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2026.10.07

製番管理システム導入|タイ工場の個別受注で原価と進捗を追う設計

製番管理システム導入|タイ工場の個別受注で原価と進捗を追う設計

「案件ごとの本当の原価は、月次の締めが終わるまで分からない。分かるのは材料費だけで、工数と外注費は部門の経費に埋もれている」。チョンブリー、ラヨーン、アユタヤ、バンコク近郊の日系の自動化設備・専用機メーカー、治具や検査装置のメーカー、金型メーカー、板金・製缶、搬送ラインのビルダーで、社長(MD)や工場長、生産管理課長、経理の原価担当からよく聞く悩みです。本記事では、製番管理システムの導入を、番号の振り方から工数の紐付け、会計との接続まで、順番に整理します。

先に結論を書きます。製番管理システムは「受注に番号を振る仕組み」ではありません。 材料、外注、工数という3つの実際原価と進捗を、その番号に「発生した時点で」付けるための仕組みです。導入がうまくいくかどうかは、画面の見やすさや機能の多さよりも、現場の誰が、どの瞬間に、どの製番を入力するかで決まります。

本記事の要点は次の3つです。

  • 見積原価と実際原価を、材料・外注・工数の要素別に並べる(材料費だけ製番に付いていても、超過の大半は工数と外注に出る)
  • 工数の製番紐付け率を上げる(月の直接作業時間の約3分の1が製番に付いていない状態では、案件別の損益は信頼できない)
  • 製番別原価は、会計上の進捗度の測定にもつながる(原価比例で進捗を測る場合、紐付け漏れはそのまま売上の過小計上になる)

なお、本記事に登場する「モデル工場C」の製番数、原価、工数、労務費の単価などは、すべて本記事オリジナルのモデル設定・想定値です。業界平均でも調査値でもありません。自社の数字に置き換えて使う「計算の型」として読んでください。

2026年に案件別の採算が問われる理由

生産は伸びているが、景況感は弱い

まず、タイの製造業の足元を確認します。Thai Post(2026年9月30日)によれば、2026年8月のタイの製造業生産指数(MPI)は103.43で、前年同月比4.44%の増加でした。設備稼働率は58.28%です。同じ報道では、通年の見通しも上方修正されたとしています。

一方で、企業の景況感は強くありません。Thai Post(2026年9月9日)が伝えたタイ工業連盟(FTI)の産業景況感指数(TISI)は、2026年8月が89.70で、7月の90.0から低下しました。3か月先の見通し指数は97.0です。下押し要因としては、エネルギーや石化原料の価格上昇、自動車市場の縮小(7か月累計の販売が17.38%の減少)、米国の関税、中東情勢などが挙げられています。

設備更新と自動化への投資は続いている

設備投資の側を見ると、動きは活発です。Thailand Business News(2026年7月23日、BOIの発表に基づく報道)によれば、2026年上期のBOIへの投資奨励申請は1,299件、436億ドルで、前年同期比37%の増加でした。分野別では、機械・自動化・ロボットが3.874億ドル(82件)です。外国直接投資の申請額を国別に見ると、日本は5位で9.701億ドル(123件)とされています。

また、MGR Online(2026年8月13日)によれば、BOIの長官は、2023年から2026年上期までに日本人株主のいる企業が400件を超える奨励申請を出し、投資額は550億バーツを超えると述べています。対象には、生産効率を高めるための機械更新などが含まれるとしています。

在タイ日系企業は原材料高を最大の課題に挙げる

盤谷日本人商工会議所(JCC)が2026年6月30日に公表した2026年上期の景気動向調査(回答504社)では、全体の業況感DIが2025年下期の0から、2026年上期は−6(見込み)、2026年下期は−7(見通し)と、悪化が続く形になっています。一般機械のDIは、2025年下期−4、2026年上期8、2026年下期−12でした。ただし一般機械の回答は約20社と少なく、報告書自身も回答数の少ない設問は割合だけで評価しない方がよいと注記しています。

経営上の課題の1位は「原材料・部品価格の高騰」で65%でした。2026年の設備投資の内容(複数回答)では、更新が59%、合理化が31%、DX関連が22%です。

受注側は1件ごとの採算を早く知る必要がある

ここからは筆者の見立てです。設備の更新や自動化への投資は続いています。これは、専用機や治具、検査装置、搬送ラインを作る側から見れば、受注の機会が続いているということです。一方で、原材料高と景況感の悪化のもとでは、見積の段階で織り込んだ利益が、材料の値上がりや調整工数の膨らみで削られやすくなります。

受注が続いていても、1件ごとの採算が納品後にしか分からなければ、赤字の案件に手を打つことができません。設備メーカーや治具メーカーにとって、案件ごとの原価と進捗をより早く把握する必要性は高まっていると考えます。

製番管理とは:MRPとの違いと使い分け

製番管理の定義

製番管理とは何か。中小企業診断士試験の解説(スタディング)では、製番管理方式を「製造命令書を発行するときに、その製品に関するすべての加工と組立の指示書を準備し、同一の製造番号をそれぞれに付けて管理を行う方式」と説明しています。MONOist(アイティメディア、2020年)も、製品の原材料から最終工程まで、一貫して同じ製番で管理する方法として説明しています。

一般的な解説(ビジネスコンシェルジュ powered by お名前.com)では、受注ごとに「製番」と呼ばれる管理番号を付けて管理する仕組みとし、利点として、進捗管理がしやすいこと、受注を起点に調達するので在庫のリスクが小さいこと、製番ごとにコストを個別に追えることを挙げています。弱点としては、部品の品切れや過剰在庫が起こりやすいこと、番号を付けて追いかける手間がかかることを挙げています。

製番管理とMRPの違い

同じ解説によれば、MRP(資材所要量計画)は品番単位で所要量を計算し、共通部品の在庫を製品の間で共有します。これに対して製番管理は、受注ごとに番号を付け、製品の間で在庫を共有しません。

次の表は、上の解説をもとに、筆者が実務の観点を加えて整理したものです。

観点製番管理MRP
管理の単位受注(製番)品番
在庫の扱い製番ごとに引き当て、製品の間で共有しない共通部品の在庫を製品の間で共有する
向いている品目受注ごとに仕様が変わる専用品繰り返し使う標準品や共通部品
原価の追い方製番ごとに個別に集計しやすい品番の標準原価や平均原価で扱うことが多い
弱点部品の品切れや過剰在庫、番号管理の手間受注ごとの原価や進捗が見えにくい

どちらが優れているかではなく、比率で選ぶ

製番管理とMRPは、どちらが優れているかで選ぶものではありません。判断の軸は、受注品と共通部品の比率です。

専用機メーカーを例にとると、フレームや治具板、専用の加工部品は、その案件のためだけに設計し、発注します。こちらは製番管理が向いています。一方で、ボルト、センサー、空圧機器、モーター、配線材などの共通部品は、多くの案件で同じ品番を使います。これを製番ごとに別々に発注していると、発注の手間が増え、まとめ買いの効果も出ません。こちらはMRPや発注点で在庫を持ち、払い出すときに製番を付ける方が現実的です。

つまり多くの個別受注生産の工場では、製番専用品は製番管理、共通部品はMRPで在庫を持ち、払出時に製番に付けるという併用が自然です。製品の例として、TPiCS-X(ティーピクス研究所)は、製番管理とMRPを合わせた生産に対応するとしています。どの方式をどこまで使うかは、自社の部品構成を見て決める必要があります。MRP側を使う場合は、品目マスタと部品表の精度が前提になります。この点はMRPとマスタ精度の記事で詳しく扱っています。個別受注生産の生産管理全体の考え方は、個別受注生産の生産管理の記事も参考にしてください。

個別受注生産でよく聞く課題

製品を提供するベンダーも、同じ課題を出発点にしています。OBC(オービックビジネスコンサルタント)は、奉行Solutionsの個別受注生産向けソリューション「TECHS-S」の紹介で、個別受注生産の課題として「案件ごとの正確な原価がすぐに把握できず、採算がとれていない案件の確認や対策が遅れる」ことなどを挙げています。シー・アイ・エム総合研究所は、2026年4月に販売を始めた個別受注生産向けの「Dr.工程Navi」シリーズについて、大型のガントチャートで進捗、納期、原価を見える化するとしており、発注から受入検査までの購買オプションは2026年7月にリリース予定と告知していました。

これらは機能の例として挙げたもので、特定の製品を推奨するものではありません。製品を選ぶ前に、自社がどの原価を、いつ、誰の入力で製番に付けるのかを決めておくことが先です。

1製番の見積原価と実際原価を要素別に並べる

モデル工場Cの前提

ここからは、モデル工場Cを使って考えます。前提は次のとおりです(すべて本記事のモデル設定です)。

  • タイ・チョンブリー県の日系の自動化設備・専用機メーカー。従業員は約80名で、そのうち直接作業者は40名
  • 年間の受注は約120製番(専用機、組立治具、検査装置、改造工事)
  • 受注台帳と見積はExcelで管理している。材料の発注は製番を付けて会計システムに入れている
  • 工数は紙の日報に書かれているが、部門単位でしか集計されていない。外注費は月末に部門の経費としてまとめて計上している
  • 案件別の損益は、納品後に経理が手作業で概算している
  • 労務費の配賦単価は1時間あたり600バーツ

TOMAS TECHが見てきた範囲でも、この状態は珍しくありません。材料費だけは製番が付いているので、「製番管理はできている」と思われがちです。

製番C-2604の見積と実際

モデル工場Cの製番C-2604は、自動組立機1台、受注額3,000,000バーツの案件です。見積原価と実際原価を、要素別に並べると次のようになりました(単位:バーツ)。

原価要素見積原価実際原価差異
材料費1,200,0001,260,000+60,000
外注費(機械加工・表面処理)480,000560,000+80,000
労務費(工数×600バーツ)720,000(1,200時間)870,000(1,450時間)+150,000(+250時間)
合計2,400,0002,690,000+290,000

見積の段階では、粗利は600,000バーツ(20%)の予定でした。実際には原価が290,000バーツ超過し、粗利は310,000バーツ(約10%)にとどまりました。

製番管理システム導入|タイ工場の個別受注で原価と進捗を追う設計 - figure 1

納品前に見えていたのは材料費の差異だけ

問題は、超過の金額そのものよりも、超過がいつ見えたかです。今の仕組みでは、材料は製番を付けて発注しているので、材料費の差異60,000バーツは納品前に見えていました。しかし外注費は月末に部門の経費としてまとめて計上され、工数は部門単位の日報にしか残っていません。そのため、超過290,000バーツのうち230,000バーツ(外注80,000バーツと労務150,000バーツ、約79%)は、締めの後にしか見えませんでした。

言い換えると、材料費だけを製番に付けている状態では、超過の8割近くが見えないまま案件が進むということです。材料費の差異は、価格の上昇として購買担当がある程度予想できます。一方で、工数と外注の超過は、組立や調整の現場で、日々少しずつ積み上がっていきます。見積と実際を要素別に並べて初めて、どこで利益が削られたのかが分かります。

工数超過250時間の中身

労務費の超過のもとになった工数の超過250時間を、作業の種類で分けると次のとおりです(モデル)。

超過の内訳時間労務費換算(600バーツ/時間)
調整・手直し14084,000
設計変更への対応7042,000
客先立会いの待ち4024,000
合計250150,000

このうち、設計変更への対応70時間(42,000バーツ)は、顧客に追加で請求できた可能性がある費用です。しかし、その工数が製番に付いていなければ、いつ、誰が、どの変更のために何時間を使ったのかが残りません。記録が残っていなければ、追加請求の根拠も残りません。 設計変更や追加工事を製番の枝番で分けて記録することには、原価を正しく把握するだけでなく、請求の根拠を残すという意味もあります。

調整・手直しの140時間は、次の見積や設計の改善につながる情報です。客先立会いの待ち40時間は、日程調整の段取りを見直すきっかけになります。どれも、工数が製番と作業の種類の両方に付いていなければ分からないことです。見積と実績をつなぐ考え方は、製造業CPQ(見積から製造まで)の記事でも扱っています。

工数と製番の紐付け率を上げる

月9,600時間の行き先

次に、工場全体の工数を見ます。モデル工場Cの直接作業者は40名で、1人あたり月240時間とすると、月の直接作業時間は9,600時間です。その内訳を、現状と90日後の目標で並べると次のようになります。

区分現状(時間)現状(割合)90日後の目標(時間)目標(割合)
製番に紐付いた作業6,24065%8,16085%
間接作業(段取り・清掃・教育・会議など。間接コードで記録)1,44015%1,44015%
記録なし・不明1,92020%00%
合計9,600100%9,600100%
製番管理システム導入|タイ工場の個別受注で原価と進捗を追う設計 - figure 2

現状では、製番に付いていない時間が3,360時間(35%)あり、月の直接作業時間の約3分の1にあたります。このうち間接作業の1,440時間は、間接コードで記録されているので、何に使われたかは分かっています。問題は「記録なし・不明」の1,920時間です。600バーツをかけると1,152,000バーツになり、これだけの労務費が毎月、どの案件の原価にもなっていません。

この状態で案件別の損益を出すと、どの製番も実際より原価が小さく見えます。経理が後から部門の工数を按分して配る方法もありますが、按分ではどの案件が赤字なのかという、いちばん知りたい情報が平均化されて消えてしまいます。

目標は「すべてを製番に付ける」ことではない

ここで注意したいのは、目標が「すべての時間を製番に付ける」ことではない点です。段取り、清掃、教育、会議などの間接作業は、間接コードで正直に記録させます。間接作業を無理に製番に押し込むと、たまたまその日に作業していた案件の原価がふくらみ、案件別の原価がかえってゆがみます。

モデル工場Cの90日後の目標は、製番に紐付いた作業が8,160時間(85%)、間接作業が1,440時間(15%)、記録なし・不明が0時間です。間接作業の時間は変わっていません。「記録なし・不明」だった1,920時間が、製番に付くようになるという設定です。なお、これはモデル工場の目標設定であり、どの工場でもこの数字が達成できるという意味ではありません。

紐付け率が上がらない3つの理由

工数の製番紐付けが進まない理由は、多くの場合、システムの機能ではなく入力の設計にあります。

  • 入力が遅い:紙の日報に1日分をまとめて書き、月末に事務員がExcelへ転記する。書く時点で記憶があいまいになり、転記の段階で製番の書き間違いが増える
  • 製番が現場に届いていない:作業指示書や図面に製番が大きく書かれておらず、作業者が自分の作業がどの製番かを知らない
  • 間接の逃げ道がない:間接コードの一覧がなく、製番に付けられない時間は空欄になる。空欄が「記録なし・不明」になる

対策は、それぞれの裏返しです。作業の開始と終了の瞬間に、作業指示書や現品票のバーコードやQRコードをタブレットやスマートフォンで読み取る。作業指示書に製番を大きく印字する。間接コードを少数の短い一覧にして、作業場に掲示する。作業者への説明はタイ語で行い、画面もタイ語にする。どれも高価な仕組みではありませんが、これがそろわないと、どんなシステムを入れても紐付け率は上がりません。工程ごとの実績収集の設計については、工程管理システムの記事も参考になります。

製番別原価と進捗度・収益認識

原価計算基準と製番

製番別原価は、工場の中の管理のためだけのものではありません。会計とも直接つながっています。

原価計算基準(昭和37年、大蔵省企業会計審議会)の三一は、個別原価計算について、種類の異なる製品を個別に生産する形態に適用し、特定製造指図書ごとに直接費と間接費を集計すると定めています(Wikibooksの転載に基づく要旨)。筆者の整理としては、製番を、この「特定製造指図書」の単位として扱うのが自然だと考えます。ただし、基準が「製番=特定製造指図書」と定めているわけではありません。

一定期間にわたる収益認識と進捗度

もうひとつの接点が、売上の計上です。国際財務報告基準のIFRS 15では、35項で、一定の要件を満たす履行義務は一定期間にわたって収益を認識するとしています。要件のひとつ(35項(c))は、企業にとって他に転用できる資産が生まれず、かつ、それまでに完了した履行に対して支払を受ける強制可能な権利があることです。筆者の見方では、顧客の仕様に合わせて作る専用機は、この要件に当てはまるかどうかが論点になりやすい類型です。

一定期間にわたって収益を認識する場合、IFRS 15の39項は進捗度を測定して収益を認識するとし、41項は進捗度の測定方法として、アウトプット法とインプット法があるとしています。インプット法について、B18は、消費した資源、費やした労働時間、発生したコスト、経過時間、機械稼働時間などを例に挙げています。発生したコストを見積総コストで割って進捗度とする方法は、一般に原価比例法と呼ばれます。

紐付け漏れは売上の過小計上になる

モデル工場Cの製番C-2611で考えます。搬送ライン一式、契約額12,000,000バーツ、見積総原価9,600,000バーツで、期をまたぐ案件です。期末時点での状況を2つのケースで比べます(単位:バーツ)。

ケース期末までの発生原価進捗度(発生原価÷見積総原価)認識される売上
正しく紐付けた場合4,800,00050.0%6,000,000
労務費400,000が他の製番や間接に紛れた場合4,400,000約45.8%5,500,000
差−400,000約−4.2ポイント−500,000
製番管理システム導入|タイ工場の個別受注で原価と進捗を追う設計 - figure 3

正しく紐付けた場合は、4,800,000÷9,600,000で進捗度は50.0%となり、12,000,000×50.0%で売上は6,000,000バーツです。一方で、労務費400,000バーツ(600バーツで割ると約670時間分)が他の製番や間接作業に紛れると、発生原価は4,400,000バーツ、進捗度は約45.8%となり、売上は5,500,000バーツになります。

400,000バーツの原価の漏れが、500,000バーツの売上の過小計上になっています。原価の漏れに、契約額と見積総原価の比率(12,000,000÷9,600,000=1.25倍)をかけた額が、売上に響くためです。逆に、他の案件の工数が誤ってこの製番に付けば、売上は過大になります。原価比例で進捗度を測る場合、工数の紐付け精度は、そのまま売上の精度です。

逆方向の誤り:手直しと据付前の購入品

紐付け漏れとは逆に、進捗度が実態より高く出る誤りもあります。IFRS 15のB19は、コストに基づくインプット法では、契約価格に織り込まれていない重大な非効率のコスト(想定外の材料や労務の仕損、浪費など)や、進捗に比例しないコスト(たとえば、顧客に支配が移るが据付は後になる購入品)について、進捗度の調整が必要になる場合があるとしています。

つまり、大規模な手直しのコストや、据付前の高額な購入品のコストを発生原価にそのまま含めていると、進捗度が実態より高く出ることがあります。これを見分けるには、製番別原価の中で、手直しや仕損の工数と材料、据付前の購入品を、それぞれ識別できるようにしておく必要があります。チェックリストに手直し・仕損の記録を入れているのは、このためです。

合理的に測定できない場合

IFRS 15の44項は、進捗度を合理的に測定できる場合にだけ一定期間にわたって収益を認識するとし、適切な方法を適用するのに必要な信頼できる情報がない場合は、合理的に測定できないとしています。45項は、契約の初期などで結果を合理的に測定できないが、発生したコストは回収できると見込む場合には、合理的に測定できるようになるまで、発生したコストの範囲でのみ収益を認識するとしています。筆者の解釈としては、製番別の実際原価を信頼できる形で集計できていないと、この「信頼できる情報」を欠くと判断されるリスクがあると考えます。

タイでの適用は監査法人・会計士に確認する

タイでは、IFRS 15に相当するTFRS 15は、上場会社などの公的説明責任のある企業が対象で、非上場の企業の多くは別の基準(TFRS for NPAEs)を使う可能性があります。タイにある日系の子会社は非上場の会社が多いとみられ、TFRS 15がそのまま適用されるとは限りません。

一方で、Forvis MazarsやFlowAccountの解説によれば、TFRS for NPAEsのもとでも、工事契約などでは「発生原価の累計÷見積総原価」で進捗度を測る場面があります。どの基準であっても、原価比例で進捗度を測る場合には、製番別の実際原価がその土台になりうるということです。

ただし、自社の契約が一定期間にわたる収益認識に当たるか、どの基準と方法で進捗度を測るかは、契約の条件によって変わります。必ず監査法人や会計士に個別に確認してください。 本記事の試算は、仕組みの影響を説明するためのモデルであり、会計処理の判断を示すものではありません。

製番に持つべき12項目(チェックリスト)

製番管理システムを選ぶ前に、製番ごとにどの情報を持つかを決めておきます。次の12項目は、TOMAS TECHが個別受注生産の工場でよく使う整理です。

  1. 製番:採番のルール(年、連番、枝番)。枝番で追加工事、設計変更、再製作を分ける
  2. 顧客・受注番号・契約額・納期:受注した時点の値と、変更後の値の両方
  3. 見積原価:材料、外注、工数の要素別の金額と、見積の改訂履歴(版)
  4. 製番別の部品表(BOM):標準品番と製番専用品の区別、設計変更の版数
  5. 材料の手配・引当:製番専用で発注したものと、共通在庫から払い出したものの区別
  6. 外注の発注・検収:工程、金額、検収日
  7. 工数の実績:作業者、工程、開始と終了の時刻、間接コードとの区別
  8. 工程の進捗:設計、手配、加工、組立、調整、出荷、据付、検収のマイルストーン
  9. 設計変更・追加工事の記録:依頼元、日付、影響する工数、追加請求の有無
  10. 手直し・仕損の記録:原因、工数、材料
  11. 出荷・据付・顧客検収:それぞれの日付と、書面の参照先
  12. 実際原価の集計と差異:見積との差異と、粗利の見込み(月次で更新)

このうち、今のExcelの受注台帳でも持てる項目は少なくありません。1、2、3、11は、台帳の列を増やすだけで始められます。難しいのは、5、6、7のように発生の瞬間に入力しなければならない項目です。ここがシステムを入れる理由になります。

製番管理システムの要件と連携

工数入力は「その瞬間に、スキャンで」

最も重要なのは工数の入力です。作業の開始と終了の時点で、製番と工程をバーコードやQRコードで読み取る方式にします。端末はタブレットやスマートフォンで十分です。紙の日報を月末に転記する方式は、紐付け率と精度の両方を下げます。画面はタイ語にし、選択肢を少なくして、作業者が迷わずに数秒で入力できることを優先します。

材料はMRPと併用する

製番専用品は、発注の時点で製番の入力を必須にします。共通部品は、MRPや発注点で在庫を持ち、払い出すときに製番を付けます。払出の記録が製番に付いていれば、共通部品を在庫で持っていても、製番別の材料費は集計できます。

外注は発注書に製番を必須にする

外注の発注書に製番を必須の項目として入れ、検収の時点で製番の原価に計上します。モデル工場Cのように月末に部門の経費としてまとめて計上していると、外注費の超過は締めの後にしか見えません。外注先の請求書が届くのを待たずに、検収の時点で製番に付けることが要点です。

設計変更は枝番でPLMやCADとつなぐ

設計変更は、PLMやCADの側の変更番号と、製番の枝番を紐付けます。変更後の工数や材料が枝番に集計されれば、追加請求の根拠と、見積の精度の改善の両方に使えます。具体的な連携の方法は、設計変更のPLM・ERP連携の記事で詳しく扱っています。

会計とは補助科目か原価センタでつなぐ

会計システムとは、製番を補助科目または原価センタとして連携し、月次で製番別の仕掛品残高(WIP)を出せるようにします。製番別の仕掛品残高の合計が、会計の仕掛品勘定と一致することが、製番別原価が信頼できることの確認になります。原価管理の仕組み全体については、原価管理システムの記事を参照してください。

見える化と、権限・監査

製番ごとの見積と実績の比較、進捗、粗利の見込みは、週次で見られるようにします。現場の進捗を画面に表示する方法は、生産進捗モニタの記事が参考になります。

また、見積原価や契約額の変更は承認制にして、変更の履歴を残します。見積原価を後から書き換えられると、見積と実績の差異が意味を失うためです。親会社や監査人に案件別の損益や進捗度の根拠を説明するときにも、この履歴が必要になります。

なお、パッケージ製品を使うか、自社向けに作り込むかの判断については、スクラッチかパッケージかの記事で整理しています。

製番管理システム導入のRFPと受入試験

この節は外部の統計や公的なガイドラインに基づくものではなく、TOMAS TECHの実務の経験からの整理です。

RFPに書く項目

製番管理システムの提案依頼書(RFP)には、少なくとも次の項目を書いておくと、ベンダーの提案を比べやすくなります。

項目書く内容の例
製番の規模年間の製番数と、同時に進行している製番の数
採番のルール製番の桁構成と、枝番の用途(追加工事、設計変更、再製作)
工数入力の方式端末の種類と台数、入力する人数、画面の言語(タイ語、日本語、英語)
部品の構成製番専用品と共通部品のおおよその比率、MRPとの併用の有無
外注外注先の数と、外注工程の種類
会計との連携連携する会計システムと、補助科目か原価センタかの方式
移行の範囲既存のExcel受注台帳から移す製番の範囲(進行中のみか、過去分も含めるか)
月次の帳票製番別の損益、製番別の仕掛品残高など、月次で出したい帳票

受入試験の判定基準の例

受入試験(FATやSAT)では、機能の有無ではなく「製番に付かない入力ができない(または警告が出る)」ことを確かめます。次の判定基準は、モデルとして示すものです。

試験の内容判定基準(モデル)
製番の必須化製番を入れずに発注、工数入力、外注発注ができない、または警告が出る
工数の整合1か月の並行運用で、システムの工数の合計と勤怠の総労働時間の差が±2%以内
設計変更の集計設計変更を枝番で登録すると、変更後の工数と材料がその枝番に集計される
会計との一致月末に、製番別の実際原価と仕掛品残高が会計の仕掛品勘定と一致する(差異は理由付きで説明できる)
変更の統制見積原価と契約額の変更に、承認と履歴が残る

導入で失敗しやすいポイントは、生産管理システム導入の失敗の記事にもまとめています。

製番管理システム導入の90日の進め方

最後に、モデル工場Cを例に、90日の進め方を示します。

0〜30日:ルールを決めて棚卸する

製番の採番ルールと、12項目の定義を決めます。あわせて、今進行している製番を棚卸し、それぞれの見積、発注済みの材料と外注、ここまでの工数の状況を把握します。間接コードの一覧もこの段階で作ります。

31〜60日:2工程から工数スキャンを始める

組立と調整の2工程から、工数のスキャン入力を始めます。どちらも工数の超過が出やすく、製番ごとの差が大きい工程です。作業者への説明はタイ語で行い、なぜ製番を入力するのかを、評価のためではなく、見積を正しくするためだと伝えます。同時に、外注の発注で製番を必須にし、週次で工数の紐付け率を確認します。

61〜90日:全工程に広げ、会計と照合する

全工程に工数スキャンを広げます。月次で製番別の損益と仕掛品残高を出し、会計と照合します。見積と実績の差異をレビューする会議を始め、差異の大きい製番について、原因を工数の内訳まで遡って確認します。

90日後の目標

モデル工場Cの目標設定は、工数の製番紐付け率85%、記録なし・不明0%、月次の締めの後5営業日以内に製番別の損益を提示することです。これはモデル工場の目標であり、どの工場でも同じ期間で達成できると約束するものではありません。

よくある質問(FAQ)

製番管理とは何ですか?ロット管理やMRPとどう違いますか?

製番管理は、受注ごとに製番と呼ばれる管理番号を付け、その製品に関する加工や組立の指示、材料、工数、外注を同じ番号で管理する方式です。MRPは品番の単位で所要量を計算し、共通部品の在庫を製品の間で共有します。製番管理は受注ごとに番号を付け、製品の間で在庫を共有しません。ロット管理は、同じ条件でまとめて作った製品の単位で品質や履歴を追う考え方で、受注の単位で原価を追う製番管理とは目的が異なります。

製番管理とMRPはどちらを選ぶべきですか?併用できますか?

どちらが優れているかではなく、受注ごとの専用品と共通部品の比率で考えます。個別受注生産の多くの工場では、製番専用品は製番管理、共通部品はMRPや発注点で在庫を持ち、払い出すときに製番に付ける併用が現実的です。

個別受注生産の原価管理で、工数はどうやって製番に紐付けますか?

作業の開始と終了の時点で、作業指示書のバーコードやQRコードをタブレットやスマートフォンで読み取り、製番と工程を記録する方法が基本です。紙の日報から月末に転記する方式では、紐付け率と精度の両方が下がります。画面はタイ語にし、入力を数秒で終わるようにすることが定着の条件です。

間接作業や段取りの時間も製番に付けるべきですか?

無理に製番に付ける必要はありません。段取り、清掃、教育、会議などは間接コードで正直に記録します。間接作業を製番に押し込むと、その日に作業していた案件の原価がふくらみ、案件別の原価がゆがみます。目指すのは、記録なし・不明の時間をなくすことです。

製番別原価は、進捗度による売上計上(原価比例)に使えますか?

一般論として、IFRS 15では、一定期間にわたって収益を認識する場合、発生したコストに基づくインプット法で進捗度を測ることができ、製番別の実際原価はその土台になりえます。ただし、手直しなどの重大な非効率のコストや、据付前の購入品のコストは調整が必要になる場合があります。タイでは、非上場の企業の多くがTFRS for NPAEsを使う可能性があり、どの基準が適用されるかは会社によって異なります。自社の契約が一定期間にわたる収益認識に当たるか、どの方法で測るかは、必ず監査法人や会計士に個別に確認してください。

製番管理システムの導入期間と進め方は?

本記事のモデルでは、90日を3段階に分けています。最初の30日で採番ルールと12項目を決めて進行中の製番を棚卸し、次の30日で組立と調整の2工程から工数スキャンを始め、最後の30日で全工程に広げて会計と照合します。実際の期間は、製番の数、会計システムとの連携の方式、移行する範囲によって変わります。

まとめ

製番管理システムの導入は、受注に番号を振ることではありません。材料、外注、工数という3つの実際原価と進捗を、その番号に発生した時点で付ける仕組みを作ることであり、成否は、現場の誰が、どの瞬間に、どの製番を入力するかで決まります。

本記事のモデル工場Cでは、製番C-2604の原価が見積より290,000バーツ超過し、粗利は20%から約10%に下がりました。そのうち230,000バーツ(約79%)は、外注費と労務費の超過で、締めの後にしか見えませんでした。工場全体では、月9,600時間の直接作業時間のうち1,920時間が記録なし・不明で、1,152,000バーツの労務費がどの案件の原価にもなっていませんでした。原価比例で進捗度を測る案件では、400,000バーツの原価の漏れが500,000バーツの売上の過小計上につながります。

設備の更新と自動化への投資が続く一方で、原材料高と景況感の悪化が重なる今、受注側にとって、1件ごとの採算を早く知ることの価値は高まっていると考えます。まずは今ある受注台帳と日報を、本記事の12項目と照らし合わせるところから始めてください。

TOMAS TECHでは、今の受注台帳と日報のまま、まず1工程だけ工数を製番に付けてみる段階からでも、ご相談を承っています。案件ごとの原価や進捗の把握でお困りの方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考情報