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2026.08.11

工場 レイアウト改善|動線のムダは長さ×回数×単価で測る

工場 レイアウト改善|動線のムダは長さ×回数×単価で測る

工場 レイアウト改善は「見た目」ではなく「金額」の問題

工場 レイアウト改善というと、通路が広く、設備がまっすぐ並んだ「きれいな工場」を思い浮かべる方が多いと思います。しかしレイアウトの良し悪しは見た目では決まりません。決まるのは、人と物が1日に何メートル動き、その移動に1時間あたりいくら払っているかです。

同じ製品を同じ設備で作っていても、配置が違えば作業者の歩行距離は変わります。歩行距離が変われば、同じ人数で作れる数が変わります。設備を1台も買わずに生産量が動くことがあるのは、このためです。

この記事では、レイアウトを金額に直す方法と、タイの工場で実際に進めるときの手順を扱います。

レイアウトの良し悪しは3つの数字で決まる

レイアウトが悪いと何が起きるか。工場を歩くと「なんとなく散らかっている」「動きが多い」と感じますが、感想のままでは稟議になりません。数字にすると、要素は3つしかありません。

数字何を表すか現場での測り方効く打ち手
長さ1回あたりの移動距離現状のレイアウト図に経路を引き、歩幅か巻尺で実測する配置替え。ここがレイアウトの領分
回数1日あたりの移動回数1日分の運搬伝票、かんばん、完成報告の件数を数えるロットサイズ、台車の積載量、まとめ運搬
単価移動1時間あたりに払っている金額1人あたり年間実負担額を年間稼働時間で割る単価そのものは下げられない。だから長さと回数で戦う
工場 レイアウト改善|動線のムダは長さ×回数×単価で測る - figure 1

この3つは掛け算です。片道の距離を半分にしても、回数が2倍になれば元に戻ります。逆に、距離を1メートルも縮めなくても、1日60回の運搬を30回にまとめれば同じ効果が出ます。

レイアウト改善が「配置替えの話」で終わってしまうのは、3つのうち「長さ」しか見ていないからです。 実際には「回数」はロットサイズと生産計画の話、「単価」は人件費と自動化の話につながっていて、この3つを同じ表に並べた瞬間に、レイアウトは工場長だけの議題から生産管理と経理を巻き込んだ議題に変わります。

そしてこの3つの掛け算は、どの勘定科目にも載っていません。人件費には含まれていますが「歩いた分」として分離されていない。これが、レイアウトの問題が隠れコストと呼ばれる理由です。

なお、この記事が正面から扱うのは3つのうち主に長さ、つまりフロア上の配置そのものです。回数の側、つまり定期便の頻度、1便の積載単位、容器の標準化、マテリアルハンドリング機器の選定については、工場内物流の改善を3層に分けて整理した記事で個別に扱っています。配置を1メートルも変えずに回数だけで効果を出せる場面も多いので、両方を並べて見てください。

歩行と運搬のムダを金額に直す — 計算の型

リーン生産方式では、価値を生まない活動を7つのムダとして分類します。米国 Lean Enterprise Institute の用語集は、大野耐一による分類として Conveyance(運搬) を「次工程を隣に置けたはずなのに、加工から倉庫、そして次工程へと不要に動かすこと」、Motion(動作) を「部品や工具、書類を探すなど、作業者の無理な、あるいは不要な動き」と定義しています。

レイアウトが直接効くのはこの2つです。そして2つとも、時間に直せば金額になります。

計算の型は次の1行です。

年間の移動コスト = 片道距離 × 1日の移動回数 × 年間稼働日数 ÷ 歩行速度 ÷ 60 × 時間あたり単価 × 人数

分母の60は分を時間に直すためのものです。この式で言えるのは、「歩行は時間であり、時間は単価を掛ければ金額になる」というだけです。難しいことは何もありません。難しいのは、4つの入力値を自社の実測値で埋めることです。

以下は計算例です。すべて仮定値なので、必ず自社の数字に置き換えてください。

項目仮定値積み上がり
片道距離40メートル1日2,400メートル
1日の移動回数60回同上
歩行速度60メートル毎分1日40分
年間稼働日数250日年間およそ166時間
時間あたり単価およそ4.4米ドル1人あたり年間およそ730米ドル
同じ動線を共有する人数10人年間およそ7,300米ドル

時間あたり単価の4.4米ドルは、後述するジェトロ調査のタイ製造業ワーカーの年間実負担額 8,815米ドルを、年間稼働時間を2,000時間と置いて割ったものです。2,000時間は仮定であって調査に書かれている数字ではありません。残業が多い職場ならこの分母は増え、時間単価は下がります。

ここで大事なのは金額の大小ではなく、この計算が「1本の動線」あたりで成立していることです。工場には動線が何十本もあります。上位5本を測るだけで、レイアウト改善の議論に必要な金額はだいたい出そろいます。

タイ工場で「移動単価」はいくらか

単価は自社の給与台帳から出すのが本筋ですが、着手前に当たりを付けたいときは公開データが使えます。ジェトロの2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)は、進出日系企業から回答を集めた基本給と年間実負担額を国・地域別に公表しています。

区分タイ参考
製造業ワーカーの基本給・月額の平均490米ドル中央値は463米ドル
バンコク都581米ドルEECは481米ドル、その他地域は465米ドル
製造業ワーカーの年間実負担額8,815米ドルベトナムは5,270米ドル、中国は12,667米ドル

基本給は2025年8月時点、諸手当を除いた金額です。年間実負担額は基本給に諸手当、社会保障、残業、賞与を加えた1人あたりの年間合計で、退職金は含みません。

レイアウトの議論に使うべきは年間実負担額のほうです。基本給だけで単価を作ると、社会保障と残業と賞与の分だけ移動コストを小さく見積もることになり、改善の効果も小さく出てしまいます。

そしてこの表からもう1つ読めることがあります。バンコク都とEECとその他地域で単価が違うということは、同じ動線の長さでも、拠点によって隠れコストの金額が違うということです。バンコク都内の工場のほうが、同じレイアウトの悪さに対して高い代償を払っています。

SLPとは何か — レイアウトを勘で決めないための4フェーズ

レイアウトを勘で決めないための手順として、世界的に使われているのが SLP(Systematic Layout Planning) です。Richard Muther が体系化した方法で、同氏の会社 Richard Muther & Associates は1956年に設立されています。工場だけでなく倉庫、事務所、サービス施設の計画にも同じ枠組みが使われます。

SLPはレイアウト計画を4つのフェーズに分けます。

フェーズ内容よくある実態
Phase I 立地計画対象の場所を決める。使える面積と周辺の影響を把握する賃借契約や敷地はすでに決まっていて、選べないことが多い
Phase II 全体レイアウト活動エリアと部門の配置を決める。主通路を定義するここが本命。ブロックレベルで決める
Phase III 詳細レイアウト個々の機械と設備の配置を、据付できる状態まで決めるPhase IIを飛ばしてここから始めてしまう工場が多い
Phase IV 設置図面と仕様書を作り、設備を調達・据付し、作業者を教育し、フォローする移設当日の話。ここだけ外注しても改善にはならない

SLPの原典は、フェーズは重ねて進めるのがよいとしています。また Phase I と Phase IV はレイアウト計画者の担当外であることが多く、他部門が実施することが多いとも書かれています。

日本の工場でよく起きるのが、Phase II を飛ばして Phase III から始めてしまうという失敗です。「あの機械を隣に動かそう」から入ると、部門全体の流れは変わらないまま設備だけが動きます。長さは少し縮むかもしれませんが、動線の形は変わりません。

P-Q-R-S-T — レイアウトを決める前に集める5つのデータ

SLPは、レイアウトを考える前に5種類のデータを集めよと言います。頭文字を並べて P-Q-R-S-T と呼びます。

記号内容問い集め方
PProduct / Material何を作る、あるいは動かすのか品目マスタ。ただし全品目ではなく、代表品目に絞る
QQuantity / Volumeそれぞれどれだけの量か出荷実績と在庫。年間ではなく月別に見る
RRouting / Process Sequenceどういう順序で流れるのか工程表。現物の流れと一致しているかを現場で確かめる
SSupporting Services何がそれを支えるのか工具室、検査、保全、更衣室、食堂、トイレ、廃棄物置き場
TTimeいつ、どれだけの時間で作るのか稼働時間、シフト、繁閑、段取り時間

原典では、この5つを図案化した「鍵」の歯の部分に W-H-Y の3文字が刻まれています。集めたデータの正しさと前提を疑え、という意味で、とくに R(工程順序)を疑うべきだと明記されています。

現場でこれが効きます。工程表の上では「加工→検査→組立」でも、実際には検査待ちの仕掛品が別の場所に山積みになっていて、そこを経由している。工程表どおりのレイアウトを組むと、この迂回は永久に見えないままレイアウトに固定されます。

S を軽く見ないことも重要です。日本から来た計画では、工具室・更衣室・休憩スペースが後回しになりがちです。しかし作業者が1日に何度も往復するのは、実は工程間ではなく、工具室と手洗いと材料置き場だったりします。動線の実測をすると、この「支援サービスへの動線」が上位に来ることは珍しくありません。

関係表と近接度 A・E・I・O・U・X

P-Q-R-S-T を集めたら、次は「どのエリアとどのエリアを近くに置くべきか」を決めます。SLPはこれを言葉ではなく記号で表します。

記号意味現場での読み方
AAbsolutely Necessary絶対に隣接が必要
EEspecially Important特に重要
IImportant重要
OOrdinary Closeness OK普通の近さでよい
UUnnecessary近くなくてよい
XNot desirable近づけたくない

X があるのがこの表の要点です。「近づけてはいけない」を明示的に置けるので、塗装と溶接、粉じんの出る工程と精密検査、騒音源と事務所といった関係を、感覚ではなく記号として残せます。タイの工場では、この X が法規や近隣対応と結び付くことがあります。

評価すべき対の数は決まっていて、原典には N ×(N − 1)÷ 2 という式が載っています。活動エリアが10なら45対、15なら105対です。この数字を見ると「全部の組み合わせを議論するのは無理だ」と分かります。実際には A と E と X だけを先に決め、残りは O か U に倒すのが現実的です。

SLPの手順は、この関係表を含む一連の流れとして定義されています。物の流れの分析、関係表、関係図、必要面積と使える面積、面積関係図、そして修正条件と実務上の制約を織り込んだ代替案、最後に代替案の評価。原典は代替案を2つ以上作って評価することを求めています。1案しか出さない計画は、比較していないという意味で、まだ決まっていないのと同じです。

現状を測る2つの道具

新しいレイアウトを描く前に、今のレイアウトを測ります。道具は2つで足ります。

スパゲッティ図は、現状のレイアウト図の上に、人か物の実際の移動経路を線で引いたものです。1日ぶんを1本の線でなぞると、線が絡まって麺のように見えるのでこの名前が付いています。効果は「見せられる」ことにあります。数字の表は会議で流されますが、絡まった線の絵は流されません。

from-to表は、どのエリアからどのエリアへ、1日に何回、どれだけの距離を動いたかを行列にしたものです。行が出発地、列が到着地で、交点に回数か距離、あるいは回数×距離を書きます。この表を作ると、移動量が特定の数本に偏っていることが多いと分かります。まずはその上位数本に絞って測るのが実務的です。

この2つを作るときに守ることが1つあります。測るのは代表日ではなく、繁忙日にすることです。閑散日のデータでレイアウトを決めると、忙しいときに通路が詰まります。レイアウトは平均ではなくピークに耐えるかどうかで評価します。

レイアウトの4類型 — 工程別・製品別・セル・固定位置

レイアウトには類型があります。自社が今どれで、どれに移りたいのかを言葉にすると、議論が一気に速くなります。

類型配置の考え方動線の性格向く条件典型的な失敗
工程別配置同じ機能の設備を1か所に集める。旋盤は旋盤、プレスはプレス品目ごとに経路が違い、動線が長く交差する多品種少量、試作、設備が高価で共用したい仕掛品が工程間に滞留し、リードタイムが読めなくなる
製品別配置製品の工程順に設備を1列に並べる動線は短く一方向。交差しない少品種多量、工程順が安定している品種が増えた瞬間に破綻する。1台止まると全体が止まる
セル配置1つの製品群に必要な設備を小さくまとめるセル内は短い。セル間は設計次第中品種中量。多能工がいる多能工が育っていないまま形だけ作ると、かえって手待ちが増える
固定位置配置対象物を動かさず、人と設備が来る人と設備の動線が主役になる大型機械、船、航空機、建屋据付材料の置き場所が決まらず、探す時間が支配的になる
工場 レイアウト改善|動線のムダは長さ×回数×単価で測る - figure 2

図に描いたのは工程別・製品別・セルの3類型です。固定位置配置は対象物そのものが動かないため、フロア上の経路として比較しにくく、図からは外しています。

多くのタイの日系工場は、立ち上げ時は製品別配置に近い形で始まり、品種が増えるにつれて工程別配置に近づいていきます。この移行は誰も決断していないのに起きます。 新しい設備を空いている場所に置いた結果として、少しずつ機能別に固まっていくからです。

だから改善の第一歩は、新しい配置を描くことではなく、今の配置がどの類型に「なってしまっているか」を認めることです。

直線型ラインとU字型ライン — 動線に効くのはどちらか

製品別配置とセル配置の中では、直線型とU字型のどちらにするかがよく議論になります。

直線型は分かりやすく、コンベヤを引きやすく、増設もしやすい。一方で、始点と終点が離れるという性質があります。終点まで行った作業者は、次のサイクルで始点に戻らなければなりません。1サイクルあたりの戻り距離がライン長と同じだけ発生します。

U字型は始点と終点が隣り合うので、この戻り距離がほぼゼロになります。さらに、1人が入口側と出口側の両方の工程を持てるため、生産量が減ったときに人数を減らしやすい。逆に、通路幅を取る必要があり、大型設備や長い搬送装置とは相性が悪くなります。

どちらが正しいという答えはありません。 判断は次の3点で決まります。1つ目は、生産量の変動幅がどれだけあるか。変動が大きいならU字型の柔軟性が効きます。2つ目は、設備の大きさと固定度。基礎工事を伴う大型設備が並ぶなら直線型のほうが現実的です。3つ目は、多能工の育成が進んでいるか。U字型は複数工程を持てる人がいて初めて効果が出ます。

改善の進め方 — 現状可視化から本移設までの6ステップ

進め方は6段階です。飛ばしていいステップはありませんが、規模によって各段階の重さは変わります。

ステップやること成果物決める人
現状動線の可視化繁忙日にスパゲッティ図とfrom-to表を作る現状レイアウト図と動線データ生産技術と現場リーダー
ムダの定量化上位5本の動線を金額に直す長さ×回数×単価の一覧生産技術と経理
複数案の作成P-Q-R-S-T を集め、関係表から2案以上を描くブロックレイアウト案生産技術
案の比較評価移動量、必要面積、工事費、停止時間で比較する比較表と推奨案工場長
試験導入一部工程だけ動かす。テープで通路を引き直す実測した効果の記録現場リーダー
本移設工事、据付、試運転、教育新レイアウト図と作業標準工場長と本社

試験導入を飛ばさないことが最大のポイントです。床にテープを貼り直して仮置き場を移すだけなら、費用はほぼゼロで、翌日から効果が測れます。ここで効果が出ない案は、本移設しても出ません。逆にここで効果が確認できれば、本移設の稟議はほぼ通ります。

比較評価では、移動量の削減だけでなく停止時間を必ず列に入れてください。移動量が最も減る案が、最も長く生産を止める案であることは珍しくありません。

タイ工場特有の論点 — 賃借工場・工事・生産を止めない段階移設

ここからはタイの工場に固有の制約です。日本の本社が描いた案が現地で通らない理由は、たいていこの3つのどれかです。

1つ目は建屋の権利関係です。 タイに進出した日系企業には、工業団地のRBW/RBF(Ready-Built Warehouse/Ready-Built Factory) を借りて操業している例が多くあります。RBWは「完成品を保管する倉庫」ではなく、賃貸用にあらかじめ建てられた完成済みの建屋を指します。借りている建屋である以上、床への固定、天井への吊り下げ、壁の開口、電気容量の増設、消火設備の移設には賃貸人の承認が要ります。承認に何週間かかるかは団地とオーナーによって違うので、レイアウト案を描く前に確認しておくべき項目です。

2つ目は工事と許認可です。 電気容量の変更、危険物の保管場所の移動、排気や排水の経路変更は、社内の判断だけでは済みません。BOI恩典を受けている場合は、設備の増減や用途変更が恩典条件に影響しないかの確認も必要です。レイアウト案が固まってから確認すると、確認結果によって案を作り直すことになります。確認は案を描く前に済ませてください。

3つ目は生産を止めないことです。 日系のタイ拠点は、日本や他国の工場への供給責任を負っていることが多く、まとめて数日止めるという選択が取りにくい。そこで段階移設が現実解になります。

工場 レイアウト改善|動線のムダは長さ×回数×単価で測る - figure 3

段階移設の考え方はこうです。まず建屋の中に「まだ何も置いていない面積」を確保します。既存の仕掛品置き場を圧縮するか、外部倉庫を短期で借ります。次に、その空き地に最初のブロックを組み立てます。そこが動き出したら、空いた元の場所が次のブロックの空き地になります。空き地を1つ持って玉突きで動かす方法で、これが取れないと段階移設は組めません。

段階移設には代償があります。移設期間中は、新旧のレイアウトが混在するため、動線が一時的に長くなります。ここで「改善したのに悪化した」という声が出ますが、これは想定内であることを事前に共有しておくべきです。

タイの人件費と投資環境はどう動いているか

移動単価は人件費です。タイの人件費は上がっており、レイアウト改善の効果額は年々大きくなります。

最低賃金については、賃金委員会告示第14号が2025年7月1日に施行されました。バンコク都は全域で1日28バーツ引き上げられ400バーツになりました。あわせて、ホテル法上の第2種から第4種のホテルと、サービス営業所法(สถานบริการ法 2546年 第4版)上の接客営業所、つまりナイトクラブ、バー、カラオケ店、マッサージ店といった許可制の業態が、全国で400バーツになっています。この全国適用は業種を限定したものであり、製造業は対象ではありません。 全国の最低賃金は17段階に分かれており、下限は337バーツ、上限は400バーツです。全国一律で400バーツになったわけではない点は、社内説明でよく誤解されるので注意してください。

業種ではなく地域で決まる部分は、これとは別に見る必要があります。地域別最低賃金では、プーケット県、チャチューンサオ県、チョンブリー県、ラヨーン県、およびスラーツターニー県コサムイ郡が、業種を問わず1日400バーツです。これは告示第13号により2025年1月1日から適用され、第14号でも維持されています。チャチューンサオ県・チョンブリー県・ラヨーン県はEECの中核で、日系製造業の工場が集まる地域です。EECやプーケットに工場を持つなら、業種の議論とは別に、自社の所在県のレートを個別に確認してください。

投資環境の側も動いています。タイ投資委員会(BOI)によれば、2026年上半期の投資申請額は1.473兆バーツで、前年同期比37%増でした。承認は1,300件で、82,000人を超える雇用創出が見込まれています。ただしこれは申請額であって実行額ではありません。それでも、周辺で新設・増設が続くということは、人材の取り合いが続くということです。

人件費が上がり、人が採りにくくなる局面での打ち手は2つあります。1つは人を増やさずに済むように動線を短くすること、もう1つは省人化です。順序としては動線が先です。動線が長いままの工程を自動化すると、長い動線をそのまま自動化することになります。省人化そのものの進め方は省人化と自動化の進め方をまとめた記事で扱っています。

AGV・自動搬送は「レイアウトの後」に来る

搬送 効率化 工場というテーマでよく最初に挙がるのがAGVやAMRの導入です。しかし順序を間違えると効果が出ません。

理由は単純で、AGVは動線を短くしないからです。AGVが変えるのは「誰が運ぶか」であって「どれだけの距離を運ぶか」ではありません。40メートルの動線にAGVを入れても、AGVが40メートル走るだけです。台数計算の入力になる搬送距離とサイクルタイムは、レイアウトが決まらないと確定しません。

したがって順序はこうなります。まずレイアウトで距離を短くする。次にロットとまとめ運搬で回数を減らす。それでも残る運搬に対して、人が運ぶかAGVが運ぶかを決める。この順で進めると、台数計算の前提になる搬送距離とサイクルタイムが確定してから発注できます。AGVの台数計算と走行動線・充電位置の設計については、AGVのレイアウト設計を扱った記事で個別に整理しています。

逆に言えば、AGVの見積もりを取る前にレイアウト案を1枚描いておくと、台数と走行距離の前提を見積書の上で検証できます。 これは値引き交渉ではなく、前提条件の精度の話です。

外部パートナーに依頼する判断基準

ここまでの作業は、条件が揃えば自社でできます。まず「自社でできる条件」を書きます。

  • 対象面積がおおむね1,000平方メートル以下で、工程数がおおむね10まで
  • 建屋の図面(平面図と電気・エアの配管図)が揃っている
  • 数日単位で生産を止められる、または止めなくてよい範囲の変更で済む
  • 生産技術の担当者が、他の業務を止めて2か月ほど張り付ける

この4つが揃っているなら、外部に頼む必要はありません。スパゲッティ図とfrom-to表と関係表は、手描きでも十分に機能します。

外部パートナーを検討したほうがよいのは、次の条件に当てはまるときです。

条件なぜ外部が要るか
図面が現物と合っていない、あるいは無い現況測量から始まる。人手と道具が要る
生産を止められる時間が48時間未満段階移設の計画と工事業者の同時並行手配が必要になる
工程数が10を超える、あるいは複数棟にまたがる評価すべき関係の対がN ×(N − 1)÷ 2で増え、手作業で回らなくなる
電気容量の変更や消火設備の移設を伴うタイの法規と団地規則、賃貸人承認の実務が絡む
移設と同時に新規設備の導入や自動化を行う設備仕様とレイアウトを同時に固める必要がある
社内で案が2つに割れて決まらない第三者の評価軸がないと、声の大きさで決まってしまう

依頼先の選び方で見るべきは、実績の件数ではなく「何を成果物として出すか」です。 レイアウト図だけを出す会社と、from-to表と比較評価表と段階移設の工程表まで出す会社では、受け取る側の仕事量がまったく違います。自動化まで含めて相談したい場合は、工場自動化コンサルティングの選び方をまとめた記事も参考になります。

依頼の進め方と成果物の決め方

依頼するときは、契約前に成果物の一覧を文書で確定させてください。最低限、次の5点は明記します。

  • 現況図(実測に基づく平面図。既存図面との差分を明示すること)
  • 動線データ(from-to表。単位、測定日、繁忙日か平常日かを明記すること)
  • レイアウト案2案以上と比較評価表(移動量、必要面積、工事費、停止時間の4項目を必ず含めること)
  • 段階移設の工程表(各段階の停止時間と、後戻りできる分岐点を明記すること)
  • 移設後の作業標準の改訂範囲(誰が改訂するかを含めて)

この5点のうち、もっとも抜けやすいのは「後戻りできる分岐点」です。 移設は必ず想定外が出ます。どこまで進んだら元に戻せないのかが事前に決まっていないと、当日に判断できません。

進め方としては、いきなり全社案を依頼するのではなく、1つの動線か1つの工程群に絞った小さな範囲で1回やってみるのが安全です。金額も小さく、成果物の質も確認できます。そこで噛み合えば範囲を広げればよく、噛み合わなければ被害は小さく済みます。

費用対効果とROIの考え方

レイアウト改善の費用対効果は、他の設備投資と性質が違います。分子(効果)は毎年発生し続けるのに、分母(費用)は一度きりで、しかも小さいからです。

費用の内訳は、おおまかに4つです。現況調査と動線測定の工数、レイアウト案の作成工数、移設の物理的な費用(工事、運搬、据付、電気・エア配管)、そして生産停止による機会損失。このうち最初の2つは工数だけで、外部に頼まなければ現金支出はありません。

そして、床のテープを引き直し、仮置き場を移し、台車の置き場所を変えるだけの改善は、設備投資がゼロです。 それでも「長さ」と「回数」は動きます。この範囲でどこまで効果が出るかを先に確かめてから、工事を伴う本移設の判断をするのが順序として合理的です。

SLPの適用事例としては、航空機整備を手掛けるPT GMF AeroAsiaのバッテリー工房を対象とした研究があります。SLPで再設計した結果、当該工房の所要面積は123.97平方メートルから98.6平方メートルへ、20.46%の面積最適化が報告されています。これは1つの工房の面積についての報告であって、生産性の一般的な改善率でも、他の工場に当てはまる相場でもありません。 自社の効果は、自社の動線を測って自社の単価を掛けて出すしかありません。

社内説明の順序としては、次のように組み立てると通りやすくなります。まず上位5本の動線の年間金額を出す。次に、テープの引き直しだけでどこまで減らせるかを試験導入で実測する。最後に、残った分を工事で取りに行くための費用と回収期間を示す。最初から工事費の稟議を出さないことが要点です。

よくある失敗5つ

1つ目は、Phase IIを飛ばして設備単位で動かすこと。 「あの機械をこちらへ」から始めると、部門の流れは変わりません。ブロックレベルの配置を先に決めてください。

2つ目は、平常日のデータで決めること。 レイアウトはピークで評価します。閑散日の動線で組むと、繁忙期に通路が仕掛品で埋まります。

3つ目は、支援サービスを後回しにすること。 工具室、材料置き場、検査、更衣室、手洗いへの動線は、工程間の動線より本数が多いことがあります。P-Q-R-S-TのSは飾りではありません。

4つ目は、案を1つしか作らないこと。 比較していない案は、まだ決めていないのと同じです。SLPが代替案を2つ以上求めているのは、比較したときに初めて「何を捨てたか」がはっきりするからです。

5つ目は、移設後に作業標準を直さないこと。 配置が変われば、歩く順序も置く場所も変わります。標準が古いままだと、現場は元の順序で歩き続け、短くしたはずの動線が使われません。レイアウト改善の効果が消える最大の原因はこれです。

よくある質問

動線改善 工場では、まず何から手を付ければよいですか

繁忙日を1日選び、対象工程で人と物がどこからどこへ動いたかを数えることから始めてください。必要なのは現状のレイアウト図の写しと、ペンと、巻尺だけです。上位5本の動線が分かれば、次に何をすべきかは自然に決まります。図面が無ければ、方眼紙に手描きで構いません。

工場の搬送 効率化への投資は、どこから回収できますか

回収の源泉は、運搬に費やしていた時間の削減です。したがって回収の速さは、削減できる時間に時間あたり単価を掛けた金額で決まります。単価は年間実負担額を年間稼働時間で割って出します。基本給だけで計算すると回収期間を長く見誤ります。

運搬 ムダ削減の効果は、どうやって社内で説明すればよいですか

長さ、回数、単価の3列の表を作り、上位5本の動線について年間金額を出してください。そこにスパゲッティ図を1枚添えます。数字だけでは伝わりにくく、絵だけでは判断できません。両方あって初めて、工場長と経理の両方が同じ議題として扱えるようになります。

レイアウト変更は生産を止めずにできますか

範囲によります。仮置き場の移動、通路の引き直し、台車と棚の再配置は、シフトの合間だけで進められることが多いです。設備の基礎工事や電気容量の変更を伴う場合は停止が必要になりますが、段階移設で「空き地を1つ作って玉突きで動かす」方法を取れば、停止を短い単位に分割できます。

賃借工場でもレイアウト改善はできますか

できます。ただし床への固定、天井への吊り下げ、壁の開口、電気容量の増設、消火設備の移設には賃貸人の承認が要ります。承認が要る項目と要らない項目を先に線引きしてから案を描いてください。 承認が不要な範囲だけでも、動線の上位数本は動かせることがほとんどです。

効果はどのくらいの期間で出ますか

試験導入の範囲であれば、翌日から測れます。床のテープと仮置き場だけの変更なら、1週間分のデータで効果の有無が判断できます。工事を伴う本移設の効果は、移設完了後に作業標準を改訂し、現場が新しい順序に慣れるまでの期間を見込んでください。慣れる前の数字で判断すると、効果を過小に見積もります。

まとめ

工場のレイアウトは、見た目ではなく金額の問題です。動線の長さ、1日の移動回数、移動1時間あたりの単価。この3つを掛け合わせれば、どの勘定科目にも載っていない隠れコストが金額として出てきます。

進め方は決まっています。繁忙日にスパゲッティ図とfrom-to表で現状を測り、上位5本を金額に直す。P-Q-R-S-Tを集め、A・E・I・O・U・Xの関係表から代替案を2つ以上描く。移動量だけでなく停止時間も含めて比較し、テープの引き直しで試験導入し、効果を確認してから本移設する。

タイの工場では、賃借建屋の承認範囲、工事と許認可、生産を止めない段階移設という3つの制約が加わります。そして人件費は上がり続けており、同じレイアウトの悪さに対して払う金額は年々増えています。

搬送設備は最後です。レイアウトで距離を短くし、ロットで回数を減らし、それでも残る運搬に対して初めて、人が運ぶかAGVが運ぶかを決めてください。設備投資ゼロで動かせる部分が、思っているより多く残っています。

動線を1本測ってみて、金額に直したところで手が止まったら、その段階でご相談いただいて構いません。図面が現物と合っていなくても、そもそも図面が無くても始められます。現況の確認から段階移設の計画まで、タイ国内の工場を対象に日本語で対応しています。ご相談はお問い合わせページからどうぞ。

参考情報