顧客から「CMRTを提出してください」という依頼が届き、社内の誰も答えを持っていない。そんな状況から紛争鉱物デューデリジェンスの検討を始める製造業は少なくありません。本記事では、3TGと呼ばれる対象鉱物の基本、CMRT 6.6で何が変わったか、Excel運用が破綻する理由、そしてBOMと製錬業者情報を紐付けてシステム化する具体的な進め方までを整理します。タイ拠点特有の難しさとモデルケースの工数試算も扱います。
紛争鉱物デューデリジェンスとは|3TGと責任ある鉱物調達の基本
まず、この言葉が何を指しているのかを揃えておきます。ここが曖昧なまま社内で議論を始めると、品質保証部門と調達部門と設計部門が、それぞれ違うものを想像したまま会議が進みます。
対象となるのは3TGの4鉱物
紛争鉱物として最初に対象になったのは、スズ、タンタル、タングステン、金の4つです。それぞれの英語表記の頭文字を取って3TGと呼ばれます。金だけ頭文字がGなので「3T+G」で3TGです。
この4つが選ばれたのは、産出地域における武装勢力の資金源になっているという問題意識が出発点でした。米国のドッド・フランク法に由来する開示義務がこの枠組みの起点であり、そこから業界全体の調査様式へと発展してきた経緯があります。
重要なのは、これらの鉱物が「特別な部品」にだけ入っているわけではないという点です。はんだにはスズが、コンデンサにはタンタルが、切削工具や重り部品にはタングステンが、めっきやボンディングワイヤには金が使われます。電子機器や自動車部品を作っている限り、対象外でいられる会社はほとんどありません。
「聞かれる側」と「聞く側」を同時にやることになる
紛争鉱物デューデリジェンスの実務が独特なのは、調査依頼がカスケード式に流れてくる構造にあります。最終製品を出すOEMが開示義務を負い、そのOEMがTier1サプライヤーに調査票を配ります。Tier1は自社だけでは答えられないので、Tier2に同じ調査票を配ります。これが末端まで連鎖します。
つまり中間に位置する製造業は、顧客から「聞かれる側」であると同時に、自社のサプライヤーに「聞く側」でもあります。しかも顧客ごとに提出期限が違い、サプライヤーごとに回答の速さも精度も異なります。この二重の立場を1人の担当者が兼務している会社が非常に多く、それが後述する工数問題の根本にあります。
追いかけるのはモノではなく「由来の情報」
一般的なトレーサビリティとの最大の違いはここです。工場内のトレーサビリティは、製品や部品というモノがいつどの工程を通ったかを追いかけます。対して紛争鉱物デューデリジェンスが追うのは、その部品に含まれる鉱物がどの製錬業者・精製業者を経由したかという「由来の情報」です。
モノは自社の敷地内にありますが、製錬業者は自社の管理範囲のはるか外側、サプライヤーのそのまた仕入先の先にいます。物理的に確認しに行くことはできず、申告書という書類の積み重ねでしか到達できません。この構造の違いを理解しないまま既存の生産管理システムに機能追加しようとすると、要件がまとまらないまま時間だけが過ぎます。
CMRT 報告書とEMRT 対応の最新動向|2026年に何が変わったか
次に、実務で実際に扱う様式の話に進みます。ここは版数の管理が地味に重要で、古い版で回答すると顧客から差し戻される原因になります。
CMRTとEMRTの役割分担
責任ある鉱物調達の業界標準となる調査様式は、Responsible Minerals Initiative、略してRMIが整備しています。対象鉱物ごとに様式が分かれており、実務では次の3つを使い分けます。
| 様式 | 対象鉱物 | 実務上の位置づけ |
|---|---|---|
| CMRT | 3TG(スズ・タンタル・タングステン・金) | 最も広く使われる基本の調査票。電子・自動車部品で必須 |
| EMRT | コバルト・マイカ | 電池材料や樹脂材料を扱う場合に追加で要求される |
| AMRT | 3TG・コバルト・マイカ以外の鉱物 | 顧客の方針により求められることがある |
このうち中心はCMRTですが、EV関連や電池材料を扱う企業では、EMRT 対応を同時に求められるケースが増えています。電池セルや電極材のサプライチェーンではコバルトが避けて通れないためです。様式が違うだけでなく、聞かれる製錬業者の顔ぶれも回答の集め先も変わるので、CMRTの運用をそのまま横展開できるとは限りません。
CMRT 6.6の主な変更点
RMIは2026年4月17日にCMRT 6.6を公開しました。この版で入った主な変更は次のとおりです。
| 変更内容 | 実務への影響 |
|---|---|
| Requester Product Numberフィールドの追加 | 依頼元の製品番号で回答を紐付けられるようになり、部品単位のトレーサビリティが強化される |
| 国・地域のISOコード更新 | 過去の回答を流用すると、コードが古いまま提出されることがある |
| IPC-1755との互換性強化 | 電子機器業界の鉱物報告フレームワークとのデータ交換がしやすくなる |
| 製錬業者・精製業者リストの更新 | 過去1年間に新たに特定された事業者が追加され、自社の照合対象が変わる |
コンプライアンス義務の全体像そのものが大きく変わったわけではありません。ただし、新しい製錬業者リストと自社サプライチェーンの照合、そしてハイリスクな製錬業者との関係が見つかった場合の迅速な対応が、これまで以上に重視されるようになっています。
特に注意したいのがRequester Product Numberフィールドの追加です。これは裏を返せば、「御社の製品全体としてどうか」ではなく「この部品番号についてどうか」という粒度で答えることが期待され始めているということです。会社単位でひとまとめに回答してきた企業ほど、この変化の影響を受けます。
2026年報告年度で推奨される版数
RMIは2026年の報告年度について、CMRT 6.6、EMRT 2.11、AMRT 1.31以上の使用を推奨しています。顧客から配布されたテンプレートが古い版であっても、自社が回答を組み立てるマスタデータは新しい版に合わせて整備しておくほうが結果的に手戻りが減ります。
そしてもう1つ、2026年の実務動向として押さえておくべき論点があります。一度作って使い回す静的なCMRTは、いまやハイリスクと見なされる方向にあるということです。単発の調査票配布で終わらせるのではなく、継続的なデューデリジェンス、サプライヤーとの継続的なエンゲージメント、そして製錬業者データが変わったときのエスカレーション対応が求められる流れにシフトしています。
EU側でも、対象鉱物を含む部品がどれか、どのサプライヤーと製錬業者を経由しているかの説明を企業に求める動きが強まっています。サプライヤーの自己申告をそのまま転記するだけの運用では、証拠ベースのリスク管理という要求に応えられなくなりつつあります。
OECDガイダンスの5ステップという骨格
では「継続的なデューデリジェンス」とは具体的に何をすることなのか。ここで参照されるのが、OECDのデューデリジェンス・ガイダンスが示す5つのステップです。RMIもJEITAも各社のCSR開示も、おおむねこの骨格に沿って自社の取り組みを説明しています。
| ステップ | 内容 | 社内で必要になるもの |
|---|---|---|
| 1 | 強固な企業管理システムの構築 | 調達方針、責任部門の明確化、サプライヤーへの周知 |
| 2 | サプライチェーン上のリスクの特定・評価 | 対象部品の特定、サプライヤー調査、製錬業者リストとの照合 |
| 3 | 特定したリスクへの対応戦略の策定・実施 | エスカレーション基準、代替調達の検討、是正の記録 |
| 4 | 製錬業者・精製業者の第三者監査 | 監査済み製錬業者かどうかの確認と証跡の保管 |
| 5 | デューデリジェンスの年次報告 | 顧客への回答と、社内・社外への開示 |
この5ステップを見て気づくのは、実際に手が動くのはステップ2とステップ3であり、そこで扱う情報量が圧倒的に多いという点です。システム化の投資対効果が最も出やすいのもこの2つです。逆にステップ1とステップ5は文書整備が中心で、システムというより社内規程と体制の話になります。

なお日本国内では、電子情報技術産業協会、通称JEITAが業界団体としてこのテーマを継続的に扱っており、2026年6月25日にも「責任ある鉱物調達説明会2026」を開催しています。毎年説明会が開かれ続けているという事実そのものが、これが一過性の話題ではなく、日系の電子部品メーカーやEMSにとって恒常的な実務テーマであることを示しています。
Excel手作業の紛争鉱物デューデリジェンスが破綻する理由
多くの会社は、最初はExcelで始めます。それ自体は間違いではありません。問題は、部品点数とサプライヤー数が増えたときに、この運用が線形ではなく急激に重くなることです。
年次対応の工数はどこに消えているのか
CMRT 報告書を1本仕上げるまでに発生する作業を分解すると、次のようになります。
| 工程 | 具体的な作業 | 重くなる要因 |
|---|---|---|
| 対象部品の特定 | BOMから鉱物含有の可能性がある部品を抽出する | 部品点数が多く、過去の判断根拠が残っていない |
| 依頼配布 | 該当サプライヤーへ調査票をメールで送付 | 宛先の最新化、様式の版数管理 |
| 催促 | 未回答先への再送とフォロー | 手作業のため担当者の記憶と個人フォルダに依存 |
| 回収チェック | 回答の形式不備・記入漏れの確認 | 様式が改定されるたびにチェック観点が変わる |
| 不明回答の再確認 | 製錬業者が「不明」の回答を潰しにいく | 相手も自社のサプライヤーに聞き直す必要があり時間がかかる |
| 集計 | 全回答を統合して自社のCMRTを組み立てる | 部品ごとの回答を製品ごとに束ね直す作業が煩雑 |
このうち最も時間を食うのは、多くの場合「催促」と「不明回答の再確認」です。どちらも相手の都合に左右されるため、自社の努力だけでは短縮できません。だからこそ、着手のタイミングを早めることと、進捗を可視化する仕組みを持つことが効いてきます。
「不明」が残り続ける構造
大手の電子部品メーカーでは、直接サプライヤーへのCMRT調査を毎年実施し、回収率は9割台まで到達している例が見られます。それでも、製錬業者情報が「不明」のまま残る回答が一定数残り続けます。
これは相手が不誠実だからではありません。相手もまた自社のサプライヤーに聞かなければ答えられず、その先にもまた同じ構造があるからです。階層を1つ下るごとに情報の解像度は落ち、末端に近づくほど「不明」の比率が上がります。
この「不明」を潰す作業は、実質的にサプライヤーへのエスカレーションです。誰にいつ何を依頼し、どう回答が変わったかという履歴が残っていないと、翌年また同じところで同じ質問を繰り返すことになります。Excelの弱点は、まさにこの履歴の蓄積にあります。ファイル名に日付を付けて保存していても、それは「記録」であって「照会できる履歴」ではありません。
静的CMRTがリスクになる理由
前述のとおり、2026年時点では一度作って使い回す静的なCMRTはハイリスクと見なされます。理由は単純で、製錬業者リストが毎年更新されるからです。
昨年の回答時点では問題のなかった製錬業者が、今年のリスト更新で新たに注意対象として特定されることがあります。自社のCMRTを昨年のコピーで提出していると、その変化に気づかないまま「問題なし」と回答してしまうことになり、事実と異なる開示につながりかねません。
つまり必要なのは、年に1回まとめて作る作業ではなく、製錬業者マスタが更新されたときに自社の回答へ影響が及ぶかを判定できる状態です。Excelでこれをやろうとすると、全ファイルを開いて突合するしかありません。

3TG トレーサビリティをシステム化する|紐付けるべき3つのデータ
ここからが本題です。紛争鉱物デューデリジェンスのシステム化とは、突き詰めると3種類のデータを紐付けて保持し、更新に追随できる状態を作ることです。
BOM、サプライヤー宣言、製錬業者マスタ
システム化の中心にあるのは次の3つのデータです。
| データ | 内容 | 更新のきっかけ |
|---|---|---|
| BOM(部品構成) | どの製品にどの部品が使われているか、その部品の調達先はどこか | 設計変更、サプライヤー切替、新機種立ち上げ |
| サプライヤー宣言 | 各サプライヤーから回収したCMRT・EMRTの回答内容 | 年次調査、サプライヤーからの自主更新 |
| 製錬業者マスタ | RMIが公開する製錬業者・精製業者のリストと監査状況 | RMIによるリスト更新、テンプレート改版 |
この3つを別々のExcelで持っている限り、どこかが更新されたときの影響範囲を追えません。逆に言えば、この3つをキーで結んで1つのデータベースに載せるだけで、実務の見え方は大きく変わります。
たとえば製錬業者マスタが更新されたとき、その製錬業者を申告しているサプライヤー宣言を逆引きし、さらにそのサプライヤーが供給する部品をBOMから逆引きすれば、影響を受ける製品が自動的に特定できます。Excel運用では全ファイルを開いて突合するしかなかった影響調査が、この構造さえあれば検索1回で終わります。
実装すべき機能を優先度順に並べる
とはいえ最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。効果の出やすい順に段階を分けるのが現実的です。
| 段階 | 実装する機能 | 得られる効果 |
|---|---|---|
| 第1段階 | サプライヤー台帳と調査依頼・回収状況の一元管理 | 誰が未回答かが常時見える。催促の抜けがなくなる |
| 第2段階 | 回答内容のデータ化と、製錬業者マスタとの自動照合 | 「不明」件数とリスク該当件数が定量的に把握できる |
| 第3段階 | BOMとの紐付けによる製品単位のロールアップ | 顧客からの部品番号単位の問い合わせに即答できる |
| 第4段階 | 版数管理と履歴保持、変更時のアラート | 静的CMRTのリスクが解消され、継続的な運用になる |
多くの会社にとって、投資対効果が最も高いのは第1段階と第2段階です。ここだけでも、担当者の負荷は目に見えて下がります。第3段階以降はBOMの整備状況に左右されるため、既存の生産管理システムやPLMの状態を確認してから判断してください。
既存のトレーサビリティ基盤とどう関係するか
ここで整理しておきたいのが、社内の他のトレーサビリティの取り組みとの関係です。
電子部品を扱う企業であれば、既にロットやシリアルによる社内トレーサビリティを構築しているかもしれません。その点については、電子部品トレーサビリティシステムの構築で扱っている追跡単位の設計と費用構造の話が参考になります。ただしそこで追うのは自社工程内のモノの流れであり、鉱物の原産地や製錬業者までは範囲に含まれません。紛争鉱物デューデリジェンスは、その外側に伸びる別の軸だと考えてください。
自動車部品の場合も同様です。自動車部品トレーサビリティとIATF16949対応で整理している客先監査や是正処置の運用は、品質保証の枠組みとしては極めて重要ですが、鉱物調達そのものは監査の主題ではありません。両者は同じ業種を対象にしながら、規制テーマが異なります。
実務上おすすめなのは、既存のトレーサビリティ基盤に無理やり統合しないことです。データの粒度も更新頻度も管理部門も違うため、統合すると双方の要件が濁ります。むしろBOMという共通のキーだけを共有し、それぞれ独立した仕組みとして持つほうが運用は安定します。
サプライヤー側の負担を下げる設計にする
見落とされがちですが、この仕組みの成否はサプライヤーの協力度で決まります。自社の管理が高度になっても、相手が回答してくれなければ何も進みません。
回答率を上げるために効くのは、次のような配慮です。
- 依頼する部品を絞り込み、鉱物含有の可能性がない部品まで一律に聞かない。
- 前年の回答内容を提示し、変更がなければその旨のみで済むようにする。
- 提出先と期限と様式の版数を、依頼文の同じ位置に毎回同じ形式で書く。
- 回答様式を顧客ごとにバラバラにせず、業界標準のテンプレートに統一する。
このうち特に効果が大きいのが、前年の回答を提示して差分だけ答えてもらう形にすることです。毎年ゼロから記入させる運用は、相手にとって最も嫌われるやり方であり、結果として回答の質を下げます。
タイ拠点で紛争鉱物デューデリジェンスを回す難しさ

ここまでは一般論ですが、タイに製造拠点を持つ企業には固有の事情があります。
サプライチェーンの多階層化と多国籍化
タイはEMS、つまり電子機器の受託製造と、自動車部品の一大生産拠点です。日系だけでなく欧米系OEMの一次から二次サプライヤーが集積しており、その厚みがタイの競争力になってきました。
一方で、EV関連の投資増加を背景に中国系サプライヤーのタイ進出も増えています。2023年から2025年6月までに新規で183社が進出したとされ、サプライチェーンの多国籍化と多階層化がさらに進んでいます。
調達の選択肢が増えること自体は歓迎すべきことですが、紛争鉱物デューデリジェンスの観点では難易度が上がります。理由は次のとおりです。
- 取引履歴の浅いサプライヤーが増え、過去の回答実績を参照できない。
- 言語が日本語・英語・タイ語・中国語に分散し、依頼文の意図が正確に伝わりにくい。
- 相手企業側の担当部門が定まっておらず、誰に聞けばよいかの特定に時間がかかる。
- 末端の製錬業者情報が、自社の管理範囲外の海外サプライヤー経由でしか取れない。
日本本社が「タイ拠点でも同じ水準で回してほしい」と求めても、この条件差を織り込まないと現地の担当者が疲弊するだけになります。現地の実情に合わせて、回答率の目標や着手時期を本社側と調整しておくことが実務的には重要です。
モデルケースで工数を試算する
具体的な規模感をつかむために、タイのEMS工場を想定したモデルケースで試算してみます。以下は当社独自の試算であり、実際の数値は企業ごとに変わります。
| 前提条件 | 想定値 |
|---|---|
| 想定規模 | 電子部品受託製造、従業員300名規模 |
| CMRT提出を求める主要顧客 | 3社(いずれも年1回) |
| 対象部品点数 | 約1,200点 |
| 直接サプライヤー数 | 約80社 |
| うち鉱物含有部品を扱うサプライヤー | 約35社 |
この規模の工場で、Excelによる手作業運用を続けた場合の年間対応工数を試算すると、依頼配布、催促、回収チェック、不明回答の再確認、集計までを合わせて、担当者1名がのべ25人日程度を消費する計算になります。実働で1ヶ月分以上を、この業務だけに取られている状態です。
これをシステム化した場合、BOMと製錬業者マスタの紐付け、自動催促、回答履歴の蓄積によって、年次対応工数を10人日程度まで圧縮できる可能性があります。差分の15人日をどう評価するかは会社によりますが、注目すべきは削減量そのものよりも、削減される作業の中身です。
| 作業 | Excel運用 | システム化後 |
|---|---|---|
| 依頼配布 | 宛先リストを都度作成し個別送信 | 対象サプライヤーを自動抽出して一括送信 |
| 催促 | 担当者の記憶とメール検索に依存 | 未回答者を自動抽出し、期日前に自動通知 |
| 回収チェック | 目視で記入漏れを確認 | 必須項目と様式版数を機械的に検証 |
| 不明回答の再確認 | 前年の経緯が追えず一から確認 | 過去の照会履歴を参照して差分だけ確認 |
| 集計 | 部品ごとの回答を手作業で製品単位に集約 | BOMを介して自動ロールアップ |
つまりシステム化で消えるのは、判断を必要としない転記と検索の時間です。逆に残るのは、リスクが見つかったときにどう対応するかという判断業務であり、それこそが担当者本来の仕事です。工数削減を目的にするのではなく、担当者の時間を判断業務に振り向けることを目的に据えると、社内の説明もしやすくなります。
責任ある鉱物調達の運用を定着させる進め方
最後に、実際に着手する場合の順序を整理します。
最初の90日でやること
一気に全部やろうとすると必ず止まります。最初の3ヶ月は、次の3点に絞ってください。
- 対象部品の特定基準を文書化する。どの材質・どの部品分類を鉱物含有候補とみなすか、その判断根拠を残す形にします。ここが曖昧だと、翌年に別の担当者が別の基準で抽出してしまいます。
- サプライヤー台帳を1つに統合する。調達部門の取引先マスタ、品質部門の承認サプライヤーリスト、担当者の個人管理表が別々になっている会社は非常に多く、まずこれを1本化しないと依頼配布が始まりません。
- 前年の回答を1箇所に集約し、どの製錬業者が申告されているかを一覧化する。この一覧がないと、製錬業者マスタが更新されたときの影響判定ができません。
社内の責任分担を先に決める
紛争鉱物デューデリジェンスは、部門をまたぐ業務です。誰がどこを持つのかを最初に決めておかないと、依頼が止まったときに誰も動きません。
| 役割 | 主な担当部門 | 具体的な責任 |
|---|---|---|
| 全体統括と顧客対応 | 品質保証または法務・コンプライアンス | 顧客への回答提出、社内方針の維持 |
| サプライヤーへの依頼と回収 | 調達 | 依頼配布、催促、取引条件への織り込み |
| 対象部品の特定 | 設計または技術 | 材質情報の提供、鉱物含有可能性の判断 |
| データ基盤の構築と維持 | 情報システム | BOM連携、マスタ更新、履歴保持 |
この表で特に重要なのは3行目です。どの部品に鉱物が含まれる可能性があるかは、最終的には設計情報から判断するしかありません。調達部門だけで回そうとすると、対象部品の抽出が推測になり、抜けが生じます。
顧客対応で信頼を落とさないために
実務上、顧客が本当に見ているのは「100点の回答かどうか」ではありません。むしろ次の3点です。
- 期限を守って提出しているか。
- 不明箇所について、不明であることを正直に書き、その解消に向けた行動を説明できるか。
- 昨年からの変化を説明できるか。
不明が残ること自体は、多階層のサプライチェーンでは避けられません。問題になるのは、不明を隠すことと、去年から何も変わっていないことです。継続的なデューデリジェンスが求められる方向にシフトしているというのは、まさにこの「変化を説明できる状態」を求める動きだと理解してください。
よくある質問
CMRTとは何ですか
CMRTは、Responsible Minerals Initiative(RMI)が整備している紛争鉱物の調査様式です。スズ、タンタル、タングステン、金という3TGの4鉱物について、自社の製品に含まれるかどうか、どの製錬業者・精製業者を経由しているかを申告する共通フォーマットとして使われます。
米国のドッド・フランク法に由来する開示義務を出発点に発展してきた経緯があり、現在は電子・自動車を中心とした業界標準として、顧客から取引先へカスケード式に配布されています。コバルトとマイカを対象とする姉妹版がEMRTで、EV・電池材料を扱う企業ではこちらの提出も求められます。最新版は2026年4月17日に公開されたCMRT 6.6で、RMIは2026年報告年度についてCMRT 6.6、EMRT 2.11、AMRT 1.31以上の使用を推奨しています。
いつまでに対応すればよいですか
法定の統一期限があるわけではなく、実務上は顧客からの提出依頼の期限が事実上の締切になります。多くの企業は年1回のサイクルで運用しており、主要顧客ごとに依頼時期が異なるのが一般的です。
準備の観点で言えば、依頼が来てから動き始めるのは遅すぎます。サプライヤーからの回収に時間がかかり、さらに「不明」回答の再確認には相手側のさらに先への照会が必要になるためです。逆算して、顧客からの依頼が想定される時期の数ヶ月前にはサプライヤーへの調査を開始しておくのが現実的です。また、CMRT 6.6のように様式が改定された年は、社内のマスタと過去回答の版数を先に確認しておくと手戻りが減ります。
対応しないとどうなりますか
多くの日系製造業にとって、最も直接的な影響は取引上のものです。CMRT提出は顧客との取引条件に組み込まれている場合が多く、提出できない、あるいは内容が不十分だと、新規案件の引き合いから外れる、監査での指摘対象になるといった形で表面化します。
加えて2026年時点では、一度作った回答を使い回す静的な運用そのものがリスクと見なされる方向にあります。製錬業者リストは毎年更新されるため、昨年のコピーを提出していると、新たに特定されたハイリスク製錬業者を見落としたまま「問題なし」と回答してしまう可能性があります。事実と異なる開示は、単に対応が遅れている状態よりも深刻な問題になり得ます。継続的に更新できる仕組みを持つこと自体が、リスク低減策だと考えてください。
まとめ
紛争鉱物デューデリジェンスに取り組む際の要点を整理します。
- 対象は3TG、つまりスズ・タンタル・タングステン・金の4鉱物。はんだ、コンデンサ、切削工具、めっきなど幅広い部品に含まれるため、電子・自動車の製造業で無関係な会社はほとんどない。
- 調査はOEMから末端へカスケード式に流れるため、中間の製造業は「聞かれる側」と「聞く側」を同時にこなす必要がある。
- CMRTは3TG、EMRTはコバルト・マイカが対象。RMIは2026年報告年度についてCMRT 6.6、EMRT 2.11、AMRT 1.31以上の使用を推奨している。
- CMRT 6.6ではRequester Product Numberフィールドの追加、ISOコード更新、IPC-1755との互換性強化、製錬業者リストの更新が入った。部品番号単位で答える方向に動いている。
- 2026年は静的なCMRTがハイリスクと見なされる。継続的なデューデリジェンスとエスカレーション対応が前提になりつつある。
- 実務の骨格はOECDガイダンスの5ステップ。手が動くのはリスクの特定・評価と対応戦略の2つで、システム化の効果もそこに集中する。
- システム化の中心はBOM、サプライヤー宣言、製錬業者マスタの3つを紐付けること。段階的に進めるなら、まず回収状況の一元管理と製錬業者マスタとの自動照合から着手する。
- タイ拠点では多階層化・多国籍化により難易度が上がる。モデルケースの試算では、年間25人日の対応工数を10人日程度まで圧縮できる可能性がある。
自社にとってどこから手を付けるべきかは、部品点数、サプライヤー数、既存BOMの整備状況によって変わります。まだ社内で方針が固まっていない段階でも構いません。TOMAS TECHはバンコクを拠点に、日系製造業向けの生産管理システムやトレーサビリティ基盤の構築を手がけており、現状の運用整理や実現可能性の見立てだけのご相談も承っています。詳しくはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。