Blog

2026.08.13

ベトナム工場の自動化2026|回収するのは省人化でなく増産

ベトナム工場の自動化2026|回収するのは省人化でなく増産

「ベトナム 工場 自動化」で検索すると、ロボット密度の低さと人件費の安さを並べた記事が出てきます。ですが、日系工場の投資会議でこの案件が止まる理由は技術ではありません。分母である設備投資はドル建てでタイと同額なのに、分子である削減できる人件費だけがタイの67.5%だからです。本記事ではハノイ近郊の組立工場をモデルに置き、同じ設備を2通りの使い方で比べます。先に言えば、回収するのは省人化ではありません。

最初に置く数字|投資額は同額、ベトナムの総人件費はタイの67.5%

自動化の投資回収を議論するとき、最初に置くべき数字はロボットの台数でも自動化率でもありません。分母と分子の通貨がどう動くかです。

設備は世界中どこでも同じ機械を買います。ロボット本体も、サーボも、視覚センサも、原則としてドル建てで値段が決まります。一方、それが置き換える人件費は現地通貨で決まります。タイの設計をベトナムに持ち込むと壊れるのは、この分母だけがドル建てで固定され、分子だけが現地通貨で縮むという一点によります。

まず、本記事のモデルを固定します。以下はすべて本記事のモデル値であり、特定企業の実測値でも市場相場でもありません。自社に当てはめる際は、賃金・稼働時間・電力単価を置き換えてお読みください。

共通前提(すべて本記事のモデル値)

項目
拠点ベトナム北部・地域1相当(ハノイ近郊工業団地)の日系組立工場
稼働300日/年 × 2交替 × 8時間 = 4,800時間/年
為替(本記事の置き値)1 USD = 26,300 VND / 1 THB = 800 VND
オペレーター基本給・手当7,000,000 VND/月
社会保険等の会社負担(ベトナム)21.5%(BHXH 17.5% + BHYT 3% + BHTN 1%)
オペレーター総人件費(ベトナム)8,505,000 VND/月102,060,000 VND/年
比較用オペレーター基本給(タイ)15,000 THB/月
社会保険(タイ SSO)5%・上限750 THB/月 → 15,750 THB/月 → 189,000 THB/年 = 151,200,000 VND/年
工業用電力単価(ベトナム・本記事の置き値)2,300 VND/kWh
工業用電力単価(タイ・本記事の置き値)4.2 THB/kWh = 3,360 VND/kWh
法人税本記事の試算では税効果を織り込まない(税引前で比較)

※検算: 7,000,000 × 0.215 = 1,505,000 VND / 7,000,000 + 1,505,000 = 8,505,000 VND / × 12 = 102,060,000 VND

※検算: 15,000 × 0.05 = 750 THB(上限750 THBに一致)→ 15,750 THB / × 12 = 189,000 THB / × 800 = 151,200,000 VND

この2つを割ると、本記事の起点になる比率が出ます。

※検算: 102,060,000 ÷ 151,200,000 = 0.675ベトナムのオペレーター総人件費はタイの67.5%

つまり、同じ1人を自動化で置き換えたとき、ベトナムで浮く金額はタイの3分の2しかありません。分子が最初から67.5%に縮んだ状態で投資判断が始まる。これが本記事の全体を貫く構造です。

最低賃金5,310,000 VNDと、モデルの基本給7,000,000 VNDの関係

ここで先に断っておきます。ベトナム地域1の法定最低賃金は、2026年1月1日から5,310,000 VND/月(時間額25,500 VND)です。本モデルで置いている基本給・手当7,000,000 VND/月は、これより高い金額です。矛盾ではありません。

最低賃金は下限であって、実際に工業団地で人が採れる金額ではないからです。ハノイ近郊の日系組立工場が2交替のオペレーターを継続的に確保しようとすれば、基本給に各種手当(皆勤・食事・通勤・交替)を積んだ実勢の支給額は最低賃金を上回るのが通常です。本記事はその実勢に近い置き値として7,000,000 VND/月を採用し、そこに会社負担の社会保険等21.5%を乗せて総人件費8,505,000 VND/月としています。

したがって本記事の試算を読むときは、次の2つを分けて扱ってください。

  • 5,310,000 VND/月:法定の下限。政令で決まる公式の数字。第8章で扱います。
  • 7,000,000 VND/月:本記事のモデルが置く支給額。実測値ではなく置き値です。

自社で計算し直す場合は、7,000,000 VNDを自社の実支給額に差し替えてください。分子はこの1点でほぼ決まります。

設備(両国で同一。投資額はドル建てのため同額と置く)

項目
内容箱詰め・パレタイズ工程の自動化セル(多関節ロボット2台+供給装置+外観検査)
投資額6,312,000,000 VND = USD 240,000 = 7,890,000 THB
平均消費電力5.5 kW → 5.5 × 4,800 = 26,400 kWh/年
保守・スペア・消耗品投資額の3.5%/年 = 220,920,000 VND/年

※検算: 6,312,000,000 ÷ 26,300 = 240,000 USD / 6,312,000,000 ÷ 800 = 7,890,000 THB

※検算: 6,312,000,000 × 0.035 = 220,920,000 VND

投資額6,312,000,000 VNDを両国で同額に置いているのは、乱暴な仮定ではありません。ロボット本体・コントローラ・視覚系・安全機器はいずれも輸入品であり、据付と立ち上げの技術者費用も国際価格に近い水準で動きます。現地調達で差が出るのは架台や配線など周辺の一部で、セル全体の金額を大きく動かすほどではない、という置き方です。

ランニング費(年)

項目ベトナムタイ
電力26,400 × 2,300 = 60,720,000 VND26,400 × 4.2 × 800 = 88,704,000 VND
保守・スペア220,920,000 VND220,920,000 VND
合計281,640,000 VND309,624,000 VND

※検算VN: 60,720,000 + 220,920,000 = 281,640,000 VND

※検算TH: 26,400 × 4.2 = 110,880 THB → × 800 = 88,704,000 VND / 88,704,000 + 220,920,000 = 309,624,000 VND

ランニング費だけを見ると、ベトナムのほうが年間281,640,000 VND、タイのほうが309,624,000 VNDで、ベトナムのほうが安い。電力単価が本記事の置き値では安いためです。ここだけを取り出すと「ベトナムのほうが有利」に見えます。ところが結論は逆になります。ランニング費の差27,984,000 VNDより、分子である人件費の差のほうがはるかに大きいからです。次章で数字にします。

同じ設備でも回収年数が1.81倍になる|省人化型はベトナム19.09年、タイ10.56年

タイでうまくいった省人化の設計を、そのままベトナムに持ち込みます。同じ設備、同じ削減人数6名(2交替で3名×2直)です。

項目ベトナムタイ
年間人件費削減6 × 102,060,000 = 612,360,000 VND6 × 151,200,000 = 907,200,000 VND
ランニング−281,640,000 VND−309,624,000 VND
年間純削減330,720,000 VND597,576,000 VND
単純回収年数19.09年10.56年

※検算VN: 612,360,000 − 281,640,000 = 330,720,000 VND / 6,312,000,000 ÷ 330,720,000 = 19.09年

※検算TH: 907,200,000 − 309,624,000 = 597,576,000 VND / 6,312,000,000 ÷ 597,576,000 = 10.56年

※検算: 19.09 ÷ 10.56 = 1.81倍

ベトナム工場の自動化2026|回収するのは省人化でなく増産 - figure 1

技術ではなく、割り算で否決されている

タイの10.56年も決して短くはありませんが、設備の耐用と工程の寿命を10年以上と見るなら、社内の稟議に乗せられる範囲です。対してベトナムの19.09年は、どの製造業の投資基準にも通りません。多くの日系企業の設備投資は5年から8年、長くて10年で見ます。19.09年は、この工程が19年後も同じ製品を同じ数だけ作っていることを前提にした数字です。誰も保証できません。

重要なのは、この19.09年が技術的な失敗ではないという点です。ロボットの性能も、タクトタイムも、外観検査の精度も、タイとまったく同じです。違うのは分子だけ。ベトナムの案件が投資会議で止まるとき、現場は「ベトナムはまだ自動化に向かない」と結論しがちですが、実際には割り算の分子に何を置いたかで否決されているだけです。

もう一段、数字の内訳を見ます。ランニング費は前章のとおりベトナムのほうが安く、281,640,000 VNDでタイの309,624,000 VNDを下回ります。それでも回収は1.81倍かかる。分母を下げる努力(電力、保守費、設備の値切り)では、この差は埋まらないということです。埋めようとすれば投資額6,312,000,000 VNDを半分近くまで削る必要がありますが、同じ機能のセルでそれは起こりません。

比較のもとになったタイ側の省人化の考え方、費用の積み方、実際の削減人数の置き方については省人化・自動化の事例と費用対効果で整理しています。タイでは通る設計が、ベトナムでは通らない。その差がどこから来ているかを確認するには、両方を並べて見るのが早道です。

「賃金が上がるまで待つ」は解ではない

ここで出てくる次の一手が「ベトナムの人件費が上がるまで待つ」です。しかしこれは投資判断としては空振りになります。第8章で扱うとおり、最低賃金は2026年1月に平均7.2%引き上げられましたが、賃金が上がる速度で19.09年が5年台まで縮むのを待つなら、待っている間の数年間、その工程は自動化されないまま人手で回り続けます。そして待っている間に、装置価格のほうもドル建てで動きます

分母を削るのでも、賃金上昇を待つのでもない、第三の手があります。分子を入れ替えることです。

ベトナムのロボット密度31台/1万人は「遅れ」ではない

ここで、よく引かれる数字を確認します。ベトナムの産業用ロボット密度は従業員1万人あたり31台、前年比+28%と推計されています(Ken Research)。

比較対象として、IFR(国際ロボット連盟)のWorld Robotics 2025では、世界平均132台アジア131台、西欧267台、北米204台とされています。ベトナムの31台は、世界平均のおよそ4分の1という位置にあります。

※本稿ではタイのロボット密度の数値は出しません。今回の調査で信頼できる一次情報を確認できていないためです。確認できていない数字を比較表に入れることは、記事全体の数字の信頼性を落とします。

密度が低い理由を「技術の遅れ」に求めると打ち手を間違える

31台という数字を見たときの通常の解釈は「ベトナムは自動化が遅れている、だからこれから伸びる」です。伸びる部分は正しく、市場規模の推計も2025年 USD 112.0百万 → 2031年 USD 231.7百万、2026–2031年のCAGR 12.88%と伸長が見込まれています(Ken Research)。製造業への直接投資も、2024年に USD 255.8億、製造業が付加価値に占めるシェアは24.1%とされます。工場は増えています。

しかし「遅れているから少ない」という解釈は、打ち手を間違えさせます。第3章で見たとおり、同じ設備・同じ工程・同じ技術水準で計算しても、省人化を分子に置く限り回収は19.09年です。設備が入らない理由は、稟議が通らないことにあります。技術者の不足でも、ロボットの入手性でも、現場の抵抗でもありません。19.09年という数字が、投資基準の側で自動的に弾かれているだけです。

この見方を採ると、密度の数字の読み方が変わります。ベトナムの31台は「これから技術が追いつけば増える数字」ではなく、「省人化ROIという投資基準が現地の賃金水準で通らない限り、増えにくい数字」です。逆に言えば、投資基準の分子を入れ替えた企業から順に、密度の平均値とは無関係に設備を入れられます。

実際、大規模な製造投資は密度の平均を待たずに動いています。Foxconnはベトナムへの投資を加速し、ヒューマノイドロボットの製造にまで踏み込む動きを見せています。こうした規模の投資が、削減できる人件費の割り算だけで説明できるとは考えにくく、生産能力と品質を分子に置いていると見るのが自然です(投資判断の内実は公表されていないため、あくまで本記事の解釈です)。

海外工場の自動化で「平均」を根拠にしない

海外工場の自動化を検討するとき、他社の導入率やロボット密度の平均は、意思決定の根拠にはなりません。平均は「その国の投資基準で何が通ってきたか」の結果であって、自社の工程が回収するかどうかとは無関係だからです。

自社が見るべきは3つだけです。投資額(分母)その設備が生む年間の効果(分子)、そしてその効果が何年続くか。次章から、分子の中身を組み替えます。

分子を入れ替える|ベトナム工場の自動化は増産型で7.19年になる

省人化型とまったく同じ設備、まったく同じ投資額6,312,000,000 VNDで、使い方だけを変えます。人を減らすためではなく、能力を上げて品質を上げるために使います。

重要な前提:設計①(省人化型)と設計②(増産型)は、同じ設備の別々の使い方です。2つの効果を足し合わせてはいけません。以降の表は、同じ6,312,000,000 VNDの投資が2通りに分岐した結果として読んでください。

項目
対象ラインの年間生産数量3,600,000個
単位粗利(売価 − 変動費)1,200 VND/個
現状の年間粗利3,600,000 × 1,200 = 4,320,000,000 VND
自動化による能力向上+18%(人員は増やさない)
追加生産3,600,000 × 0.18 = 648,000個
追加粗利648,000 × 1,200 = 777,600,000 VND/年
不良率2.4% → 1.1%
不良1個あたり損失(材料+加工の変動費)3,800 VND
改善前の不良損失86,400個 × 3,800 = 328,320,000 VND
改善後の不良損失39,600個 × 3,800 = 150,480,000 VND
不良削減効果177,840,000 VND/年
削減人員2名のみ(残りは増産分と新ラインへ配置転換)
人件費削減2 × 102,060,000 = 204,120,000 VND/年
年間効果 合計1,159,560,000 VND
ランニング−281,640,000 VND
年間純効果877,920,000 VND/年
単純回収年数7.19年

※検算: 3,600,000 × 0.024 = 86,400個 / 3,600,000 × 0.011 = 39,600個 / 86,400 − 39,600 = 46,800個 / 46,800 × 3,800 = 177,840,000 VND

※検算: 777,600,000 + 177,840,000 = 955,440,000 / + 204,120,000 = 1,159,560,000 VND

※検算: 1,159,560,000 − 281,640,000 = 877,920,000 VND / 6,312,000,000 ÷ 877,920,000 = 7.19年

※検算: 19.09 ÷ 7.19 = 2.66倍速い

ベトナム工場の自動化2026|回収するのは省人化でなく増産 - figure 2

能力+18%・不良率2.4%→1.1%は仮定である

念のため明記します。能力向上+18%、不良率2.4% → 1.1%、単位粗利1,200 VND/個、不良1個あたり損失3,800 VNDは、いずれも本記事のモデル値です。出典のある実測値でも、業界平均でもありません。自社の数字に置き換えてください。特に単位粗利は製品によって桁が動くため、ここを実数にするだけで結論が変わり得ます。

+18%という数字の置き方だけ補足します。箱詰め・パレタイズ工程を自動化したとき能力が上がるのは、ロボットが人より速いからではありません。タクトのばらつきが消えるからです。人の作業は交替の前後、休憩の前後、疲労の蓄積で速度が揺れます。この揺れが下流の待ち時間を作ります。ロボットセルの効果の大半は、最速値ではなく最遅値の底上げから来ます。したがって+18%を自社に当てはめる際は、現状の工程のばらつきがどれくらいあるかを先に測るのが筋になります。

二重計上の防止(2点)

この試算でいちばん間違えやすい2箇所を、先に潰しておきます。

その1:追加生産648,000個の材料費・加工費を、もう一度引かないこと。

単位粗利1,200 VND/個は売価 − 変動費として定義しています。材料費も加工の変動費も、この1,200 VNDを出す時点ですでに差し引かれています。追加粗利777,600,000 VNDからさらに材料費を引くと、同じ費用を2回引くことになります。

その2:増産型で削減する人員は2名だけ。省人化型の6名を流用しないこと。

増産型は、能力を+18%上げたうえで人員をほぼ据え置く設計です。だから追加粗利が立ちます。ここに省人化型の6名削減を持ち込むと、「人を6名減らしながら生産を18%増やす」という、モデルの前提と矛盾した世界を作ってしまいます。増産型の人件費削減は204,120,000 VND(2名分)です。612,360,000 VND(6名分)ではありません。

とくに後者を犯すと、年間純効果は 777,600,000 + 177,840,000 + 612,360,000 − 281,640,000 = 1,286,160,000 VND に膨らみ、回収は 6,312,000,000 ÷ 1,286,160,000 = 4.91年に見えます。存在しない効果です。

※検算: 777,600,000 + 177,840,000 = 955,440,000 / +612,360,000 = 1,567,800,000 / −281,640,000 = 1,286,160,000 / 6,312,000,000 ÷ 1,286,160,000 = 4.91

効果の内訳を見ると、優先順位が変わる

年間効果1,159,560,000 VNDの内訳を金額の大きい順に並べます。

効果の項目金額(VND/年)位置づけ
追加粗利(能力+18%)777,600,000最大。ただし「売れる」前提に依存
人件費削減(2名)204,120,000需要に依存しない
不良削減(2.4% → 1.1%)177,840,000需要に依存しない
合計1,159,560,000
ランニング−281,640,000電力60,720,000 + 保守220,920,000
年間純効果877,920,000回収7.19年

※検算: 777,600,000 + 177,840,000 + 204,120,000 = 1,159,560,000 VND / − 281,640,000 = 877,920,000 VND

効果の約3分の2が追加粗利です。ここが本設計の強みであり、同時に最大の弱点です。次章で弱点のほうを見ます。

増産型は「売れる」前提の上にしか立たない|需要が無ければ62.92年

前章の7.19年は、追加生産した648,000個がすべて売れるという前提の上に立っています。売れなければ、追加粗利777,600,000 VNDは丸ごとゼロになります。作った分は在庫になり、粗利ではなく運転資本になります。

その場合の数字を隠さずに出します。

項目
追加粗利0 VND(作っても売れない)
不良削減効果177,840,000 VND
人件費削減(2名)204,120,000 VND
年間効果 合計381,960,000 VND
ランニング−281,640,000 VND
年間純効果100,320,000 VND/年
単純回収年数62.92年 = 実質回収しない

※検算: 177,840,000 + 204,120,000 = 381,960,000 VND / 381,960,000 − 281,640,000 = 100,320,000 VND / 6,312,000,000 ÷ 100,320,000 = 62.92年

62.92年は、回収しないという意味です。設備の寿命をどう長く見積もっても届きません。7.19年と62.92年の差は、機械の性能差ではなく、注文があるかどうかの差です。

増産型を選ぶ前に確認すべき3つ

したがって、増産型の設計は「需要の確認」とセットでしか成立しません。稟議に添えるべきは、ロボットの仕様書ではなく次の3点です。

  1. 追加648,000個分の引き合いが実在するか。顧客の内示、フォーキャスト、既存の受注残のどれで裏づけるかを明示します。「営業が頑張れば売れる」は前提になりません。
  2. その需要が何年続くか。7.19年で回収する設計は、7年以上その需要が続くことを前提にします。1年だけのスポット増産では回収しません。
  3. 売れなかった場合にどこまで沈むか。本モデルでは62.92年です。この数字を稟議書に書けるかどうかが、増産型を選べるかどうかの分岐になります。

「増産型なら必ず回収する」とは書けません。書けるのは、増産型は需要が伴えば7.19年で回収し、伴わなければ62.92年になるという条件つきの結論だけです。

需要が読めないときの中間解

需要が完全には読めない、という状況のほうが普通です。その場合の実務的な置き方を1つ挙げます。不良削減と人件費削減だけで最低限の回収ラインを引き、追加粗利は上振れとして扱うという考え方です。

本モデルでは、需要に依存しない効果は不良削減177,840,000 VNDと人件費削減204,120,000 VNDの合計381,960,000 VNDで、ランニング281,640,000 VNDを差し引いた後に100,320,000 VNDが残ります。少なくともランニング費は自力で賄えるという状態です。ここが赤字になる設計、つまり需要が無いとランニング費すら払えない設計は、増産型としても危険度が一段上がります。投資判断の最低ラインを「需要ゼロでも年間純効果がプラス」に置くだけで、案件の選別はかなり変わります。

回収を壊す本命は停止時間|海外工場の自動化は保守体制の差だけで+2.61年

需要の次に回収を壊すのは、計画外停止です。しかもこちらは、稟議の段階でほぼ誰も金額にしません。

本モデルの生産能力から、停止1時間の金額を出します。

  • 時間当たり生産 = 3,600,000 ÷ 4,800 = 750個/h
  • 停止1時間の逸失粗利 = 750 × 1,200 = 900,000 VND/h
ケース年間計画外停止逸失粗利/年
ケース1: 現地に保全要員を置き、主要スペアを常備120時間120 × 900,000 = 108,000,000 VND
ケース2: スペアは都度輸入、技術者は域外から出張380時間380 × 900,000 = 342,000,000 VND
差額260時間234,000,000 VND/年

※年間停止120時間・380時間は本記事の仮定です。実測値ではありません。

モデル上の約束(二重計上の防止)

ここは間違えやすいので、計算の約束を明示します。第5章の年間効果1,159,560,000 VNDは、ケース1(年間停止120時間)を織り込んだ後の値です。つまり、120時間分の逸失108,000,000 VNDはすでに効果の中に反映済みとして扱います。

したがってケース2は、7.19年の側からさらに234,000,000 VNDを引くだけです。342,000,000 VNDを丸ごと引いてはいけません。それは120時間分を二重に引くことになります。

項目
ケース1の年間純効果877,920,000 VND → 回収7.19年
ケース2の年間純効果877,920,000 − 234,000,000 = 643,920,000 VND
ケース2の単純回収年数6,312,000,000 ÷ 643,920,000 = 9.80年
悪化幅9.80 − 7.19 = +2.61年

※検算: 877,920,000 − 234,000,000 = 643,920,000 VND / 6,312,000,000 ÷ 643,920,000 = 9.80年

ベトナム工場の自動化2026|回収するのは省人化でなく増産 - figure 3

※図には62.92年(増産の前提が崩れた場合)のバーは入れていません。桁が違いすぎて他の3本が潰れるためです。数字は前章のとおりです。

「装置は同じ、体制が違う」だけで2.61年

ケース1とケース2で、買った機械は1台も違いません。違うのは次の3点だけです。

  • 主要スペアを現地に置いているか(サーボ、減速機、ハンド、視覚系の部品)
  • 一次対応できる保全要員が拠点内にいるか
  • 復旧の判断を現地で下せるか(域外の技術者の到着を待たないか)

この3点の差が、年間260時間の停止差になり、金額で234,000,000 VND、回収年数で+2.61年になります。同じ2.61年分を設備の値引きで取ろうとすると、投資額を 6,312,000,000 − 643,920,000 × 7.19 = 約1,682,000,000 VND(投資額の約26.7%)削る必要があり、現実的ではありません。しかし保守体制の設計でなら取れます

しかも実務上、この2.61年は「本体を安く買うために保守契約とスペアを削った」結果として発生することが多くあります。分母を削って分子を壊す、というのが最も頻度の高い失敗です。

停止時間は測っていないと交渉材料にならない

もう1つ。年間120時間なのか380時間なのかは、測っていなければ議論できません。多くの拠点で、計画外停止は日報の備考欄に「チョコ停あり」と書かれて終わります。1回15分の停止が1日3回起きていれば、300日で225時間です。本モデルの単価900,000 VND/hで換算すれば、それだけで202,500,000 VND相当の逸失になります。

停止をどう拾い、どの粒度で記録すると保全体制の交渉材料になるかはベトナム工場の設備監視で扱っています。回収年数の議論は、停止時間を測り始めた日から現実的になります。

ベトナムの人件費上昇と自動化|政令293号と、静的な時給で計算する危うさ

第2章で置いた分子は「今日の賃金」で計算した値です。ここに時間軸を入れます。

ベトナムの法定最低賃金は、政令293/2025/ND-CPにより2026年1月1日から平均7.2%引き上げられました。地域別では次のとおりです。

地域月額最低賃金改定率
地域15,310,000 VND(時間額 25,500 VND)+7.1%
地域24,730,000 VND+7.3%
地域34,140,000 VND+7.3%
地域43,700,000 VND+7.2%

改定の施行が1月になるのは2020年以来6年ぶりです。改定が期初に来るため、年度予算の組み方との関係を確認しておく必要があります。

一方、タイの最低賃金は2025年7月1日からバンコク都内の全業種で日額400バーツ(改定前は372バーツ)となり、全国では337〜400バーツの範囲、2026年に入っても据え置きという状況です。

「67.5%」は今日の比率であって、固定値ではない

ここが本章の要点です。第2章で出した102,060,000 ÷ 151,200,000 = 0.675という比率は、両国の賃金がある時点で止まっているとした場合の値です。ベトナム側が毎年上がり、タイ側が据え置かれる年が続けば、この比率は縮まっていきます。

したがって、省人化型の回収19.09年という数字にも注釈が要ります。この19.09年は、将来にわたって賃金が7,000,000 VND/月のまま動かないと置いた場合の単純回収年数です。実際には分子が年々増えるため、実際の回収は19.09年より短くなる方向に動きます。

ただし、これを根拠に「だから省人化でも大丈夫」とは書けません。理由は2つあります。

  1. どれだけの率で何年上がるかを、投資会議で確定値として置けない。将来の賃金上昇率を織り込んだ回収年数は、置いた上昇率次第でいくらでも短くなります。稟議で通っても、外した場合の責任の所在が曖昧になります。
  2. 賃金が上がるのは、自動化しなかった場合の人件費も同じ。つまり賃金上昇は、自動化した側だけの追い風ではなく、その工程を人手で維持したときのコストも同時に押し上げます。比較の両側が動くため、片側だけを動かして「回収が早まった」と主張するのは公平ではありません。

本記事が19.09年を静的な値のまま提示しているのは、将来の賃金上昇を都合よく織り込まないためです。逆に言えば、自社の試算で「賃金が毎年◯%上がる前提」を入れて回収年数を短く見せているものがあれば、その上昇率を外したときに何年になるかを必ず確認してください。上昇率の仮定を1つ変えるだけで、回収年数は簡単に数年動きます。

賃金上昇を自動化の理由に使うときの正しい形

「ベトナムの人件費が上がっているから自動化する」は、それ自体としては正しい問題意識です。ただし投資判断に落とすときは、次の形にします。

  • 静的な今日の賃金で回収年数を出す(本モデルでは省人化型19.09年、増産型7.19年)
  • 賃金が上がったときにどちらの設計が有利になるかを、方向として述べる
  • 上昇率の具体値は稟議の数字に織り込まない、または織り込むなら感度分析として別表にする

この順序を守れば、賃金の話は投資判断を歪めずに使えます。

電力の前提|工業用単価の幅と、電力を前提条件として扱う設計

本モデルはベトナムの工業用電力を2,300 VND/kWhと置いています。この置き値の根拠と幅を確認します。

ベトナムでは2025年5月10日から、平均小売電気料金が1kWhあたり2,204.07ドン(付加価値税除く)に4.8%引き上げられました。工業分野の適用単価は1,146〜3,640 VND/kWhの範囲にあり、電圧区分や時間帯によって幅があります。2024年10月の改定と合わせると9.8%の上昇、2023年以降4回目の改定で同年初比18.2%の上昇です。

本記事の置き値2,300 VND/kWhは、この1,146〜3,640 VND/kWhという範囲の中に置いた仮定値です。実際の適用単価は契約電圧・時間帯・地域で変わるため、自社の請求書の実効単価に差し替えてください。

電力単価が2倍になっても、結論は変わらない

ここで押さえるべきは、電力が回収年数に与える影響の大きさです。本モデルのランニング費281,640,000 VND/年のうち、電力は60,720,000 VND、保守・スペアは220,920,000 VNDです。電力より保守のほうが大きい。

したがって、電力単価の変動は回収年数を左右する主因にはなりません。第7章で見た停止時間の差234,000,000 VND/年と比べれば、電力60,720,000 VND/年の位置づけがわかります。電力単価の交渉に費やす労力より、停止時間を減らす体制のほうが金額が大きいというのが、本モデルが示す優先順位です。

ただし電力は「前提条件」として契約に書く

金額の大小とは別に、電力には別の意味があります。止まると生産がゼロになるという性質です。

自動化セルは、人手工程より電源品質の影響を受けます。瞬時電圧低下でロボットがアラーム停止し、原点復帰と段取り直しに30分かかる、という形の損失は、電気料金の請求書には現れません。現れるのは第7章の停止時間のほうです。本モデルの単価では、停止1時間で900,000 VNDが失われます。

したがって、電力に関して設計時に確認すべきは単価ではなく次の3点です。

確認事項見るべき内容
電源品質瞬時電圧低下・停電の頻度、UPSや無停電対応の要否
契約電力自動化セル追加後のピーク電力が契約容量に収まるか
計測セル単位の消費電力を後から検証できるか

3つ目の計測は、本記事のような試算を後から答え合わせするために必要です。本モデルでは5.5 kW × 4,800時間 = 26,400 kWh/年と置きましたが、これが正しかったかどうかは、セル単位で測っていなければ永遠にわかりません。設備の稼働状況と電力を同じ時間軸で見る仕組みについては、前章でも挙げたベトナム工場の設備監視を参照してください。停止と電力は、同じ計測の裏表です。

恩典の期待値を下げる|政令182/2024は誰が対象か、輸入税免除は何に効くか

回収年数が伸びたとき、次に出てくる期待が「優遇制度で埋められないか」です。ここは期待値を先に下げておくほうが、後の失望が小さくなります。以下は2026年8月時点の一般情報です。

政令182/2024/ND-CP(投資支援基金)

2024年12月31日に施行された政令182/2024/ND-CPは、投資支援基金に関する規定です。制度の輪郭は次のとおりです。

  • 対象はグローバルミニマム課税の対象企業(連結売上7.5億ユーロ以上)を中心とする
  • 政府が指定するハイテク分野で、IRC(投資登録証明書)を保有し、実事業を行っていること
  • 支援内容は最大50%の初期投資費用の支援、および年間運営費の補助

この条件を読むと、多くの日系中堅・中小の製造拠点は対象の中心から外れます。連結売上7.5億ユーロ以上という基準は、グローバルミニマム課税の枠組みに紐づいたものであり、規模の大きい多国籍企業を想定した制度設計です。「ベトナムには手厚い支援制度がある」という一般論を、そのまま自社のセル1台の投資回収に当てはめることはできません。

輸入税免除(法107/2016/QH13 第16条・政令134/2016/ND-CP 第14条)

より広い企業に関係するのは、輸入税の免除です。輸出入税法107/2016/QH13 第16条および政令134/2016/ND-CP 第14条に基づき、固定資産を形成するための輸入設備、および生産用の原料・物資・部品に対して輸入税が免除される規定があります。

自動化セルの本体は、多くの場合これに該当し得ます。ただし回収年数への効き方に注意が必要です。

本記事の投資額6,312,000,000 VNDは、こうした免除の適用も含めて最終的に手元から出ていく金額として置いています。したがって、19.09年や7.19年という回収年数に対して、輸入税免除の効果を後から上乗せして年数を短くすることはできません。それは同じ効果を2回数えることになります。

免除が効くのは、あくまで分母を確定させる段階です。見積を取る際に、

  • 免除の対象になる品目とならない品目がどう分かれるか
  • 免除申請に必要な手続きと期間はどれくらいか
  • 免除が受けられなかった場合、投資額がいくら増えるか

を確認し、その結果として確定した金額を分母に置く。これが正しい順序です。

⚠️ 上記は2026年8月時点の一般情報です。適用可否は投資登録機関および税務顧問に必ずご確認ください。本記事は税務・法務アドバイスではありません。

恩典で回収年数を作らない

まとめると、優遇制度に対する現実的な期待値は次のようになります。

制度誰に効くか回収年数への効き方
政令182/2024(投資支援基金)連結売上7.5億ユーロ以上のハイテク分野が中心多くの中堅拠点は対象外。前提に置かない
輸入税免除(107/2016・134/2016)固定資産を形成する輸入設備など、広く関係し得る分母の確定に効く。確定後の年数に上乗せしない

恩典は、通らない案件を通す道具ではありません。19.09年を7.19年にするのは制度ではなく、分子の設計です。

タイの設計をベトナム工場の自動化へ持ち込む5つの読み替え

ここまでを、実務の手順に落とします。タイ拠点で成功した自動化の設計をベトナムに展開する際、そのまま持ち込んではいけない5点です。

#タイでの前提ベトナムでの読み替え
1分子は削減人件費分子を追加粗利+不良削減に入れ替える
2削減人数を最大化する削減は2名程度に留め、残りは増産分と新ラインへ配置転換する
3保守は本社・域外から現地に一次対応と主要スペアを置く(差は年間234,000,000 VND)
4需要は既存ラインの延長で読む追加648,000個分の引き合いを、内示や受注残で裏づける
5恩典・優遇は後から効く恩典は分母の確定に使い、回収年数に上乗せしない

読み替え1:分子を入れ替える

最も重要な1点です。同じ設備で、省人化型は19.09年、増産型は7.19年。差は2.66倍です。設備を選ぶ前に、この工程で「増やせる粗利があるか」「削れる不良があるか」を確認します。無ければ、その工程は今回の自動化対象から外すという判断もあり得ます。ベトナムで自動化すべきでない、という結論ではありません。省人化を分子に置くと通らない、という条件つきの結論です。

読み替え2:削減人数を欲張らない

省人化型の6名と増産型の2名を混ぜてはいけない、という第5章の注意は、計算上の話であると同時に運用の話でもあります。6名を減らしながら生産を18%増やす計画は、そもそも人員配置として成立しません。増産型では、浮いた人員を増産分の周辺工程と次のラインに回すことが設計の一部です。人を減らす計画ではなく、同じ人数で作る量を増やす計画として稟議に出します。

読み替え3:保守体制を設備と同時に決める

第7章の+2.61年は、設備の仕様書には現れません。見積比較の段階で、次を必ず横並びにしてください。

  • 一次対応できる要員が拠点内にいるか(自社雇用か、現地SIerの常駐か)
  • 主要スペアの現地在庫の範囲と、その保有コスト
  • 復旧までの目標時間(何時間以内に立ち上げるか)
  • 域外から技術者を呼ぶ場合のリードタイム

本体価格だけを比較して、この4項目が空欄のまま発注するのが最も高くつきます。

読み替え4:需要を数字で裏づける

増産型は需要の上にしか立ちません。売れなければ62.92年です。稟議には、追加648,000個の行き先を明示します。

読み替え5:発注の順番を間違えない

最後に順番です。実務でよく見るのは、「ロボットの機種を決めてから回収年数を計算する」順序です。これだと、出てきた年数が基準に合わなかったとき、後から効果を足したくなります。そこで二重計上が起きます。

正しい順序は、①工程を選ぶ → ②分子(増やせる粗利・削れる不良)を測る → ③必要な投資額の上限を決める → ④その範囲で設備を選ぶ、です。設備投資の計画をどの順で組み、どこで見積を取り、何を先に決めるかについては設備投資計画の立て方にまとめています。分子を測る前に見積を取ると、金額に引きずられます。

回収年数の一覧(本記事の結論表)

設計年間純効果(VND)単純回収年数
① 省人化型(ベトナム)330,720,00019.09年
① 省人化型(タイ・参考)597,576,00010.56年
② 増産型・保守体制あり877,920,0007.19年
④ 増産型・保守体制が弱い643,920,0009.80年
③ 増産の前提が崩れた場合100,320,00062.92年

この5行は、すべて同じ設備・同じ投資額6,312,000,000 VNDです。違うのは分子だけです。

FAQ|ベトナム工場の自動化でよくある質問

ベトナムの工場自動化は回収する?

分子に何を置くかで決まります。本記事のモデルでは、省人化を分子に置くと年間純削減330,720,000 VNDで回収19.09年(タイの同一設備は597,576,000 VNDで10.56年、1.81倍の差)。増産と品質を分子に置くと年間純効果877,920,000 VNDで7.19年になります。回収しないのは「ベトナムだから」ではなく、分母がドル建てで同額(6,312,000,000 VND = USD 240,000)なのに、分子の人件費だけがタイの67.5%になるからです。ただし増産型は需要が前提で、売れなければ年間純効果100,320,000 VND、回収62.92年まで落ちます。この両端を稟議に併記できるかが分かれ目です。

ベトナムでAGVは使える?

使えますが、AGVの投資判断も本記事と同じ構造になります。AGVで置き換わるのは主に運搬に従事する人員の工数であり、そのまま省人化を分子に置けば、ベトナムでは分子が縮んで回収年数が伸びます。回収させるなら、AGVが生む効果を運搬待ちによるライン停止の削減として測るのが実務的です。本モデルの単価では停止1時間で900,000 VNDの逸失粗利が発生します。「何人減るか」ではなく「何時間止まらなくなるか」で測ると、AGVの評価は変わります。なお、走行路の床精度・通路幅・人との混在運用は現地の建屋条件に強く依存するため、機種選定より先にレイアウトの実測が必要です。

ベトナムとタイ、どちらを先に自動化すべき?

同じ省人化の設計で比べるなら、数字はタイが先です。本モデルではタイ10.56年に対しベトナム19.09年で、差は1.81倍。分子である総人件費が、ベトナム102,060,000 VND/年に対しタイ151,200,000 VND/年(ベトナムはタイの67.5%)だからです。ただしこれは省人化を分子に置いた場合の順序にすぎません。ベトナム拠点に増産余地と不良削減余地があり、需要の裏づけがあるなら、増産型7.19年はタイの省人化型10.56年より速くなります。国の順番ではなく、工程の順番で決めてください。

ベトナムの自動化に使える優遇制度は?

2026年8月時点の一般情報として、政令182/2024/ND-CP(投資支援基金、2024年12月31日施行)は、グローバルミニマム課税の対象企業(連結売上7.5億ユーロ以上)を中心に、政府指定のハイテク分野でIRCを保有し実事業を行う企業を対象とし、最大50%の初期投資費用支援と年間運営費の補助を定めています。多くの中堅拠点は対象の中心から外れます。より広く関係するのは輸入税免除で、輸出入税法107/2016/QH13 第16条および政令134/2016/ND-CP 第14条に基づき、固定資産を形成するための輸入設備や生産用の原料・部品が対象になり得ます。ただし免除は投資額(分母)を確定させる段階で織り込むもので、確定した回収年数に後から上乗せすると二重計上になります。適用可否は投資登録機関・税務顧問に必ずご確認ください。

海外工場の自動化はどこに相談する?

相談先を選ぶ前に、手元で3つの数字を出しておくと話が早くなります。①対象工程の年間生産数量と単位粗利(本モデルでは3,600,000個・1,200 VND/個)、②現在の不良率と不良1個あたりの損失(本モデルでは2.4%・3,800 VND)、③年間の計画外停止時間(本モデルではケース1で120時間、ケース2で380時間)。この3つがあれば、どのSIerと話しても分子の議論ができます。逆にこれが無いと、機種と価格の話にしかなりません。相談先の選定では、現地に一次対応できる保全体制とスペア在庫を持てるかを必ず条件に入れてください。本モデルでは、この体制の有無だけで年間234,000,000 VND、回収年数で+2.61年(7.19年 → 9.80年)の差が出ます。

ベトナムで省人化は意味がない?

意味が無いとは書けません。書けるのは、省人化だけを分子に置くと投資基準を通りにくいということです。本モデルの省人化型は年間純削減330,720,000 VNDで回収19.09年。多くの日系企業の投資基準では通りません。ただし、省人化が有効な場面はあります。第一に採用が困難な工程(重量物・高温・粉塵など)で、そもそも人が集まらないなら削減額の大小は判断材料ではありません。第二に離職率が高く教育コストが積み上がる工程。第三に、増産型の中でも人件費削減204,120,000 VND(2名分)は効果に含まれています。省人化を捨てるのではなく、省人化を単独の分子にしないということです。

まとめ

  • 分母はドル建てで同額、分子だけが67.5%。本モデルの投資額は6,312,000,000 VND(= USD 240,000 = 7,890,000 THB)で両国同一、オペレーター総人件費はベトナム102,060,000 VND/年に対しタイ151,200,000 VND/年、比率0.675です。
  • 同じ設備・同じ削減6名でも、回収は1.81倍。省人化型はベトナムが年間純削減330,720,000 VNDで19.09年、タイが597,576,000 VNDで10.56年です。
  • ロボット密度31台/1万人(前年比+28%)は技術の遅れではありません。世界平均132台・アジア131台という水準との差は、省人化を分子に置いた投資基準が通らないことの結果として読むべきです。
  • 分子を粗利に入れ替えると7.19年。増産型は年間効果1,159,560,000 VND(追加粗利777,600,000 + 不良削減177,840,000 + 人件費削減204,120,000)からランニング281,640,000 VNDを引いて年間純効果877,920,000 VND、省人化型の2.66倍速い回収になります。
  • ただし増産型は「売れる」前提の上にだけ立ちます。需要が無ければ追加粗利777,600,000 VNDはゼロになり、年間純効果100,320,000 VND、回収62.92年=実質回収しません。
  • 回収を壊す本命は停止時間です。現地保全とスペア常備(年間120時間)と、都度輸入・域外出張(年間380時間)の差は年間234,000,000 VND。回収は7.19年から9.80年へ、+2.61年悪化します。
  • 恩典で回収年数を作らないでください。政令182/2024の中心対象は連結売上7.5億ユーロ以上のハイテク企業であり、輸入税免除は分母の確定に使うもので、確定後の年数に上乗せするものではありません。適用可否は投資登録機関・税務顧問にご確認ください。

二重計上の注意:本記事の設計①(省人化型)と設計②(増産型)は、同じ設備6,312,000,000 VNDの別々の使い方であり、効果を足し合わせてはいけません。加えて3点。(1) 追加生産648,000個の材料費・加工変動費は単位粗利1,200 VND/個(売価 − 変動費)の定義にすでに含まれています。別途差し引かないでください。(2) 増産型で削減する人員は2名(204,120,000 VND)です。省人化型の6名(612,360,000 VND)を流用しないでください。(3) 第5章の年間効果1,159,560,000 VNDはケース1(年間停止120時間)を織り込んだ後の値です。ケース2はここから234,000,000 VNDを引くだけで、342,000,000 VNDを丸ごと引くと120時間分を二重に引くことになります。

なお本記事の数値のうち、外部の公表情報に基づくのは最低賃金・電力料金・ロボット密度・市場規模・制度に関する記述だけです。投資額・生産数量・単位粗利・不良率・停止時間・電力単価・為替・能力向上18%は、すべて本記事のモデル値であり、実測値でも相場でもありません。

自動化の投資回収を組み直す前の壁打ちから

自社の生産数量・単位粗利・不良率・停止時間を入れ替えると、ここに挙げた5つの回収年数の順位は変わり得ます。特に単位粗利と、需要の裏づけがあるかどうかで結論は大きく動きます。TOMAS TECHはタイとベトナムで日系製造業のFA・ロボット導入と設備監視を手がけており、「まだ機種も予算も決めておらず、そもそも自社の工程で分子が立つのかを整理したい」という段階のご相談も承っています。見積の前に、対象工程の粗利と停止時間の置き方から一緒に確認したい方は、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。

参照した情報源