タイで工場を運営していると、人件費の上昇と熟練工の確保難は年々重くなります。協働ロボットは有力な選択肢ですが、カタログを眺めても自社のどの工程に効くのかは見えてきません。判断材料になるのは、工程が近い他社の協働ロボット 事例が示した具体的な数字です。本記事では機械テンディング、組立、検査、食品包装といった工程別に公開事例と効果を並べ、費用対効果の考え方とタイ固有の事情まで整理します。
なぜ協働ロボット 事例を先に見るべきなのか
協働ロボットの検討は、多くの場合メーカーのカタログから始まります。可搬重量、リーチ、繰り返し精度、力覚センサーの有無。どれも重要な仕様ですが、これらの数字をいくら並べても「自社のあの工程に入れたら、いくら効果が出るのか」という問いには答えが出ません。
スペック表からは自社への当てはまりが読み取れない
可搬重量10kgのアームが自社のワークを持てることは、スペック表で分かります。しかし、そのアームを入れたときに何人分の作業が置き換わるのか、サイクルタイムがどれだけ縮むのか、投資が何ヶ月で回収できるのかは、工程の中身を見なければ判断できません。同じ可搬重量のロボットでも、24時間稼働の機械テンディングに入れるのと、日中の一部時間帯だけ発生するラベル貼付に入れるのとでは、生み出す効果がまったく違います。
だからこそ、導入判断の初期段階では、自社と工程が近い会社が実際にどんな結果を得たのかを先に確認する価値があります。効果の桁が見えれば、社内での議論が「入れるか入れないか」から「どの工程から入れるか」に進みます。
事例の数字は「業種が近いか」ではなく「動作が近いか」で読む
事例集を読むときによくある失敗が、業種で絞り込んでしまうことです。自動車部品メーカーの方が自動車部品の事例だけを探し、食品工場の方が食品の事例だけを探す。しかし協働ロボットが置き換えているのは業種ではなく、人の動作です。
機械から加工済みワークを取り出して次の機械に入れる動作は、自動車部品でも電子部品でも医療機器でも本質的に同じです。トレイに並んだ製品を箱に入れる動作も、食品でも化粧品でも樹脂部品でも変わりません。事例を読むときは、業種の一致よりも「取る・置く・締める・貼る・運ぶ」といった動作の一致を優先してください。業種が違っていても動作が同じなら、効果の出方は近くなります。
事例を読むときに外してはいけない3つの前提
公開されている協働ロボット 事例の数字は、その企業のその工程で得られた結果です。読み方を間違えると、社内の期待値だけが上がって後で苦しくなります。次の3点は最初に押さえておいてください。
- 効果の数字は個別事例であり、同じ効果がどの現場でも再現される保証はありません。導入前の状態(ベースライン)が悪いほど、改善率は大きく出ます
- 「協働ロボット」と「産業用ロボット」は、安全柵の要否などで区別される別カテゴリです。ロボット導入事例として公開されているものの中には、協働ロボットに固有の条件が明示されていないものもあります
- 効果の数字は、多くの場合ロボット本体だけの成果ではありません。治具やエンドエフェクタの設計、周辺搬送の見直し、作業手順そのものの再設計が伴っています
本記事では、出典が確認できた数字だけを扱い、確認できない部分は「確認できていない」と明記します。
工程別に見る協働ロボット 事例と効果

ここからが本記事の中心です。公開されている事例を工程別に整理し、「どんな工程か」「どんな効果が出たか」「出典はどこか」の順で並べます。自社の工程と動作が近いものから読んでください。
機械テンディング・溶接|生産性200%と600%、ROI 12ヶ月以内という事例
機械テンディングとは、マシニングセンタや旋盤、プレス機などの工作機械に対して、素材を投入し加工済みワークを取り出す工程を指します。作業そのものは単純ですが、機械が加工している間は人が待つことになり、作業者の時間が細切れに消費されます。協働ロボットが最も効果を出しやすい工程のひとつです。
国際ロボット連盟(IFR)が公開している協働ロボットの事例集には、溶接工程と機械加工工程に協働ロボットを導入した事例が掲載されています。この事例では、溶接工程で生産性200%、機械テンディング工程で600%の生産性向上を達成し、投資回収(ROI)は12ヶ月以内だったとされています。
600%という数字だけを見ると現実離れして感じられるかもしれませんが、機械テンディング工程で改善率が大きくなりやすい理由には、一般論として構造的な説明がつきます。作業者が機械の前で加工完了を待っている工場では、機械の実稼働時間が人の勤務時間に縛られます。ロボットが投入と取り出しを担うと、機械は休憩時間中も動き続けられます。1日の実稼働時間が数倍になれば、生産性が数倍になるのは計算上おかしくありません。なお、この説明は改善率が大きく出る仕組みについての一般的な解説であり、上記IFR事例における導入前の作業実態が公開情報として確認できているわけではありません。
逆に言えば、すでに機械の稼働率が高く、作業者が待ち時間なく複数台を回している工場では、同じ改善率は出ません。この点は自社の現状を測ってから判断する必要があります。
組立・ねじ締め|サイクルタイムの均一化と品質のばらつき低減
組立やねじ締めは、人の手でも十分にできる作業です。それでもロボット化が進む理由は、人手では作業のばらつきを消せないからです。
Universal Robotsが公開している三恵工業株式会社の事例では、組立・部品付ラインへのロボット導入により、均一なサイクルタイムと安全性を確保して自動化に成功し、作業者の習熟度によらない品質の均一化を実現したとされています。ここで注目したいのは、削減人数ではなく「習熟度によらない」という部分です。
タイの工場では、この論点が特に効くというのが弊社の実務上の見解です。人の入れ替わりが一定の頻度で発生する環境では、熟練者と新人でトルク管理や作業順序に差が出やすく、その差が不良やクレームの形で表れます。ねじ締め工程をロボットに任せると、締付順序と締付トルクが常に同じになります。人が変わっても品質が変わらないという性質は、教育コストの削減という形でも効いてきます。
組立・ねじ締め工程を検討する際、実は本体選定よりも難所になるのがエンドエフェクタです。ワークを掴む部分の設計が決まらないと、ロボットのスペックも決まりません。この部分の考え方はロボットハンド・グリッパー選定|工場自動化の実務ガイドで詳しく整理していますので、組立系の工程を検討される場合は先にご覧ください。
歯車製造の省人化|二名体制から一名減、対象設備で30%の生産性向上
Universal Robotsが公開している大久保歯車株式会社の事例では、協働ロボットの導入により、対象設備で二名体制から一名減の省人化に成功し、対象設備では30%の生産性向上を実現したとされています。同社は歯車製造業です。
この事例の読み方で大切なのは、効果が「対象設備」に限定して語られている点です。工場全体の生産性が30%上がったのではなく、ロボットを入れた設備での話です。事例の数字を社内で共有するときは、この範囲の限定をそのまま伝えてください。範囲を落として「30%生産性が上がる」とだけ伝えると、期待値が過大になり、導入後の評価が実態より厳しくなります。
また、二名体制から一名減という規模感も現実的です。協働ロボットの導入は、いきなり無人化を実現するものではなく、複数人でやっていた工程を少人数で回せるようにする性質のものです。この規模の積み上げが、結果として工場全体の省人化につながります。
検査|人の目を置き換えるのではなく「見る条件」を固定する
検査工程は協働ロボットの適用対象としてよく挙げられますが、公開事例の中で定量効果の出典が確認できるものは、機械テンディングや包装ほど多くありません。本記事では確認できない数字を書かない方針のため、ここでは効果の数字ではなく、工程の考え方を整理します。
検査工程でロボットが担うのは、多くの場合「判定」そのものではありません。ワークを決まった位置・決まった角度でカメラの前に差し出す動作です。人がワークを手に持って目視する場合、持ち方も角度も照明の当たり方も毎回変わります。この揺らぎが見逃しの温床になります。協働ロボットにワークの保持と姿勢制御を任せ、撮像条件を固定したうえで画像処理に判定させる構成にすると、判定基準が安定します。
したがって検査工程を検討する場合、投資対象は「ロボット」ではなく「ロボットと画像処理と照明の組み合わせ」になります。ロボット単体の見積もりだけで判断すると、後から費用が膨らみます。
仕分け・ラベル貼付・包装|人数の変化が明示されている事例
仕分け・ラベル貼付・包装といった後工程は、公開事例の中で人員削減数が具体的に示されているものが比較的多い領域です。日研トータルソーシングが公開しているコラムには、次の3件が紹介されています。
医療用分包機メーカーのタカゾノは、製品の仕分け・積み込み工程へのロボット導入で、作業者を6名から4名に削減したとされています。ベーカリーのタカギベーカリーは、ラベル貼付工程へのロボット導入で、作業者を5名から2名に削減し、ラベルの貼付ミスも防げるようになったとされています。ハム・ソーセージ製造の日本ハムファクトリーは、包装機への投入工程へのロボット導入で、作業者を5名から3名に削減したとされています。
これらは協働ロボットに限定した表現ではなく、ロボット導入事例として語られているものです。安全柵を省略できたかどうかまでは出典から確認できないため、「協働ロボットだから柵が不要になった」という読み方はしないでください。ここで参考にすべきは、3件のいずれも工程が無人になったのではなく、削減幅が2名または3名という着地にとどまっている点です。
人数の変化が明示されている事例は、社内稟議で使いやすいという実務上の利点もあります。生産性が何%向上したという表現より、5名が2名になったという表現の方が、経理部門にも工場長にも意味が伝わります。
塗装|UR10導入で精度・生産性・品質が向上した事例
IFRの事例集には、塗装工程にUR10を導入し、精度・生産性・品質が向上したという事例が掲載されています(2024年10月)。塗装は、作業者の健康面への配慮が必要な工程であり、かつ塗膜の均一性が人の腕に依存しやすい工程です。ロボット化の動機が省人化だけでなく作業環境の改善にもある点が、この工程の特徴です。
なお、塗装工程は防爆仕様や換気設備との取り合いが発生するため、他の工程より周辺条件の確認事項が多くなります。導入検討の初期段階で、設備担当と安全担当を巻き込んでおくことをおすすめします。
食品の焼成工程|FANUC協働ロボットを採用したベーカリーの事例
同じくIFRの事例集には、ベーカリーのBakisto社がFANUCの協働ロボットを採用し、焼成工程の自動化により反復作業からの解放、工程の信頼性向上、食品廃棄削減を実現したという事例が掲載されています(2025年12月)。
この事例で目を引くのは、効果として食品廃棄の削減が挙げられている点です。省人化と品質だけでなく、材料ロスの削減が投資効果に乗ってくる工程があるということです。歩留まりが投資判断の材料になる工程では、人件費だけで回収期間を計算すると効果を過小評価することになります。
工程別の効果を一覧で整理する
ここまでの事例を、工程と効果の対応で並べ直します。自社の工程に近い行から検討を始めてください。
| 工程 | 公開事例で確認できた効果 | 出典 |
|---|---|---|
| 溶接 | 生産性200%向上、ROI 12ヶ月以内 | IFR事例集 |
| 機械テンディング | 生産性600%向上、ROI 12ヶ月以内 | IFR事例集 |
| 歯車製造 | 二名体制から一名減、対象設備で30%の生産性向上 | Universal Robots 大久保歯車 |
| 組立・部品付 | 均一なサイクルタイムと品質の均一化 | Universal Robots 三恵工業 |
| 仕分け・積み込み | 作業者6名から4名へ | 日研トータルソーシング |
| ラベル貼付 | 作業者5名から2名へ、貼付ミス防止 | 日研トータルソーシング |
| 包装機への投入 | 作業者5名から3名へ | 日研トータルソーシング |
| 塗装 | 精度・生産性・品質が向上 | IFR事例集 |
| 焼成 | 反復作業からの解放、信頼性向上、食品廃棄削減 | IFR事例集 |
この表を眺めると、効果の表れ方が2種類に分かれることが分かります。ひとつは機械テンディングや溶接のように、設備の稼働時間が延びることで生産性の倍率が大きく出るタイプ。もうひとつはラベル貼付や包装のように、人数の減少という形で効果が出るタイプです。自社の対象工程がどちらのタイプかを見極めると、効果の見積もり方も変わってきます。
協働ロボットの費用対効果の考え方

事例の数字が分かったら、次は自社に当てはめる番です。ここで大切なのは、事例の改善率をそのまま自社に掛けないことです。
ROIの一般的な目安は8〜18ヶ月
協働ロボット導入のROI(投資回収期間)は、一般に8〜18ヶ月程度が目安とされています。また、生産性向上幅はベースラインの効率や作業の複雑さにより20%〜200%の幅があるとされています。
この「幅」の広さこそが重要な情報です。20%と200%では10倍の開きがあり、同じ投資でも回収期間はまったく違うものになります。幅が生まれる要因は、導入前の状態です。作業者が機械の前で待っている時間が長い工場ほど改善率は大きく出て、すでに多台持ちで効率的に回している工場ほど改善率は小さく出ます。
つまり、事例の数字を見て「うちも600%」と考えるのは順序が逆です。まず自社のベースライン、すなわち対象工程で人がどれだけ待っているか、設備の実稼働時間が勤務時間に対して何割かを測る。その数字が悪いほど、協働ロボットの投資対効果は高くなります。
回収期間の試算は3つの数字から組み立てる
架空の想定企業を置いて考えてみます。タイ国内で操業する日系の金属加工工場が、マシニングセンタ2台の機械テンディングに協働ロボットを1台入れると仮定します。この場合、試算に必要な数字は次の3つに集約されます。
- 削減または再配置できる人の作業時間。1日あたり何時間分の作業がロボットに移るか
- その時間に紐づく人件費。基本給だけでなく、社会保険や残業割増を含めた実額
- 設備の実稼働時間の増加分。人が待たなくなったことで機械が何時間長く動くか、その時間で何個多く作れるか
年間の効果額は、この3つを金額に換算して合算したものになります。回収期間は、初期投資額を年間効果額で割って求めます。数式にすると単純ですが、実務で難しいのは3番目です。設備の実稼働時間の増加分は、増えた生産数が売れる場合にのみ金額になります。受注が頭打ちの工場で機械だけ長く回しても、在庫が増えるだけで効果額にはなりません。
したがって、試算の前に「増産分に需要があるか」を営業側と確認してください。需要がない場合、効果は人件費の削減分だけで計算することになり、回収期間は当然長くなります。この確認を飛ばした試算は、ほぼ確実に楽観側に振れます。
見落とされやすい費用と、費用構造の詳細
初期投資額はロボット本体の価格だけではありません。エンドエフェクタ、架台、周辺の搬送機構、安全評価、ティーチング、既存設備との信号の取り合い、そして立ち上げ期間中の生産ロスまでが投資に含まれます。本体価格だけで回収期間を計算すると、実際の回収は大きく後ろにずれます。
費用構造をどう分解して見積もるかについては、協働ロボット導入の費用と進め方|安全規格とステップで、費用の内訳と安全規格まわりの必須手順を整理しています。また、中小規模の工場向けにロボット導入費用を層に分けて見積もる考え方は産業用ロボット導入の費用モデル|中小工場の5層分解にまとめました。本記事で示した回収期間の考え方はあくまで事例ベースの概算ですので、実際の予算化に進む段階ではこの2本を併せてご覧ください。
協働ロボット 価格の見通しと市場の拡大
協働ロボットの価格そのものについても、参考になる予測があります。協働ロボットの国内市場規模はメーカー出荷金額ベースで2019年に1,000億7,800万円、2030年には2,230億8,200万円を超えると予測されており、2030年の協働ロボット本体価格は2020年比で3割程度下落すると見込まれています。参考までに、協働ロボットの世界市場シェアNo.1メーカーとされるUniversal Robotsは2005年創業で、この分野の市場そのものが比較的新しいものであることが分かります。
価格が下がる見通しがあるなら待つべきか、という質問をよく受けます。判断としては、待つ理由にはなりにくいと考えています。理由は2つあります。ひとつは、下落が見込まれているのは本体価格であり、投資全体に占める本体の比率はそれほど高くないこと。エンドエフェクタや周辺の作り込み、エンジニアリングの費用は、本体価格ほど下がりません。もうひとつは、待っている期間の人件費が実際に出ていくことです。回収期間が8〜18ヶ月の範囲に収まる案件であれば、待つコストの方が大きくなる可能性が高くなります。
| 項目 | 目安・予測値 | 注記 |
|---|---|---|
| ROIの一般的な目安 | 8〜18ヶ月 | 業界一般の目安であり保証値ではない |
| 生産性向上幅 | 20%〜200% | ベースラインの効率と作業の複雑さで変動 |
| 国内市場規模 2019年 | 1,000億7,800万円 | メーカー出荷金額ベース |
| 国内市場規模 2030年予測 | 2,230億8,200万円超 | メーカー出荷金額ベース |
| 本体価格の見通し | 2030年に2020年比で3割程度下落 | 本体価格の予測であり投資総額ではない |
事例から見える成功パターンと落とし穴
事例を横断して見ると、うまくいっている導入には共通の進め方があり、効果が出なかった案件にも共通の理由があります。
成功パターン|小さく始めて横展開する
事例で効果が出ている企業に共通するのは、1工程・1台から始めていることです。工場全体の自動化構想を描いてから一斉に投資するのではなく、効果が読みやすい工程を1つ選び、そこで実績と社内ノウハウを作ってから隣の工程に広げています。
この進め方には実務的な利点が3つあります。第一に、初期投資が小さいため意思決定が速いこと。第二に、最初の1台でティーチングや保全の担当者が育つため、2台目以降の立ち上げ期間が短くなること。第三に、想定と実際のずれを小さい金額で確認できることです。
成功パターン|工程を「作業」ではなく「動作」で切り出す
「検査工程を自動化する」という切り出し方では、範囲が大きすぎて仕様が決まりません。「検査台にワークを置いて、規定の角度に3回傾ける」まで分解すると、必要なロボットとハンドが具体的に決まります。事例で短期間に立ち上がっている案件は、この分解ができています。
落とし穴|工程選定を誤ると数字が出ない
効果が出ない典型は、対象工程の作業時間がもともと短いケースです。1日あたり合計30分しか発生していない作業を自動化しても、削減できる人件費は限られます。協働ロボットは同じ動作を長時間繰り返す工程で効きます。まずは対象工程が1日何時間発生しているかを実測してください。
もうひとつの典型が、ワークのばらつきが大きい工程です。素材の形状や置かれ方が毎回違う工程は、ロボット側で吸収するために画像処理や治具の作り込みが必要になり、投資額が跳ね上がります。この場合、ロボットを入れる前に前工程の整流化を行った方が、結果的に安く済みます。
落とし穴|事例の数字をそのまま自社に当てはめる
繰り返しになりますが、公開事例の効果はその企業のその工程での結果です。600%という数字は、導入前の稼働状態が特定の条件だったから成立しています。社内資料に事例を引用する際は、必ず出典と「対象工程での効果」という限定を併記してください。
落とし穴|協働ロボットと産業用ロボットの混同
協働ロボットと産業用ロボットは、安全柵の要否などで区別される別カテゴリです。ロボット導入事例として公開されている情報の中には、協働ロボット固有の安全設計に関する詳細が明示されていないものもあります。「協働ロボットだから柵なしで置ける」と一般化せず、実際の設置可否はリスクアセスメントに基づいて判断してください。安全規格まわりの実務については、前述の協働ロボット導入の費用と進め方の記事で扱っています。
タイ・ASEANでの協働ロボット活用の広がり

ここまでは日本およびグローバルの事例を見てきました。ここからはタイの現場に引き寄せて考えます。なお、協働ロボットに限らない省人化全般の事例と費用対効果については工場の省人化|事例と費用対効果の考え方で設備横断的に整理していますので、ロボット以外の選択肢も含めて比較したい場合はそちらも参考になります。
タイ自動車産業に存在する自動化率の大きな差
タイの自動車産業について、業界団体の調査に基づく次のような報告があります。完成車メーカー(OEM)の車体溶接、いわゆるボディ・イン・ホワイト工程の自動化率は90%を超える一方で、Tier1サプライヤーの自動化率は40〜60%、Tier2〜3サプライヤーでは10〜25%にとどまるとされています。
この差は、そのまま伸びしろの所在を示しています。OEMの溶接ラインはすでに自動化されており、これ以上の余地は限られます。一方でTier2〜3の階層には、自動化されていない工程が数多く残っていることになります。そしてこの層では、ねじ締め・接着剤塗布・機械テンディング向けに協働ロボット、具体的にはUniversal RobotsやFANUC CRXシリーズなどの採用が広がっているとされています。
ここで思い出していただきたいのが、本記事の前半で見た事例です。生産性600%とROI 12ヶ月以内という数字が出たのは機械テンディング工程でした。二名体制から一名減、対象設備で30%の生産性向上という事例も、部品加工を行う歯車製造の現場で出たものです。タイのTier2〜3サプライヤーで採用が広がっている工程と、公開事例で効果が確認されている工程は、重なっています。
タイの協働ロボット市場を押し上げている要因
タイの協働ロボット市場は、自動車・電子機器・ヘルスケア・家具/什器を主要産業として拡大しているとされ、その成長要因として人件費の上昇、熟練労働者の不足、政府のIndustry 4.0推進策が挙げられています。
3つの要因のうち、現場の実感として最も切実なのは2つ目でしょう。募集をかけても経験者が集まらない、育てた人材が数年で移っていくという状況は、多くの日系工場で共通しています。この文脈で協働ロボットを見ると、投資の目的が「人を減らすこと」ではなく「人が変わっても品質と生産量を保つこと」に変わります。三恵工業の事例で挙げられていた、作業者の習熟度によらない品質の均一化という効果は、まさにこの目的に対応するものです。
BOIのIndustry 4.0重点分野という追い風
タイのBOI(投資委員会)は2026年、製造業の投資審査においてスマートファクトリー・AI活用生産・自動化を含むIndustry 4.0関連分野を重点分野として位置付けているとされています。自動化投資を計画する際は、BOIの恩典対象になり得るかどうかを早い段階で確認しておく価値があります。恩典の適用可否や条件は個別案件で判断されるため、詳細はBOIまたは申請実務に詳しい専門家に直接ご確認ください。
タイの現場では「小さく始める」がとりわけ効く
Tier2〜3サプライヤーは、OEMやTier1と比べて投資体力が限られます。だからこそ、前述の「1工程・1台から始めて横展開する」という進め方が、タイの現場では特に現実的な選択になります。
もうひとつ、タイ固有の実務的な理由もあります。ロボットの立ち上げと日常運用を担う人材を社内に持てるかどうかが、導入後の稼働率を大きく左右します。最初の1台を通じてローカルスタッフがティーチングと簡単なトラブル対応をできるようになれば、2台目以降は外部委託の範囲を縮小できます。逆に、最初から複数台を一斉に立ち上げると、教育が追いつかないまま外部依存が固定化し、ランニングコストが下がりません。
なお、タイ国内における協働ロボットの具体的な導入企業名を伴う事例は、今回の調査では公開情報として確認できていません。したがって本記事では、日本およびグローバルの事例が示す効果と、タイの産業構造・市場データを組み合わせ、「タイの現場でも同じ工程選定の考え方が当てはまる」という見解として提示しています。この点は事実と考察を分けてお読みください。
自社に当てはまるか確認するチェックリスト
事例を読んだうえで、自社の工程が協働ロボット向きかどうかを判断するための確認項目を整理します。工場を歩きながら確認できる粒度にしてあります。
- 対象工程は1日あたり合計何時間発生しているか。実測値で押さえる
- その工程で人が待っている時間はどれくらいか。設備の実稼働時間が勤務時間の何割かを確認する
- ワークの形状・寸法・供給される姿勢は毎回同じか。ばらつきがある場合、前工程で整流化できるか
- 動作は「取る・置く・締める・貼る・運ぶ」に分解できるか。分解できない工程は仕様が固まらない
- 増産できた場合、その分の需要はあるか。営業側と確認したか
- 対象工程の品質不良は、人の習熟度に依存しているか
- 立ち上げと日常運用を担当できる人材を社内に確保できるか
- 設置スペースと電源、既存設備との信号の取り合いは確保できるか
- 安全面のリスクアセスメントを実施できる体制があるか
- BOI恩典の対象になり得る投資かどうか、確認したか
このうち上の3項目に自信を持って答えられれば、試算に進む価値は十分にあります。逆に、対象工程の発生時間を実測していない段階で見積もりを取ると、比較の基準がないまま金額だけを議論することになります。
よくある質問
協働ロボットの費用対効果はどう考えればよいですか
投資回収期間の一般的な目安は8〜18ヶ月とされています。ただしこれは業界一般の目安であり、自社の回収期間は、削減できる作業時間、その時間に紐づく人件費、設備の実稼働時間の増加分という3つの数字から計算する必要があります。生産性向上幅は20%〜200%と幅が広く、導入前の状態が悪いほど改善率は大きく出ます。事例の改善率をそのまま掛けるのではなく、自社のベースラインを実測してから試算してください。
協働ロボット 価格は今後下がりますか。導入を待つべきですか
2030年の協働ロボット本体価格は2020年比で3割程度下落すると見込まれています。ただし、下がるのは本体価格であり、エンドエフェクタや周辺の作り込み、エンジニアリング費用は同じようには下がりません。回収期間が8〜18ヶ月に収まる見込みの案件であれば、待っている間の人件費の方が大きくなる可能性が高く、待つ理由にはなりにくいと考えています。
製造業のロボット化 事例|中小規模の工場でも参考になりますか
あります。本記事で紹介した事例の多くは、二名体制から一名減、6名から4名、5名から2名、5名から3名といった規模の変化です。工場全体を一気に無人化するような事例ではなく、1工程ずつ人数を減らしていく積み上げ型の内容です。中小規模の工場でも再現を検討しやすい粒度といえます。
協働ロボットは安全柵なしで設置できますか
協働ロボットと産業用ロボットは安全柵の要否などで区別される別カテゴリですが、協働ロボットであれば常に柵が不要になるわけではありません。設置可否は、ワークの形状、動作速度、周辺のレイアウト、人の接近頻度を含めたリスクアセスメントに基づいて個別に判断されます。安全規格まわりの手順は別記事で扱っていますので、そちらをご確認ください。
タイの工場でも日本と同じ効果が出ますか
タイ国内における具体的な導入企業名を伴う事例は、今回の調査では公開情報として確認できていません。ただし、タイのTier2〜3サプライヤーで協働ロボットの採用が広がっているとされる工程、すなわちねじ締め・接着剤塗布・機械テンディングは、公開事例で効果が確認されている工程と重なっています。工程選定の考え方はそのまま適用できると考えていますが、効果の数字は自社のベースラインで試算し直してください。
まとめ
協働ロボット 事例から読み取るべき点を整理します。
- 事例は業種ではなく動作の一致で読む。「取る・置く・締める・貼る・運ぶ」が近ければ、業種が違っても効果の出方は近くなる
- IFRの事例集では、溶接工程で生産性200%、機械テンディング工程で600%の生産性向上、ROI 12ヶ月以内という事例が報告されている
- Universal Robotsの事例では、大久保歯車が二名体制から一名減と対象設備で30%の生産性向上、三恵工業が均一なサイクルタイムと品質の均一化を実現している
- 仕分け・ラベル貼付・包装の工程では人数の変化が明示されており、6名から4名、5名から2名、5名から3名という事例がある
- ROIの一般的な目安は8〜18ヶ月、生産性向上幅は20%〜200%。幅の大きさは導入前のベースラインの差によるもの
- 国内市場規模は2019年の1,000億7,800万円から2030年には2,230億8,200万円を超えると予測され、本体価格は2030年に2020年比で3割程度下落する見込み
- タイではOEMの車体溶接が自動化率90%超に対し、Tier1が40〜60%、Tier2〜3が10〜25%。伸びしろはTier2〜3の工程にある
- タイのBOIは2026年、Industry 4.0関連分野を製造業投資審査の重点分野として位置付けているとされる
最初にやるべきことは、見積もりを取ることではありません。対象工程が1日何時間発生しているかを実測することです。その数字がなければ、どんな事例を読んでも自社への当てはまりは判断できません。
TOMAS TECHは、タイで操業する日系製造業向けに、生産管理システムPEGASUSをはじめとする現場のDX・自動化をご支援しています。協働ロボットについても、「うちのどの工程が向いているのか」「実測から始めるとして何を測ればよいのか」といった手前の整理からご相談いただけます。導入を決める前の情報収集段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にお声がけください。
参考情報
- International Federation of Robotics – Case Studies Collaborative Robots
- Universal Robots – 大久保歯車株式会社 導入事例
- Universal Robots – 三恵工業株式会社 導入事例
- 日研トータルソーシング – 協働ロボットの導入事例と市場動向
- MANTEC – Robotics on the Line, Simple ROI Calculator and Adoption Roadmap
- Robotomated – Cobot Adoption in Manufacturing 2026
- Seraphim – Robotics in Thailand Automotive Industry
- 6Wresearch – Thailand Collaborative Robot Market
- Pertama Partners – Thailand BOI Manufacturing