000バーツ
  • 燃料の削減: 24,300,000−24,000,000=300,000バーツ/年(24,300,000×1÷81と同じ)

効果②:ブロー管理

缶水の導電率を連続監視し、ブローを必要な量に合わせることで、燃料の0.5%相当を減らせると置きます。

  • 24,300,000×0.5%=121,500バーツ/年

効果③:停止予兆による計画外停止の回避

失火の回数や補機の状態の変化に早く気づくことで、年2回の計画外停止(1回3時間)を避けられると置きます。停止1時間あたりの損失は30,000バーツとします。

  • 2回×3時間×30,000バーツ=180,000バーツ/年
  • この効果は、停止の予兆が実際にデータに現れ、それを見て手を打てる体制がある場合にだけ実現します

効果の合計と回収期間

項目計算年間の効果
①空気過剰率の見直し24,300,000×(1−80÷81)300,000 THB
②ブロー管理24,300,000×0.5%121,500 THB
③計画外停止の回避2回×3時間×30,000180,000 THB
合計300,000+121,500+180,000601,500 THB

費用は次のように置きます。

  • 初期費用: 1,200,000バーツ(排ガスO2計・流量計・導電率計の追加、ゲートウェイ、画面・通知の設定、FAT/SAT)
  • 年間費用: 180,000バーツ(通信、クラウドまたはサーバーの保守、センサーの校正)

計算は次のとおりです。

  • 年間の純効果: 601,500−180,000=421,500バーツ/年
  • 回収期間: 1,200,000÷421,500≈2.847 → 約2.8年
ボイラー遠隔監視の導入|タイ工場の計測点・法令・RFP - figure 3

感度:燃焼がすでに最適化されている場合

効果①は、今の燃焼に改善の余地があることが前提です。すでにO2トリム制御が入っていて、燃焼が最適な状態に保たれている工場では、効果①はゼロになります。

  • 効果: 121,500+180,000=301,500バーツ/年
  • 年間の純効果: 301,500−180,000=121,500バーツ/年
  • 回収期間: 1,200,000÷121,500≈9.88 → 約9.9年

試算の読み方

このモデルでは、効果の約半分(601,500バーツのうち300,000バーツ、約50%)が燃焼、つまり排ガスO2の改善から来ています。言い換えると、投資を判断する前に、携帯型の排ガス分析計で今のO2と排ガス温度を測ることが先です。O2が高く、排ガス温度も高い状態が続いているなら、遠隔監視とあわせて燃焼の調整に改善の余地がある可能性が高く、回収は早くなります。すでにO2が低く安定しているなら、効果はブロー管理と停止の回避が中心になり、回収期間は長くなります。その場合は、センサーの追加を絞って初期費用を下げる、といった判断が考えられます。

価格の参考として、DOEのSteam Tip Sheetには、携帯型の排ガス分析計が500〜1,000ドル(年間燃料費5万ドル超のボイラーに推奨)、自動ブローダウン制御システム(導電率プローブ、温度補償・信号処理、調整弁一式)が2,500〜6,000ドルで、多くの場合1〜3年の単純回収とあります。いずれも米国の2012年の資料の価格で、今のタイでの価格ではありません。タイ国内のゲートウェイや、メーカーの遠隔監視サービスの価格は公開されておらず、見積もりが必要です。

この試算に入れていないもの

  • 法令対応や記録作成にかかる工数の削減
  • CO2排出量の削減
  • 水処理薬品と補給水の削減
  • 人の採用難への対応
  • 税金やBOIの恩典(この記事では扱いません)

RFP・FAT/SATで確認する項目

確認項目

ボイラー遠隔監視をRFPにまとめるときに、特に確かめたい項目を表にします。

No.確認項目RFP・受入で確かめること
1計測点リスト3層(法令・記録/効率/停止予兆)ごとの計測点、単位、周期、取り方(制御器から/後付けセンサー)が一覧になっているか
2データの持ち主と保存場所データをボイラー側・工場内・クラウドのどこに置くか。契約終了時に取り出せる形式と期間
3読み取り専用の担保制御器・BMSへの書込み経路がないこと、または無効にする方法。FATで書込みを試して拒否されることを確認
4安全回路への影響安全回路・BMSの配線に手を加えないこと。メーカーの了承の有無
5トリップ時の通知遅延トリップ発生から制御者・当直責任者に通知が届くまでの時間。SATで実際の信号を使って測る
6欠測率と欠測の表示通信断のときの記録の扱い、復旧後の補完の有無、欠測を画面と集計で区別できるか
7時刻の同期制御器、ゲートウェイ、サーバーの時刻をそろえる方法と、ずれの許容範囲
8効率の計算ブロー率、燃料原単位などの計算式と、使う計測点が仕様書に書かれているか
9言語画面、通知、帳票がタイ語・英語・日本語に対応するか。現場の制御者が読める言語で通知が届くか
10月次報告への出力DIWへの月次ボイラー報告や省エネの年次報告に必要な項目を、手入力なしで出力できるか
11遠隔接続の遮断外部接続を現場で物理的に遮断できるか。メーカーのサービス接続の記録
12アカウント管理個人ごとのアカウント、多要素認証、権限の分け方、退職時の停止手順
13保守体制タイ国内の保守窓口、対応言語、対応時間、センサーの校正周期と費用
14メーカー保証への影響後付けセンサーや通信機器の取付けが、ボイラー本体の保証に影響しないかをメーカーに確認したか

FATとSATの分け方

FAT(工場出荷試験)では、ベンダーの事務所や試験環境で、模擬の信号を使って画面、計算、通知、権限、書込みの拒否を確かめます。SAT(現地受入試験)では、実際のボイラーにつないで、計測値が現場の計器と合っているか、トリップの通知が実際に届くか、通信を切ったときに欠測として記録されるかを確かめます。

SATでは、現場の計器との突き合わせを、低負荷と高負荷の両方で行うことをお勧めします。流量計や排ガスO2計は、負荷によって誤差の出方が変わることがあるからです。また、トリップの通知試験は、ボイラーを止めずに試験信号で行えるか、メーカーと事前に相談しておきます。

導入の進め方:90日で現状把握からFAT/SATまで

製品やサービスを決める前後の90日で、何をするかの目安です。ボイラーの台数や既存の設備によって期間は変わります。

1〜30日目:現状を測り、計測点を棚卸しする

  • 携帯型の排ガス分析計で、常用ボイラーの排ガスO2と排ガス温度を、低負荷・高負荷で測る
  • 燃料、蒸気、給水の流量計の有無と、ブローの方法(手動・自動)を確認する
  • ボイラー制御器・BMSの機種と世代を確認し、メーカーに「読めるデータの一覧」と「読み取り専用で接続する方法」を問い合わせる
  • 制御者の配置、講習の期限、年次の安全試験の予定、DIWへの月次報告の作り方を一覧にする
  • 3層の計測点リストの初版を作る

31〜60日目:1台でPoCを行う

  • 常用の1台に、効率層の不足しているセンサー(排ガスO2、導電率など)を付け、ゲートウェイで読み取り専用に接続する
  • 1カ月分のデータで、ブロー率と燃料原単位を計算し、手計測や請求書と突き合わせる
  • 通知のテストを行い、制御者と当直責任者に届くまでの時間を測る
  • 外部接続を遮断したときに、現場の運転に影響がないことを確認する

61〜90日目:FAT/SATと運用ルール

  • PoCの結果をもとにRFPを確定し、前章の確認項目でFAT/SATを行う
  • 異常のときに誰が何をするか(通知を受けた人、現場で確認する人、メーカーに連絡する人)を決める
  • 月次の効率レビュー(排ガスO2、排ガス温度、ブロー率の推移)の場と担当を決める
  • 効果の測り方(試算のどの項目を、何と比べて確かめるか)を決めておく

PoCから本格導入までの進め方とベースラインの取り方は、工場の省エネ対策の記事も参考になります。

タイ工場で特に確認すること

制御者の勤務と通知先

タイの工場では、ボイラーの制御者が交代勤務で、夜間は少人数という体制の工場もあります。遠隔監視の通知を日本の本社やタイの本部だけに送ると、現場で動ける人が知らないまま時間が過ぎます。通知先には必ず、その時間帯の制御者と当直責任者を入れ、タイ語で届くようにしてください。日本側は、通知を受けて現場に指示する立場ではなく、傾向を見て改善を提案する立場に置くと、役割がはっきりします。

DIWの月次報告との二重入力を避ける

前述のとおり、DIWのボイラー管理システムには月次ボイラー報告の取込機能があります。監視システムの導入後も、制御者が紙の日報から月次報告を手で作っていては、負担は減りません。どの項目を監視システムから出し、どの項目を人が記入するかを分けて、出力の形式をそろえておくと効果が出やすくなります。

燃料の種類で目安が変わる

この記事で紹介したDOEの経験則と効率の表は、主に天然ガス焚きを前提にしています。重油焚きやバイオマス焚きのボイラーでは、適正な排ガスO2の水準や、排ガス温度の下げられる範囲が変わります。また、煙突の排出基準も燃料の種類ごとに違います(前述の工業省告示)。燃料の種類ごとに、ボイラーメーカーや燃焼の専門家と目標値を決めてください。

メーカー型サービスのタイでの提供

この記事で例に挙げたメーカーの遠隔監視サービスは、公開情報の多くが米国や欧州のサイトのもので、タイでの提供条件、通信方式、価格は確認できませんでした。メーカー型を検討する場合は、タイの販売・保守の窓口に、提供の可否、通信の方式(携帯回線の世代を含む)、データの保存場所、タイ語での対応を確かめてください。

よくある質問

ボイラー遠隔監視とは?

ボイラーの運転データ(運転・停止、蒸気圧力、排ガスO2、排ガス温度、燃料・蒸気の流量、缶水の導電率、トリップなど)を、離れた場所から読み取り、記録し、異常を知らせる仕組みです。この記事では、遠隔からの起動・停止や設定の変更は含めず、読み取り専用で設計することを勧めています。メーカーが提供するサービスを使う方法と、電力・空気・水と同じ自社の監視基盤に入れる方法があります。

遠隔監視があれば制御者は不要?

そうとは言えません。タイの労働省省令 B.E.2564は、使用者にボイラーの制御者の配置、2年に1回以上の講習、年1回以上の安全試験と30日以内の報告を求めています。遠隔監視で現場の制御者を代替できるかについては、省令に明文がなく、法令上明確ではありません。遠隔監視は現場の制御者を補う道具として設計し、人員配置を変える場合は、事前にDIWと労働保護福祉局に確認してください。

ボイラーの監視システムで何を測る?

計測点を「法令・記録」「効率」「停止予兆」の3層に分けて考えると整理しやすくなります。効率を見るには、排ガスO2、排ガス温度、燃料と蒸気の流量、給水量、ブロー量、缶水の導電率が必要です。既設のボイラーには排ガスO2計や蒸気流量計が付いていないことが多いため、何を後付けするかを最初に数えておきましょう。

排ガスO2はなぜ重要?

排ガスO2は、燃焼用の空気がどれだけ余分に入っているか(空気過剰率)を示すからです。空気が多すぎると、余分な空気を温めて煙突から捨てることになります。米国DOEの資料は、主に天然ガス焚きを前提に、空気過剰率を15%減らすごとにボイラー効率が約1%上がるという経験則を示し、排ガスO2のオンライン監視を制御の故障の早期警報として勧めています。

ブロー管理で何が変わる?

ブローで抜く缶水は発生蒸気と同じ温度なので、ブローが多すぎると燃料、補給水、薬品が無駄になります。米国DOEの資料では、ブローダウン率の目安がSteam Tip Sheet #9では給水量の4〜8%(固形分が高い場合は10%まで)、#23では1〜8%(同じく20%に達し得る)とされています。導電率を連続で測り、ブローを必要な量に合わせることで、手動ブローにありがちな過剰ブローを減らせます。

費用はどのくらい?

センサーの追加の範囲、制御器から読めるデータの量、メーカー型か自社基盤型かで大きく変わります。タイ国内のゲートウェイやメーカーの遠隔監視サービスの価格は公開されておらず、見積もりが必要です。この記事の仮の試算では、初期1,200,000バーツ、年間180,000バーツと置き、燃焼の改善余地がある場合は約2.8年、ない場合は約9.9年で回収という結果でした。

既設の古いボイラーにも後付けできる?

多くの場合、後付けできます。制御器に通信機能がなくても、排ガスO2計、流量計、導電率計を後付けし、運転・停止や警報はメーカーが監視用に用意した出力端子から取る方法があります。ただし、燃焼安全回路やBMSの配線に監視のための配線を足すことは避け、取付けがボイラーの保証に影響しないかをメーカーに確認してください。

まとめ

  • ボイラー遠隔監視の成否は、画面の見やすさではなく、①人と法令の境界、②効率の3指標、③安全回路に触らない接続、の3点を先に決めたかどうかで決まる
  • タイの労働省省令 B.E.2564は、制御者の配置、2年に1回以上の講習、年1回以上の安全試験と30日以内の報告を求めている。遠隔監視で制御者を代替できるかは法令上明確でないため、遠隔監視は現場の制御者を補う道具として設計する
  • 効率を見るには、排ガスO2、排ガス温度、ブロー率を連続で取る。DOEの経験則は主に米国の天然ガス焚きの目安で、ブロー率の目安はシートごとに違う
  • 計測点は「法令・記録」「効率」「停止予兆」の3層に分け、既設のセンサーで足りない層を先に数える
  • BMS・燃焼安全回路には配線を足さず、メーカーの表示器やゲートウェイから読み取り専用で取る。外部接続は現場で物理的に遮断できるようにする
  • 仮の試算では、効果の約半分が燃焼(排ガスO2)の改善から来た。燃焼がすでに最適化されていれば回収期間は約2.8年から約9.9年に延びる。投資の前に、携帯型の排ガス分析計で今のO2と排ガス温度を測る
  • RFPとFAT/SATでは、読み取り専用の担保、トリップ時の通知遅延、欠測の扱い、時刻の同期、月次報告への出力、メーカー保証への影響を確かめる

TOMAS TECH では、タイの工場のユーティリティ監視について、計測点の整理、接続方式の検討、RFPとFAT/SATの計画づくりのお手伝いをしています。製品やサービスを選ぶ前の段階、たとえば携帯型の分析計で今の燃焼の状態を測る段階や、3層の計測点リストを作る段階でもご相談いただけます。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。

参考情報