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2026.08.12

振動センサーの設備診断2026|測れる故障と測れない故障の境界

振動センサーの設備診断2026|測れる故障と測れない故障の境界

振動センサーの設備診断でよく聞く相談は、正反対の2つに割れます。「付けたのに、止まる前にアラートが鳴らなかった」。そして「アラートが鳴りすぎて、誰も見なくなった」。どちらも原因は同じ場所にあります。センサーの精度でも、解析エンジンの賢さでもありません。その設備の止まり方が、そもそも振動に出るのかどうかを分けないまま、設備の重要度だけで取付点を決めてしまったことです。

振動センサーの設備診断で、実際に見えている故障はどれか

振動診断の話は、たいてい「何台に付けるか」から始まります。重要設備リストを開き、ラインが止まったら困る順に並べ、予算の届く範囲で線を引く。手順としては自然ですが、この並べ方には振動という物理量が入っていません。重要度が高い設備の止まり方が、必ずしも振動に出るとは限らないからです。

出発点を入れ替えます。「重要な設備はどれか」ではなく、「この1年、実際にどう止まったか」から数える。振動で見える止まり方が何件あったのかがわかれば、投資判断に必要な分母はほぼ揃います。

振動が拾えるのは回転機の4モードだけ

振動センサーが得意とするのは、回転機の機械的な異常です。実務上、次の4つに整理できます。

  • 不釣り合い(アンバランス) — 回転体の質量分布が偏っている状態。回転数と同じ周波数で振れが出ます。
  • ミスアライメント(芯ずれ) — 原動機と従動機の軸心がずれている状態。カップリング付近の振れとして現れます。
  • ゆるみ — 基礎ボルト、台座、軸受箱などの固定が緩んだ状態。
  • 軸受損傷 — 転がり軸受の外輪・内輪・転動体・保持器に生じるはく離や摩耗。

裏を返すと、これ以外の止まり方は、どれだけ高価なセンサーを付けても検知できません。制御盤内のリレー故障やインバータのトリップ、配線の断線、近接センサーの誤検知、ワークやスクラップの詰まり、金型・治具の欠け、段取り替えの手順ミス。これらは電気的・情報的な事象か、あるいは軸受箱の表面に振動として現れない機械的・人的な事象であり、回転部の振動を測っても捉えられる保証がありません。

「振動センサーを付けたのに止まった」という話の多くは、センサーの性能問題ではなく、振動に出ない故障モードでラインが止まったというだけの話です。この切り分けをせずに次はAIを載せようという流れになると、見えないものを見ようとして費用だけが積み上がります。

止まり方の内訳を先に数える(本記事のモデル工場では8件中5件)

本記事では、以降の議論を具体化するために、次のモデル工場を仮定します。タイ・日系、従業員180名、回転機15台(ポンプ、ブロワ、減速機付コンベヤ、空調機)を振動監視の候補とする。以下に登場する金額・件数はすべて、このモデル条件での試算値です。実績値ではありません。

このモデル工場では、対象15台で年間8件の突発停止が発生しています。その内訳を故障モードで割ると、こうなります。

区分内容件数/年
振動に出る故障軸受損傷、不釣り合い、ミスアライメント、ゆるみ5件
振動に出ない故障電気系、制御系、センサー断線、ワーク詰まり、段取りミス3件
合計8件

さらに、振動に出る5件のうち、取付点と閾値が適切であれば事前に検知できるのは4件と見ます。残り1件は進展が速く、間欠測定のインターバルの間に壊れきってしまうため間に合いません。

この「8件 → 5件 → 4件」という絞り込みが、この記事のいちばん重要な数字です。投資対効果の分子になるのは8件ではなく4件です。分母を15台や30点で考えている限り、この数字は出てきません。

振動センサーの設備診断2026|測れる故障と測れない故障の境界 - figure 1

内訳を数える作業は、特別なシステムがなくても始められます。過去1年の停止記録、日報、修理伝票を並べ、1件ずつ「原因は回転機の機械的劣化か、それ以外か」を分類するだけです。記録が残っていない、あるいは原因欄が「調整」「修理完了」で終わっているなら、まずそこを直すほうが先です。停止記録の粒度を上げる方法は設備保全システムの選び方で整理しています。

測れる故障と測れない故障を分ける4つの境界

「振動に出る故障か」を切り分けたあとに、もう一段の境界があります。同じ軸受損傷でも、条件が揃わなければ見えません。カタログの精度表記ではなく、次の4つが実際の可否を決めます。

境界1: 速度か加速度か(測定量)

振動の測り方には主に3つの物理量があります。変位(μm)は振れ幅そのもの、速度(mm/s)は振れの速さ、加速度(G または m/s²)は振れの勢いです。同じ振動でも、低い周波数の現象は変位や速度に出やすく、高い周波数の現象は加速度に出やすい、という性質があります。

ISO 20816が評価指標として使うのは振動速度 mm/s RMSで、一般的な測定周波数範囲は10Hz〜1,000Hzです。この帯域は、不釣り合い・ミスアライメント・ゆるみといった回転数まわりの低周波現象を捉えるのに適しています。

一方、転がり軸受の初期のはく離は事情が違います。微小な欠陥を転動体が通過するたびに高周波の共振(リンギング)が励起され、その振幅が軸受の欠陥通過周波数で変調されます。エネルギーとしては小さく、周波数は高い。つまり、速度のoverall値(全体値)はほとんど動きません。速度基準だけを見ていると、軸受が目に見えて悪化するまで指標が平坦なままです。

ここで使うのが包絡線解析(エンベロープ解析)です。高域通過フィルタで高周波成分を取り出して復調すると、overall振動が上がる前(しばしば数週間前)に、欠陥周波数のピークとして現れます。しかもピークが立つ周波数から損傷部位を特定できます。BPFO(外輪)/ BPFI(内輪)/ BSF(転動体)/ FTF(保持器)という4つの欠陥通過周波数のどれに一致するかを見る、という考え方です。

エンベロープ解析には、40〜100kHz級のサンプリングが必要とされます。無線センサーの中には高速サンプリング対応をうたう製品群があり、26.8kHz級のサンプリングを持つものもあります。「速度のoverall値だけを送ってくるセンサー」と「エンベロープ解析まで扱えるセンサー」は、見える故障の種類が違う、というのが実務上の要点です。

もう1つ、現場で誤判定の原因になりやすいのがg(加速度)とmm/s(速度)の混同です。ダッシュボードに並んだ数字の単位を取り違えたまま、規格の判定値と比べてしまう。あるいは加速度で拾った値を速度基準のゾーン表に当てはめてしまう。単位が違えば意味も違います。表示単位と判定基準の単位が一致しているかは、閾値を触る前に必ず確認する項目です。

境界2: 回転数(低速機は速度基準に乗らない)

振動速度は、同じ振れ幅でも回転が遅ければ小さくなります。低速回転機では速度値そのものが小さく出るため、速度基準の判定に乗ってきません。攪拌機、低速コンベヤの減速機出力側、大型ファンの一部などが該当します。

ISO 20816-3が対象とするのは15kW超・120〜30,000 r/minの産業機械で、現地据付状態での評価を扱います。この範囲を外れる設備、とくに低回転側では、速度基準だけで良否を語るのは無理があります。加速度とエンベロープで、欠陥通過周波数を直接見に行く必要が出てきます。

現場での確認手順はシンプルです。監視候補に挙げた設備の定格回転数と軸出力を一覧にする。それだけで、速度基準で判定できる群と、そうでない群に分かれます。この仕分けをせずに全台へ同じセンサー・同じ閾値テンプレートを展開すると、低速機だけが永久に「A ゾーン」のまま静かに壊れます。

境界3: 取付方法(マグネットとスタッドで使える帯域が変わる)

センサーの選定より先に決めるべきなのが、取付方法です。振動センサーは、取付部の剛性によって使える上限周波数が変わります。マグネット取付は着脱が容易な反面、使える上限周波数が下がります。高周波を狙うならスタッド(ねじ)取付が必要です。

順序を間違えると、こうなります。エンベロープ解析のできる中位機を選定し、既設設備の軸受箱にマグネットで貼り付ける。カタログ上は高い帯域まで対応していても、取付が帯域を制限してしまうため、買った性能が使えません。取付方法を決めずにセンサーを選ぶと、買った帯域が使えないというのは、後付け案件でとくに起きやすい失敗です。

既設設備への後付けでは、ねじ穴の追加加工が保証やメーカー取り決めに触れないか、防爆区画か、表面が塗装されているか、軸受箱まで手が届くか、といった条件も絡みます。加えて、取付点は「軸受に近く、荷重方向がわかる位置」であることが前提です。カバーの外板に付けても、そこで見ているのは板の振動です。既設設備へのセンサー後付け全般の考え方は既存設備のIoT化・レトロフィットにまとめています。

予知保全の導入障壁として、センサーやIoT基盤といった初期投資に加えて、配線工事・取付工事が別途発生する点が指摘されています。無線センサーを選べば配線工事は減りますが、取付工事と電源・アンテナまわりの工事がゼロになるわけではありません。

境界4: 通信と電池(間欠測定でわかること・わからないこと)

無線・電池駆動のセンサーは、連続監視ではありません。電池寿命はサンプリング間隔と送信頻度に依存し、おおむね2〜5年(条件が良ければ3〜5年)とされます。1秒間隔の連続監視は電池を急速に消耗するため、多くの無線システムは10分〜1時間間隔の間欠測定とし、異常を検知したときに高周波の詳細データを取りに行く構成をとります。LoRaWAN系では10年をうたう製品もあります。

この仕様から導かれる結論は、はっきりしています。間欠測定で取れるのは「劣化のトレンド」であって、チョコ停の瞬間そのものではありません。10分に1回の測定で、数十秒で復旧するワーク詰まりの瞬間を捉えることはできません。「振動センサーを付ければチョコ停が減る」という期待から入ると、この時点でずれます。

もう1つ、電池は運用費として必ず戻ってきます。3年目に一斉交換が発生すれば、その年だけ工数と費用が跳ねます。台数が増えるほど、この作業自体が保全の負荷になります。後述の試算では、電池交換費を5年で按分して年額に含めています。

無線環境そのものも境界になります。金属構造物が多い工場では電波の減衰と反射が起きますし、ゲートウェイの設置位置と電源の確保が現実的な制約になります。ここは机上ではなく、現地で電波を確認してからでないと台数が決まりません。

判定基準はISO 20816のゾーンから始めるが、それで終われない

閾値を自前でゼロから決めるのは現実的ではないので、出発点として国際規格を使います。ISO 20816は回転機械の振動測定・評価の国際規格で、評価指標は振動速度 mm/s RMS。周波数によらず「どれだけ激しく振れているか」を表す指標です。

A〜Dゾーンの数値

ISO 20816では、機械区分と支持条件によってゾーン境界が変わります。出典表の値は次のとおりです(単位はmm/s RMS)。

機械区分支持条件A/BB/CC/D
Group1(約300kW以上・軸高315mm以上)剛支持2.34.57.1
Group1柔支持3.57.111.0
Group2(15〜300kW・軸高160〜315mm)剛支持1.42.84.5
Group2柔支持1.84.57.1

ゾーンの意味は、A=新品据付相当、B=長期連続運転が許容される、C=長期連続運転には適さず対策を検討、D=損傷を起こしうる、と整理されます。この4段階の説明は一般的な解説であり、区分の細部や適用条件は規格原文にあたってください。

表を見てわかるとおり、同じ4.5 mm/sという値でも、Group1剛支持ならB/C境界、Group2剛支持ならC/D境界、Group2柔支持ならB/C境界です。機械区分と支持条件を確定させないと、同じ数値がまったく違う意味を持ちます。「基礎に直付けか、防振ゴムやベースフレームを介しているか」で支持条件の扱いが変わるため、ここは現物を見て決める作業です。

ゾーン判定では初期の軸受損傷に間に合わない理由

ゾーン判定は速度のoverall値に対する基準です。境界1で述べたとおり、転がり軸受の初期はく離は高周波の微小な衝撃であり、速度のoverall値をほとんど動かしません。つまり、ゾーン判定がAやBのままでも、軸受の内部では損傷が進んでいる状態がありえます。速度値がCに入ってきた時点では、多くの場合すでに進行しています。

だからといってゾーン判定が無駄なわけではありません。不釣り合い、ミスアライメント、ゆるみといった低周波側の異常には有効ですし、据付直後の初期値評価にも使えます。低周波側はゾーン判定、軸受の初期はエンベロープという二段構えにするのが実際的です。片方だけでは、片方の故障モードを取りこぼします。

だからベースライン取得と閾値調整の工数が要る

規格のゾーン境界は、あくまで一般的な出発点です。同じ型式のポンプでも、据付、配管応力、基礎、負荷条件が違えば正常時の振動レベルは違います。運転してみて初めて「この設備の平常値」がわかります。

ここで必要になるのが、設備ごとのベースライン取得です。健全と判断できる状態で数週間から数か月のデータを取り、平常時のばらつきの幅を把握したうえで、規格ゾーンを参照しながら自社の閾値を置く。負荷変動や季節による温度変化が乗る設備なら、その変動も平常値の一部として織り込みます。

予知保全の難所として、閾値を過去の故障データから人が決めることの難しさが挙げられています。初期のシステムはAI学習を持たず、閾値超過をそのまま予兆として扱ったため、導入に失敗した例があります。運用には一定の専門知識が必要で、保全員が習得するまでには期間を要します。そのため、重要設備に絞ったスモールスタートが推奨されています。

この「絞る」という推奨は、後述の試算とも一致します。予知保全の全体像とシステム構成については予知保全システム導入ガイドを併せてご覧ください。

費用は4層に分かれる(センサー本体は5年総額の47%)

見積を1本の合計金額で見ていると、どこが効いているのかがわかりません。振動監視の費用は、次の4層に分けると構造が見えます。

  • 第1層 センサー — センサー本体。単価×点数。
  • 第2層 収集基盤 — ゲートウェイ、電源工事、アンテナ工事。台数ではなく建屋のレイアウトと電波環境で決まります。
  • 第3層 ソフト — 可視化・診断ソフト。多くは点数あたりの年額課金で、初期には計上しないかたちになります。
  • 第4層 人 — 導入時の外部技術者、社内保全の立会いと設定、そして運用開始後の監視・判定工数。

参考として、海外の公開情報での無線振動センサーの相場は、エントリークラスが150〜350 USD/点、FFT対応の中位機が400〜800 USD/点、ATEX/Class 1 Div 2の防爆対応が900〜1,800 USD/点とされています。為替や輸入条件で現地価格は変わるため、ここではTHB換算はしません。以降の試算では、中位機を想定した18,000 THB/点をモデル条件の単価として置きます。

振動センサーの設備診断2026|測れる故障と測れない故障の境界 - figure 2

後述するシナリオA(30点フル配備)で、運用フェーズの監視・判定に使う保全工数(45,760 THB/年、5年で228,800 THB)を除いた、設備・ソフト・導入工事の5年総額を集計すると次のようになります。

費目5年合計(THB)
センサー本体 18,000 × 30点540,000
収集基盤(ゲートウェイ・電源・アンテナ工事)225,000
初期の人(外部技術者・社内保全の立会い)96,000
ソフト 54,000 × 5年270,000
電池交換(3年目・30点)27,000
合計1,158,000

この1,158,000 THBに対して、センサー本体の540,000 THBが占める比率は46.6%です。つまりセンサー本体は5年総額の47%弱で、残りの53%あまりは本体の外にあります

分母には注意してください。この46.6%の分母は、保全工数を除いた1,158,000 THBです。監視・判定の保全工数まで含めた真の5年総額は1,386,800 THBであり、その場合のセンサー比率は38.9%になります。同じ「センサーの割合」でも、人件費を入れるか外すかで数字が変わります。見積比較の場で数字を出すときは、どちらの分母かを先に言ってから話すほうが混乱しません。

いずれの分母で見ても、示していることは同じです。センサーの単価交渉で価格を1〜2割下げても、全体に効く幅は限られます。効くのは点数そのものと、基盤・工事・運用工数のほうです。

投資回収は「台数」ではなく「振動で見える故障の件数」で決まる

ここからが本題です。ダウンタイム削減の効果を金額で見るとき、比較の相手は1本に固定しないと数字が二重になります。ここでは同じモデル工場に対して30点フル配備と12点集中の2案を置き、どちらも「何もしない現状」という同じ基準と比べます。A案とB案を互いに引き算することはしません。

現状(何もしない場合)の年間損失

項目計算金額(THB/年)
停止による損失8件 × 6時間 × 12,000 THB/時間576,000
突発時の緊急修理・空輸部品などの割増8件 × 35,000 THB280,000
現状の年間損失合計856,000

対象15台で年間8件の突発停止、1件あたり平均6時間、ライン停止1時間あたりの逸失利益を12,000 THBとしたときの数字です。この856,000 THB/年が、以降すべての比較の基準になります。シナリオAもBも、互いを引き算するのではなく、この856,000 THBに対してどれだけ減らせるかで評価します。

シナリオA: 30点フル配備

回転機15台すべてに、各2点(駆動側・従動側)で計30点を配備する案です。

初期費用

内訳金額(THB)
第1層 センサー18,000 × 30点540,000
第2層 収集基盤ゲートウェイ 45,000 × 3台 = 135,000 / 電源・アンテナ工事 90,000225,000
第3層 ソフト年額のため初期には計上しない0
第4層 人外部技術者 25,000/人日 × 3人日 = 75,000 / 社内保全 3,500/人日 × 6人日 = 21,00096,000
初期合計861,000

運用費(年額)

項目計算金額(THB/年)
ソフト1,800 THB/点/年 × 30点54,000
電池交換3年目に30点 × 900 THB = 27,000 を5年按分5,400
監視・判定の保全工数週2時間 × 52週 = 104時間 × 440 THB/時間45,760
運用費合計105,160

5年総額は 861,000 + 105,160 × 5 = 861,000 + 525,800 = 1,386,800 THBです。

効果(基準との差)

事前検知できる4件が突発停止から計画停止に変わり、1件あたりの停止時間が6時間から1.5時間に短縮されると置きます。

  • 停止時間の削減: 4件 × (6 − 1.5)時間 × 12,000 = 4 × 4.5 × 12,000 = 216,000 THB/年
  • 割増費用の削減: 4件 × 35,000 = 140,000 THB/年
  • 年間削減額 = 216,000 + 140,000 = 356,000 THB/年
  • 年間純便益 = 356,000 − 105,160 = 250,840 THB/年
  • 回収年数 = 861,000 ÷ 250,840 = 約3.4年

見落としてはいけないのは、導入後も残る損失です。856,000 − 356,000 = 500,000 THB/年が残ります。振動に出ない3件と、進展が速くて間に合わない1件は、30点フル配備でも残ります。「全台に付けたのに、まだ止まる」という感想は、この構造から出てきます。

シナリオB: 12点に絞る

過去の停止記録から、振動に出る故障が実際に起きている6台を選び、各2点で計12点に絞る案です。

初期費用

内訳金額(THB)
第1層 センサー18,000 × 12点216,000
第2層 収集基盤ゲートウェイ 45,000 × 2台 = 90,000 / 電源・アンテナ工事 60,000150,000
第4層 人外部 25,000 × 2人日 = 50,000 / 社内 3,500 × 3人日 = 10,50060,500
初期合計426,500

運用費(年額)

項目計算金額(THB/年)
ソフト1,800 × 12点21,600
電池交換3年目に12点 × 900 = 10,800 を5年按分2,160
監視・判定の保全工数週1時間 × 52週 = 52時間 × 440 THB/時間22,880
運用費合計46,640

5年総額は 426,500 + 46,640 × 5 = 426,500 + 233,200 = 659,700 THBです。

効果(同じ基準との差)

絞り込みで対象外にした設備で1件起きるため、事前検知できるのは4件ではなく3件になります。

  • 停止時間の削減: 3 × 4.5 × 12,000 = 162,000 THB/年
  • 割増費用の削減: 3 × 35,000 = 105,000 THB/年
  • 年間削減額 = 162,000 + 105,000 = 267,000 THB/年
  • 年間純便益 = 267,000 − 46,640 = 220,360 THB/年
  • 回収年数 = 426,500 ÷ 220,360 = 約1.9年
  • 導入後も残る損失 = 856,000 − 267,000 = 589,000 THB/年

5年で見た差

2案を、同じ基準に対する5年累計純利益(年間純便益 × 5 − 初期費用)で並べます。

項目シナリオA(30点)シナリオB(12点)
初期費用861,000 THB426,500 THB
運用費105,160 THB/年46,640 THB/年
事前検知できる件数4件/年3件/年
年間削減額(基準比)356,000 THB/年267,000 THB/年
年間純便益250,840 THB/年220,360 THB/年
回収年数約3.4年約1.9年
導入後も残る損失500,000 THB/年589,000 THB/年
5年累計純利益393,200 THB675,300 THB

計算はそれぞれ、A が 250,840 × 5 − 861,000 = 1,254,200 − 861,000 = 393,200 THB、B が 220,360 × 5 − 426,500 = 1,101,800 − 426,500 = 675,300 THB。同じ基準に対する5年累計純利益の差は 675,300 − 393,200 = 282,100 THB で、シナリオBが有利という結果になります。

振動センサーの設備診断2026|測れる故障と測れない故障の境界 - figure 3

ここは両面から読む必要があります。検知件数はAが4件、Bが3件で、Aのほうが多い。年間削減額もAが356,000 THBでBの267,000 THBを上回ります。導入後に残る損失も、Aの500,000 THB/年に対してBは589,000 THB/年で、Aのほうが小さい。つまり「効果の絶対量」ではAが勝っています

それでも5年累計純利益でBが勝つのは、費用差が効果差を上回るからです。初期費用の差は 861,000 − 426,500 = 434,500 THB、運用費の差は 105,160 − 46,640 = 58,520 THB/年。対して、検知1件ぶんの効果は 4.5時間 × 12,000 + 35,000 = 89,000 THB/年にとどまります。18点を追加して得られる年間89,000 THBに対し、そのために年58,520 THBを払い続け、初期に434,500 THBを先出しする構図です。

多く付けたほうが効果は大きい。ただし投資効率は下がる。どちらを取るかは経営判断ですが、判断材料としては両方を並べるべきです。「Bのほうが得だからAはやらない」という単純化も、「Aのほうが検知件数が多いからAにする」という単純化も、片側しか見ていません。なお、この2案は互いに引き算するものではなく、どちらも856,000 THBという同じ基準に対する改善量として読んでください。

念のためもう一度書くと、これらはすべて本記事のモデル条件での試算です。1時間あたりの逸失利益、突発時の割増費用、保全工数の時間単価は工場ごとに大きく違います。自社の数字に置き換えると順位が入れ替わることは十分にありえます。重要なのは金額そのものではなく、「振動で見える故障の件数」を分子に置く計算の組み立て方です。

予防保全・予知保全・CBMの言葉を整理する

社内の議論が噛み合わないとき、多くは言葉の定義がずれています。「予防保全と予知保全の違い」が繰り返し検索されるのも、実務で混同されているからです。整理します。

方式何をきっかけに手を入れるか振動センサーとの関係
事後保全(BM)壊れてから直す関係しない
時間基準保全(TBM)経過時間・稼働時間・生産数量使わなくても成立する
状態基準保全(CBM)設備の状態を示す指標がしきい値を超えたら振動値をトリガーに使う
予知保全(PdM)状態の推移から将来の劣化を予測してトレンドと解析が前提

予防保全は、事後保全に対する大きなくくりです。壊れる前に手を入れる考え方全体を指し、その中に時間基準保全と状態基準保全が含まれます。一般に「予防保全」と言われて工場で行われているものの多くは、時間基準保全、つまり「6か月ごとにグリース交換」「2年でベアリング交換」といった周期での実施です。

CBM(状態基準保全)は、周期ではなく状態で決める方式です。振動値、温度、電流値などの指標を見て、基準を超えたら手を入れます。今の状態を判定するので、「現在」の話です。

予知保全は、状態の推移から先を読む方式です。トレンドの傾きから、いつごろ限界に達しそうかを見積もり、次の計画停止に修理を差し込みます。「未来」の話なので、単発の測定値ではなくデータの蓄積が要ります。

振動センサーによる設備診断は、実装としてはまずCBMから入り、データが溜まるにつれて予知保全に近づいていく、という順序をたどるのが自然です。最初から予知保全を名乗ると、ベースラインが無い状態で予測をさせることになり、閾値超過を予兆と呼び替えるだけの運用に陥りがちです。

言葉を分けておく実利は、投資判断にあります。時間基準保全を状態基準保全に置き換えれば、まだ使える部品を捨てずに済み、逆に周期の間に壊れる設備には早く手が打てます。ただしそれは、状態が指標に出る設備に限った話です。振動に出ない止まり方をCBM化しようとしても、置き換えるべき指標が存在しません。

タイの工場で追加になる論点

タイで振動監視を計画するとき、日本と同じ前提のままでは足りない論点があります。

環境条件。 高温多湿と粉塵は、センサーの保護等級と設置場所の選定に直結します。屋外に近い場所、洗浄水がかかる場所、粉体を扱う工程では、保護等級と使用温度範囲を仕様の最初に確認する項目に置きます。加えて、周囲温度が高い環境では、振動と温度を併せて見ることの意味が変わってきます。温度上昇が軸受劣化によるものか、周囲環境によるものかを切り分ける必要があるためです。

無線環境。 鉄骨造の建屋、金属ダクト、パーティション、既存の無線LANやハンディターミナルとの共存。ゲートウェイの設置位置と台数は、机上の図面ではなく現地の電波確認で決まります。試算では30点にゲートウェイ3台、12点に2台と置きましたが、これは建屋レイアウトによって普通に変わる部分です。電源の確保も同様で、天井近くにゲートウェイを置くなら電源工事が付いてきます。

保全人材の入替わり。 振動診断の運用には一定の専門知識が要り、保全員が習得するまで期間を要します。担当者が替わったときに判定基準と過去の履歴が引き継がれないと、閾値が誰にも触れない設定として放置されるか、アラートが無視されるかのどちらかになります。判定の根拠を人ではなくシステム側に残す設計が、日本以上に効きます。ベースラインの記録、閾値の変更履歴、アラートに対して何をしたかの対応記録。これらは振動監視ソフト単体では持ちきれないことが多く、保全管理側の仕組みと合わせて考えるところです。

人件費と電力の水準。 2026年のタイの最低賃金は据え置きとされています。製造業ワーカーの月給はタイが437 USD、ベトナムが302 USDで、タイのほうが約45%高い水準です。保全工数の時間単価が効いてくる以上、監視に週何時間かけるかは費用として無視できません。試算でシナリオAの保全工数を週2時間、Bを週1時間としたのは、点数が増えれば見る対象も増えるためです。電力については、2024年時点で商業用の電力料金は1kWhあたり4.3バーツ程度(送配電・税等込み)とされています。

投資の文脈。 2026年上半期のタイの投資申請は前年同期比37%増の436億USD・1,299件でした。BOIの「Smart and Sustainable Industry」枠では、機械更新、デジタル技術導入、自動化とロボット導入に132件・5億760万USDの申請があったと報告されています。設備更新やデジタル化を伴う投資では、こうした枠組みが検討対象になりえます。適用可否は個別条件によるため、計画段階で確認しておく項目という位置づけです。

導入の順序(90日)

絞り込みを前提にした場合の、現実的な進め方です。

第1〜2週:止まり方を数える。 過去12か月の停止記録を集め、1件ずつ故障モードに分類します。振動に出るもの/出ないものの2つに分けるだけで構いません。件数、停止時間、修理費を紐づけます。この段階の成果物は表1枚です。ここで振動に出る故障がほとんど無いという結果が出たら、振動センサーへの投資は保留し、別の対策に予算を回す判断があります。この分岐を許容できる進め方にしておくことが重要です。

第3〜4週:対象設備と取付点を決める。 振動に出る故障が実際に起きた設備を候補にし、定格回転数と軸出力、機械区分、支持条件を一覧化します。同時に取付点(軸受に近い位置)と取付方法(マグネットかスタッドか)を現物で決めます。ここで初めて、必要な測定量と帯域が確定します。

第5〜6週:センサー仕様と収集基盤を決める。 決まった帯域から、速度のoverall値で足りるのか、エンベロープ解析まで要るのかを設備ごとに割り振ります。並行して現地で電波を確認し、ゲートウェイの位置と台数、電源とアンテナの工事範囲を確定します。この段階で初めて見積が実態に合います。

第7〜10週:設置とベースライン取得。 取り付け、通信を確認し、平常時のデータを溜めます。この期間は判定をしません。負荷変動や運転パターンの違いが振動値にどう出るかを見る期間です。

第11〜13週:閾値設定と運用ルール。 ISO 20816のゾーンを参照しつつ、設備ごとの平常値のばらつきを踏まえて閾値を置きます。あわせて、アラートが出たら誰が何時間以内に何をするか、判定の記録をどこに残すか、閾値を変えたい場合は誰が承認するかを決めます。運用ルールが無いままアラートだけ流れる状態が、「鳴りすぎて誰も見ない」の入口です。

90日で全設備を終える必要はありません。むしろ、絞った台数で1周させて運用ルールを固めてから、次の設備群に広げるほうが、閾値調整の学習が効きます。

よくある質問

振動センサーを付ければチョコ停は減りますか?

チョコ停の内容によります。多くの無線振動センサーは10分〜1時間間隔の間欠測定であり、数十秒で復旧するワーク詰まりやセンサー誤検知の瞬間そのものは捉えられません。振動監視で減らせるのは、回転機の劣化が原因で起きる突発停止のほうです。チョコ停対策としては、停止要因の記録を取れる仕組みを先に整えるほうが近道になります。

既設設備にセンサーを後付けできますか?

多くの場合は可能ですが、決める順序があります。まず取付点(軸受に近い位置)と取付方法を現物で決め、そのあとにセンサーを選びます。マグネット取付は使える上限周波数が下がるため、軸受の初期損傷をエンベロープ解析で狙うならスタッド取付が必要です。センサーを先に買うと、取付が帯域を制限して性能を使い切れない状態になります。既設設備への後付けでは、ねじ穴加工の可否、設置環境、電源とアンテナの確保も事前確認の対象です。

低速回転の設備でも異常検知はできますか?

速度基準(mm/s)だけでは難しい領域があります。低速では振動速度そのものが小さく、ISO 20816のゾーン判定に乗ってきません。ISO 20816-3が対象とするのは15kW超・120〜30,000 r/minの産業機械です。この範囲を外れる低速機では、加速度とエンベロープ解析で軸受の欠陥通過周波数(BPFO/BPFI/BSF/FTF)を直接見に行く構成を検討します。まずは対象設備の定格回転数と軸出力を一覧にして、速度基準で判定できる群とそうでない群に仕分けてください。

モーターの振動監視は何点から始めるのが妥当ですか?

台数から決めないでください。過去1年の停止記録から「振動に出る故障が実際に起きた設備」を洗い出し、その設備に絞ります。本記事のモデル条件では、15台30点のフル配備(5年累計純利益 393,200 THB)より、6台12点に絞った案(同 675,300 THB)のほうが282,100 THB有利という試算になりました。検知件数はフル配備のほうが多い(4件と3件)一方で、初期434,500 THBと年58,520 THBの費用差を1件ぶんの効果89,000 THB/年では埋めきれない、という構造です。数字は工場ごとに変わりますが、組み立て方は共通して使えます。

電池はどれくらい持ちますか、交換の手間はどう見ておくべきですか?

電池寿命はサンプリング間隔と送信頻度に依存し、おおむね2〜5年(条件が良ければ3〜5年)とされます。1秒間隔の連続監視は消耗が速いため、多くのシステムは間欠測定を基本とし、異常検知時に詳細データを取る構成をとります。LoRaWAN系では10年をうたう製品もあります。費用面では交換作業を運用費に含めておくのが安全で、本記事の試算ではシナリオAで3年目に30点 × 900 THB = 27,000 THB、シナリオBで12点 × 900 THB = 10,800 THBを5年で按分し、それぞれ年5,400 THB、年2,160 THBとして計上しています。点数が増えるほど交換作業自体が保全の負荷になる点も、台数を決めるときの判断材料です。

まとめ

振動センサーによる設備診断は、精度でもAIでもなく、「その設備の止まり方が振動に出るのか」という切り分けで結果が決まります。振動が見せてくれるのは回転機の4モード(不釣り合い、ミスアライメント、ゆるみ、軸受損傷)で、電気・制御・治具・ワーク詰まり・段取りミスは対象外です。

見えるかどうかは、さらに4つの境界で決まります。速度か加速度かという測定量、速度基準に乗らない低速回転、使える帯域を左右する取付方法、そして間欠測定という通信と電池の制約。カタログの精度表記より、この4つのほうが実際の可否を決めます。

投資判断は台数からではなく件数から組みます。本記事のモデル条件では、何もしない現状の年間損失856,000 THBに対し、30点フル配備は年間356,000 THBを削減して5年累計純利益393,200 THB、12点に絞った案は年間267,000 THBの削減で675,300 THB。差は282,100 THBで、絞った案が有利でした。ただし検知件数はフル配備が4件、絞った案が3件で、効果の絶対量は前者が上です。効果を取るか効率を取るかは、この両面を並べたうえでの判断になります。

費用構造も見ておいてください。保全工数を除いた設備・ソフト・工事の5年総額1,158,000 THBに対し、センサー本体は540,000 THB、46.6%。残りの53%あまりは本体の外にあります。単価交渉より、点数の絞り込みと運用設計のほうが効きます。

まず着手すべきは、過去12か月の停止記録を故障モードで分類する表1枚です。そこに振動で見える故障が何件あるか。すべてはその数字から始まります。

TOMAS TECHはバンコクを拠点に、日系製造業の工場IT・OT/IoT・FA領域を支援しています。振動センサーの選定や見積の前段階、つまり「どの設備の止まり方が振動に出るのか」を停止記録から切り分けるところからご相談いただけます。既設設備への後付け条件の確認や、保全管理の仕組みとの接続についても、現場の状況に合わせて整理します。ご相談はお問い合わせページからどうぞ。