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2026.08.22

PLC更新・リプレース判断2026|延命か全面更新かを分ける4択

PLC更新・リプレース判断2026|延命か全面更新かを分ける4択

「制御盤を開けたらリレーの樹脂が茶色く変色していた」「CPUユニットが故障したのでメーカーに問い合わせたら、修理対応はすでに終了していると言われた」。タイの日系工場でよく聞く話です。設備の機械部分はまだ十分に動く、しかし中身の制御機器のほうが先に寿命を迎える。かといって設備を丸ごと入れ替える予算はない。PLCの更新・リプレースをどう判断するかは、多くの工場が抱える共通の悩みです。本記事では、延命と全面更新を分ける物差しと、現実的な4つの選択肢を整理します。

なぜ今「制御システムの老朽化」が問題になるのか

設備の老朽化というと、多くの方はモーター、軸受、シリンダーといった機械要素の摩耗を思い浮かべます。しかし現場で実際に先に行き詰まるのは、制御盤の中身であることが少なくありません。機械部分は削れても直せますが、生産が終わったCPUユニットは、直そうにも交換する部品そのものが世の中に存在しなくなるからです。

「生産中止」と「修理対応終了」は別の期限である

PLCの寿命を考えるうえで最初に押さえるべきは、メーカーが設定している期限が一つではないという点です。制御機器には少なくとも次の2つの期限があります。

  • 生産中止:新品の出荷が終わる日。この日以降、その型番を新しく買うことはできなくなる
  • 修理対応終了:メーカーが故障品の修理を受け付ける最終日。この日以降は、壊れても純正の修理という選択肢が消える

多くの工場が「まだ在庫があるから大丈夫」と考えているのは前者の生産中止だけを見ているケースです。しかし実務上のリスクが本当に立ち上がるのは、後者の修理対応終了を過ぎたときです。生産中止の時点では市場在庫や社内予備品でしのげますが、修理対応が終わった後に予備品まで使い切ってしまうと、その設備を止めずに動かし続ける手段がなくなります。

生産中止から修理対応終了までは概ね7年

具体的な実例で見てみましょう。三菱電機のMELSECシリーズでは、次のようなスケジュールが公表されています。

対象製品生産中止修理対応終了
A/QnAシリーズ CPUユニット2006年9月末2013年9月末
AnS/QnASシリーズ CPUユニット2014年9月末2021年9月末
MELSEC I/OLINK 入出力ユニット2014年9月末2021年9月末

この表から読み取れる最も重要な傾向は、生産中止から修理対応終了までがいずれも概ね7年である、という点です。つまり「生産中止のお知らせ」を受け取った時点が、その設備の制御システムについて意思決定を始めるべきタイミングであり、そこから7年前後で純正修理という逃げ道が閉じる、という時間軸で計画を立てるのが現実的です。

同様の案内は三菱電機に限った話ではありません。オムロンもPLCのリプレース専用ページを設け、生産終了品の一覧と推奨代替品、置き換えガイドを公開しています。主要なPLCメーカーはいずれも、生産終了品の情報と後継機種への置き換え方法を体系的に案内しているのが現在の標準的な姿です。裏を返せば、メーカー側は「いずれ置き換えてもらう前提」で情報を出しており、旧世代の製品を永久にサポートするつもりはない、ということでもあります。

PLC更新・リプレース判断2026|延命か全面更新かを分ける4択 - figure 1

部品調達のグローバルな難化傾向

自社の努力ではどうにもならない外部要因もあります。2026年時点の自動化業界では、製品のモデルサイクルが以前より短くなり、旧世代の制御システム向け部品の調達が難しくなっている、あるいは納期が長期化している、という指摘が現場のエンジニアから出ています。特定の統計に裏付けられた数字として断定できる話ではありませんが、複数の実務者が共通して感じている傾向として押さえておく価値はあります。

これはタイの工場にとって二重に重い話です。日本国内であれば中古市場や修理専門業者という選択肢も比較的探しやすいのに対し、タイでは同じ型番の中古品が国内で見つかる確率が下がり、日本やシンガポールからの輸入となれば通関と輸送でさらに日数が積み上がります。「壊れてから探し始める」戦略の成立可能性が、年を追うごとに下がっているというのが実情です。

老朽化した制御システムを放置すると何が起きるか

「今は動いているのだから、壊れてから考えればいい」という判断は、一見すると合理的なコスト管理に見えます。しかし制御システムに限っては、この判断が高くつきやすい構造があります。

突発停止のダメージが読めなくなる

計画的な更新であれば、生産が閑散期に入るタイミングを選び、ライン停止の日数を事前に顧客へ通知し、代替生産を手配できます。突発故障はそれができません。しかも部品が枯渇している状態での突発故障は、「部品が届くまで復旧できない」という、通常なら数時間で済むはずの停止が数週間に伸びる事態を招きます。

損失の大きさを見積もるとき、修理費そのものよりも、止まっている間の逸失利益と、納期遅延による顧客からの信用低下のほうが大きいことがほとんどです。特に自動車部品のように順序納入が求められる業界では、一度の長期停止が取引条件そのものに影響します。

セキュリティと互換性の問題が積み上がる

旧世代のPLCやその周辺機器は、そもそもネットワーク経由の攻撃を想定して設計されていません。生産管理システムやMESと接続して実績データを吸い上げようとした瞬間に、閉じたネットワークの前提が崩れます。またプログラミングツールが古いOSでしか動かないという問題も頻発します。ラダーを修正したいのに、対応する開発環境が動くパソコンが工場に1台しか残っていない、そのパソコンが壊れたらプログラムの修正すらできない、という状況は決して珍しくありません。

さらに、上位システムとの接続を考えたときに、旧世代の制御機器は産業用イーサネットに対応していないか、対応していても限定的です。工場のデータ活用を進めようとしたときに、制御システムの世代が足かせになるという形で問題が顕在化します。工場全体のデジタル化の全体像についてはファクトリーオートメーション タイ|FA導入の全体像で整理していますので、あわせてご覧ください。

保守が属人化し、引き継げなくなる

制御システムの老朽化で最も見落とされがちなリスクが、人の問題です。20年前に導入された設備のラダープログラムは、当時の担当者の頭の中にしか設計意図が残っていないことがあります。図面が更新されていない、変更履歴が残っていない、コメントが付いていない。この状態で担当者が退職したり日本へ帰任したりすると、そのラインは「誰も中身を理解していないブラックボックス」になります。

タイの工場では、日本人管理者の任期が数年単位で入れ替わることが多く、この属人化リスクが日本国内の工場より速く進行します。制御システムのリプレースは、単に部品を新しくする作業ではなく、この機会にプログラムと図面を現行仕様へ整理し直し、誰でも保守できる状態に戻す作業でもあります。この副次的な価値は、費用対効果を計算するときにしばしば計上され忘れています。

更新判断の物差し|延命かリプレースか

では、いつ延命をやめて更新に踏み切るべきなのか。感覚ではなく数字で判断するための物差しを3つ紹介します。

物差し1|年間修理費÷設備取得価額

製造業の設備更新判断で広く使われている目安が、年間の修理費が設備の取得価額に対して何パーセントに達しているかという比率です。この比率が10〜15%を超えた時点が、更新を検討すべきタイミングの目安とされています。

考え方はシンプルです。毎年取得価額の15%を修理に使っているということは、7年弱で新品がもう1台買える金額を修理に投じている計算になります。しかも修理を重ねても設備の性能は元に戻るだけで、生産能力が上がるわけでも、消費電力が下がるわけでもありません。同じ金額を新しい設備に使えば性能向上と省エネが同時に手に入るのですから、比率が上がってきた段階で更新へ切り替えたほうが合理的だ、という判断です。

この物差しを使うときの実務的な注意点は、修理費に何を含めるかです。部品代と外注工賃だけを数えると比率は低く出ます。自社保全員の工数、停止による逸失利益、代替生産の追加費用まで含めて初めて実態に近い数字になります。

物差し2|MTBF(平均故障間隔時間)の推移

もう一つの物差しがMTBF、すなわち平均故障間隔時間です。総稼働時間を故障回数で割ることで算出でき、「この設備は平均して何時間動くと1回止まるのか」を示します。

MTBFが有効なのは、絶対値ではなく推移を見るときです。ある設備のMTBFが3年前は2,000時間だったのに、今年は600時間まで落ちているのであれば、それは部品の寿命が一斉に来ている兆候であり、個別の故障を都度直す局面から、システムとして更新する局面へ移ったことを示しています。逆に、修理費の絶対額は大きいけれどMTBFが安定しているなら、それは老朽化ではなく特定部位の設計上の弱点である可能性が高く、その部位だけを対策すれば済むかもしれません。

物差し3|法定耐用年数と経済的寿命を混同しない

税務上の法定耐用年数と、その設備が経済的に見合う形で使える期間は別物です。減価償却が終わっているから使い続けるべきだ、という判断も、法定耐用年数を過ぎたから更新すべきだ、という判断も、どちらも本質を外しています。

実務的な考え方として推奨されるのは、今後5〜10年に発生する修繕費の累計見込みと、新しい設備の取得・設置費を並べて比較することです。この比較の枠組みであれば、償却の済み具合に関係なく、どちらが安く済むかを同じ土俵で議論できます。

延命を選んでよい条件

一方で、すべての老朽設備を更新すべきというわけではありません。延命という判断が合理的になるのは、次のような条件が重なる場合です。

  • 年間の保全費が、更新に必要な費用の10%未満に収まっている
  • 交換部品がまだ市場または社内在庫で入手可能である
  • 大型の更新コストを吸収できる投資計画が今期に立っていない
  • その設備が担う製品の生産が、数年内に終了する見込みである

重要なのは、これらの条件が「重なっているとき」だけ延命が合理的だという点です。部品が入手できるという条件だけを根拠に延命を続け、気づいたときには修理対応終了から何年も経っていた、というのが最も避けたいパターンです。

4つの選択肢を比較する

制御システムの老朽化に対する打ち手は、実務上おおむね4つに整理できます。この4択を並べて比べることが、判断の出発点になります。

PLC更新・リプレース判断2026|延命か全面更新かを分ける4択 - figure 2

選択肢1|現状維持+部品確保

何も改造せず、予備品を計画的に確保することで延命を図る方法です。生産中止の案内が出た段階で必要数を買い置きし、故障時は自社の予備品と交換して対応します。追加投資が最も小さく、ラインを止める必要もありません。

弱点は、あくまで時間稼ぎでしかないことです。予備品を使い切ればそこで終わりですし、購入した予備品自体も電解コンデンサの経年劣化などで、保管しているだけで性能が落ちていきます。またこの方法は、老朽化の問題を先送りするだけで、上位システムとの接続性やセキュリティの課題は何一つ解決しません。

選択肢2|レトロフィット(既存制御を残した延命)

既存の制御盤とPLCはそのまま残し、必要な機能を外付けで追加する方法です。ここで言うレトロフィットには、制御盤の内部で劣化の激しい部品だけを交換する保守的なものから、既存PLCの出力信号を分岐させて外部のゲートウェイでデータを収集する情報化まで、幅があります。

なお、センサーやゲートウェイを後付けして稼働データを取得する「IoT化」を主目的とするレトロフィットについては、費用の構造と進め方を既存設備のIoT化|レトロフィット費用5層とタイ工場の進め方で詳しく解説しています。本記事で扱うレトロフィットは、あくまで制御システムそのものの延命という文脈のものであり、目的が異なる点にご注意ください。データ収集が目的であれば前者、制御盤の寿命を延ばすことが目的であれば本記事の枠組みで検討してください。

選択肢3|PLC・制御盤のリプレース

機械設備は既存のまま活かし、PLCと制御盤の中身を新世代へ置き換える方法です。ラダープログラムを新機種向けに移植し、必要に応じて配線を引き直します。設備を丸ごと更新するより費用を抑えつつ、制御システムの寿命を新品同等までリセットでき、上位システムとの接続性やセキュリティも現行水準に引き上げられます。

この選択肢を採るときの実務的な論点は、プログラムの移植方法と、既存の入出力配線をどこまで再利用するかです。メーカーによっては旧機種の端子配列に合わせた変換アダプタを用意しており、配線をそのまま流用できる場合があります。これが使えるかどうかで工期と費用が大きく変わるため、見積もりの前に確認しておくべき項目です。リプレース後の制御盤をどこで製作するかについては、日本製作とタイ現地製作の判断軸を制御盤設計・製作の発注ガイド2026|日本製作かタイ現地製作かで整理しています。

選択肢4|設備本体ごとの更新

機械部分も含めて設備を丸ごと新しいものに入れ替える方法です。制御システムだけでなく機械精度も新品に戻り、生産能力や省エネ性能の向上、安全規格への適合も同時に達成できます。

費用と停止期間は4択のなかで最大になります。この選択肢が正当化されるのは、制御系だけでなく機械部分の摩耗も限界に来ている場合や、現在の設備では作れない製品を生産する必要が出てきた場合です。設備全体のライフサイクルという観点での判断基準は老朽化設備の更新2026|壊れる前に部品が消える4つの期限で扱っていますので、機械部分の判断も同時に必要な方はそちらもご覧ください。

4択の比較表

ここまでの4つの選択肢を、費用・停止期間・向くケースの観点で並べたのが次の表です。金額は設備の規模や点数によって大きく変動するため、絶対額ではなく相対的な傾向として捉えてください。

選択肢主な内容費用感の傾向ライン停止期間の傾向向くケース
現状維持+部品確保予備品の計画購入のみ最も小さいほぼ発生しない数年内に生産終了が決まっている設備
レトロフィット劣化部品の交換や機能の外付け小さい短い(休日内で収まることも)制御は問題なく、特定部位だけ弱っている設備
PLC・制御盤リプレース制御系のみ新世代へ置換中程度中程度(数日〜)機械は健全だが制御機器が修理対応終了に近い設備
設備本体ごとの更新機械を含む全面更新最も大きい最も長い機械精度も限界で、生産能力の向上も必要な設備

一方で、それぞれの選択肢には固有のリスクがあり、費用の安さだけで選ぶと後で高くつきます。特に見落とされやすい注意点を、同じ4択の並びで整理しました。

選択肢見落とされやすい注意点
現状維持+部品確保保管中の予備品も経年劣化する。属人化とセキュリティの課題は残ったまま
レトロフィット「延命」と「IoT化」を混同すると目的と費用が噛み合わなくなる
PLC・制御盤リプレースプログラム移植の工数見積もりが読みにくい。旧図面の整備状況に大きく左右される
設備本体ごとの更新周辺設備との接続・搬送レイアウトの見直しが付随的に発生する
PLC更新・リプレース判断2026|延命か全面更新かを分ける4択 - figure 3

タイ・ASEAN工場ならではの視点

ここまでは日本の工場でも共通する判断軸でした。タイに拠点を持つ製造業の場合、これに固有の材料が加わります。

BOIの技術アップグレード優遇を検討材料に入れる

タイ投資委員会(BOI)は2026年、スマートファクトリー、AIを活用した生産、自動化への投資を後押しする「Smart and Sustainable Industry」の枠組みを展開しています。ここで注目すべきなのは、新規の工場建設だけでなく、既に操業している工場が技術アップグレードを行う場合にも恩典を申請できる制度(Activity 10.1)が用意されている点です。

要件を満たす技術アップグレード投資に対しては、追加の法人所得税(CIT)免除年数が付与されうると案内されており、案件によっては最大3年程度とされています。またAI・自動化関連設備の輸入関税免除の制度もあります。

ただし、免除率や上限額といった具体的な条件は情報源によって記載に幅があり、申請要件も年度ごとに更新されます。制御システムの更新がこの枠組みに乗るかどうかは、投資額の内訳や導入する技術の内容によって判断が分かれるため、恩典の詳細と最新の申請要件は必ずBOI公式サイトおよびBOIへの直接照会で確認してください。本記事の記載は、そうした制度が存在するという紹介にとどまるものです。

実務的に押さえておきたいのは、恩典の有無が更新の判断そのものをひっくり返すことがある、という点です。年間修理費の比率だけを見れば延命が妥当に見えるケースでも、恩典によって実質的な投資負担が下がるのであれば、リプレースが有利になる可能性があります。判断の前に、投資計画の担当部門と制度の適用可否を確認しておく価値は十分にあります。

人件費上昇と技能人材の不足という後押し

タイでは人件費の上昇と技能労働者の不足が続いており、これが自動車・電子部品を中心に自動化投資を加速させている、という傾向が複数の業界レポートで共通して指摘されています。

この文脈は制御システムの更新判断にも効いてきます。旧世代のPLCで組まれたラインは、段取り替えや異常復旧に熟練者の勘を必要とすることが多く、その熟練者を確保し続けるコストが年々上がっているためです。制御システムを新世代へ更新して、段取りをレシピ管理化し、異常時のガイダンスを画面に出せるようにすることは、単なる部品の若返りではなく、必要な人材のスキル要件を下げる投資でもあります。この効果は修理費の比較表には現れませんが、数年単位で見ると無視できない大きさになります。

メーカー混在環境と現地SIerの選定

タイの日系工場では、日本から持ち込んだ設備、現地で調達した設備、親会社の別拠点から移設した設備が混在しているケースが一般的です。結果として、1つの工場の中に複数メーカーのPLCが並び、それぞれ別の開発環境と別の予備品在庫を必要とする状態が生まれます。

制御システムの更新は、この混在を整理する数少ない機会でもあります。すべてを一気に統一する必要はありませんが、更新のたびに「今後この工場で標準とするメーカーと機種はこれ」という方針に沿って寄せていけば、数年かけて予備品の点数と保守の学習コストを圧縮できます。逆に、その場その場で安いものを選び続けると、混在は年々ひどくなります。

依頼先の選定では、対象メーカーのPLCの実務経験があるか、既存のラダーを読み解いて移植できるか、タイ国内でアフター対応ができるか、という3点が現実的な足切り基準になります。見積もりが大きく割れる理由と確認すべき境界についてはロボットSIerの選び方2026|見積が2〜3倍割れる5つの境界で解説していますので、依頼先を比較する段階の方は参考にしてください。

進め方|診断から段階実施まで

判断軸が定まったら、次は実行の順序です。制御システムの更新は、一度にすべてを行おうとすると予算も停止期間も現実的でなくなるため、段階に分けて進めるのが基本になります。

第1段階|現状の棚卸しと診断

まず、工場内のPLCと制御盤を型番単位で洗い出します。このとき集めるべき情報は、メーカー・型番・導入年・生産中止と修理対応終了の状況・予備品の保有数・プログラムと図面の整備状況・過去数年の故障履歴です。

多くの工場で、この棚卸しの時点で想定外の事実が出てきます。予備品があると思っていた型番の在庫がゼロだった、修理対応終了がすでに数年前に過ぎていた、最新版のラダーがどれか分からない、といった発見です。診断の価値の半分は、この「知らなかったことを知る」ところにあります。

第2段階|優先順位付け

洗い出した設備を、リスクと重要度の2軸で並べます。リスクは修理対応終了までの残り期間と予備品の在庫数から、重要度はその設備が止まったときの生産への影響から評価します。

両方が高いもの、すなわち「修理対応が終わっていて予備品もなく、止まると全ラインが止まる」設備が最優先です。逆に、リスクは高くても代替生産が効く設備は後回しにできます。この整理をしないまま「古い順」に手をつけると、予算を使い切った後に最も危険な設備が残る、という結果になりかねません。

第3段階|対象を絞った先行実施

優先度の最も高い1台、あるいは1ラインを先行して実施します。ここで得たいのは、実際にかかった工数と費用、想定と実績のズレ、移植で発生した問題の種類です。この実績があることで、2台目以降の見積もり精度と社内の説得力が大きく変わります。

先行実施の対象を選ぶときは、「最も危険な設備」と「最も難しい設備」が一致しない場合があることに注意してください。難易度が極端に高い設備を最初に選ぶと、途中で行き詰まって全体の計画が止まるリスクがあります。危険度が高く、かつ難易度が中程度の設備を選ぶのが現実的です。

第4段階|横展開と標準化

先行実施で得た知見をもとに、残りの設備へ順次展開します。この段階で決めておきたいのが、機種の標準、プログラムの記述ルール、図面の管理方法、予備品の共通化です。更新のたびに個別最適で進めると、新しい混在を作るだけになってしまいます。

タイの工場では、この標準化の文書をタイ語でも用意しておくことを強くおすすめします。日本語と英語だけの手順書は、現場のタイ人保全員が日常的に参照する資料としては機能しにくく、せっかく整理した保守性が数年で失われる原因になります。

よくある質問

PLCの更新費用の目安はどれくらいですか?

一律の金額を示すことはできません。費用は入出力点数、既存配線を再利用できるか、ラダープログラムの規模と図面の整備状況、そして停止できる時間の長さによって大きく変動するためです。

現実的な進め方は、絶対額の相場を探すことではなく、自社の設備について「今後5〜10年に見込まれる修繕費の累計」と「更新に必要な取得・設置費」を並べて比較することです。この枠組みであれば、他社の相場が自社に当てはまるかどうかを気にせずに判断できます。加えて、年間修理費が設備取得価額の10〜15%を超えているかどうかを確認すれば、更新を検討すべき段階に来ているかの見当がつきます。

レトロフィットとPLCリプレースの違いは何ですか?

目的と、手を入れる範囲が違います。レトロフィットは既存の制御システムを残したまま機能を追加したり劣化部品を交換したりする延命策で、費用と停止期間を抑えられる代わりに、制御機器そのものの寿命は延びません。PLCリプレースは制御系を新世代へ置き換えるもので、費用と停止期間は大きくなりますが、制御システムの寿命がリセットされ、上位システムとの接続性やセキュリティも現行水準になります。

なお、レトロフィットという言葉は「IoTセンサーを後付けしてデータを取る」意味で使われることも多く、制御盤の延命という意味とは目的が異なります。社内やベンダーとの会話で認識がずれやすい部分なので、何を目的としたレトロフィットなのかを最初に定義しておくと議論が噛み合います。

老朽化したPLCを放置するとどうなりますか?

最も直接的なリスクは、修理対応が終了した後に故障し、部品が手に入らないために復旧の目処が立たなくなることです。通常なら数時間の停止で済む故障が、部品の探索と輸入で数週間に伸びる可能性があります。

それに加えて、旧世代の開発環境が動くパソコンが失われるとプログラムの修正すらできなくなること、上位システムとの接続やセキュリティ対策が取れないこと、設計意図を理解している人がいなくなり保守が引き継げなくなること、という3つの問題が同時に進行します。壊れてから考えるという戦略が成立しにくくなっているのは、この複合性が理由です。

タイでPLC更新を依頼する場合、どのような流れになりますか?

一般的には、現状の棚卸しと診断、対象設備と範囲の決定、既存プログラムと図面の調査、機種選定と移植方針の決定、制御盤の設計・製作、停止期間を確保しての据付と切り替え、試運転と立ち会い確認、という流れになります。

タイ固有の論点としては、制御盤を日本で製作して輸入するのか現地で製作するのかという選択、BOI恩典の適用可否の確認、そして更新後の保守をタイ国内で完結できる体制になっているかの確認が加わります。特に最後の点は、依頼先を選ぶ段階で確認しておかないと、更新は済んだが不具合時に日本から人を呼ばないと直せない、という状態になりかねません。

更新は一度に全部やるべきですか?

原則として、段階的に進めることをおすすめします。一度にすべてを更新すると、予算のピークが大きくなるだけでなく、長期のライン停止が必要になり、生産計画への影響が許容範囲を超えることが多いためです。

ただし例外もあります。複数の設備が同じネットワークで連携しており、一部だけを新世代に替えると通信仕様が合わなくなる場合は、その連携単位でまとめて実施するほうが結果的に安く済みます。段階分けの単位は「設備の台数」ではなく「機能として切り離せる単位」で考えてください。

まとめ

制御システムの老朽化は、機械部分の摩耗より先に工場の足を止める可能性がある課題です。判断のポイントを整理すると次のようになります。

  • メーカーの期限は「生産中止」と「修理対応終了」の2つがあり、実務上のリスクは後者で立ち上がる。三菱電機の実例では、生産中止から修理対応終了までは概ね7年
  • 更新判断の物差しは、年間修理費÷設備取得価額が10〜15%を超えているか、MTBFが低下傾向にあるか、今後5〜10年の修繕費累計と更新費用のどちらが大きいか、の3点
  • 打ち手は現状維持+部品確保、レトロフィット、PLC・制御盤リプレース、設備本体ごとの更新の4択。費用と停止期間だけでなく、それぞれ固有の注意点を並べて比較する
  • タイの工場では、BOIの技術アップグレード優遇、人件費上昇と技能人材不足、メーカー混在環境という3つの固有要因が判断に影響する
  • 進め方は、棚卸しと診断、優先順位付け、対象を絞った先行実施、横展開と標準化の順で段階的に

最も避けたいのは、判断そのものを先送りしたまま時間だけが過ぎることです。生産中止の案内を受け取った時点から修理対応終了まで概ね7年という時間軸は、決して長くありません。棚卸しと診断だけでも早めに着手しておけば、予算計画に乗せる余裕が生まれます。

自社の制御盤やPLCがどの段階にあるのか、延命とリプレースのどちらが妥当なのか、判断に迷われている段階でも構いません。TOMAS TECHはタイでFAシステムの設計・製作・保守を手がけており、既存設備の棚卸しと現状診断からご相談を承っています。まずは現状を整理するところから、お問い合わせページよりお気軽にお声がけください。

参考情報