EU向けの機械・生産設備をタイやASEANで設計、製作、改造する企業にとって、EU 機械規則 2027への対応は、法令の条文を読むだけでは終わりません。Regulation (EU) 2023/1230は、2027年1月20日から義務的に適用されます。重要なのは、対象機械の適用判断、機械安全リスクアセスメント、制御安全の妥当性確認、技術文書、取扱説明書、適合性評価、CEマーキングまでを、設計審査・調達・FAT・SATのゲートに組み込むことです。
本稿では、タイ・ASEAN拠点でEU向け機械を扱う日系製造業の生産技術、制御設計、設備購買の担当者を対象に、「いつまでに、誰が、どの証拠を、どのゲートで揃えるか」を90日の実行計画へ落とします。個別案件の法的助言ではありません。最終的な適用判断、適合性評価手順、整合規格の採用は、最新のEU法令・官報を確認し、必要に応じてEUの認定機関、通知機関または専門家へ相談してください。
EU 機械規則 2027で最初に確認すべき適用日と対象
適用開始日は2027年1月20日
Regulation (EU) 2023/1230の現行統合版と欧州委員会の案内では、義務的な適用開始日は2027年1月20日です。初版資料に見られた1月14日ではなく、corrigendum反映後の日付で計画する必要があります。2027年1月20日より前にEU市場へ上市される機械は、原則として現行のMachinery Directive 2006/42/ECとの関係を確認し、同日以降に上市または使用開始される製品は新規則に基づく判断が必要です。
ここで日付だけを「出荷日」に置き換えないことが大切です。タイ工場から船積みする日、EU域内に到着する日、輸入者へ引き渡す日、最終顧客が使用開始する日が異なるためです。案件ごとに契約上の責任分界、Incoterms、輸入者、設置・試運転の主体を整理し、どのイベントがEU市場への上市または使用開始に当たるかを確認します。
タイ工場に置くだけなら直ちにEU法対象とは限らない
EU機械規則は、EU市場に上市される、またはEUで使用開始される機械や関連製品を中心に適用されます。したがって、機械をタイ国内の工場だけで使用し、EU市場へ供給しない場合、所在地だけを理由に直ちに同規則の対象になるとは限りません。一方で、次の案件は早期に適用性を確認すべきです。
- タイで完成させ、EUの顧客またはグループ会社へ輸出する専用機
- ASEANで部分組立し、EUで据付・統合・使用開始するライン
- 既存機を大幅に改造し、事実上の新しい機械としてEUで再使用する案件
- 機械単体、関連製品、部分完成機械、安全部品、交換可能装置などの区分が曖昧な案件
- AIを用いた安全機能、遠隔更新、ネットワーク接続された安全関連制御を含む案件
適用区分が違えば、宣言書、組立指示、技術文書、表示、適合性評価の手順も変わり得ます。「従来と同じ設備だから」という推測で進めず、製品境界と意図する用途を文書化してから判断します。
「実質的な改造(substantial modification)」の法定条件
新規則におけるsubstantial modificationは、単に「変更規模が大きい」という社内用語ではありません。上市または使用開始後に物理的またはデジタルな方法で行われ、元の製造者が予見または計画しておらず、安全に影響する変更であることが前提です。そのうえで、新しい危険源を生じさせる、または既存リスクを増加させ、かつ、既存の安全制御システムを変更するガードまたは保護装置の追加が必要になる場合、あるいは安定性または機械強度を確保するための追加保護措置が必要になる場合が法定定義に含まれます。
原則として、この定義に該当する実質的な改造を行う者は、新規則上の製造者とみなされ、変更によって影響を受ける部分について、製造者の関連義務と適合性評価を負います。ただしArticle 18第3段落には例外があり、non-professional user(非専門ユーザー)が自己所有する機械または関連製品を自己使用の目的で実質的に改造する場合、その者は製造者とはみなされません。個別の改造が該当するかは、変更仕様、元の製造者が計画した範囲、新規・増加リスク、安全制御や安定性・強度への影響、実施者と使用目的を証拠化して判断します。本稿はこの判断をEU市場アクセスの証跡へ落とすことに焦点を置き、一般的な設備改造の進め方は既存記事で補完します。
製造者、輸入者、販売者、システム統合者の役割を固定する
タイの設備メーカー、日本本社、EU側輸入者、エンドユーザー、ラインインテグレーターが関与する案件では、契約上の呼称と法令上の役割が一致しないことがあります。最初のゲートで、少なくとも次を責任分担表にします。
| 論点 | 主担当の例 | 必要な証跡 |
|---|---|---|
| 意図する用途・合理的に予見可能な誤使用 | 機械製造者+ユーザー | 使用条件書、工程仕様、禁止事項 |
| 適用法令・製品区分 | 製造者+EU側専門家 | 適用性メモ、法令リスト |
| リスクアセスメント | 機械・電気・制御設計 | ハザード一覧、リスク低減記録 |
| 安全関連制御 | 制御設計 | PLr根拠、アーキテクチャ、計算、検証 |
| 技術文書 | 文書責任者 | 図面、計算、試験記録、変更履歴 |
| 適合性評価・宣言 | 法令上の製造者 | 手順選択根拠、EU適合宣言書 |
| EU域内の連絡窓口 | 製造者・輸入者 | 契約、連絡情報、保管責任 |

Regulation (EU) 2023/1230の変更点を設計証拠へ変換する
技術文書と適合性評価は「納品時に集める資料」ではない
製造者には、適用する必須健康安全要求事項を満たす設計、適切な適合性評価、技術文書の作成・保持などが求められます。実務上の失敗は、設計完了後に文書担当が図面や試験結果を集め始めることです。安全方策の選択理由や設計変更前後の状態は、後から復元できない場合があります。
技術文書は、設計判断の履歴として作ります。最低限、機械の一般説明、全体図、制御回路図、リスクアセスメント、適用規格、設計計算、試験結果、取扱説明書、宣言書案、サプライヤー文書を同じ構成で管理します。各ファイルに機械ID、改訂番号、承認者、承認日を付け、BOM・ソフトウェア・図面の版がFAT対象機と一致するようにします。
デジタル取扱説明書は「PDFを置く」だけでは足りない
Article 10(7)に基づく法令要件として、デジタル取扱説明書はユーザーが印刷・ダウンロード・保存でき、製品の予想寿命の間、かつ上市後少なくとも10年間、オンラインで利用できる必要があります。購入時に紙の取扱説明書を請求された場合、製造者はその請求から1か月以内に無償で提供します。また、非専門ユーザー向けの機械または関連製品では、上市または使用開始の時点で、安全に使用し使用開始するために不可欠な情報(essential safety information)を紙で提供する必要があります。
ここからは当社が推奨する実務です。説明書の完成だけでなく、公開先URLの永続性、アクセス権、サーバー停止時の代替、改訂履歴、対象シリアル番号、言語、紙請求を1か月以内に処理する受付・発送フローをFAT前にテストします。QRコードだけを銘板に載せ、リンク切れやログイン障害がある状態を避け、essential safety informationの紙面とデジタル版の改訂を同期します。これらは法令文をそのまま転載した追加要件ではなく、Article 10(7)の要件を継続的に満たすための運用設計です。
安全関連制御とデータのcorruption protection
新規則では、コンプライアンスに関係するソフトウェア・データや安全制御システムに対する不正・偶発的な破損への保護が重要論点です。これは一般的なITセキュリティのチェックリストだけでは完了しません。安全機能に影響する設定値、PLCプログラム、安全PLCのロジック、ロボットの安全領域、速度制限、ユーザー権限、更新手順を特定し、変更が危険状態を生まないことを検証します。
実装候補には、役割別アクセス、変更履歴、承認済みバックアップ、署名またはハッシュによる整合性確認、保守端末の管理、遠隔接続の制限、復旧手順、更新後の再妥当性確認があります。ただし、具体策は機械のリスク、製品アーキテクチャ、適用規格により変わります。ISO 13849-1:2023は安全関連制御システムの設計・統合の方法論を提供しますが、サイバーセキュリティ対策の具体策そのものを規定する規格ではありません。機能安全とサイバー保護を別々の担当に分断せず、相互影響を同じ変更管理で扱います。
AI安全機能とsource code/programming logic
法令上は、Annex IIIが自己進化型の挙動・ロジックを持つ制御システムに関する必須健康安全要求事項(EHSR)を定め、該当する機械ではそれへの適合を設計とリスク低減で示します。またAnnex IV Part A(n)は、センサーから供給されるデータを用いる機械、遠隔駆動機械、自律機械について、該当する特性・性能・試験等を技術文書へ記載する枠を定めています。新規則のsource codeまたはprogramming logicに関する要求は、一般ソフトウェアや顧客への一律開示ではなく、安全関連ソフトウェアに限定して理解します。competent national authority(権限を有する国内当局)が、Annex IIIへの適合確認に必要として理由を付した要求を行う場合に、必要な範囲の情報を提出できる管理が必要です。
2026年7月27日統合版では、AI Actとの連動による別の時系列も区別が必要です。Annex Iに置かれる、機械学習手法により安全機能を確保する完全または部分的に自己進化する挙動を持つ安全部品等の特定カテゴリに関連して、high-risk AI system向けの委任要件は2028年8月2日までに適用される枠組みです。一方、機械規則自体は2027年1月20日から適用され、Annex IIIのEHSRとAnnex IV Part A(n)の技術文書要求は別々に評価します。2028年の日付を理由に、2027年案件のリスク評価と技術文書を先送りしてはいけません。
性能限界、データ前提、フォールバック、変更後の回帰試験を一律の法定記載項目と断定することは避けます。本記事では、該当するAnnex IIIのEHSRとAnnex IVの技術文書を実務で説明・検証しやすくするため、案件の機能とリスクに応じて、これらをRFPの提出物、設計レビュー、FAT/SATの追加証跡として定義することを推奨します。これは法令要件そのものと区別したプロジェクト管理上の提案です。
ISO 12100で機械安全リスクアセスメントを作り直す
ISO 12100:2010は現行だが改訂動向を追う
ISO 12100:2010は、機械設計における基本用語、リスクアセスメント、リスク低減の方法論を示します。ISO公式情報では2022年に確認され現行ですが、改訂作業が進んでいます。したがって、2026年に開始し2027年にEUへ上市する案件では、契約時点と設計凍結時点の双方で、最新版と整合規格としての引用状況を再確認します。
リスクアセスメントは危険源の一覧表ではありません。機械の制限を決め、ライフサイクル全体のタスクと人の介入を洗い出し、危険源を同定し、リスクを見積もり、評価し、低減し、残留リスクを説明する一連の設計プロセスです。
タイ工場で見落としやすいライフサイクル作業
EU顧客向け設備では、通常運転よりも非定常作業で重大な抜けが起きます。次の作業を、実際の作業者・保全担当・据付担当とレビューします。
- タイでの組立、配線、ティーチング、デバッグ
- 吊上げ、梱包、海上輸送、EU側での開梱と据付
- 自動運転、段取り替え、手動操作、ジャム除去
- ガード内調整、センサー位置合わせ、工具交換
- 清掃、潤滑、予防保全、故障診断、復旧
- ソフトウェア更新、レシピ変更、バックアップ復元
- 廃棄、解体、エネルギー遮断
各タスクについて、人、機械、ワーク、エネルギー、環境の境界を描きます。ロボットセルなら、ロボット本体だけでなく搬送コンベヤ、治具、扉、ライトカーテン、上位PLC、周辺設備とのインターフェースを含めます。詳しい設計観点は、タイ工場の産業用ロボット導入とISO 10218も参考になります。
3ステップのリスク低減を設計レビューに組み込む
対策は、まず本質的安全設計、次にガードや保護装置、最後に使用上の情報という順序で検討します。警告ラベルや取扱説明書を先に追加して終えるのではなく、危険動作をなくす、力や速度を下げる、アクセスを不要にする、危険区域と人を分離する設計余地を検討します。
リスク低減表には、対策前リスク、選択した方策、設計図面・回路・ソフトウェアの参照、検証方法、検証結果、対策後リスク、残留リスクの伝達先を記録します。対策が別の危険を作っていないかも評価します。たとえば、ガード追加で清掃が難しくなり、作業者がインターロックを無効化する動機を生まないかを確認します。
ISO 13849-1:2023と安全関連制御の証跡
PLrから検証結果まで一本のトレーサビリティを作る
ISO 13849-1:2023は、安全関連制御システムの安全関連部(SRP/CS)の設計・統合に関する方法論です。実務では、危険源と安全機能の対応、要求パフォーマンスレベル(PLr)の根拠、カテゴリ、MTTFD、DCavg、CCF、ソフトウェア、診断、達成PL、妥当性確認をつなぎます。
安全機能一覧には、少なくとも次を入れます。
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| Safety Function ID | SF-01 Guard Door Stop |
| 対象危険源 | 押しつぶし、切断、衝突 |
| 入力 | ガードロックスイッチ二系統 |
| 論理 | 安全PLC、承認済みFB |
| 出力 | STO、接触器、空圧排気弁 |
| PLr根拠 | リスクアセスメント行への参照 |
| 応答時間 | 検知から危険動作停止まで |
| 診断・故障反応 | 断線、短絡、出力溶着時の挙動 |
| 検証証拠 | 計算ファイル、試験票、ログ |
部品証明書を集めただけでは、システムとしての安全機能が成立するとは限りません。センサーからアクチュエーターまでの境界、停止時間、停止距離、配線診断、再起動防止、故障時の状態を実機で確認します。安全PLCプログラムの変更後には、影響を受ける安全機能の回帰試験を行います。

CEマーキング 機械対応をRFPと購買条件へ入れる
「CE対応一式」では責任と成果物が曖昧
設備RFPに「CE対応」とだけ書くと、サプライヤーは部品のCEマーク、電気図面、宣言書のどこまでを含むか判断できません。購買仕様では、適用法令の最終判断主体を明記したうえで、提出物、版、提出時期、レビュー・修正責任、言語、ファイル形式、FAT合格条件を定義します。
RFPへ入れる成果物チェックリスト
- 製品区分と機械境界の提案
- 適用法令・規格リストと版管理
- ISO 12100に基づくリスクアセスメント
- 必須健康安全要求事項との対応表
- 機械、電気、空圧、油圧、制御図面
- 安全機能一覧、PLr根拠、計算・検証資料
- 安全関連ソフトウェアの版、バックアップ、変更履歴
- 部品の適合宣言・組込宣言・証明資料
- 試験計画、FAT記録、未完項目リスト
- 使用国言語の取扱説明書と保守情報
- EU適合宣言書案、表示・銘板案
- 出荷後の技術文書保管、更新、当局要求への対応方法
サプライヤーの選定では「認証書を出せるか」だけでなく、リスク低減の理由を図面と試験結果で説明できるかを見ます。欧州委員会は、EU法上の通知機関として行動していない組織が発行する任意証明書を、法令適合の証明と誤認しないよう注意喚起しています。必要な場合はNANDOで通知機関の指定範囲を確認します。
FAT前の設計凍結条件を決める
FAT当日に未完成の安全回路を初めて確認しても、機械構造や制御アーキテクチャを変える時間がありません。RFP段階で次のゲートを置きます。
- G0 要求定義:用途、能力、材料、人の介入、EU納入国を確定
- G1 適用性:法令、製品区分、経済事業者、評価手順を仮決定
- G2 安全コンセプト:機械境界、危険源、主要安全方策、PLrを承認
- G3 詳細設計:回路、ガード、停止距離、ソフトウェア、説明書構成を承認
- G4 FAT Ready:技術文書索引と試験手順が揃い、版が一致
- G5 FAT:安全機能と残留リスクを実機で検証
- G6 出荷:未完項目の閉鎖、宣言書・表示・説明書を承認
- G7 SAT:据付後の変更、インターフェース、停止距離、受入条件を再確認
タイ工場の電気設計アウトソーシングでは図面・I/O・変更管理の引継ぎを、タイ工場の設備改造では既存設備の変更影響を整理しています。EU向け案件では、これらを機械安全の証跡体系に結び付けます。
FAT/SATで「合格」を証明する試験項目
FATは動作デモではなく要求と証拠の照合
FATでは、各試験項目に要求ID、安全機能ID、図面番号、ソフトウェア版、期待結果、実測値、合否、是正責任者を紐付けます。動画だけ、チェックマークだけでは、後から何をどの条件で確認したか説明できません。
確認例は次の通りです。
- 非常停止、ガード扉、ライトカーテン、両手操作の単独・複合動作
- 停電、エア圧低下、通信断、センサー断線、接触器溶着を模擬した故障反応
- 停止時間の測定と安全距離計算との整合
- 手動、保守、ティーチング各モードの速度・保持操作・権限制御
- 安全機能作動後の自動再起動防止
- ネットワークや保守端末からの未承認設定変更の防止
- バックアップ復元後に承認版へ戻ること、ログが残ること
- 取扱説明書の危険区域、残留リスク、点検周期と実機の一致
SATは据付後の差分を閉じる
輸送、据付、顧客側ユーティリティ、上位システム接続、周辺機器との統合により、FAT時とリスクが変わります。SATではFATを繰り返すだけでなく、差分リストを起点にします。変更されたガード、ケーブル、PLC接続、床レベル、照明、作業動線、材料、レシピを確認し、必要ならリスクアセスメントと安全機能検証を更新します。
EU側でライン統合者が制御を変更する場合、誰が最終構成の技術文書と宣言に責任を持つかを出荷前に決めます。タイ側サプライヤーの責任範囲が機械単体までであっても、統合に必要なインターフェース情報が不足すると、最終評価が止まります。

90日で進めるEU Machinery Regulation 2023/1230対応計画
Day 1–15:適用性と責任を固める
最初の15日で、案件台帳を作り、2027年1月20日前後にEU市場へ上市・使用開始する可能性がある機械を抽出します。機械名、型式、納入国、契約、予定日、製造者、輸入者、統合者、現在の設計段階を記録します。
次に、機械・関連製品・部分完成機械などの区分、適用法令、Annex Iの該当可能性、適合性評価ルートを仮判定します。ここは社内だけで断定せず、難しい案件をEU側専門家へエスカレーションする基準を作ります。成果物は適用性メモ、責任分担表、法令・規格台帳、プロジェクトRACIです。
Day 16–30:ギャップ分析と安全コンセプト
既存のリスクアセスメント、図面、BOM、プログラム、説明書、宣言書を回収し、要求と証拠を対応付けます。「文書がある/ない」だけでなく、対象機の版と一致するか、判断根拠があるか、検証結果があるかを評価します。
重大なギャップは、機械構造、安全関連制御、デジタル説明書、ソフトウェア・データ保護、AI安全機能、技術文書の6群に分類します。設計変更が必要な項目を優先し、安全コンセプトレビューで承認します。成果物はギャップ表、優先順位、リスク低減方針、安全機能一覧の初版です。
Day 31–60:設計・文書・検証計画を同期する
ガード、アクセス、停止、制御モード、エネルギー遮断、安全PLC、診断を詳細設計へ反映します。同時に、リスクアセスメント、必須要求事項との対応表、図面、計算書、説明書を更新します。文書を後追いにしないことがこの期間の要点です。
安全機能ごとに検証計画を作り、必要な測定器、故障挿入、試験用ワーク、立会者、受入基準を定義します。サプライヤーへ不足証拠を期限付きで要求し、週次でオーナーとステータスを確認します。成果物は設計凍結パッケージ、技術文書索引、FAT手順書、説明書ドラフトです。
Day 61–75:Pre-FATと証跡の整合
FAT前に文書ベースのPre-FATを実施します。BOM、図面、プログラム、機械銘板、説明書、試験手順の版を揃え、安全機能の計算値と実機設定を照合します。未完項目には「誰が、何を、いつまでに、どの証拠で閉じるか」を設定します。
デジタル説明書は、URL、印刷・保存、アクセス期間、障害時の代替、紙要求対応を運用テストします。ソフトウェアは承認済み版を保管し、バックアップからの復旧と変更履歴を確認します。
Day 76–90:FAT、出荷判定、SAT引継ぎ
FATでは安全機能と異常時挙動を記録し、不適合を閉鎖します。出荷判定では、未完項目が安全上許容できるかを関係者が確認し、宣言書やCEマーキングを適切な適合性評価の完了前に扱わないよう管理します。
EU据付チームには、FAT時のベースライン、輸送後確認、現地接続条件、変更管理、SAT試験、技術文書の更新責任を引き継ぎます。90日で法令対応のすべてが完了するとは限りませんが、判断・証拠・ゲートを可視化し、重大な手戻りを早期に発見できる体制を作れます。
役割別チェックリスト
生産技術・プロジェクト責任者
- EU上市・使用開始の予定日と納入国を案件台帳で管理したか
- 機械境界と責任分界を承認したか
- 安全方策が能力、品質、保全性と両立するか
- 設計変更の期限とFATへの影響を管理したか
- EU側据付・統合後の最終責任を合意したか
機械・制御設計
- ISO 12100に基づき非定常作業を含めて評価したか
- 安全機能IDと危険源が対応しているか
- ISO 13849-1:2023の適用範囲を誤解していないか
- 停止時間、診断、故障反応、再起動防止を実測したか
- 安全関連ソフトウェア、データ、設定の変更を管理したか
設備購買
- RFPに提出物、版、期限、合格条件を明記したか
- 任意証明書と法令上の適合性評価を混同していないか
- EU側の輸入者・通知機関・専門家の役割を確認したか
- FAT後の是正、再試験、文書更新を契約に含めたか
- 紙説明書の要求対応やオンライン提供の運用を確認したか
品質・法務・文書管理
- 適用法令、整合規格、版の根拠を保存したか
- 宣言書と技術文書の機械識別情報が一致するか
- 当局要求時に必要情報を検索・提供できるか
- 文書保管、アクセス制御、バックアップ、機密保持を定義したか
- 最新法令・官報・整合規格リストを判断前に再確認したか
よくある失敗と防止策
部品のCEマークを足し合わせれば機械が適合すると思う
部品の適合資料は重要ですが、機械全体のリスクと統合状態を証明するものではありません。安全機能のアーキテクチャ、インターフェース、故障反応、停止距離をシステムとして評価します。
リスクアセスメントを設備完成後に作る
完成後は本質的安全設計へ戻りにくく、高コストなガード追加や工程能力低下を招きます。要求定義とレイアウト段階から更新し、G2・G3で承認します。
ISO 13849-1:2023だけでサイバー要件も満たすと考える
ISO 13849-1:2023はSRP/CSの安全設計・統合の方法論であり、サイバーセキュリティの具体策を網羅するものではありません。機械リスクとネットワーク・更新・権限の脅威を結び付け、必要な他の規格や対策を専門家と選びます。
FATの後に説明書と宣言書を作り始める
説明書には残留リスク、保守、点検、設定条件が反映されます。FAT後に作ると、試験条件と説明内容が食い違います。G3からドラフトし、FATで実機との一致を確認します。
旧規格リストを固定して使い続ける
整合規格の引用状況は更新されます。欧州委員会のまとめ資料は便利ですが、情報目的であり、それ自体が法的効果を生むものではないとの注意書きがあります。設計凍結と宣言書発行の直前に、官報と最新の実施決定を再確認します。
FAQ:EU 機械規則 2027とCEマーキング 機械対応
Q1. EU 機械規則 2027はいつから適用されますか?
現行統合版と欧州委員会の案内では、Regulation (EU) 2023/1230は2027年1月20日から義務的に適用されます。出荷日だけでなく、EU市場への上市または使用開始の時点を案件別に確認してください。
Q2. タイ国内だけで使う機械にもEU Machinery Regulation 2023/1230は必要ですか?
タイ工場に置くだけでEU市場へ供給・使用開始しない機械は、所在地だけを理由に直ちに対象になるとは限りません。ただし、EUへ移設する予定、EU向け製品として販売する予定、EUでライン統合する予定がある場合は、早い段階で適用性を確認する価値があります。
Q3. ISO 12100による機械安全 リスクアセスメントは何を残しますか?
機械の制限、ライフサイクル作業、危険源、リスク見積・評価、選択したリスク低減策、検証、残留リスクを記録します。図面、安全機能、試験結果との参照を付け、設計変更後も追跡できる形にします。
Q4. ISO 13849-1:2023があればサイバーセキュリティ対応は完了ですか?
完了とはいえません。同規格はSRP/CSの設計・統合方法を扱いますが、サイバーセキュリティの具体的対策そのものを対象としていません。安全に影響する設定・データ・プログラムを特定し、アクセス、変更、更新、復旧、検証を別途設計します。
Q5. CEマーキング 機械対応は通知機関へ必ず依頼しますか?
すべての機械で同じ手順になるわけではありません。製品区分、Annex I該当性、採用する適合性評価手順などで異なります。自己判断で固定せず、最新法令を確認し、必要に応じてNANDOに掲載された通知機関または専門家へ相談してください。
Q6. デジタル取扱説明書だけで納品できますか?
新規則は条件付きでデジタル形式を認めます。製品の予想寿命の間かつ上市後少なくとも10年間のオンライン利用、印刷・保存、購入時の請求から1か月以内の紙版無償提供が必要です。非専門ユーザー向けでは、上市または使用開始時にessential safety informationを紙で提供します。これらの法令要件と、URL監視や障害時代替などの推奨運用を分けて管理してください。
Q7. 既存機の改造にも新規則が関係しますか?
関係する可能性があります。製造者が予見・計画していない上市後の物理的またはデジタル変更が、新規危険またはリスク増加を生み、安全制御を変更するガード・保護装置、または安定性・機械強度の追加保護措置を必要とする場合、substantial modificationの法定定義に該当し得ます。原則として実施者は製造者とみなされますが、非専門ユーザーが自己所有機械を自己使用目的で改造するArticle 18第3段落の例外があります。実施者と使用目的を含め、個別判断は最新条文と専門家で確認してください。
Q8. 90日で最初に依頼すべき支援は何ですか?
適用性・責任分界の確認、ギャップ分析、リスクアセスメントの再構成、RFP・FAT/SAT仕様のレビューを優先します。単発の証明書取得ではなく、設計証拠をゲートに組み込める支援先かを確認するとよいでしょう。
まとめ:期限ではなく証拠の流れを管理する
EU 機械規則 2027対応では、2027年1月20日という日付だけを追うのではなく、対象判断、ISO 12100によるリスク低減、ISO 13849-1:2023による安全関連制御、デジタル説明書、ソフトウェア・データ保護、技術文書、適合性評価を一つの証拠の流れにします。タイ・ASEANで設計・製作しEUで据付する案件ほど、会社と国をまたぐ責任分界を早く固定することが重要です。
TOMAS TECHでは、対象機械の洗い出し、90日ギャップ分析、RFPへの成果物定義、FAT/SATの証跡設計など、まだ仕様を固める前の検討段階からご相談いただけます。個別案件の法的判断はEUの認定機関・専門家と連携しながら、タイの設計・製作現場で実行できる形へ整理します。お問い合わせはこちら。
参照元
以下は2026年9月15日時点で確認した一次情報です。適用判断時には最新版を再確認してください。
- Regulation (EU) 2023/1230 — current consolidated text
- Regulation (EU) 2023/1230 — consolidated PDF dated 27 July 2026
- European Commission: Machinery
- European Commission: Harmonised standards for machinery
- ISO 12100:2010 — official standard page
- ISO 13849-1:2023 — official standard page
※本稿は一般的な技術・プロジェクト管理情報であり、法的助言ではありません。正式な適用判断、適合性評価手順、整合規格は、最新のEU法令・官報を確認し、EUの認定機関、通知機関または適切な専門家へご確認ください。