MES 比較を始めたものの、各社の製品資料を並べた時点で手が止まってしまった。タイの日系工場で生産技術や情報システムを担当されている方から、そうした相談をよく受けます。機能一覧はどれも似た言葉で埋まり、価格はほぼ全社が要問い合わせ。本記事では、複数のMES候補をどう並べて比較すれば自社に合う1社に絞り込めるのかを、4つの評価軸、ベンダーの類型、導入形態の選び分け、タイ拠点ならではの確認項目、RFPの進め方という順で整理します。
MESとは何か、なぜ製品の比較が難しいのか
MESとは Manufacturing Execution System の略で、日本語では製造実行システムと呼ばれます。工場の現場で「いま何を、どの設備で、誰が、どれだけ作っているのか」を捉え、作業指示を出し、実績と品質記録を残し、製品1つひとつの履歴をたどれるようにするための仕組みです。
比較検討の入口でつまずく方が多いのは、MESという言葉が指す範囲が製品によって大きく違うからです。実績収集とOEE計測に軸足を置いた製品もあれば、資材のトレーサビリティと品質記録を中核に据えた製品もあり、作業手順書の配信や工程内検査の判定までを担う製品もあります。同じ「MES」という看板を掲げていても、中身の重心が違う。この前提を押さえないまま機能一覧を横並びにすると、どの製品も同じように見えてしまいます。
MESとERPの違いはカネの管理かモノの管理か
MES ERP 違いを整理しておくと、比較の議論が一気に進みます。両者の関係は「ERPはカネの管理、MESはモノの管理」と表現されます。ERPは月単位や年単位という中長期の視点で、ヒト・モノ・カネといった経営資源を全社最適の観点から管理するシステムです。これに対してMESは、現場の作業者と設備を対象に、分単位・秒単位のリアルタイム情報を使って製造の実行そのものを制御します。
この時間軸の違いが、比較のときに効いてきます。ERPが持つ生産管理モジュールで代替できるのではないかという議論は必ず出ますが、ERPの生産管理は原則として計画と原価の世界を扱っており、設備から流れてくる秒単位の信号を受け止める設計にはなっていません。逆に、MESに全社の会計処理を期待するのも筋が違います。
生産管理システム全体の中でMESやERPがどこに位置づけられるのかという基礎の部分は、生産管理システムとは|機能・種類とERP・MESとの違いで体系的に整理していますので、そこから固めたい方はそちらを先にご覧ください。本記事は、その一段先にある「MESという1つのカテゴリの中で、複数の製品をどう比べるか」に絞って進めます。
生産スケジューラーとも役割が違う
もう1つ混同されやすいのが生産スケジューラー、いわゆるAPSです。APSは制約条件を踏まえて「いつ、どのラインで、どの順番に流すか」という計画を組む道具であり、MESはその計画を現場で実行し、結果を吸い上げる道具です。計画側の製品を比較したいのであれば、評価軸そのものが変わります。APS側の比較軸については生産スケジューラー比較で別途整理していますので、検討対象がMESなのかAPSなのかを最初に切り分けておくと、無駄な提案依頼を減らせます。
MESの比較が難しい3つの構造的な理由
第一に、価格がほぼ公開されていません。国内で紹介されている主要なMESパッケージは、いずれも料金が「要問い合わせ」の扱いです。海外ベンダーの調査でも、課金モデルがユーザー数課金・ライン単位課金・工場単位課金・エンタープライズ契約など複数に分かれており、一律の相場は示されていません。つまり、価格を最初のふるいに使うことができません。
第二に、機能名の粒度が各社でそろっていません。ある製品が「品質管理」と1行で書いている範囲を、別の製品は「工程内検査」「不良分析」「是正処置管理」の3行に分けて書きます。行数を数えても機能の広さは測れません。
第三に、業種特化性が資料の表面に出てきません。成形やダイカストに強い製品、多品種少量の組立ラインに強い製品、化学・食品のバッチ生産に強い製品は、それぞれ内部のデータモデルが違います。ところがカタログの見出しはどれも「製造実行システム」です。この3点があるからこそ、比較の共通軸を自分たちで用意する必要があります。
MES比較で使える4つの評価軸
国内のMES比較記事で実務的に使われている軸は、大きく4つに整理できます。機能の対応範囲、データ収集の方法、複数拠点への対応、そして業種特化性です。この4つで候補を採点すると、カタログの見た目に引きずられずに絞り込めます。
軸1 機能の対応範囲はMESA-11で測る
機能の広さを共通のものさしで測りたいときに使えるのが、MESA-11モデルです。これは1997年に MESA International(Manufacturing Enterprise Solutions Association International)が定めた11のコア機能のフレームワークで、MESが担うべき役割を「モノ」「人」「プロセス」の3つの視点から体系化したものです。製品によってこの11機能への対応範囲が異なるため、比較の共通軸としてそのまま使えます。
実際、国内で紹介されている製品の中には、MESA-11のうちスケジューリングを除く10機能に対応すると明示しているものもあります。このように「11のうちいくつをカバーしているか」を各社に答えてもらうと、機能表の行数ではなく実質的な守備範囲で並べられます。
| MESA-11のコア機能 | 比較時に各社へ確認したいこと |
|---|---|
| 資源の配分と状況把握 | 設備・治工具・要員の空き状況をどの粒度で持つか |
| 作業スケジューリング | 自製か、外部のAPSと連携する前提か |
| 生産指示の差立 | 指示の単位はロットか、1個流しにも対応するか |
| 文書管理 | 作業手順書や図面を現場端末に配信できるか |
| データ収集 | 設備からの自動取込に対応する通信方式は何か |
| 労務管理 | 作業者のスキル・資格と作業割当を結び付けられるか |
| 品質管理 | 工程内検査の判定基準をシステム側に持たせられるか |
| プロセス管理 | 条件逸脱時にラインへ介入できるか、記録だけか |
| 保守管理 | 設備保全の計画・実績を同一データベースで持つか |
| 製品の追跡と系統管理 | シリアル単位でさかのぼれるか、ロット単位までか |
| 実績分析 | OEEなどの指標を標準機能として持つか |
この表を提案依頼書に添付して各社に埋めてもらうと、対応・一部対応・非対応の分布がはっきり出ます。特に実績分析の欄は、指標の定義まで踏み込んで聞くことをおすすめします。OEEは計算式の取り方で数字が変わる指標なので、自社の定義と製品の標準定義が合うかどうかは早い段階で確認しておきたいところです。OEEの計算式そのものと改善の進め方はOEE改善の実務で詳しく扱っています。
軸2 データ収集の方法が現場の運用を決める
MESの価値は、現場のデータがどれだけ手間なく入ってくるかで決まります。収集方法は大きく、設備からの自動取込、バーコードやRFIDによる読み取り、スマートデバイスからの入力、現場設置のタッチパネルからの入力に分かれます。
ここで比較すべきなのは「対応しているかどうか」ではなく「自社の設備構成でどれだけ自動化できるか」です。古い設備が多い工場では、そもそも信号を取り出せる設備が限られます。その場合、自動取込の機能がいくら充実していても実際に使えるのは一部だけで、残りは人の入力に頼ることになります。人が入力する前提であれば、入力画面の作りやすさ、手袋をしたままでも押せるボタンサイズ、オフライン時の挙動といった実務的な要素のほうが効いてきます。
軸3 複数拠点への対応は将来の統合コストを左右する
タイに1拠点だけを持つ会社であっても、この軸は無視できません。同じグループの他国拠点や日本本社が別のシステムを使っている場合、将来的にデータを突き合わせる場面が必ず訪れるからです。確認すべきは、拠点をまたいだマスタ管理ができるか、拠点ごとに異なる工程を同一の製品内で表現できるか、そしてクラウド経由で本社が実績を参照できるかの3点です。
軸4 業種特化性は最後に効いてくる
成形やダイカストであれば金型の管理、化学や食品であればバッチと配合の管理、組立ラインであれば1品単位のトレーサビリティというように、業種によって必要なデータモデルが違います。汎用パッケージにこれらを後から作り込むと、カスタマイズ費用がふくらみ、バージョンアップのたびに追加費用が発生する構造になりがちです。自社の業種に近い導入実績を持つ製品を候補に残しておくと、この後の見積比較がずっと楽になります。

グローバル展開型ベンダーと国内特化型ベンダーの違い
候補を集める段階で、多くの担当者が最初に迷うのが「海外の大手を見るべきか、日本のパッケージを見るべきか」です。結論から言えば、どちらか一方に決め打ちせず、両方から数社ずつ挙げて同じ軸で比べるのが安全です。
海外ベンダーの見取り図
海外のMESベンダーを対象にした比較調査では、13のベンダーが評価されています。この調査では、Leaders群にSAP、TrakSYS、Solumina、Wonderware MESが入り、Contenders群にCritical Manufacturing、DELMIA Apriso、Tulipが位置づけられ、Challengers群にFactoryTalk ProductionCentre、GE Proficy、iTAC.MOM.Suite、Aegis FactoryLogixが並んでいます。
注意したいのは、この群分けが「良し悪しの順位」ではないという点です。同じ調査の中で、ベンダーは業種によって強みが分かれると整理されています。プロセス系や製薬系ではGE ProficyやAVEVA、ディスクリート系や電子系ではCritical ManufacturingやAegis FactoryLogix、航空宇宙系ではSoluminaが強いとされています。自社の業種から逆算すると、Leaders群に入っていない製品のほうが適合することも普通にあります。
国内パッケージの代表例
国内のMES比較記事では14の製品が紹介されており、大規模対応のパッケージと中小規模向けのパッケージに分けて整理されています。代表的なものを、比較のときに見分けたいポイントとあわせて挙げます。
| 製品名 | 位置づけ | 比較で効いてくる特徴 |
|---|---|---|
| atWill | 大規模対応 | ERPとMESの統合型で、受注から出荷までの一気通貫管理に強み |
| IB-Mes | 大規模対応 | 最短1ヶ月での導入、スモールスタートに対応 |
| DELMIA Apriso | 大規模対応 | 海外拠点連携とモジュール構成、MESA-11のうちスケジューリングを除く10機能に対応 |
| Factory Conductor | 大規模対応 | 組立ライン向けで、1品単位のトレーサビリティ |
| GMICS | 中小向け | 成形業・ダイカスト業に特化し、金型管理機能を持つ |
| スマートF | 中小向け | クラウド基盤のモジュール方式で、スモールスタートが可能 |
| FMES | 中小向け | 多品種少量から大量生産まで対応 |
いずれの製品も価格は公開されておらず、要問い合わせの扱いです。したがって、この表から読み取るべきは値段ではなく「どの現場像を想定して作られた製品か」です。金型管理を標準機能として持つ製品は、成形業の運用を前提にデータモデルが組まれています。1品単位のトレーサビリティを掲げる製品は、組立ラインのシリアル管理を前提にしています。自社の製品と工程がその想定にどれだけ近いかが、後々のカスタマイズ量を決めます。
どちらを軸に据えるか
判断材料は3つです。1つ目は、グループ全体で標準化する予定があるかどうか。本社や他国拠点で特定の海外製品を使う方針が決まっているなら、そこに合わせたほうが将来の統合コストは下がります。2つ目は、現場の運用言語です。日本語での運用設計と日本語ドキュメントが前提であれば、国内パッケージのほうが立ち上げは早くなります。3つ目は、カスタマイズをどこまで許容するかです。標準機能で8割方まかなえる製品を選び、残りを運用でしのぐという判断ができるかどうかで、選ぶべき製品は変わります。
クラウド型・オンプレミス型・ハイブリッド型はどう選ぶか
MESの導入形態は、オンプレミス型、クラウド型、ハイブリッド型に分かれます。タイ拠点の場合、この選択は「どちらが新しいか」ではなく「止まったときに誰がどれだけの時間で復旧できるか」という運用体制の問題として考えると、判断が早くなります。

| 導入形態 | 向いているケース | 比較時に必ず確認すること |
|---|---|---|
| オンプレミス型 | 設備との接続が多く、通信断でもラインを止めたくない工場 | 現地でサーバーを保守できる要員がいるか、部材調達に何日かかるか |
| クラウド型 | 初期投資を抑えたい、複数拠点の実績を本社でまとめて見たい工場 | 回線断のときに現場入力を継続できるか、データの保管先はどこか |
| ハイブリッド型 | 現場制御は止められないが、集計と分析は本社と共有したい工場 | 現場側と上位側のどちらに何のデータを置くか、同期の遅延はどれくらいか |
タイに拠点を置く会社に特有の事情として、まず現地でのハードウェア保守が挙げられます。オンプレミス型を選ぶ場合、サーバーやネットワーク機器の故障時に誰が現地へ来るのかを、契約書のレベルで詰めておく必要があります。日本国内であれば当日中に代替機が届く体制でも、タイでは通関や在庫の関係で日数が変わることがあります。
一方でクラウド型は、初期投資を抑えやすく、本社を含む複数拠点からの参照が容易です。ただし現場の設備制御に直接関わる部分をクラウド任せにすると、回線の状態がそのまま生産に響きます。実務上は、設備からのデータ収集と現場端末への表示は工場内で完結させ、集計・分析・拠点横断の参照はクラウド側で行うハイブリッド構成に落ち着くことが多くなります。
タイ工場でMESを比較するときに追加で見るべき視点
ここからは、日本国内での選定にはあまり出てこない、タイ拠点ならではの確認項目です。この部分を提案依頼書に書き込んでおくかどうかで、届く提案の質が変わります。
タイのMES市場はどう動いているか
タイの製造実行システム市場については、2025年から2031年を対象とした市場調査が公開されています。成長のドライバーとしては、Thailand 4.0政策のもとでの工業4.0技術の導入、業務効率化とコスト削減のニーズ、政府によるデジタル化・自動化の推進策が挙げられています。
一方で課題として明確に指摘されているのが、導入初期費用の高さ、現場の抵抗とスキルギャップ、そしてデータセキュリティへの懸念です。この3つは、そのまま社内稟議で説明を求められる論点でもあります。主要ベンダーとしてはABB Ltd.やRockwell Automation (Thailand) Ltd.の名前が挙がっており、実際の導入企業としては、水産加工大手のタイ・ユニオン・グループが生産効率の向上を目的にクラウド型MESを導入した事例のほか、デルタ・エレクトロニクス、タイ・ビバレッジの名前が挙げられています。現地に導入実績のあるベンダーが存在すること自体は、サポート体制を比較するうえでの前提条件になります。
多言語UIは翻訳できるかではなく誰が保守するか
多くの製品が多言語対応をうたっていますが、比較の場で聞くべきは対応言語数ではありません。聞くべきは、画面に出る文言のうち製品側が用意する部分と、自社がマスタとして登録する部分の切り分けです。
現場で実際に読まれる文字列の多くは、製品固有のメニュー名ではなく、工程名・不良コード名・作業指示の注記といった自社が登録するデータです。ここがタイ語で入っていなければ、いくら製品のメニューがタイ語化されていても現場は読めません。運用開始後にタイ語の文言を誰が追加・修正するのか、その作業に開発ベンダーの手を借りる必要があるのかを、比較の段階で確認しておいてください。
既存のPLC・センサーとの接続性
タイの工場では、日本から移設した設備、現地で調達した設備、装置メーカーが自社仕様で組んだ設備が混在していることが珍しくありません。MESの提案を受けるときは、設備の一覧に加えて、通信の口が何か(産業用イーサネットか、シリアルか、接点出力しかないのか)を整理した資料を添えて渡すと、提案の精度が大きく上がります。
接点出力しかない設備が多い場合は、MES本体の機能よりも、信号を拾って上位に渡す仕組みをどう組むかのほうが費用に効いてきます。この部分をMESベンダーが自社で担うのか、別の会社に切り出す前提なのかは、見積の範囲が変わるところなので必ず確認してください。
現地サポート拠点の有無
MESは、止まると生産が止まるシステムです。障害の一次受けをどこが行うのか、タイ時間の何時から何時まで対応するのか、現地に来られる技術者がいるのかを、製品比較とは別の軸として並べておくことをおすすめします。海外の有力製品であっても、タイに直接の窓口がなく、代理店経由で日本の商社を挟む形になると、一次切り分けだけで数日かかることがあります。
OTセキュリティをどこまで求めるか
タイ市場の調査でデータセキュリティ懸念が課題として挙がっているとおり、MESの導入は工場ネットワークの構成を変える話でもあります。これまで閉じたネットワークで動いていた設備が、MESを介して情報系ネットワークとつながることになるからです。
OTセキュリティの観点で比較の場に載せておきたいのは、情報系と制御系のネットワークをどう分離する設計になっているか、MESサーバーが設備側と情報側のどちらに置かれるのか、リモート保守のためにベンダーが工場ネットワークへ接続する経路をどう作るのか、そしてアカウント管理をどう行うのかという4点です。とくにリモート保守の経路は、導入後の運用がすべて決まってから設計するのでは遅く、契約前に情報システム部門を交えて確認しておくべき項目です。
費用感とRFPの進め方
相場のレンジ感をどう捉えるか
MESの費用は、製品そのものより導入形態と作り込みの量で決まります。参考として、半導体製造業向けなど大規模なカスタム開発を前提としたMESの見積相場は、1拠点あたりの初期費用が3,000万円から1億5,000万円程度、導入期間は6ヶ月から12ヶ月程度とされています。この金額の内訳には、現状分析、コンサルティング、ソフトウェア、カスタマイズ、教育、ハードウェア、環境構築の費用が含まれます。
この数字は、あくまで半導体製造業向けなど大規模なカスタム開発を行う場合の水準です。すべてのMES導入がこのレンジに入るという意味ではありません。クラウド基盤のモジュール方式でスモールスタートできる製品や、最短1ヶ月での導入をうたう製品であれば、より小さい初期投資から始められる余地があります。ただし前述のとおり具体的な料金は各ベンダーとも要問い合わせであるため、公開情報から言えるのは「作り込みの量によって初期費用の桁が変わる」というレンジ感の違いまでです。
社内で予算感を説明する際は、この2つの水準を混ぜないことが重要です。大規模カスタム開発の金額を一般的なMESの相場として提示してしまうと、稟議が通らないだけでなく、スモールスタートという選択肢そのものが検討から外れてしまいます。
RFPは同一内容で複数社へ出す
比較の精度を上げる最も確実な方法は、提案依頼書、いわゆるRFPを作り、複数のシステム開発会社へ同一の内容で提出することです。同じ要件を前提にした提案が各社から返ってくるため、評価基準をそろえた比較がしやすくなります。逆に、各社との個別のやり取りの中でそれぞれ違う説明をしてしまうと、返ってくる提案の前提がばらばらになり、金額も機能範囲も比べられなくなります。

選定プロセスの時間軸
海外のMES選定に関する調査では、進め方の目安が示されています。RFPの作成に2週間から3週間、ショートリストに残すベンダーは3社から7社、選定プロセス全体では6週間から10週間程度とされています。同じ調査では、評価の核となる選定基準として、生産実行、品質管理、資材トレーサビリティ、設備連携、リアルタイム可視性、規制対応、ERP連携、UIとモバイル対応などを含む21項目が挙げられています。
この時間軸は、社内の合意形成に必要な期間を含んでいないことに注意してください。タイ拠点の場合、日本本社の承認プロセスや予算年度の都合が加わるため、実際にはこれより長くなるのが一般的です。逆に言えば、比較の作業そのものは2ヶ月前後で終えられる想定で計画を立てておくと、承認待ちの期間に検討が止まったままになる事態を避けられます。
比較軸と確認ポイントの整理
ここまでの内容を、提案依頼書に転記できる形にまとめます。
| 比較軸 | 各社に確認する具体的な項目 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 機能対応範囲 | MESA-11の11機能のうち標準対応はいくつか、非対応はどれか | 自社の必須機能が標準側にあるか |
| データ収集方法 | 自社設備の通信方式ごとの自動取込可否、手入力画面の作り | 自動取込できる設備の台数比率 |
| 複数拠点対応 | 拠点をまたいだマスタ管理、本社からの実績参照 | 将来の拠点追加時に追加開発が要るか |
| 業種特化性 | 自社と同業種での導入実績、標準機能に業種固有の概念があるか | カスタマイズ見積の金額差 |
| 導入形態 | オンプレミス・クラウド・ハイブリッドの選択肢と構成図 | 回線断・機器故障時の生産継続性 |
| 多言語運用 | タイ語表示の範囲、自社登録マスタの多言語保守方法 | 運用開始後に自社で追加できるか |
| サポート体制 | タイ国内の一次窓口、対応時間帯、現地技術者の有無 | 障害時の初動までの時間 |
| OTセキュリティ | ネットワーク分離設計、リモート保守経路、アカウント管理 | 情報システム部門の基準を満たすか |
| 費用構造 | 課金モデル、初期費用と保守費用の内訳、追加拠点時の費用 | 5年間の総額で比較できるか |
| 拡張性 | 外部システムとのAPI連携、データの取り出し方法 | 将来の連携先が増えても対応できるか |
この表の最後の2行は、比較の段階では軽く見られがちですが、導入から数年後に効いてきます。とくに費用構造は、初期費用だけでなく年間の保守費用と拠点追加時の費用を含めた5年程度の総額で並べないと、実質的な比較になりません。
発注が決まった後のプロセス
比較して1社に絞った後は、契約条件の詰め方、FAT・SATの設計、稼働後の受入判定という別の実務が待っています。ここは比較検討とは求められる準備が違うため、MES導入で失敗しない発注・FAT/SAT・受入判定の進め方で切り分けて整理しています。比較の段階でも、受入判定で何を見ることになるのかを頭に入れておくと、提案依頼書に書くべき要件の粒度が定まりやすくなります。
これからのMES選定で見ておきたい視点
2026年は、推論コストの低下を背景にAIエージェントが製造現場へ広がり始める年とされています。製造業向けの実装例として紹介されている構想では、AIエージェントが設備異常の信号を受け取り、MESや基幹システムと連携して受注残・納期・代替ラインの稼働状況を解析したうえで、工程変更案を自ら立案し、必要な資材の発注までを自律的に行うといった動きが描かれています。
こうした構想がどこまで自社に必要かは、いま判断しなくても構いません。ただしMES選定の観点では、将来的にこうした仕組みと連携できるデータ構造とAPI連携性を持っているかどうかが、比較軸に加わりつつあります。具体的には、実績データを外部から機械的に取り出せるか、作業指示を外部システムから書き込めるか、そしてデータの意味づけ(どの項目が何を表すか)が文書化されているかの3点です。
現時点でAI連携をうたっていない製品であっても、データの出入り口が整理されていれば後から接続できます。逆に、画面からしかデータを取り出せない製品を選ぶと、数年後にこの選択が制約になります。比較の場では「AIに対応していますか」と聞くのではなく、「実績データをどの形式で外部に出せますか」と聞くほうが、はるかに実のある答えが返ってきます。
よくある質問
MESとERPはどちらを先に入れるべきですか
一般論としての正解はなく、いま何が見えていないかで決まります。原価や在庫の数字が締めの後にしか出てこないことが問題であればERP側、現場で何が起きたかが翌日以降にしか分からないことが問題であればMES側が先になります。両方を同時に入れる計画は、現場の負荷が一度に上がるため、タイ拠点では慎重に検討することをおすすめします。
中小規模の工場でもMESは必要ですか
規模ではなく、トレーサビリティの要求水準と工程の複雑さで判断してください。取引先から製品単位の履歴提出を求められている、あるいは工程内の不良を後追いでしか把握できていないという状況であれば、規模が小さくても導入の意味はあります。国内のパッケージにはクラウド基盤のモジュール方式でスモールスタートできる製品や、短期導入をうたう製品があり、機能を絞って始める選択肢は現実的に存在します。
タイ工場でMES比較を始めるにはまず何をすればいいですか
製品資料を集める前に、自社の設備一覧と通信方式、現在の記録の取り方、そして「システムで解決したい具体的な事象」を3つ以内に書き出すことをおすすめします。この3点がそろっていれば、提案依頼書の骨格はほぼできています。逆にここが曖昧なまま各社の説明を聞くと、機能の多い製品が良く見えてしまい、比較になりません。
業種特化型のパッケージと汎用型ではどちらが安全ですか
自社の業種に近い特化型があるなら、まずは候補に入れる価値があります。業種固有の概念が標準機能として入っていれば、カスタマイズの量が減り、バージョンアップ時の追加費用も抑えられるためです。ただし特化型は、将来的に扱う製品や工程が大きく変わったときに窮屈になることがあります。今後5年程度で生産品目が大きく変わる見込みがあるかどうかを、判断材料に加えてください。
比較検討にはどのくらいの期間を見ておけばよいですか
海外の調査では、提案依頼書の作成に2週間から3週間、選定プロセス全体で6週間から10週間程度が目安とされています。ここに日本本社の承認や予算取りの期間が加わるため、実務上は3ヶ月から6ヶ月程度を見ておくと計画が破綻しにくくなります。
まとめ
MESの比較が難しいのは、価格が公開されておらず、機能名の粒度がそろわず、業種特化性がカタログの表面に出てこないという3つの構造があるからです。この状況で使えるのは、自分たちで共通のものさしを持ち込むという方法です。
具体的には、MESA-11の11機能で機能の守備範囲を測り、自社設備でどれだけ自動取込できるかでデータ収集方法を測り、将来の拠点追加を想定して複数拠点対応を測り、自社業種の導入実績で特化性を測る。この4軸に、タイ拠点であれば多言語運用、既存設備との接続性、現地サポート体制、OTセキュリティという4項目を加える。そのうえで、同一内容の提案依頼書を3社から7社に出し、6週間から10週間の枠内で絞り込む。費用については、大規模カスタム開発の水準とスモールスタート型の水準を混同せず、5年間の総額で並べる。この流れを踏めば、カタログの見た目に左右されない比較ができます。
MESの比較は、製品を選ぶ作業に見えて、実は自社の現場をどう記述するかという作業です。設備一覧の整理や、解決したい事象の言語化の段階でつまずいているようであれば、そこから一緒に整理することもできます。TOMAS TECHはタイで日系製造業の現場に入り、既存設備との接続や多言語運用まで含めてご相談を承っています。まだ社内で検討を始めたばかりで、候補も予算も固まっていない段階でも構いません。気になる点があればお問い合わせページからお気軽にご連絡ください。