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2026.08.12

設備投資計画2026|タイでは回収年数でなく発注の順番で決まる

設備投資計画2026|タイでは回収年数でなく発注の順番で決まる

設備投資計画が本社で止まるとき、指摘されるのはたいてい回収年数の数字です。しかし壊れているのは計算式ではありません。分母に置いた前提と、何をいつどの制度で買うかという発注の順番です。タイの2026年は、稼働率が57%台に沈み、自動化投資まわりの税制の窓が入れ替わった局面にあります。この記事では、本体2,800,000バーツに周辺840,000バーツを積んだモデルケースを1つだけ立て、同じ設備の回収年数が3.37年にも8.93年にもなる過程を、内訳ごと開示します。

設備投資計画で最初に崩れるのは「数量前提」である

回収年数の分母には、たいてい「増える生産量」が入っています。ここが最初に崩れます。

稼働率57%台という局面が意味すること

タイの2026年第2四半期の製造業生産指数(MPI)は、前年同期比 -1.79% でした。同じ期間の平均稼働率は 57.47% です。さらに単月で見ると、2026年6月のMPIは前年同月比 -3.10% で、前年11月以来の下げ幅になっています。

この2つの数字が同時に出ている状況を、投資計画の言葉に翻訳するとこうなります。設備は4割以上空いている。そして受注は前年を下回っている。

この局面で「ロボットを入れて生産能力を1.4倍にするので、増えた分の粗利で回収します」と書くと、稟議は次の一言で止まります。「その1.4倍は誰が買うのか」。

答えられないのは書き手の準備不足ではありません。設備能力と受注は別の変数だからです。 能力を上げても受注が付いてこなければ、増えるのは稼働率の分母だけです。実際、稼働率57.47%という数字は、すでに存在する設備能力の4割強が売上に変換されていないことを意味します。そこにさらに設備を足しても、売上に変換されない余力が増えるだけ、という読み方が成り立ってしまいます。

誤解しないでほしいのは、これは「自動化するな」という話ではないことです。回収の根拠を、動かせない変数の上に置くな、という話です。受注量は工場側でコントロールできません。コントロールできないものを分母に置いた瞬間、回収年数は誰にでも反論できる数字になります。

増産ではなく「単価×回数」で置く

では何を分母に置くのか。答えは、いま実際に発生していることの「単価×回数」です。

  • 1人あたりの年間人件費 × 削減できる人数
  • 残業1時間の単価 × 減らせる残業時間
  • 手直し1個あたりのコスト × 減らせる手直し個数
  • 廃棄1個あたりの損失 × 減らせる廃棄個数

この4つには共通点があります。すべて「いまの生産量のまま」で成立するということです。受注が伸びなくても、伸びなかったこと自体が効果を減らさない。逆に受注が減れば効果も減りますが、その感応度は増産前提よりはるかに小さく、しかも自社の実績データで検証できます。

増産効果を根拠にした計画は、承認された瞬間から「増産できたかどうか」で評価されます。単価×回数で置いた計画は、「単価と回数が想定どおりだったか」で評価されます。後者は工場の中で完結する話であり、稟議を出す側にとって守れる約束です。

増産効果は「書かない」のではなく「回収の外に出す」

とはいえ、能力が上がること自体は事実です。これを完全に消す必要はありません。回収計算には入れず、定性的な付帯効果として別枠に書くのが実務的です。

書き方の例としては、「本投資の回収は人件費・残業・手直し・廃棄の4項目のみで計算しており、能力向上分は回収根拠に含めていない。受注が回復した局面では、追加投資なしで対応できる能力余裕が生まれる」といった形になります。これなら二重計上になりませんし、上向いたときの説明もできます。

やってはいけないのは、人件費削減で回収年数を出したうえに、同じ設備の空き時間から生まれる増産の粗利も足すことです。削減した人員が担当していた時間と、空いた設備時間は、同じ1つの現実の別の面です。両方を足すと、存在しない世界線を2本作ったことになります。過去に何度も見た事故がこれです。

設備投資計画2026|タイでは回収年数でなく発注の順番で決まる - figure 1

数量前提を検証する3つの質問

自分の計画書を開いて、次の3つに答えられるか確認してください。

質問答えられない場合に起きること
分母の生産量は、直近12か月の実績か、それとも計画値か計画値なら、計画未達の瞬間に回収年数が破綻する
その生産量が10%下振れしたら、回収年数は何年になるか感度が出せないということは、前提が1本しかないということ
効果項目のうち、生産量に比例するものはどれか比例する項目の比率が高いほど、計画は受注量に連動して壊れる

老朽化した設備の置き換えを検討している場合は、そもそも比較対象が「新設備 対 現状維持」ではなく「新設備 対 修繕を続ける現状」になります。この比較の立て方は老朽化設備の更新をいつ決めるかで別途整理しています。

2026年のタイでは税制の窓が入れ替わった

2つめの柱です。2025年までのタイで自動化投資の稟議を書いた人が、そのまま2026年に同じ資料を使うと事実誤認になります。主力だった制度が期限切れになり、代わりに性格の違う制度が並んだからです。

2025年末で終わった制度を前提にしない

自動化システム向けの機械・ソフトウェアに対する 200%損金算入(通常の100%に追加の100%)は、適用期間が 2021年1月1日から2025年12月31日 でした。要件は「未使用であること」「タイ国内に設置すること」「歳入局の求める認証を受けた自動化プロジェクトであること」「他の税恩典と併用しないこと」です。

つまり 2026年の設備投資計画で、この制度を財源に組み込むことはできません。 社内に残っている2024年や2025年の稟議テンプレートには、この200%損金算入が前提として書き込まれている可能性が高い。まずそこを外すのが2026年の第一作業です。

過去の資料をコピーして数字だけ差し替えると、この失効に気づかないまま提出することになります。承認された後に財務から指摘されると、計画全体の信頼が落ちます。

2026年に開いている窓と、閉じた窓を1つの表で並べる

2026年時点で自動化・省エネ・デジタル投資に関係する枠組みを整理すると、次のようになります。それぞれ対象業種・期限・上限がまったく違う点が重要です。

2026年に使えるか制度対象内容期限主な条件
BOI告示 第4/2569号自動車製造一般(カテゴリ3.6)およびPHEV/HEV製造(カテゴリ3.8)のみ法人所得税を3年間、投資額の50%まで免除申請期限は2027年末最低投資額100万バーツ。土地代と運転資金は投資額に算入不可
同上の上乗せ同上改造・新設する機械の価値のうち30%以上がタイ国内の自動化機械産業に資する場合、免除率が50%から100%へ同上国内自動化機械産業への寄与の証明が必要
省エネ機械の150%損金算入(勅令805号)省エネ機械取得費用の150%を損金算入2026年3月3日施行、2028年12月31日までDEDEの5つ星ラベル認証機械が対象
SMEのデジタル関連支出の200%損金算入SMEのデジタル関連支出支出の200%を損金算入2025年6月24日から2027年12月31日上限は1会計期間あたり30万バーツ(損金算入額は最大60万バーツ)。DEPA登録サービスが対象
×(失効)自動化システムの200%損金算入自動化システム向け機械・ソフトウェア通常100%に追加100%2021年1月1日から2025年12月31日で終了未使用、タイ国内設置、歳入局の求める認証、他の税恩典と併用不可

BOI告示 第4/2569号は2026年3月31日付で官報に公示されたもので、自動化・ロボット導入投資に対して法人所得税を3年間・投資額の50%まで免除する内容です。最低投資額の100万バーツは、1バーツ=4.5円の固定レートで概算すると約450万円にあたります。

ここで絶対に落としてはいけない限定があります。この告示の対象カテゴリは 自動車製造一般(カテゴリ3.6)とPHEV/HEV製造(カテゴリ3.8) です。つまり、自動車以外の業種はこの告示の対象外です。

「タイでは自動化投資が3年間免税になった」という一文が社内チャットで回ってくることがありますが、これは業種限定を落とした要約です。電子部品でも食品でも金属加工でも、自動車のカテゴリに該当しなければこの告示は使えません。この限定を落としたまま稟議に書くと、財務のレビューで確実に指摘されます。

なお、本記事に書いた制度の内容は公表情報の整理であり、自社が対象になるかどうかは業種分類・登録状況・支出の性質によって変わります。適用可否は必ず個別に専門家へ確認してください。 この記事の役割は、確認すべき論点の一覧を渡すところまでです。

だから「発注の順番」で手残りが変わる

制度がバラバラだということは、同じ買い物でも、いつ・どの順で発注するかで手残りが変わるということです。順番が効く場面は3つあります。

第一に、会計期間をまたぐかどうか。 SMEのデジタル関連支出の200%損金算入は、上限が「1会計期間あたり30万バーツ」です。上限の単位が金額ではなく「1会計期間あたりの金額」である以上、支出をどの期に落とすかが結果を変えます。

第二に、併用の可否。 終了した自動化システムの200%損金算入には「他の税恩典と併用不可」という要件がありました。制度ごとに併用条件は異なるため、複数制度を併走させるつもりなら、どの支出をどの制度に割り当てるかを発注前に決める必要があります。発注が終わってから割り当てを考えると、選べる組み合わせが減ります。

第三に、認証・登録が先か発注が先か。 省エネ機械の150%損金算入はDEDEの5つ星ラベル認証機械が対象であり、SMEのデジタル関連支出の200%損金算入はDEPA登録サービスが対象です。BOI告示は申請という手続きを伴います。認証・登録・申請の要件を確認する前に発注書を出すと、対象外の型番を買ってしまう可能性があります。 これが「順番で決まる」の最も痛い形です。

会計期間の割り方だけで、損金算入額が20万バーツ動く

第一の論点を数字にします。以下は 本稿のモデル前提 です。実在企業の実績ではありません。

前提として、生産実績の収集や設備データ可視化といったデジタル関連支出が 500,000バーツ 発生し、その全額がSMEのデジタル関連支出の200%損金算入の対象要件を満たすと仮定します(実際には対象判定が必要です)。

発注の仕方期ごとの支出200%対象になる額通常100%のみの額損金算入額の合計
一括発注(1会計期間に500,000)500,000300,000(上限)200,000300,000 × 2 + 200,000 = 800,000
2期分割(各期250,000)250,000 × 2期250,000 × 2期0250,000 × 2 × 2期 = 1,000,000
200,000

一括発注では、上限の300,000バーツまでしか200%の対象にならず、超過分の200,000バーツは通常の100%止まりです。損金算入額は 300,000 × 2 + 200,000 = 800,000バーツ。

2期に分けると、各期の支出250,000バーツはいずれも上限内なので全額が200%の対象になります。1期あたり 250,000 × 2 = 500,000バーツ、2期合計で1,000,000バーツ。

差は 200,000バーツ の追加損金算入(1バーツ=4.5円で概算すると約90万円の損金)です。実際の手残りは、この200,000バーツに自社の実効税率を掛けた額になります。税率は各社で異なるため、ここでは金額を確定させず、追加損金算入額として提示します。自社の実効税率を掛けて評価してください。

ただし、税制のために立上げを遅らせてはいけない

ここで逆方向のチェックが要ります。2期に分けるということは、後半の支出に紐づく機能の立上げが半年から1年遅れる可能性があるということです。

ここで比べる相手を間違えないことが重要です。比較すべきは、分割した支出に紐づく効果と、分割で増えた追加損金算入額に自社の実効税率を掛けた手残りです。案件全体の年間効果と比べてはいけません。デジタル支出だけを後ろ倒しにしても、機械本体の立上げは遅れないからです。逆に、後ろ倒しにした支出が現場の稼働に直結する機能(実績収集や可視化)であれば、その機能が生む効果だけが半年ぶん消えます。

追加損金算入200,000バーツの手残りは、実効税率を掛けた後の額です。分割で失われる効果が、その手残りを超えるかどうか。この一行の比較を、支出項目ごとに行ってください。

つまり、税制を理由に分割するのが得になるのは、分割しても立上げ時期が変わらない場合に限られます。 ソフトウェアのライセンスや年間契約のように、期をまたいでも稼働に影響しない支出であれば分割は有効です。ライン停止を伴う工事を後ろ倒しにするのは、たいてい損です。

順番を最適化する対象は税制だけではありません。税制と立上げ時期の両方です。片方だけ見ると、必ずもう片方で損をします。

投資額を2〜3割動かす「見積に載っていない8項目」

3つめの柱です。前提の置き方と同じくらい壊れやすいのが、投資額そのものです。

本体価格だけで稟議を書くと後から出てくる

ベンダーから届く見積書には、たいてい本体機器の価格が書かれています。ロボット、コントローラ、ハンド、制御盤。これを合計した金額をそのまま稟議に書くと、承認後に必ず追加が出ます。

以下は 本稿のモデル前提 による内訳です。モデルは、タイ・ラヨーン県にある日系の電子部品加工工場(従業員210名、2直操業、自動車以外の業種)で、加工セル2台への自動供給と検査工程の自動化を行う案件とします。金額は本稿のために設定した仮定値であり、実在案件の実績ではありません。

区分項目金額(バーツ)
見積書に出るロボット2台、ハンド、コントローラ、制御盤、画像検査ユニット2,800,000
出ないことが多い①据付・アンカー工事・床面補修95,000
出ないことが多い②電源工事(分電盤増設・一次側配線)140,000
出ないことが多い③エア配管・ドライヤ増設60,000
出ないことが多い④架台・治具・ワークストッカ175,000
出ないことが多い⑤安全柵・ライトカーテン・リスクアセスメント165,000
出ないことが多い⑥搬入・搬出・クレーン手配・通関立会55,000
出ないことが多い⑦立上げ・ティーチング・試運転の立会工数105,000
出ないことが多い⑧操作教育・予備品・初年度の消耗品45,000
8項目の小計840,000
投資額の合計3,640,000

8項目の小計は 95,000 + 140,000 + 60,000 + 175,000 + 165,000 + 55,000 + 105,000 + 45,000 = 840,000バーツです。本体2,800,000バーツに対して 30.0%、投資総額3,640,000バーツに占める比率で 23.1% にあたります。

円換算は1バーツ=4.5円の固定レートによる概算で、本体が約1,260万円、8項目が約378万円、合計が約1,638万円です。

本体だけで稟議を書いた人は、投資額を3割少なく申請したことになります。 そして回収年数は投資額に比例するので、回収年数も3割短く見えていたことになります。

8項目は「誰の予算にも載っていない」から漏れる

この8項目が漏れる理由は単純で、発注先が違うからです。

ロボットはロボットメーカー、電源工事は電気工事業者、エアは配管業者、安全柵は別のサプライヤ、床面補修は建屋の管理部門、教育は自社の工数。見積書を出すのはロボットメーカーだけなので、他は誰も見積を出しません。

対策は、発注先ごとに見積を集めるのではなく、工事の工程順に項目を並べたチェックリストで拾うことです。搬入する前に床は持つか、電源は足りるか、エアは足りるか、柵の外側に作業者の通路は残るか。この順に見ていけば、誰が出すべき見積かは後から決まります。

チェックのタイミング確認すること漏れると起きること
機種選定の前設置予定場所の床荷重・天井高・搬入経路の幅搬入できず、建屋側の改造費が後から出る
見積依頼の時電源容量・相・エア流量と圧力の必要値分電盤増設やコンプレッサ増設が後から出る
見積比較の時安全柵・ライトカーテンの範囲、リスクアセスメントの担当労働安全の観点で稼働許可が下りず、立上げが遅れる
発注の前ティーチングを誰がやるか、何日分か立会工数が自社持ちになり、既存業務が止まる
発注の前予備品の初期在庫、消耗品の年間見込み初年度の運転費が想定外に膨らむ
設備投資計画2026|タイでは回収年数でなく発注の順番で決まる - figure 2

予備費は「隠す」のではなく「見せる」

8項目を積んでもなお、想定外は出ます。本稿の保守的シナリオでは、投資額に 10%の予備費 を積み、3,640,000 × 1.10 = 4,004,000バーツ(約1,802万円)としています。

予備費を計上すると投資額が増え、回収年数が伸びます。だから隠したくなる。しかし隠した予備費は、後から追加稟議という形で必ず表に出ます。追加稟議は、金額の大小に関係なく信頼を削ります。最初から「予備費10%を積んでいる。使わなければ返す」と書いたほうが、通ったあとの運営が楽になります。

回収年数は1つの数字で出さない

4つめの柱です。ここまでの前提をすべて数字にして、回収年数を 1つではなく3つ 出します。

モデルの前提と単価を先に固定する

以下はすべて 本稿のモデル前提 です。実在企業の実績値ではありません。読者が自社の数字に差し替えて再計算するための土台として提示します。

前提項目置いた値根拠・算出
モデル工場タイ・ラヨーン県の日系電子部品加工工場、従業員210名、2直仮定値
業種自動車以外(BOI告示 第4/2569号の対象カテゴリ外)仮定値
直接工の日額賃金400バーツチョンブリー・ラヨーンなど4県1郡の最低賃金は2025年1月から日額400バーツ
諸手当・社会保険等の付帯率賃金の45%仮定値
1人日あたり人件費580バーツ400 × 1.45 = 580
年間稼働日数300日仮定値
1人あたり年間人件費174,000バーツ580 × 300 = 174,000(約78万円)
時間単価72.5バーツ/時174,000 ÷ (300日 × 8時間) = 72.5
残業単価75バーツ/時(400 ÷ 8) × 1.5 = 75(割増は基本賃金ベースで計算)
手直し1個あたりコスト35バーツ/個作業0.4時間 × 72.5 = 29、副資材6を加算して35
廃棄1個あたり損失260バーツ/個材料195 + 加工の付加コスト65 = 260
為替1バーツ = 4.5円(固定)円換算はすべて概算

残業単価だけ付帯率1.45を掛けていないのは、割増賃金の計算基礎を基本賃金に置いているためです。ここを付帯込みにすると効果が過大に出るので、保守側に倒しています

効果は4項目のみ。世界線は1本だけ

効果として計上するのは、次の4項目だけです。すべて「単価 × 回数」の形になっています。標準シナリオの内訳は次のとおりです。

効果項目単価年間の回数・数量年間効果(バーツ)
直接工の削減174,000バーツ/人・年4人696,000
残業の削減75バーツ/時480時間36,000
手直しの削減35バーツ/個3,480個(290個/月 × 12)121,800
廃棄の削減260バーツ/個660個(55個/月 × 12)171,600
粗効果 合計1,025,400

696,000 + 36,000 + 121,800 + 171,600 = 1,025,400バーツ(約461万円)です。

削減人数の内訳は、対象3工程で1直あたり4名、2直で8名だった配置を、導入後に1直あたり2名、2直で4名にするというものです。8 − 4 = 4名。残業の削減は、残る4名について月10時間ずつ減らす想定で、10時間 × 4名 × 12か月 = 480時間です。

一方、意図的に効果に入れなかったものを明示します。ここが二重計上を防ぐ関門です。

入れなかった効果入れなかった理由
加工機の停止時間削減による増産の粗利平均稼働率57.47%の局面では、空いた設備時間が売上に変わる保証がない。また削減した4名分の時間と同じ現実を二度数えることになる
リードタイム短縮による在庫削減金額化の根拠が本モデルには無い
品質向上による受注獲得増産と同じ理由。工場側でコントロールできない
税制による手残り業種・登録・認証で適用可否が変わるため、回収計算の外に置く

税制の効果を回収年数に織り込まないのは意図的です。適用可否が確定していない金額を分母に入れると、適用外だった瞬間に回収年数が動きます。制度が使えたら回収が早くなる、という順序で書くほうが、稟議は安全です。

導入後に増える費用も引く

自動化すると費用も増えます。標準シナリオでは年間 225,000バーツ(約101万円)を計上します。

追加運転コスト年額(バーツ)
保守・点検・消耗品(ハンド爪、グリス、フィルタ)90,000
電力の増分45,000
ティーチング・段取り変更の社内工数60,000
画像検査の判定基準メンテナンス工数30,000
合計225,000

90,000 + 45,000 + 60,000 + 30,000 = 225,000バーツです。

年間純効果は 1,025,400 − 225,000 = 800,400バーツ(約360万円)。単純回収年数は 3,640,000 ÷ 800,400 = 4.55年 となります。

保守的・標準・強気の3前提を並べる

同じ設備、同じ計算式で、前提だけを3本置きます。

前提項目保守的標準強気
削減人数3人4人5人
残業削減240時間/年480時間/年600時間/年
手直し削減200個/月290個/月340個/月
廃棄削減35個/月55個/月70個/月
追加運転コスト285,000225,000195,000
投資額4,004,000(予備費10%込)3,640,0003,640,000

効果と回収年数は次のようになります。

項目保守的標準強気
直接工の削減522,000696,000870,000
残業の削減18,00036,00045,000
手直しの削減84,000121,800142,800
廃棄の削減109,200171,600218,400
粗効果 合計733,2001,025,4001,276,200
追加運転コスト285,000225,000195,000
年間純効果448,200800,4001,081,200
投資額4,004,0003,640,0003,640,000
単純回収年数8.93年4.55年3.37年

検算しておきます。保守的は 522,000 + 18,000 + 84,000 + 109,200 = 733,200、733,200 − 285,000 = 448,200、4,004,000 ÷ 448,200 = 8.93年。強気は 870,000 + 45,000 + 142,800 + 218,400 = 1,276,200、1,276,200 − 195,000 = 1,081,200、3,640,000 ÷ 1,081,200 = 3.37年。

同じ設備で、回収年数は3.37年から8.93年まで、約2.65倍の幅で動きます。 この幅が、冒頭に書いた「壊れているのは計算式ではない」の実体です。

強気シナリオでも投資額を下げていない点に注意してください。効果は前提次第で振れますが、投資額を楽観する理由はどこにもありません。強気シナリオで投資額まで下げると、それは前提の幅ではなく願望になります。

設備投資計画2026|タイでは回収年数でなく発注の順番で決まる - figure 3

どの前提が崩れると一番痛いか

標準シナリオを起点に、1つだけ前提を保守的な値に戻したときの回収年数を並べます。

変える前提標準 → 保守的回収年数標準4.55年からの差
削減人数4人 → 3人5.81年+1.26年
投資額3,640,000 → 4,004,0005.00年+0.45年
廃棄削減55個/月 → 35個/月4.93年+0.38年
追加運転コスト225,000 → 285,0004.92年+0.37年
手直し削減290個/月 → 200個/月4.77年+0.22年
残業削減480時間 → 240時間4.65年+0.10年

圧倒的に効くのは削減人数です。 1人違うだけで回収が1.26年動きます。逆に言えば、削減人数の根拠さえ固ければ、他の項目が多少ずれても計画は壊れません。

ここで見落としやすい性質があります。6つの差を単純に足すと 1.26 + 0.45 + 0.38 + 0.37 + 0.22 + 0.10 = 2.78年 ですが、6つを同時に保守的にした保守的シナリオの差は 8.93 − 4.55 = 4.38年 です。1.60年ぶん、足し算では届きません。

理由は、回収年数が「投資額 ÷ 純効果」という割り算だからです。分母が小さくなるほど、同じ幅の減少がより大きく効きます。感度分析を1項目ずつやって「大丈夫そうだ」と判断すると、複数が同時にずれた場合を過小評価します。必ず、全部が同時にずれた場合の値も出してください。

削減人数の根拠を固める方法

最も効く前提なので、ここだけは実測で固めます。

  1. 対象工程の作業を、直ごと・作業者ごとに1週間分だけ時間で記録する
  2. 記録を「機械が動いている間の付き添い」「着脱の実作業」「段取り・確認」「その他」に4分類する
  3. ロボットが置き換えるのは原則として「着脱の実作業」だけと考える
  4. 「付き添い」の時間が長い場合、その人は本当に減らせるのか、それとも別工程に移るだけなのかを判定する
  5. 「別工程に移るだけ」なら、その人数は削減人数に入れない

4番と5番を飛ばすと、削減人数が必ず過大になります。タイの工場でよく起きるのは、人が減らずに担当が変わるだけ、という結果です。担当が変わっただけでは人件費は減りません。人員配置表の「前」と「後」を作り、頭数が実際に減ることを確認してから数字に入れてください。

なお、夜勤帯だけを無人化して昼勤の人員はそのままにする設計もあります。この場合、削減されるのは夜勤手当と夜勤人員であり、計算の立て方が変わります。夜間帯の無人運転を前提にした投資の考え方は夜間無人運転を成立させる条件で扱っています。

金利1%の局面で、自己資金とリースのどちらを選ぶか

投資額と効果が固まったら、次は資金の出し方です。

まず金利の水準を確認する

タイ中銀の政策金利は 1.00% です。2026年2月の会合で0.25%引き下げて1.00%になり、2026年6月の会合では据え置かれています。

政策金利は調達コストそのものではありませんが、資金の時間価値が低い局面であることは読み取れます。この水準では、自己資金を寝かせる機会費用も、借入の金利負担も、投資判断を単独でひっくり返すほどの大きさになりにくい。

本稿では、比較を簡潔にするため単純回収年数を使っています。金利1.00%という水準では、割引計算を入れても回収年数の順位は変わりにくく、前提の置き方による2.65倍の幅のほうが、割引の影響よりはるかに大きいからです。前提の幅を詰めないまま精緻な現在価値計算をしても、精度は上がりません。

自己資金とリースを同じ土俵に載せる

以下も 本稿のモデル前提 です。リース料率は各社の与信・機種・残価設定で変わるため、必ず自社の見積で置き換えてください。

  • 投資額は標準シナリオの 3,640,000バーツ に固定する(この節では効果側だけを3前提で振る)
  • リースは5年、支払総額が元本の 1.12倍 になると仮定する
  • 自己資金の機会費用は、政策金利1.00%をそのまま当てた場合の目安として計算する
項目計算金額(バーツ)
リース支払総額3,640,000 × 1.124,076,800(約1,835万円)
リース年額4,076,800 ÷ 5815,360(約367万円)
リース月額4,076,800 ÷ 6067,946.67
リースの上乗せ総額4,076,800 − 3,640,000436,800(約197万円)
上乗せの年あたり436,800 ÷ 587,360(約39万円)
自己資金の機会費用(年)3,640,000 × 1.00%36,400(約16万円)

上乗せの年あたり87,360バーツは、機会費用36,400バーツの 2.4倍 です。87,360 ÷ 36,400 = 2.4。なお、リースの元本残高は年々減るのに対し、ここでは機会費用を元本全額に対して置いています。どちらも元本全額ベースの粗い目安であり、厳密な実効年率ではありません。

金利が1%の局面では、リース料率に乗っている上乗せのほうが、自己資金を寝かせる機会費用より明確に大きくなります。 金額だけで見れば自己資金が有利という結論になります。

ただし、キャッシュフローで見ると結論が変わる

金額の比較だけで決めないでください。リースは年ごとの支出が固定されるので、効果が出なかった年に痛みが出ます。3前提それぞれで、年間純効果からリース年額を引いた値を見ます。

シナリオ年間純効果リース年額差(年)
保守的448,200815,360−367,160(約−165万円)
標準800,400815,360−14,960(約−6.7万円)
強気1,081,200815,360+265,840(約+120万円)

標準シナリオでも、リース期間中のキャッシュはほぼ均衡です(年14,960バーツのマイナス)。保守的シナリオでは、5年間にわたって年367,160バーツを他の利益から持ち出すことになります。

つまり 5年リースは、標準シナリオが成立してようやくトントン という構造です。効果の発現が遅れる、あるいは削減人数が1人足りない、それだけで持ち出しが確定します。

選択肢向く条件注意点
自己資金手元資金に余裕があり、標準シナリオが成立する確度が高い資金が固定される。他の投資機会を諦めることになる
リース手元資金を温存したい、または資産計上を避けたい効果が保守的シナリオに寄ると、期間中ずっと持ち出しになる
分割発注効果の一部を先に実証してから残りを判断したい立上げが遅れる分の効果損失を必ず金額で見積もる

なお、リースの会計処理と稟議区分は本社の規程に依存します。「資産計上を避けたいからリース」という動機は、金額の有利不利とは別の話なので、混ぜずに分けて書いてください。

稟議が落ちる4つの型と、その場での直し方

タイでの自動化投資が「周りがやっているから」で通ることは、まずありません。参考として、IFRのWorld Robotics 2025によれば、2024年の産業用ロボット新規設置は世界で 54.2万台、そのうち アジアが74% を占めています(欧州16%、南北アメリカ9%)。一方、アジアのロボット密度は製造業従業員1万人あたり 131台 で、西欧の267台の半分以下、北米の204台と比べても3分の2ほどにとどまります。

台数はアジアに集中しているが、密度で見ればまだ低い。この2つの数字は「入れるべき」とも「入れるべきでない」とも読めます。 だから台数の話は稟議の根拠になりません。根拠になるのは自社の単価と回数だけです。

そのうえで、稟議が落ちる型を4つに整理します。

症状その場での直し方
数量前提型増産の粗利で回収年数を出している効果項目から増産を外し、人件費・残業・手直し・廃棄の4項目だけで引き直す。増産は付帯効果として別枠に書く
単一値型回収年数が1つの数字しかない保守的・標準・強気の3前提を作り、最も効く前提(通常は削減人数)を明示する
見積不足型本体価格だけで投資額を出している据付・電源・エア・架台・安全柵・搬入・立上げ・教育の8項目を積み、予備費を表に出す
制度依存型失効した制度や業種外の制度を財源にしている税制の効果を回収計算から外し、「使えたら早くなる」という順序に書き換える

数量前提型の直し方

最も多い型です。修正の手順は決まっています。

効果の表を開き、生産量に比例する行に印を付けます。印が付いた行の合計が粗効果の何割かを計算します。5割を超えていたら、その計画は受注に人質を取られています。 印が付いた行を削除し、残った行だけで回収年数を計算し直してください。その数字が、あなたが守れる約束です。

本稿のモデルでは、効果4項目のうち生産量に厳密に比例するのは手直しと廃棄で、粗効果1,025,400バーツに対して 121,800 + 171,600 = 293,400バーツ、比率にして28.6%です。人件費と残業の削減は、生産量が多少上下しても配置を戻さない限り残ります。

単一値型の直し方

3前提を作るのに新しい調査は要りません。同じ計算式のまま、各前提の値を上下に振るだけです。振り幅の決め方は、社内で実績データがある項目は実測のばらつき、無い項目は保守側に大きめに振る、で十分です。

そのうえで、「この前提が崩れたら回収は何年になるか」を1行で添えます。承認者が本当に知りたいのは平均値ではなく、外したときの被害額だからです。

見積不足型の直し方

見積書を眺めていても項目は出てきません。現場に立って、搬入経路から順に指でなぞるのが確実です。トラックが着く場所から、ラインの設置位置まで歩き、通る扉の幅、床の段差、頭上の配管、近くの分電盤、エアの取り出し口を順に確認します。この30分で、8項目のうち5つは埋まります。

制度依存型の直し方

税制を財源にした計画は、制度の解釈が変わった瞬間に破綻します。税制の効果は「回収年数を短くする要素」ではなく「同じ回収年数を前提にしたうえでの上振れ要素」として書くのが安全です。

書き方を変えるだけで、承認後のリスクが大きく変わります。「制度Aを使うので回収3.0年」ではなく、「回収4.55年で承認をいただきたい。制度Aの適用が確定すれば、これより短くなる」と書く。後者なら、制度が外れても計画は生き残ります。

設備投資計画の支援を外部に頼むとき、何を頼めるのか

ここまでの作業は、量が多く、しかも部門をまたぎます。生産技術だけでは実績データが揃わず、経理だけでは現場の回数が分かりません。だから設備投資計画の支援を外部に求める場面が出てきます。

問題は、何を頼めて何を頼めないかが曖昧なまま契約すると、期待外れになることです。

外部に頼めること自社でしか作れないこと
効果項目の分解の型と、二重計上を避ける設計対象工程の作業時間の実測データ
見積に載らない8項目の洗い出しと概算人員配置表の「前」と「後」
3前提の作り方と、感度分析の設計手直し・廃棄の実際の発生個数
制度の一覧化と、確認すべき論点の整理自社の実効税率と会計期間の区切り
実績データを継続的に取るための仕組みの構築「この人数を本当に減らす」という意思決定
稟議書の構成と、想定質問への準備本社との交渉

右列を見てください。回収年数を決める変数のほとんどは、自社の中にしかありません。 外部に頼めるのは「型」と「仕組み」であって、「数字そのもの」ではないのです。

最初に頼むべきは、計算ではなくデータの取り方

多くの場合、最初のボトルネックは計算能力ではありません。単価×回数の「回数」が分からないことです。

手直しが月に何個出ているか、段取り替えが月に何回あるか、その1回に何分かかっているか。これらが台帳になっていないと、効果の根拠が「現場の感覚」になります。感覚で作った数字は、感度分析に耐えません。

だから、設備投資計画の支援で最初に価値が出るのは、投資対象の工程で何が何回起きているかを、自動で記録できる状態を作ることです。実績が取れていれば、次の投資判断のときは同じ作業を繰り返さずに済みます。

TOMAS TECH CO., LTD.(バンコク拠点)は、タイ・ASEANの日系製造業向けに、生産管理・エネルギー管理システム PEGASUS を中心とした工場のIT/OT導入を支援しています。設備投資計画の文脈では、投資の是非そのものより、その判断に必要な回数・時間・不良のデータが取れているかという手前の部分でご相談をいただくことが多くあります。

自動化の検討を工程の切り出しから始める場合の進め方は、自動化コンサルティングで最初にやることで整理しています。

依頼する側が用意しておくと早いもの

外部に相談する前に、次の4点を揃えておくと初回から具体的な話になります。

  1. 対象工程の直近12か月の生産実績(月次で構わない)
  2. 対象工程の人員配置表(直別・人数・職種)
  3. 直近12か月の手直し・廃棄の件数(把握できている範囲で)
  4. 本社の稟議フォーマットと、必要とされる回収年数の目安

4番は特に重要です。本社が求める回収年数の水準を知らないまま計算すると、作業をやり直すことになります。 求められる水準が3年なら、保守的シナリオが8.93年になる案件は、そもそも投資範囲の切り方から見直す必要があります。

よくある質問

自動化の投資回収は何年が妥当ですか

一律の正解はありません。本社が求める水準は企業ごとに違い、設備の耐用年数によっても変わります。実務的に大事なのは、単一の数字ではなく幅で出し、幅の原因を説明できることです。本稿のモデルケースでは、同じ設備で回収年数が3.37年から8.93年まで約2.65倍動きました。この幅を先に開示しておけば、「なぜ4.55年なのか」ではなく「どの前提を守れば4.55年になるのか」という議論に持ち込めます。投資回収期間を工場側から提示するときは、必ず最も効く前提を一緒に示してください。

ロボット導入の費用対効果はどう計算すればよいですか

効果を「単価 × 回数」の形に分解し、いまの生産量のまま成立する項目だけを積みます。本稿では、直接工の削減、残業の削減、手直しの削減、廃棄の削減の4項目を使い、増産効果は意図的に除外しました。理由は、平均稼働率が57.47%という局面では空いた設備時間が売上に変わる保証がないことと、削減した人員の時間と空いた設備時間を両方数えると同じ現実を二度計上することになるためです。投資額の側は、本体価格に加えて据付・電源・エア・架台・安全柵・搬入・立上げ・教育の8項目を積みます。本稿のモデルでは、この8項目が本体の30.0%、投資総額の23.1%を占めました。

設備投資の稟議に増産効果を書いてはいけないのですか

書いてはいけないのではなく、回収年数の分母に入れてはいけないということです。能力が上がること自体は事実なので、付帯効果として別枠に書くのは有効です。分けて書けば二重計上になりませんし、受注が回復したときに追加投資なしで対応できるという説明もできます。回収計算に混ぜた瞬間に、「その増産分は誰が買うのか」という質問で計画全体が止まります。

2026年のタイで自動化投資に使える税制はありますか

前提として、自動化システム向け機械・ソフトウェアの200%損金算入は適用期間が2021年1月1日から2025年12月31日で、すでに終了しています。2026年の計画で財源に組み込むことはできません。

現在の枠組みとしては、BOI告示 第4/2569号(自動化・ロボット導入投資に対し法人所得税を3年間・投資額の50%まで免除、最低投資額100万バーツ、申請期限2027年末)がありますが、対象は自動車製造一般(カテゴリ3.6)とPHEV/HEV製造(カテゴリ3.8)に限られます。自動車以外の業種は対象外です。ほかに省エネ機械の150%損金算入(勅令805号、2026年3月3日施行から2028年12月31日まで、DEDEの5つ星ラベル認証機械が対象)、SMEのデジタル関連支出の200%損金算入(2025年6月24日から2027年12月31日、1会計期間あたり上限30万バーツ、DEPA登録サービスが対象)があります。適用可否は業種分類・登録状況・支出の性質で変わるため、個別に専門家へご確認ください。

設備投資計画の支援を外部に頼むと、何から始まりますか

多くの場合、計算からではなくデータの棚卸しから始まります。効果を単価×回数で置く以上、「回数」が分からなければ計算に入れません。手直しの発生件数、段取り替えの回数と所要時間、設備の停止理由別の時間。これらが台帳になっていない状態で試算を作ると、感度分析に耐えない数字になります。外部に頼めるのは効果分解の型、見積に載らない項目の洗い出し、3前提の設計、制度の論点整理、そして実績を継続的に取る仕組みの構築です。実測データと「本当に人を減らす」という意思決定は、自社の中でしか作れません。

まとめ

設備投資計画で崩れるのは、回収年数の計算式ではありません。前提の置き方と、発注の順番です。

第一に、数量前提。タイの2026年第2四半期のMPIは前年同期比 -1.79%、平均稼働率は57.47%、2026年6月のMPIは前年同月比 -3.10%です。この局面で増産効果を回収の根拠に置くと、「その分は誰が買うのか」で止まります。根拠は「単価 × 回数」で置く。人件費、残業、手直し、廃棄。いまの生産量のまま成立する項目だけを積みます。

第二に、税制の窓が入れ替わったこと。自動化システムの200%損金算入は2025年12月31日で終わりました。BOI告示 第4/2569号は法人所得税を3年間・投資額の50%まで免除しますが、対象は自動車製造一般(カテゴリ3.6)とPHEV/HEV製造(カテゴリ3.8)に限られます。省エネ機械の150%損金算入とSMEのデジタル関連支出の200%損金算入は、それぞれ対象・期限・上限が違う。だから何をいつどの制度で買うかという順番が効きます。本稿のモデル前提では、500,000バーツのデジタル支出を1会計期間に集中させるか2期に分けるかだけで、損金算入額が800,000バーツと1,000,000バーツに分かれ、差は200,000バーツでした。ただし分割で立上げが遅れるなら、その支出に紐づく効果の目減りと、200,000バーツに実効税率を掛けた手残りを並べて比べる必要があります。税制だけを最適化してはいけない理由がここにあります。

第三に、見積の粒度。本体2,800,000バーツに対し、据付・電源・エア・架台・安全柵・搬入・立上げ・教育の8項目が840,000バーツ。本体の30.0%、投資総額3,640,000バーツの23.1%です。本体だけで稟議を書いた人は、投資額を3割少なく申請しています。

第四に、回収年数は幅で出す。本稿のモデルでは、保守的8.93年、標準4.55年、強気3.37年。約2.65倍の幅です。最も効く前提は削減人数で、1人違うだけで1.26年動きます。そして6項目の感度を個別に足すと2.78年ですが、同時にずれた場合は4.38年。割り算である以上、個別の足し算では被害を過小評価します。

資金の出し方については、政策金利1.00%という局面では、5年リースの上乗せ(年87,360バーツ)が自己資金の機会費用(年36,400バーツ)の2.4倍になりました。ただし標準シナリオでもリース年額815,360バーツに対して純効果800,400バーツと、期間中のキャッシュはほぼ均衡です。金額の有利不利とキャッシュフローの安全性は、別々に判断してください。

最初にやるべきは、ベンダー選定でも機種選定でもありません。対象工程で何が何回起きているかを、1週間だけ実測することです。そこが埋まらない限り、どんな計算式を使っても数字は感覚のままです。

タイでの設備投資は、制度も労務も本社の要求水準も同時に動きます。TOMAS TECHはバンコクを拠点に、日系製造業の工場IT・OT/FA領域を支援しており、投資の是非そのものより手前の「判断に必要なデータが取れているか」という部分からご相談いただくことが多くあります。実測をどこから始めるか、8項目のどれが自社に効くか、3前提をどう振るかといった論点も、拠点の状況に合わせて一緒に整理します。ご相談はお問い合わせページからどうぞ。

参考情報