ロボットツールチェンジャーの選定では、「何kgを持てるか」だけで仕様を決めると、段取り替え時の停止、姿勢による過負荷、エアや信号の接続不良を見落としやすくなります。タイの工場で複数のワークや工程を一台のロボットに担当させるなら、交換方式、ロボット側とツール側の構成、荷重とモーメント、媒体の受け渡し、ロック監視、ツールスタンド、受入試験を一体で検討する必要があります。本稿は調達担当と設備技術者が同じ仕様書を見て比較できるよう、要求定義からFAT・SATまでを整理します。
ロボットツールチェンジャーとは何か:ハンド選定との違い
ツールチェンジャーはロボットのフランジとエンドエフェクタの間に入る着脱インターフェースです。一般にロボット側のマスターと、各ツールに取り付けるツール側のプレートで構成します。SCHUNKの製品分類もこの二つの側を分け、手動式と自動式を扱っています。チェンジャーが接続する相手はグリッパーに限りません。吸着ハンド、検査ヘッド、ねじ締め機、塗布ノズル、研磨工具なども候補です。導入の狙いは、ワークごとに専用設備を増やす前に、一つのロボットが複数の作業を受け持てるか検討することです。
一方、ロボットハンド・グリッパーの選定は、ワークをどう保持するかが中心です。本稿では「保持する道具をどう安全に付け替え、電気・空気・信号をどう接続し、次のツールとして正しく認識するか」を扱います。グリッパーの把持力が十分でも、交換インターフェースが工具質量やモーメントに耐えられなければシステムとして成立しません。逆にチェンジャーが大きすぎると、ロボットの残り可搬質量、先端の到達範囲、スタンド配置に影響します。
タイ工場では品種切替の頻度、担当シフト、保守部品の入手経路、現地で使う言語の手順書が判断材料です。これはタイ固有の法規を示すものではなく、現場条件を購買仕様へ翻訳するための視点です。現状の切替手順と停止理由を観察し、「手動で交換する方が簡潔なのか」「無人で交換する必要があるのか」を先に決めます。チェンジャーの単価だけでなく、工具ごとのツール側部品、スタンド、配線、制御、試験、予備品を含む構成で比較します。
最初に交換シナリオを固定する
選定前に、どの製品からどの製品へ、何の工具を何回替えるのかを工程表にします。製品Aは機械投入に平行グリッパー、製品Bは箱移載に吸着ハンド、製品Cは外観検査にカメラという場合、必要な工具は三つです。ただし「三つの工具を同じ日に使う」のか「週ごとに一つを交換する」のかで必要な自動化は違います。セル内に工具を保管するスペース、交換姿勢へ到達できるロボット経路、作業員が安全に入れるタイミングを合わせて記録します。
交換シナリオには、通常の生産以外も含めます。始業前の工具取付け、段取り変更、工具清掃、異常停止後の再開、エア供給喪失、誤ったスタンド位置、工具が載っていない状態などです。どの状態でロボットが移動を許されるか、どの状態で人が復旧するかを決めておくと、後からセンサーやPLCの信号点数を追加する手戻りを減らせます。交換を自動化したい理由が、実測した段取り時間なのか、無人運転の要求なのか、危険区域への立入り回数なのかも明記します。理由が曖昧なまま高速交換を要求すると、設備は複雑になっても投資判断が難しくなります。
交換の前後でロボットのTCP、工具重量、慣性、I/Oマッピング、速度制限、干渉領域が変わる場合があります。「機械的に装着できた」だけでは工程を始められません。工具IDを読んだ後に対応するプログラムと検査条件へ切り替える設計が必要です。検査ヘッドの治具座標と吸着ハンドの座標を取り違えると、良品判定や搬送位置が崩れます。工程表には装着工具、許可プログラム、必要媒体、確認するセンサーをセットで載せます。
手動式と自動式のロボットツールチェンジャーを比較する
手動式は作業員が停止・隔離された条件で工具を交換します。多品種でも交換がまれで、セルへのアクセスが簡単なら検討しやすい方式です。OnRobotのQuick Changerは特定製品としてネジを使わない手動交換を訴求していますが、その製品ページの交換時間を一般の手動チェンジャー全体の性能として扱ってはいけません。候補品ごとに、工具を保持する手順、二次落下防止、エア・電源の切離し、接続後の確認動作を確認します。人手で行う作業が短くても、設備停止から再起動までの総時間を測る必要があります。
自動式はロボットがツールスタンドへ移動し、ロックとアンロックを制御して交換します。段取り変更をプログラムに組み込み、複数工具を一つのセルで順に使う場合に適します。SCHUNKは空圧式や電動式など複数の系列を示しており、方式によって供給条件と停電・エア喪失時の挙動は異なります。自動式を選ぶ場合は、ロボットがスタンドへ進入する経路、工具が正しく座った確認、アンロックの許可条件、ロック完了と工具在席の確認を要求に含めます。工具そのものが置かれていないときや途中で動いたときの回復手順まで設計します。
| 比較項目 | 手動式 | 自動式で追加確認すること |
|---|---|---|
| 交換契機 | 作業員が停止後に交換 | 生産指令・工程順に応じて交換 |
| 人の介入 | 通常交換で必要 | 異常復旧時に必要となる可能性 |
| ツールスタンド | 保管位置と安全な持上げ | 精度、固定、在席検知、進入経路 |
| 制御 | 装着確認と誤工具防止 | ロック指令、状態監視、工具ID、異常遷移 |
| 費用範囲 | 本体、工具側、作業手順 | 上記にスタンド、I/O、教示、試験を追加 |
「自動の方が優秀」と決めるのではなく、交換回数と実際に削減できる停止を比べます。作業員が一日に一度だけ交換するセルと、ロボットが一サイクル中に工具を替えるセルでは投資対象が違います。後から自動式へ切り替える余地を残したい場合も、今の仕様に自動式の全費用を載せる必要はありません。現時点で必要な能力と将来の拡張条件を分けてRFPに記載します。

ロボット側・ツール側とフランジを照合する
見積書に「チェンジャー一式」とだけ書かれていると、ロボット側一個とツール側一個の構成なのか、複数工具分のツール側が含まれるのか分かりません。工具が三種類なら通常は各工具の接続部を個別に見積もる必要があります。さらに媒体モジュール、電気コネクタ、工具側配線、工具スタンド、取付けアダプタが別構成になる場合があります。BOMでは品番、数量、取付け先、予備品の対象を一行ずつ明示します。異なるツール側で互換性を確保できる範囲もメーカーへ確認します。
ロボットの手首フランジ寸法は、カタログの「対応ロボット」だけで済ませず、穴径、ピッチ円、ねじ、位置決め、突起、取り付け面を図面で照合します。ISO 9409-1は産業用マニピュレータの機械的インターフェースのプレートを扱う規格です。ただし同じ規格系列の表示があっても、工具側の高さや配線出口まで自動的に一致するわけではありません。SCHUNKのサイトでもフランジ表示を機械的取付けに使い、ロボット側とツール側を区別しています。必要ならアダプタの厚みと質量を積算に入れます。
取付け面の公差、ボルトの締結管理、配管の取り回し、ケーブルの曲げ半径は設備図面で決めます。実機では「装着できるが配線が干渉する」という問題が起こりえます。スタンドに置いた状態の工具、マスターが近づく途中、装着後の全姿勢をCADと現場で確認します。交換位置だけのクリアランスでは足りません。交換後に工具を最も伸ばして使用する姿勢も、周辺設備との干渉確認の対象です。
可搬質量だけでなく重心・モーメントを評価する
ATIの選定ガイドは、可搬質量を出発点としながらも、適切なチェンジャーの選定にはモーメント容量が特に重要だと説明しています。重い工具を短く持つ場合と、同じ質量を長い治具の先に付ける場合では、チェンジャーへ加わる曲げ負荷が違います。調達表には最大工具質量だけでなく、工具・ワーク・アダプタ・ケーブルを含む構成ごとの質量、重心位置、チェンジャー面から重心までの距離を記載します。どの姿勢と加減速が最も厳しいかもロボットメーカーの仕様に合わせて確認します。
簡易な静的検討では、重力方向に対して片持ちとなる質量と距離からモーメントの概算を作れます。ただしそれは採否を単独で決める計算ではありません。加速、減速、衝突回避動作、工具の回転、偏荷重、ワークをつかんだ状態を含む負荷はメーカーへ提示し、許容値と評価方法を照合します。ATIの特定機種ページには可搬質量と軸ごとの静的モーメント容量が別々に掲示されています。この区別を仕様比較表でも維持してください。製品ページの値を他機種や別姿勢へ一般化しないことが重要です。
ロボット側も同時に検討します。チェンジャー本体とアダプタの質量が先端に加わるため、元のロボット可搬質量に工具質量をそのまま割り当てることはできません。工具を複数持つ場合、最も重い工具だけでなく、最も重心が遠い工具を別に抽出します。工具の交換によりTCPと慣性設定が変わるなら、正しい工具IDを認識しない限り生産速度に移行しない制御を求めます。見積段階で質量と重心が未確定なら「現物測定後に最終採否」と明記し、過小なモデルを仮決定しないでください。
空気・電力・信号・流体の受け渡しを設計する
チェンジャーは機械的に結合するだけでは完結しません。空圧グリッパーには供給エア、真空ハンドには真空とブロー、検査ヘッドには電源とデータ、塗布工具には流体などが必要です。ATIの選定ページはエア、水、電力、電気信号用のモジュールを挙げています。実際に選べる組合せはチェンジャーのモデルとモジュール配置で異なるため、各工具の媒体一覧を作ってから候補モデルと突き合わせます。
媒体表には、媒体の種類、必要なポート数、圧力または電気定格、信号点数、通信方式、コネクタ形式、工具側とロボット側の線番、接続・切断時の状態を記載します。配管の口径だけでなく、圧力低下で把持力が足りなくならないか、排気をどこへ逃がすかも検討します。電力と信号は、交換時のアークや誤接続を避けるため、メーカーの指定する通電・遮断順序を確認します。流体を扱う場合は、切離し時の残液、シール、汚染、清掃の手順を別に定義します。
工具IDは単なる表示ではありません。「この工具を装着したとき、このレシピだけを許可する」という制御条件にします。媒体接続が完了していないのにロボットが動く、別工具のI/Oを読んで正常と誤判定する、といった状態を防ぐためです。工具を交換した後の初回動作では、ID、ロック、圧力、必要な通信、工具在席の整合を検証します。複数メーカーの工具を併用する場合は、ツール側アダプタと配線ハーネスの責任分界を明示します。設備メーカー、ロボットSI、工具メーカーのどこが最後の接続試験を実施するか、契約で決めておきます。

ロック・アンロックと安全な異常時動作
自動交換で最も避けたいのは、工具が保持されていないのにロボットが運転を続ける状態です。ATIのQC-29製品ページは、ロック・アンロック状態の検知、工具スタンドとの連動に使う制御モジュール、フェイルセーフのロック機構を示しています。SCHUNKのCPSシリーズは、圧縮空気喪失時の自己保持機能を説明しています。これらは特定製品の記載であり、どのチェンジャーでも同じ条件で保持されるという意味ではありません。候補機種ごとに、エア断、電源断、センサー故障、途中停止の保持状態をメーカー文書で確認します。
制御シーケンスは「ロック指令を出した」ではなく「ロック完了を検出した」ことを進行条件にします。さらに、ツールがスタンドで支持されるまではアンロックを許さない、工具を取得する動作では工具が存在することを確認し、返却する動作では指定スタンドが空で支持できることを確認する、工具を持ったまま誤ったプログラムを開始しない、という状態遷移を定義します。必要なセンサーが一つ故障したときに危険側へ遷移しないかも評価します。安全回路、保護停止、復旧方法はロボットセル全体のリスクアセスメントに従い、チェンジャー単体の機能だけで安全を保証したとは考えません。
停止後の復旧では、画面表示と実際の機械状態が一致しているか確認する手順が必要です。工具が中途半端に掛かった状態、ロボットとスタンドの双方が工具を支えている状態、残圧のある状態では、通常の自動シーケンスを繰り返すだけで問題が拡大する場合があります。手動復旧の権限、隔離、支持方法、点検項目を作業標準に落とします。保守担当者が状態を目視・センサー・ログで区別できるよう、HMIにはロック、工具ID、スタンド在席、媒体準備の個別状態を表示する設計が有効です。
ツールスタンドと交換位置を設備として設計する
自動式のスタンドは単なる棚ではありません。工具を決まった姿勢で支持し、ロボットが安全に接近できる位置へ保持する設備です。ATIのQC-29ページにはスタンド用の取付け例や近接センサーの選択肢が掲載されています。各工具の重心と突出部、配線や配管の出口、清掃やチップの落下方向、作業員の通路を考慮して配置します。工具を置いた状態でワーク搬送経路を妨げないかも確認します。
スタンドの固定剛性や位置再現性が不足すると、ロボットの教示点が同じでもマスターが正しくかみ合いません。工具の受け部が摩耗・変形した際に調整できる構造、誤った向きに置けない形状、在席検知、清掃可能な面、衝突時の点検手順を見積仕様へ含めます。複数の工具を密に並べるなら、ロボットの手首、追加モジュール、ケーブルが隣の工具に触れない離隔を図面で確認します。正面の平面図だけでなく、接近・離脱の軌跡を含む3Dの到達・干渉チェックが必要です。
タイ工場の高温、多湿、粉じん、油分などは工場ごとに異なります。保管場所と交換面が曝される実環境を設備調査で確認し、保護カバーや清掃周期を決めます。製品の一般カタログに耐環境性が記載されていても、スタンドの設置場所にある洗浄剤や切削液への適合まで意味するとは限りません。工具交換面の異物は接続不良や位置再現性に影響するため、停止時の簡単な点検方法を作っておくと運用しやすくなります。
タイ工場のRFPに書くべきインターフェース仕様
RFPでは「ロボットツールチェンジャー一式、適合品」とだけ書かず、メーカーが同じ条件で見積もれる入力を渡します。最低限、ロボット型式とフランジ図、工具ごとの質量・重心・TCP・ワーク質量、交換回数と自動化要否、媒体表、セルレイアウト、スタンド位置、必要な信号、制御責任分界、必要な試験を添付します。未確定値は空欄で放置せず、「現物確認」「設計後承認」などのゲートを指定します。サプライヤーには採用機種ごとの許容値と、こちらの最大条件との比較表を提出してもらいます。
| RFPの欄 | 記入する内容 | サプライヤーの回答で確認すること |
|---|---|---|
| 工具一覧 | 工具名、用途、質量、重心、媒体 | 工具側部品の数量と互換性 |
| ロボット接続 | 型式、フランジ図、アダプタ制約 | 取付図、質量、高さ、締結方法 |
| 荷重条件 | 工具+ワーク、姿勢、加減速 | 可搬と軸別モーメントの照合 |
| 媒体 | エア、真空、電源、通信、流体 | モジュール構成、線番、遮断順序 |
| 交換位置 | スタンド図、到達経路、干渉 | 配置図、在席検知、調整方法 |
| 安全・制御 | ロック、ID、異常、復旧 | シーケンス図、I/O表、リスク評価 |
| 受入 | FAT、SAT、資料、教育 | 試験手順と合否基準 |
費用比較では本体価格だけを横並びにしません。工具側プレートの個数、媒体モジュール、アダプタ、スタンド、追加I/O、配線、制御変更、ロボットの再教示、FAT・SAT、現地立上げ、予備部品を同じ範囲に揃えます。価格の前提が異なる見積を単純比較すると、安い見積の後で追加工事が発生します。納期も、本体納期と統合・検証・現場停止可能日を分けて確認します。保守面ではシールや接点の交換手順、現地調達可能性、故障時の代替機、モデル変更時の互換性を質問します。
既設ロボットへ後付けする場合の調査順序
新設セルではロボット、工具、スタンドを同時に設計できますが、既設ロボットへの後付けでは制約が先に存在します。まずロボットの型式、コントローラ、手首フランジ、残りのI/O、空圧源、電源、可搬質量設定、現在のTCPを確認します。続いて既存工具の重量と重心を実測し、図面があれば現物との差を記録します。工具のケーブルやホースがロボットアームの途中に固定されているなら、チェンジャーで切り離す区間と固定したまま残す区間を分けます。工具側で簡単に抜けないコネクタを後から媒体モジュールへ置き換えるには、配線設計と停止時間が必要です。
次に、スタンドを置く空間とロボットの到達可能な姿勢を確認します。現状セルのガード、搬送機、ワーク供給、清掃通路との関係で、スタンドをロボットの手前に置くだけでは交換姿勢が取れない場合があります。設備を停止できる日と試運転できる品種も早めに押さえます。後付け工事の見積では、部品代より配線変更、制御変更、再教示、品質再確認が大きな工程になることがあります。見積書には「既存プログラムのバックアップ」「改造前後の復旧手順」「不具合時に元構成へ戻す判断」を含めます。
後付け前に、既存ロボットが複数工具に十分な性能を持つかも再確認します。チェンジャーの厚みでTCPが外へ伸びると、届く場所が増える一方、周辺への干渉やモーメントは厳しくなります。工具交換の追加で配線が長くなり、通信やエアの余裕が減る可能性もあります。既設セルの能力不足をチェンジャーの選択だけで解決しようとせず、ロボット、工具、治具の条件を一緒に再評価します。
見積比較を公正にするための質問集
複数社の提案を比べるときは、同じ入力表を渡したうえで、採用モデルと除外範囲を回答してもらいます。「この機種は最大質量を満たすか」だけでなく、「最も厳しい工具のモーメントをどの姿勢で評価したか」「ロボット手首とチェンジャーの間に必要なアダプタは何か」「各工具にどの媒体モジュールが付くか」「将来工具を増やすときに交換できる部品は何か」を質問します。回答にはカタログのURLだけでなく、今回のアプリケーションに対する計算と図面を添付してもらいます。
ロック機構については、供給エアまたは電力が突然失われた場合の保持条件、再起動の条件、手動解除の手順を確認します。センサーはロックとアンロックを別々に検知するのか、工具の在席をどこで見るのか、故障時の診断方法は何かを尋ねます。ツールスタンドについては、工具の重心に合わせた支持方法、据付け基準、位置調整、在席検知、清掃・交換できる消耗品を求めます。サプライヤーが標準品で対応できない要求は、特注範囲と試験責任を明示してもらいます。
見積の比較表には、価格、納期、保守供給に加え、未回答項目を残します。例えば「ロボット側一式、工具側三式」と書いてあっても、エアの接続モジュールが一式しか入っていなければ工具三種類は運用できません。曖昧な項目を価格差として解釈せず、同じBOMと同じ受入条件に揃えてから評価します。現場の保守員が読める言語の手順書、現地での初期教育、トラブル時の連絡経路も契約範囲に含めると、導入後の停止を短くできます。
FAT・SATで交換機能を受け入れる
FATは出荷前の組立・制御確認、SATは現地の実環境での確認と位置付けます。受入条件は契約前に合意します。良品の工具を一度装着できただけでは不十分です。すべての工具について、所定のスタンドから取得し、工具IDとロックを認識し、媒体が接続し、工程プログラムが一致し、元のスタンドへ戻せることを試します。異なる工具を要求した場合に運転が始まらないことも確認します。
FATでは工具の質量・重心の記録、フランジ・アダプタの図面照合、ロック・アンロックの信号、スタンド在席、通信断、圧力低下、電源再投入時の状態を試験表に入れます。工具を支えない状態でアンロック指令が拒否されるか、工具IDが不明な場合に生産プログラムが止まるかを確認します。再現できない危険事象を無理に起こすのではなく、試験方法と安全対策を事前に合意します。合否は「目視で問題なし」ではなく、信号状態、ログ、ワーク品質、停止と復旧の記録で残します。
SATではタイ工場の実配管・実電源・周辺設備を接続し、ワークと工具の最も厳しい組合せで確認します。スタンドへの進入経路、実際のケーブル曲げ、粉じんや油への曝露、作業員の動線を現場で見ます。工具交換後にTCPが意図どおり切り替わるか、品質検査やトレーサビリティのレシピと整合するかも確認します。協働ロボット導入の現場確認項目も、協働セルで人とロボットの作業を組み合わせる場合の参考になります。協働ロボットであることだけを理由に、工具交換時の危険源確認を省かないでください。

よくある見積・導入の失敗と回避策
一つ目は、可搬質量だけで機種を選び、長い工具のモーメントを見落とすことです。最大質量と最大モーメントの工具が異なる場合もあるため、工具ごとに両方を一覧化します。二つ目は、見積にツール側や媒体モジュールが必要数入っていないことです。BOMを工具ごとに展開し、予備品を含むかを明示します。三つ目は、ロック信号を一つの「交換完了」信号にまとめてしまうことです。異常復旧に必要な状態が見えなくなるので、ロック、工具ID、スタンド在席、媒体準備を個別に監視します。
四つ目は、スタンドをレイアウトの余白に置き、ロボット経路や保守通路と衝突することです。CAD上の単一点でなく、接近と離脱の動作を確認します。五つ目は、交換時間だけを設備効果とみなし、停止・工具確認・初回品検査を含めないことです。現状と導入後を同じ測定境界で比較します。六つ目は、工具の追加時にプログラムとI/Oを更新する責任者が決まっていないことです。導入後の変更管理を設備引渡し資料に含める必要があります。
別の失敗は、安全機能について「フェイルセーフ」と書かれたカタログ文をセル全体の安全保証と取り違えることです。その機能がどの故障を想定し、どの条件で保持するのかを該当モデルのマニュアルで確認します。リスク評価で必要な保護方策は別途設計します。ロボット制御、PLC、チェンジャー、工具、スタンドの境界で信号と責任が抜けないよう、インターフェース表を契約書の一部として管理することが実務的です。
導入効果を測るための指標
導入前後の比較では、チェンジャー単体の交換動作時間だけに注目しません。生産停止開始から初回良品までの時間、品種変更に必要な人員、工具の誤装着件数、交換後の再調整、異常復旧時間を測ります。少量多品種の工場では、変更が頻繁でも実際の工具交換は少ないことがあります。その場合は、治具段取りやレシピ切替が主要な停止要因かもしれません。逆に一つの製品内で複数工程を切り替えるなら、工具交換の自動化が工程設計の中心になります。
現状値は可能なら製品とシフトを分けて記録します。設備停止が工具交換のためか、ワーク供給待ちか、検査調整かを区別しなければ、投資後に効果を説明しにくくなります。試運転では同じ測定条件を使い、工程の品質が維持されたかも確認します。交換速度だけ上がっても、工具位置のばらつきが増えたり、初回品の検査が長引いたりすれば、総停止時間は改善しません。予備品と保守工数も一定期間追跡し、次のセルへの標準化に反映します。
まとめ:仕様書の中心は「交換後に正しい工程へ戻れること」
ロボットツールチェンジャーの選定は、可搬質量、モーメント、フランジ、媒体モジュール、ロック監視、工具ID、スタンド、制御、受入試験を一つのシステムとして見積もる作業です。手動式と自動式は交換頻度と無人運転の要件から選び、メーカー固有の性能値を他機種に当てはめないようにします。タイ工場の調達では、現場の工具一覧と停止実績をRFPへ落とし、サプライヤー間の見積範囲を揃えることが出発点です。
工具構成やロボット型式が固まりきっていない段階でも、TOMAS TECHへのお問い合わせで、現在の段取り、候補工具、既存セルの制約をご相談いただけます。交換方式の比較やRFP・FAT/SATの確認項目を、現場条件に合わせて整理します。
よくある質問
ロボットツールチェンジャーは手動式と自動式のどちらを選ぶべきですか?
交換が少なく作業員が安全にアクセスできるなら、まず手動式の作業全体を測定します。工程中に複数工具を連続使用する、無人運転で切り替えるなどの要件があれば自動式を検討します。交換機構の時間だけでなく、停止から初回良品までの時間、スタンドと制御の費用、異常復旧も比較対象です。
可搬質量が足りれば、モーメントの計算は不要ですか?
不要ではありません。工具の重心がチェンジャー面から離れると曲げ負荷が増えます。工具とワークの質量、重心距離、姿勢、動作条件をメーカーへ提示し、該当モデルの軸別許容値と照合します。ロボット側の許容値も別に確認します。
工具を追加するときにツール側プレートだけ買えばよいですか?
工具側プレートに加え、媒体モジュール、配線・配管、アダプタ、保管スタンド、工具ID、ロボットプログラムと安全・品質確認が必要になる場合があります。追加工具のインターフェース表を既存設備と照合してから見積もります。
FATとSATでは何を分けて確認しますか?
FATでは出荷前に機械構成、信号、ロック、工具ID、異常遷移と試験記録を確認します。SATでは現場の実配管、電源、配置、実ワーク、作業員の動線、停止後の復旧を確認します。両方の合否基準を発注前に合意します。
参考情報・一次資料
- ATI Industrial Automation, Selecting a Tool Changer — 可搬質量、重心、静的モーメント、媒体モジュールの選定指針。
- ATI Industrial Automation, QC-29 — 特定モデルのロック検知、媒体モジュール、ツールスタンド例。
- SCHUNK, Tool Changer — 手動・自動、ロボット側・ツール側、フランジの区分。
- SCHUNK, CPS — 特定シリーズの空圧喪失時の自己保持機能。
- SMC, RMH Series — ロボットハンド周辺構成と交換方式の製品例。
- OnRobot, Quick Changer — 特定製品の手動交換方式。
- ISO, ISO 9409-1:2004 — 産業用ロボットの機械的インターフェース、プレート。