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2026.08.06

エネルギー監視システムの費用と導入手順|タイ工場の電力見える化

エネルギー監視システムの費用と導入手順|タイ工場の電力見える化

タイの電気料金は2026年に入って上昇基調にあり、9〜12月期については燃料調整費(Ft)を0.1623バーツ/kWhから最大0.9482バーツ/kWhへ引き上げる案が公聴会にかけられました(本記事執筆時点では未確定)。最大案が通れば、月25万kWhを使う工場で年間200万バーツを超える負担増になります。単価は自社では決められませんが、いつ・どこで・どれだけ使うかは変えられます。その土台になるのがエネルギー監視システムです。本記事では、タイの産業用電気料金の構造、モデル工場の請求内訳、削減額の試算、費用の内訳、そして90日で立ち上げる導入手順までを通しで解説します。

タイ工場の電気代に2026年何が起きているのか

直近の電気料金推移とFt値上げ案(未確定)

まず事実関係を押さえます。タイのエネルギー規制委員会(ERC)が公表した平均電気料金は、2026年1〜4月期が3.88バーツ/kWh、5〜8月期が3.95バーツ/kWh(前期比 +1.8%)でした。5〜8月期の内訳は、ベース料金が3.78バーツ/kWh、Ft(燃料調整費)が0.1623バーツ/kWh(16.23サタン)です。

問題は次の期です。2026年7月13〜20日に実施された公聴会では、9〜12月期のFtとして4案が提示され、その幅は0.1623〜0.9482バーツ/kWhでした。総額の選択肢は3.95 / 4.20 / 4.25 / 4.73バーツ/kWhの4通りです。本記事執筆時点では、どの案が採用されるかは未確定です。

数字の関係を確認しておきます(以下は本記事による計算)。

  • 据え置き案: 3.78 + 0.1623 = 3.9423 バーツ/kWh → 公表値の3.95バーツ/kWhに対応
  • 最大案: 3.78 + 0.9482 = 4.7282 バーツ/kWh → 公表値の4.73バーツ/kWhに対応
  • Ftの倍率: 0.9482 ÷ 0.1623 = 約5.8倍

なお、ベース料金とFtの単純加算は3.9423バーツ/kWhとなり、ERCが公表する平均単価3.95バーツ/kWhとは小数第2位で一致しません。この差はサービス料等の配分や端数処理によるものとされます。記事内の試算では、内訳が追える形にするため、ベース料金・TOU電力量料金・デマンド料金・Ftを積み上げる方式を採ります。

「単価が上がる」だけでは打ち手にならない

値上げの報道を見て工場側で起きがちなのは、「電気代が上がったので節電してください」という全社アナウンスと、照明やエアコンの間引きです。しかし工場の電気代の大半は生産設備が使っており、事務所の照明を消しても請求書はほとんど動きません。

打ち手を決めるには、請求書の金額がどの要素の掛け算で決まっているかを分解する必要があります。タイの産業用電気料金は、大きく次の4つに分かれます。

  1. ベース料金(Base tariff)
  2. Ft(燃料調整費)
  3. TOU電力量料金(オンピーク/オフピーク別のkWh単価)
  4. デマンド料金(kWあたりの基本料金)

このうち、ベース料金とFtは自社で1バーツも動かせません。工場側で動かせるのは次の3点です。すなわち「どの時間帯に使うか」「ピークを何kWに抑えるか」「そもそも何kWh使うか」。エネルギー監視システム、いわゆる電力監視システムやEMS(エネルギーマネジメントシステム)が価値を出すのは、まさにこの3点に対してです。

産業用電気料金の構造を4つに分解する

①ベース料金 — 発電・送電・配電の原価部分

ベース料金は3.78バーツ/kWh(5〜8月期)で、発電・送配電設備の原価をカバーする部分です。政策的に見直されるもので、工場の運用では変えられません。

②Ft(燃料調整費) — 燃料価格と為替の変動分

Ftは、燃料価格・為替・燃料構成の変動を電気料金に反映させるための調整項です。4ヶ月ごとに見直され、5〜8月期は0.1623バーツ/kWhでした。使用したkWhにそのまま掛かるため、消費電力量が多い工場ほど直撃を受けます。9〜12月期の案が最大値で決まった場合の影響は後段の試算で示します。

③TOU電力量料金 — 何時に使うかで単価が1.6倍違う

TOU(Time of Use)は時間帯別料金です。タイでは次のように区分されます。

区分時間帯
オンピーク月〜金 09:00〜22:00
オフピーク22:00〜09:00 + 土日祝

産業用タイプ3・受電電圧12〜24kVの電力量料金(Ft別)は次の通りです。

区分電力量料金
オンピーク4.1839 バーツ/kWh
オフピーク2.6037 バーツ/kWh

差は 4.1839 − 2.6037 = 1.5802 バーツ/kWh、倍率にすると 4.1839 ÷ 2.6037 = 約1.61倍です(本記事による計算)。同じ1kWhでも、月曜の10時に使うか土曜の10時に使うかで単価が1.6倍違うということです。ここに、後述する「負荷シフト」という打ち手の根拠があります。

④デマンド料金 — kWhではなくkWに掛かる料金

デマンド料金は使用量(kWh)ではなく、瞬間的な使い方の最大値(kW)に対して掛かる料金です。受電電圧によって単価が変わります。

受電電圧デマンド料金
12kV未満210.00 バーツ/kW・月
12〜24kV / 22〜33kV132.93 バーツ/kW・月
69kV以上74.14 バーツ/kW・月

同じ最大需要800kWの工場でも、12kV未満なら 800 × 210.00 = 168,000バーツ/月、22〜33kVなら 800 × 132.93 = 106,344バーツ/月、69kV以上なら 800 × 74.14 = 59,312バーツ/月です(本記事による計算)。12kV未満と12〜24kVの単価差は 210.00 ÷ 132.93 = 約1.58倍あります。増設を重ねてきた古い工場では、受電電圧と契約種別が現在の負荷実態に合っていないケースもあり、契約の見直しだけで効く場合があります。

なお産業用の契約タイプは、契約電力30〜999kWがタイプ3、1,000kW以上がタイプ4(TOU必須)です。

エネルギー監視システムの費用と導入手順|タイ工場の電力見える化 - figure 1

デマンド料金の15分ルールと70%ラチェット

ここが、本記事で最も伝えたい部分です。デマンド監視・デマンドコントロールの実務は、次の2つのルールを理解しているかどうかで結果が変わります。

15分平均の最大値、たった1点で1ヶ月が決まる

タイのデマンド料金は、15分平均電力の月内最大値1点で決まります。瞬間的なピーク値ではなく15分間の平均値ですが、逆に言えば15分間だけ大きな負荷が重なれば、その1点が月の請求デマンドとして確定します。

1ヶ月にいくつの15分区間があるかを数えてみます(本記事による計算)。

  • 1日あたり: 24時間 × 60分 ÷ 15分 = 96区間
  • 30日あたり: 96 × 30 = 2,880区間

つまり月2,880区間のうち、たった1区間の値で、後述のモデル工場では106,344バーツ/月が決まります。残りの2,879区間でどれだけ上手に運転していても、1回の重なりで帳消しになるということです。

この「1点」が発生する典型パターンは決まっています。

  • 月曜朝の立ち上げ: 週末に止めていたチラー・空調・コンプレッサー・加熱炉が一斉に起動する
  • 昼休み明け: 停止していた設備が同時に復帰する
  • 加熱炉・乾燥炉の昇温と、成形機の起動が重なる
  • 猛暑日の午後: 空調とチラーが同時にフル稼働する
  • 試運転・立ち上げ・臨時の追加生産

いずれも「悪いこと」をしているわけではなく、単にタイミングが重なっただけです。だからこそ、リアルタイムのデマンド監視と、警報が出たときに何を止めるかを決めた手順があれば、設備投資をせずに減らせる余地が残っています。

70%ラチェット — 過去12ヶ月が今月に効いてくる

もう一つがラチェット(Ratchet)です。請求デマンドの決まり方は次の通りです。

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請求デマンド = MAX(当月の実績デマンド, 直近12ヶ月の最大デマンド × 70%)

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読者が最も見落とすのがここです。一度大きなピークを作ってしまうと、その後12ヶ月間、実績がどれだけ低くても最低ラインが70%に固定されます。

後述のモデル工場(直近12ヶ月の最大デマンド800kW)で見てみます(本記事による計算)。

  • ラチェット下限: 800 × 70% = 560 kW
  • 当月実績を700kWまで下げた場合: MAX(700, 560) = 700 kW → 削減分がそのまま効く
  • 当月実績を500kWまで下げた場合: MAX(500, 560) = 560 kW → 実績は300kW下げたのに、請求上は 800 − 560 = 240 kW分しか下がらない

金額にすると次のようになります。

ケース実績デマンド請求デマンド削減される請求kW月額削減
ケースA700 kW700 kW100 kW100 × 132.93 = 13,293 バーツ
ケースB500 kW560 kW240 kW240 × 132.93 = 31,903 バーツ

ケースBでは実績を300kW下げているのに、請求に反映されるのは240kW分です。差の60kW分、金額にして 300 × 132.93 − 31,903 = 7,976 バーツ/月(本記事による計算)は、その期間は回収できません。もちろん12ヶ月が経過して直近12ヶ月の最大値が更新されれば下限も下がるため、削減努力が無駄になるわけではありません。「効果が出るまでに時間差がある」という性質を、投資判断の前に知っておく必要があるということです。

エネルギー監視システムの費用と導入手順|タイ工場の電力見える化 - figure 2

ラチェットが投資判断に与える3つの示唆

  1. 大きなピークを作らないことが最優先。 一度作った800kWは、その後12ヶ月にわたり560kWの下限として効き続けます。設備の試運転や臨時稼働の前にデマンドを意識するだけで、12ヶ月分の固定費が変わります。
  2. 効果測定は「実績kW」ではなく「請求kW」で行う。 監視画面上のピークが下がっても、請求書が下がっていない期間が発生し得ます。ダッシュボードのKPIに「請求デマンド(ラチェット適用後)」を必ず入れてください。
  3. 投資回収計算は、ラチェット下限を織り込む。 削減見込みkWを実績ベースで積み上げると、初年度の効果を過大評価します。過去12ヶ月の最大デマンドを先に確認してから試算するのが順序です。

エネルギー監視システムを入れる前でも、この確認は今日からできます。過去12ヶ月分の請求書を並べ、最大デマンドを拾って0.7を掛ける。それが、いまの工場の「下がらない床」です。

モデル工場で見る月額請求の内訳

抽象論では判断できないので、具体的なモデル工場を置いて分解します。

モデル工場の条件

項目条件
業種・立地タイ・アマタ工業団地の日系部品工場(想定)
受電22〜33 kV、産業用タイプ3、TOU契約
月間15分デマンド最大800 kW
月間電力量250,000 kWh(オンピーク60% = 150,000 kWh / オフピーク40% = 100,000 kWh)
負荷率250,000 ÷ (800 × 24 × 30) = 43.4%

負荷率43.4%は、「最大デマンド800kWで24時間30日フルに使い続けた場合の電力量」に対して、実際は43.4%しか使っていないという意味です。日勤に加えて一部の設備が夜間・週末も動いている工場で見られる水準で、極端に低いわけでも高いわけでもありません。この負荷率が、後で出てくる「デマンド料金の構成比」に効いてきます。

月額電気料金の内訳(Ft = 0.1623 バーツ/kWh、サービス料・VAT 除く)

項目計算式金額(バーツ/月)
オンピーク電力量料金150,000 × 4.1839627,585
オフピーク電力量料金100,000 × 2.6037260,370
電力量料金 小計627,585 + 260,370887,955
デマンド料金800 × 132.93106,344
Ft250,000 × 0.162340,575
合計887,955 + 106,344 + 40,5751,034,874
実効単価1,034,874 ÷ 250,0004.14 バーツ/kWh
デマンド料金の構成比106,344 ÷ 1,034,874約10.3%

実効単価4.14バーツ/kWhは、タイの工場の実効単価レンジとされる4.10〜5.50バーツ/kWh(5〜8月期、TOU・デマンド込み)の下限付近です。負荷率が43.4%あり、デマンド料金を分散できるだけのkWhを使っているためです。負荷率が低い工場(=短時間だけ大きな負荷を使う工場)ほど、同じデマンド料金をより少ないkWhで割ることになり、この数字は上に振れます。

構成比を出しておきます(本記事による計算)。

項目計算式構成比
電力量料金887,955 ÷ 1,034,874約85.8%
デマンド料金106,344 ÷ 1,034,874約10.3%
Ft40,575 ÷ 1,034,874約3.9%

「デマンド料金は請求の20〜30%」という一般論との差

一般論として、工場の請求書に占める割合はデマンド料金が20〜30%、電力量料金が50〜60%と言われます。しかし本記事のモデル工場では、デマンド料金は約10.3%にしかなりません。

矛盾ではなく、負荷率の違いです。デマンド料金は「最大kW × 単価」で決まり、電力量に関係なく発生します。したがって、

  • 負荷率が高い工場(設備を長時間まんべんなく使う): 分母のkWhが大きく、デマンド料金の比率は下がる
  • 負荷率が低い工場(短時間だけ大きな負荷を使う): 分母のkWhが小さく、デマンド料金の比率が上がる

同じ理由で、電力量料金の比率は一般論の50〜60%より高く出ます(モデル工場では85.8%)。分母が大きい分、kW課金の存在感が薄まるためです。一般論の20〜30%は負荷率が低い工場の数字です。自社がどちらなのかは、請求書のkWhとkWを取って負荷率を計算すれば数分で分かります。負荷率が低いと分かった工場ほど、デマンドピークカットの優先度が上がります。この一次判定を誤ったまま「まず太陽光」「まずインバータ」と進めると、投資対効果が読めなくなります。

Ftが上振れした場合の影響試算(未確定シナリオ)

9〜12月期のFtが最大案の0.9482バーツ/kWhになった場合、このモデル工場に何が起きるかを試算します。繰り返しますが、この案が採用されるかは本記事執筆時点で未確定です。

項目計算式
Ft増分0.9482 − 0.16230.7859 バーツ/kWh
月額増加250,000 × 0.7859196,475 バーツ/月
年間増加196,475 × 122,357,700 バーツ/年
実効単価4.14 + 0.7859約4.93 バーツ/kWh
増加率196,475 ÷ 1,034,874約19.0%

月額約19.6万バーツ、年間約236万バーツの増加です。設備投資も人員増もないのに、この額が固定費として乗ってきます。

なお、公表単価ベースの上昇率は (4.73 − 3.95) ÷ 3.95 = 約19.7%(本記事による計算)ですが、モデル工場の増加率は約19.0%と、わずかに小さく出ます。理由は、モデル工場の実効単価が4.14バーツ/kWhと公表平均より高く(TOUのオンピーク比率が高く、さらにデマンド料金が乗っているため)、割り算の分母が大きいからです。Ftが掛かるのはkWhに対してだけで、デマンド料金部分(約10.3%)にはFtは掛かりません。つまり、負荷率が低くデマンド料金の比率が高い工場ほど、Ft上昇の影響率は相対的に小さくなります。ただし金額の増加額は同じ250,000kWhなら196,475バーツ/月で変わりません。率ではなく額で判断してください。

エネルギー監視システムで打てる3つの施策と削減額

エネルギー監視システムを入れると電気代が下がるのではありません。下げるための3つの施策を、事実に基づいて実行できるようになるというのが正確な理解です。順に見ます。

施策① デマンドピークカット(800 kW → 700 kW)

15分デマンドの最大値を800kWから700kWへ、12.5%(100 ÷ 800)下げるケースです。

項目計算式
削減 kW800 − 700100 kW
ラチェット判定800 × 70% = 560 kW。700 > 560 なので満額適用適用可
月額削減100 × 132.9313,293 バーツ/月
年間削減13,293 × 12159,516 バーツ/年

100kWの削減は、設備を止めるという意味ではありません。重ならないようにずらすだけです。具体的には次のような手を打ちます。

  • 起動シーケンスの分散: 月曜朝、コンプレッサー・チラー・空調・加熱炉を同時ではなく10〜15分ずつずらして起動する
  • 加熱炉・乾燥炉の昇温タイミングをオンピーク開始前に前倒しする
  • 予測警報の設定: 15分区間の途中で「このペースだと目標kWを超える」段階でアラートを出す(区間が終わってから鳴っても手遅れです)
  • 抑制優先順位の事前決定: 警報が出たら止める設備の順番(品質・安全に影響しない順)を紙に落としておく

前述の通り、500kWまで下げてもラチェット下限560kWに阻まれ、月額削減は31,903バーツ(年間では 31,903 × 12 = 約382,836バーツ)に留まります。本試算では、無理のない700kW目標を採ります。

施策② オンピーク→オフピークへの負荷シフト(月20,000 kWh)

オンピークの電力量150,000kWhのうち20,000kWh、割合にして 20,000 ÷ 150,000 = 約13.3%(本記事による計算)をオフピークに移すケースです。

項目計算式
単価差4.1839 − 2.60371.5802 バーツ/kWh
月額削減20,000 × 1.580231,604 バーツ/月
年間削減31,604 × 12379,248 バーツ/年

同じ仕事を、同じ量だけやって、時間帯を移すだけで年間約38万バーツです。現実的にシフトしやすいのは次のような負荷です。

  • チラー・冷凍機による蓄熱運転(夜間に冷やして昼に使う)
  • コンプレッサーによるエア充填、受水槽・高架水槽への揚水
  • 熱処理・焼鈍・乾燥のようなバッチ処理
  • 洗浄・表面処理のバッチ、金型のプレヒート
  • 一部工程の夜勤シフト化(人件費・残業規制との比較検討が前提)

ここで重要なのは、「どの設備が、オンピーク帯に、何kWh使っているか」が分からなければシフト対象を選べないという点です。工場全体の1点計測しかない状態では、この検討自体が始まりません。設備単位の消費電力計測が必要になる理由がここにあります。

施策③ 継続的な省エネ運用(ISO 50001相当・年4%)

EnMS(エネルギーマネジメントシステム)を回している工場では、年約4%のエネルギー削減を10年以上継続した例があるとされます(米国DOE Better Plantsの報告による)。この水準をモデル工場に当てはめます。

項目計算式
年間電力量250,000 × 123,000,000 kWh/年
4%削減量3,000,000 × 0.04120,000 kWh/年
年間削減額120,000 × 4.14496,800 バーツ/年

内容は地味な積み重ねです。エア漏れの発見と補修、待機電力の削減、コンプレッサーの吐出圧の適正化、チラーの設定温度と冷却水温度の見直し、生産していない時間帯の設備停止ルール、インバータ化やLED化のような小規模投資の優先順位付け。いずれも「どこで無駄が出ているか」が数字で見えて初めて、対象と優先順位を決められます。

エア漏れや設備の劣化は、電力波形の変化として先に現れることがあります。消費電力のトレンドを設備単位で持っておくと、省エネだけでなく設備の異常兆候の把握にも使えます。この観点は予知保全システムの導入とセットで検討すると投資効率が上がります。

3施策の合計と投資回収期間

項目計算式
施策① デマンドピークカット159,516 バーツ/年
施策② 負荷シフト379,248 バーツ/年
施策③ 継続省エネ(年4%)496,800 バーツ/年
年間削減額 合計159,516 + 379,248 + 496,8001,035,564 バーツ/年(約104万バーツ)
初年度総額(下限)費用5層の章を参照620,000 バーツ
初年度総額(上限)費用5層の章を参照1,860,000 バーツ
投資回収期間620,000 ÷ 1,035,564 = 0.60年 / 1,860,000 ÷ 1,035,564 = 1.80年約0.6〜1.8年

年間電気代に対する削減率も見ておきます(本記事による計算)。

  • 年間電気代: 1,034,874 × 12 = 12,418,488 バーツ/年
  • 削減率: 1,035,564 ÷ 12,418,488 = 約8.3%

そして、冒頭のFt上振れシナリオとの関係です。

  • 1,035,564 ÷ 2,357,700 = 約43.9%

つまり、Ftが最大案(未確定)で決まった場合の年間負担増2,357,700バーツのうち、約4割強はこの3施策で相殺できる計算になります。全額は吸収できません。だからこそ、Ftが確定してから動くのではなく、確定前に計測基盤を作っておく意味があります。

試算の前提について補足します。3施策の削減額は、いずれも同じベースケース(Ft = 0.1623バーツ/kWh、800kW、250,000kWh/月)から独立に計算し、単純合計しています。実務では施策間に相互作用があります。たとえば負荷シフトを進めればオンピーク時の同時使用が減ってピークカットが進みやすくなる一方、省エネで総電力量が減れば施策③の基準となるkWhも変わります。試算はあくまで規模感の把握として扱い、導入判断の際は自社の実請求データで再計算してください。また施策③の年4%は「EnMSを回し続けた場合の実績例」であり、システムを入れれば自動的に達成される数字ではありません。なお施策③は実効単価4.14バーツ/kWhで概算しています。この単価にはデマンド料金の按分が含まれるため、kWhだけを減らした場合の効果としてはやや大きめに出ます。厳密にオンピーク・オフピーク単価とFtだけで積み上げると年間445,694バーツとなり、本文の496,800バーツより約5万バーツ小さくなります。保守的に見たい場合はこちらを使ってください。

エネルギー監視システムの費用と導入手順|タイ工場の電力見える化 - figure 3

エネルギー監視システムの費用を5層に分解する

「エネルギー監視システムはいくらか」という質問には、計測点数を決めないと答えられません。ここでは30計測点のモデルで、費用を5つの層に分けて示します。すべて目安であり、現場条件・電圧・配線距離・停電段取りの難易度で上下します。

内容費用目安(バーツ)
①計測器層CT付き電力マルチメーター、パルス出力計器、既設スマートメーター読み取り8,000〜20,000/点 × 30点 = 240,000〜600,000
②収集層IoTゲートウェイ/データロガー、Modbus・LoRa・有線LAN配線30,000〜80,000/台 × 2〜3台 = 60,000〜240,000
③基盤層可視化ソフト/クラウド利用料 5,000〜20,000/月初年度 60,000〜240,000
④構築層電気工事(CT取付は停電段取り必須)、設定、ダッシュボード開発200,000〜600,000
⑤運用層保守、通信回線、改善運用の工数(年額)60,000〜180,000

集計すると次のようになります。

集計計算式
初期費用(①+②+④)240,000+60,000+200,000 〜 600,000+240,000+600,000500,000〜1,440,000 バーツ
初年度総額(①〜⑤)500,000+60,000+60,000 〜 1,440,000+240,000+180,000620,000〜1,860,000 バーツ

モデル工場の年間電気代12,418,488バーツと比べると、初年度総額は 620,000 ÷ 12,418,488 = 約5.0% 〜 1,860,000 ÷ 12,418,488 = 約15.0%(本記事による計算)に相当します。2年目以降は⑤運用層の60,000〜180,000バーツ/年が中心になるため、年間削減額1,035,564バーツに対して 1,035,564 − 180,000 = 855,564 バーツ 〜 1,035,564 − 60,000 = 975,564 バーツ の純効果が残る計算です(③基盤層のクラウド利用料が継続する契約形態では、その分を別途差し引いてください)。

「安く見えて後で効く」5つの落とし穴

見積比較で失敗しやすいのは、①計測器層の単価だけを比べてしまうことです。実際に総額を押し上げるのは、多くの場合④構築層と⑤運用層です。

  1. 停電段取りのコストが見積に入っていない。 CTを主幹や動力盤に後付けするには停電が要ります。生産を止められないなら、年次点検や連休に合わせるしかなく、工事日程が数ヶ月先に飛びます。工事費だけでなく、待ち時間という見えないコストが乗ります。
  2. クラウド利用料が計測点数に比例する契約。 初年度は30点で収まっても、翌年に50点、80点と増やす前提なら、③基盤層は初年度の見積の倍以上になり得ます。点数課金かサイト課金かは契約前に必ず確認してください。
  3. ダッシュボード開発が「追加見積」扱い。 標準画面には工場全体の推移しか出ず、「設備別の原単位」「シフト別比較」「請求デマンド(ラチェット適用後)」といった実務で使う画面は個別開発になることがあります。要件は事前に文書化しておくのが安全です。
  4. 通信回線とネットワーク工事の見落とし。 工場棟が離れていれば、有線LANの敷設か無線の中継が必要です。LoRaのような長距離無線は配線が減る一方、金属構造物が多い環境では現地試験なしに成立可否を判断できません。
  5. 運用工数がゼロで計算されている。 データを見て、原因を追い、対策を打ち、効果を検証する人の時間が最大のコストです。⑤運用層に工数が計上されていない見積は、実質的に「運用しない前提」の見積です。

投資判断そのものについては、BOI恩典やタイの投資環境を含めた検討が必要になる場合もあります。タイの工場自動化とBOIの整理もあわせて確認してください。

既設設備・古い工場でどう計測点を取るか

「うちの設備は古いから無理では」という相談が最も多い論点です。結論から言えば、設備が古くても計測はできます。設備側を改造するのではなく、電気の入口側で測るためです。

方式1: CT後付け(最も汎用的)

分電盤・動力盤の中で、対象回路にCT(変流器)を後付けし、電力マルチメーターに接続します。設備の年式・メーカー・制御方式に依存しないため、1980年代の設備でも測れます。

  • 長所: 対象を選ばない。設備側の改造が不要。有効電力・力率・電流アンバランスまで取れる
  • 短所: 盤内作業のため停電が必要。分割型CTでも、活線作業は原則行いません
  • 実務上の要点: 主幹の停電が必要な工事は年次点検に合わせるのが定石です。盤のスペース(DINレール、メーターの取付穴)とCTの内径が入るかは、事前に現地確認が必要です

方式2: パルス出力・アナログ出力の取り込み

既設の電力量計・流量計・ガスメーターがパルス出力やアナログ出力を持っている場合、その信号をデータロガーやIoTゲートウェイで拾います。

  • 長所: 停電を伴わないケースが多い。ユーティリティ監視(圧縮空気、冷却水、蒸気、上水、ガス)に広げやすい
  • 短所: 出力が付いていない計器は対象外。パルス1個あたりの単位(重み)を取扱説明書で確認しないと積算値がずれる
  • 実務上の要点: 電力だけを見ていると、コンプレッサーの効率悪化やエア漏れを見逃します。エアの流量と電力をセットで見ると原因が特定しやすくなります

方式3: 既設スマートメーター・受電盤メーターの読み取り

受電点に設置されている電力量計や、既設のデジタル電力計がModbus等の通信を持っていれば、そこから読み取ります。

  • 長所: 追加の計測器が不要で最も安い。工場全体のデマンドを最短で可視化できる
  • 短所: 全体1点しか見えないため、原因の切り分けができない。「今日は高い」までは分かっても「なぜ」に届かない
  • 実務上の要点: 第一歩としては有効です。工場全体のデマンド監視を先に立ち上げ、警報運用を回しながら、設備別の計測を順次足していく進め方が現実的です

停電段取りは「工程」として計画する

タイの工場でエネルギー監視システムの導入が遅れる最大の要因は、技術ではなく停電の段取りです。以下は工程表に最初から入れておくべき項目です。

  • 停電が必要な盤と不要な盤を、計測点リストの段階で分けておく
  • 停電が必要な工事は年次点検・長期連休(ソンクラーン、年末年始)に集約する
  • 工業団地の管理会社・PEA/MEAへの申請が要る場合のリードタイムを確認する
  • 生産計画部門と、停電時間帯の生産影響を事前合意する
  • 停電当日にやることを一括化する(CT取付、盤内配線、通信配線を同日に)

なお、電力データを取り込む先の仕組みは、設備の稼働監視と共通の基盤にできる場合があります。すでに稼働監視を進めている工場であれば、工場IoTによる稼働監視の導入手順と同じゲートウェイ・同じネットワークに相乗りさせることで、②収集層と④構築層のコストを圧縮できます。

計測点の決め方 — いきなり全数はやらない

大電力設備から始める

失敗する導入の典型は、「せっかく入れるのだから全設備を測ろう」として計測点が100点、200点に膨らみ、見積が跳ね上がって稟議が止まるパターンです。

最初に測るべきは、電力を多く食う設備です。工場によって順序は変わりますが、一般に上位に来るのは次のような設備です。

優先度対象測る狙い
受電点(工場全体)デマンド監視、請求書との突合、ベースライン
コンプレッサー常時稼働・エア漏れの影響が大きい。オフピークシフトの候補
チラー・冷凍機蓄熱による負荷シフト候補。設定温度の適正化余地
空調(工場・クリーンルーム)外気温との相関でピークを作りやすい
加熱炉・乾燥炉・熱処理昇温時の立ち上がりがデマンドの主因になりやすい
主要生産設備(成形機・プレス等)のライン単位生産量あたり原単位の算出
ポンプ・ファン・排気設備インバータ化の効果検証
照明・事務所・付帯設備総量は小さい。後回しでよい

パレートの考え方で範囲を切る

一般的な経験則として、上位2割の要因が全体の8割を占めるというパレートの考え方があります。実際の比率は工場ごとに異なりますが、電力についても少数の大型設備が工場全体の消費の大半を占めることが多く、まずその上位群を押さえるのが合理的です。

具体的な進め方は次の通りです。

  1. 変圧器容量リストと単線結線図(SLD)から、盤ごとの容量を書き出す
  2. 主要設備の定格容量と稼働時間から、概算の年間kWhを推定して降順に並べる
  3. 上位から積み上げて、全体の大半をカバーする点までを第1フェーズの計測対象とする
  4. 残りは「盤単位のまとめ計測」で押さえ、必要になった時点で設備単位に分解する

本記事の費用試算で使った30計測点は、この考え方で第1フェーズを組んだ場合の規模感です。まず30点で立ち上げ、運用が回ってから増設するほうが、最初から100点を狙うより早く効果が出ます。

CO2排出量の見える化につなげる

計測点が設備単位で取れていれば、消費電力量に排出係数を掛けることでCO2排出量の見える化にも展開できます。取引先や本社からのサプライチェーン排出量の照会に、設備別・製品別で答えられる状態になります。ただし排出係数はタイの公表値を用いる必要があり、本記事では具体的な係数は扱いません。係数の選定と算定範囲(Scope 1/2/3の切り分け)は、報告先の要求仕様に合わせて確定させてください。計測基盤としては、電力量を設備別・時間帯別に持っておけば、後から係数を掛けるだけで対応できます。

タイのエネルギー保存推進法・指定工場・PREとの関係

タイでは、一定規模以上の工場に法令上のエネルギー管理義務があります。エネルギー監視システムは、この義務対応の実務負担を下げる役割も持ちます。

根拠法と指定工場の基準

根拠となるのはエネルギー保存推進法(Energy Conservation Promotion Act B.E. 2535 / 1992年)で、主管官庁はDEDE(代替エネルギー開発効率化局)です。

指定工場(Designated Factory)に該当する基準は次の通りです。

基準内容
電力計または変圧器の合計1,000 kW 以上 もしくは 1,175 kVA 以上
年間エネルギー消費20百万MJ 以上

いずれかに該当すれば指定工場となります。区分は 1,175〜3,530 kVA と 3,530 kVA 以上 に分かれます。

ここで注意が必要なのは、判定に使われるのが契約デマンドの実績値ではなく、電力計(kW)または変圧器の合計容量である点です。本記事のモデル工場は月間15分デマンド最大が800kWですが、変圧器の合計容量が1,175 kVA以上であれば指定工場に該当し得ます。実際の判定は設備構成によるため、単線結線図と変圧器銘板で確認してください。「うちは800kWだから対象外」という思い込みが、後から指摘を受ける原因になります。

エネルギー管理者(PRE)の配置義務

指定工場にはエネルギー管理者(PRE: Person Responsible for Energy)の配置義務があります。

規模配置人数
3 MW 未満1名
3 MW 以上2名

PREは、エネルギー管理の実施、データの記録・報告、省エネ計画の立案といった実務を担います。実際には設備保全や生産技術の担当者が兼任しているケースが多く、日々のデータ収集が手作業だと、この兼任が回りません。月末に検針値を集めてExcelに転記する作業に数日かかっている工場では、報告書を作ることが目的化してしまい、改善に使う時間が残らないのが実情です。

エネルギー監視システムの導入効果として、削減額と並んで大きいのがこの報告業務の自動化です。データが自動で溜まっていれば、PREの工数は転記ではなく分析と改善に振り向けられます。工数削減額は工場ごとに大きく異なるため本記事の試算には含めていませんが、投資判断の材料としては明示的に評価する価値があります。

ISO 50001 とエネルギーマネジメントシステム

年4%を10年以上続けた事例

ISO 50001は、エネルギーマネジメントシステム(EnMS)の国際規格で、認証件数は世界で38,000件を超えています。EnMSを導入した工場では、年約4%のエネルギー削減を10年以上継続した例があるとされます(米国DOE Better Plants)。

年4%を10年続けるという数字が示しているのは、省エネが「一度の設備投資」ではなく運用のサイクルだということです。ISO 50001が求めるのは、おおむね次のサイクルです。

  1. エネルギーレビュー(どこで何をどれだけ使っているかの把握)
  2. エネルギーベースライン(EnB)の設定
  3. エネルギーパフォーマンス指標(EnPI)の設定
  4. 目標と行動計画の策定
  5. 実行、モニタリング、測定
  6. 内部監査とマネジメントレビュー、次サイクルへ

この1と5は、計測データが無ければ成立しません。逆に言えば、エネルギー監視システムを入れてデータが溜まる状態を作れば、ISO 50001の要求の大部分を占める「測って、比べて、記録する」部分は仕組みで担保できます。認証取得を目指すかどうかに関わらず、この枠組みは運用設計の型として使えます。

EnPI(原単位)をどう置くか

見落とされがちなのがEnPIの設計です。総kWhだけを見ていると、生産量が減ってkWhが減っただけなのに「省エネできた」と誤読します。少なくとも次の指標を並べてください。

  • 総エネルギー消費(kWh/月)
  • 生産量あたり原単位(kWh/生産数、kWh/トン など)
  • 稼働していない時間帯のベース電力(夜間・休日の底値)
  • 請求デマンド(ラチェット適用後のkW)
  • オンピーク比率(オンピークkWh ÷ 総kWh)

このうち「夜間・休日のベース電力」は、投資ゼロで効果が出やすい指標です。誰も生産していない時間に流れている電力は、原則すべて削減候補だからです。

導入の90日ロードマップ

エネルギー監視システムの導入は、設備工事よりも社内の合意形成に時間がかかります。ここでは90日で運用開始まで持っていくための段階と、各段階の成果物・巻き込み先を示します。

Day 1〜30: 現状把握(工事はまだしない)

この期間の作業に、追加投資はほとんど要りません。

やること

  • 直近12〜24ヶ月の電気請求書を全部集める
  • 契約種別(タイプ3/タイプ4)、受電電圧、契約デマンドを確認する
  • 月別の kWh・最大デマンド kW・オンピーク/オフピーク比率を表にする
  • 負荷率を計算する(月間kWh ÷(最大kW × 24時間 × 当月日数)。モデル工場では 250,000 ÷ (800 × 24 × 30) = 43.4%)
  • 直近12ヶ月の最大デマンド × 70% を計算する(=ラチェット下限)
  • 単線結線図(SLD)、変圧器容量リスト、主要設備の定格容量を集める

成果物: 現状エネルギー台帳(月次)、ベースライン表、ラチェット下限値、削減余地の一次仮説

巻き込み先: 経理/購買(請求書の原本)、電気主任技術者・設備保全(SLD、変圧器)、生産管理(生産量データ)

この段階で「デマンド料金が全体の何%か」「オンピーク比率は何%か」が分かります。モデル工場のようにデマンド料金が約10.3%なら電力量側の施策が主軸、20〜30%あるならピークカットが主軸、という方針の分岐がここで決まります

Day 31〜50: 計測設計と見積

やること

  • 計測点リストを作る(優先度、方式、停電要否、盤の位置を1行ずつ)
  • 方式を選定する(CT後付け/パルス出力/既設メーター読み取り)
  • 通信経路を設計する(有線LAN、Modbus、無線。棟間の距離と障害物を現地確認)
  • KPI(EnPI)を定義し、ダッシュボードの画面要件を文書化する
  • デマンド警報のしきい値案と、抑制対象設備の優先順位案を作る
  • 停電が必要な工事を洗い出し、年次点検・連休との突き合わせを行う
  • 5層それぞれを分けた見積を取得する(総額一式の見積は比較できません)

成果物: 計測点表、配線・通信設計図、画面要件書、停電計画ドラフト、層別見積

巻き込み先: 生産技術、製造ライン長(設備の停止可否)、IT(ネットワーク、セキュリティ)、電気工事業者、購買

Day 51〜75: 工事・設定・データ検証

やること

  • 停電計画に沿ってCT取付・盤内配線を実施する
  • ゲートウェイ/ロガーを設置し、通信疎通を確認する
  • 請求書との突合検証を行う(システムの積算kWh・最大デマンドが請求値と整合するか)
  • ダッシュボード初版を公開し、現場の見え方をレビューする

成果物: 計測データ検証記録(請求書との差異と原因)、ダッシュボード初版、竣工図

巻き込み先: 設備保全、EHS(停電作業の安全管理)、工事業者、IT

突合検証は省略されがちですが、必ず実施してください。CTの向きが逆、変流比の設定違い、パルス重みの設定違いは珍しくなく、最初に検証しないと、間違ったデータで半年間の意思決定をすることになります

Day 76〜90: 運用定着(ここが本番)

やること

  • デマンド警報のエスカレーションフローを決める(誰の端末に、何分以内に、誰が何を止めるか)
  • 抑制順序リストを紙に落として現場に掲示する
  • 日次の確認(前日ピークと原因)、週次の確認(傾向)、月次の確認(請求書との照合と効果検証)のリズムを作る
  • 改善テーマを登録し、担当と期限を割り当てる
  • 効果測定のルール(ベースライン比較、生産量補正の方法)を合意する

成果物: デマンド抑制手順書、警報エスカレーション表、月次レポート様式、改善テーマ一覧

巻き込み先: 工場長(判断権限)、製造課長・ライン長(実行者)、PRE(エネルギー管理者)、本社の海外事業管理部門(効果報告)

現場の記録運用まで含めて回すなら、i-Reporter(シムトップス社製)のような電子帳票ツールと組み合わせて、抑制対応の実施記録を残す方法もあります。当社が提供するPEGASUSのように、生産管理とエネルギー管理を同じ基盤で扱う仕組みを使えば、生産量あたり原単位の算出を手作業なしで回せます。いずれの構成を採るにせよ、「警報が鳴ったときに現場が何をするか」が決まっているかどうかが、成否を分ける唯一の分岐点です。

よくある失敗4つ

失敗①: ダッシュボードを作って終わる

最も多い失敗です。立派な画面ができ、大型モニタに常時表示され、見学者には評判が良い。しかし3ヶ月後、誰も見ていない。

原因は、画面が「見るもの」として設計され、「動くきっかけ」として設計されていないことです。対策は単純で、画面ごとに「これを見た人は、何を判断して、何をするのか」を1文で書けるようにすることです。書けない画面は作らないほうがいいです。あわせて、日次・週次・月次で誰が何を確認するかを業務として定義し、確認結果を記録に残す運用にします。

失敗②: 計測点が多すぎて頓挫する

「どうせやるなら全部」で200点の見積を取り、金額を見て稟議が止まる。あるいは工事量が膨らんで停電段取りが組めず、着工が1年先に飛ぶ。

対策は前述の通り、大電力設備から30点程度で第1フェーズを切ることです。早く小さく立ち上げて効果を出し、その効果を根拠に第2フェーズの予算を取るほうが、結果的に早く全体をカバーできます。増設を見越して、ゲートウェイの空きポートとクラウド契約の点数上限だけは最初に確認しておいてください。

失敗③: デマンド警報が鳴っても現場が動く手順が無い

警報は鳴っている。しかし現場は、何を止めていいのか分からない。品質に影響するかもしれない、後工程が困るかもしれない、止める権限が自分にあるのか分からない。結果、誰も動かず、ピークはそのまま記録されます。

対策は、警報が鳴る前に決めておくことです。

  • 抑制対象設備の優先順位(品質・安全・納期への影響が小さい順)
  • 各設備を何分止めてよいか、誰の判断で止められるか
  • 止めた後の復帰手順と、後工程への連絡ルート
  • 警報のタイミング(15分区間が終わってから鳴らすのでは遅い。区間途中の予測警報にする)

この手順書は1枚で十分です。むしろ1枚に収まらない手順は現場で使われません。

失敗④: ラチェットを知らずに投資判断を誤る

「デマンドを300kW下げられるから、132.93 × 300 = 39,879バーツ/月の削減」と計算して稟議を通し、実際の請求書では31,903バーツ/月しか下がらない。差の7,976バーツ/月(本記事による計算)は、ラチェット下限560kWに阻まれた分です。

金額としては小さく見えても、「見込みと実績が合わなかった」という事実は、次のIT投資の稟議に響きます。試算の段階で、過去12ヶ月の最大デマンド × 70% を必ず確認し、投資回収計算に織り込んでください。逆に、ラチェット下限が更新される12ヶ月後には効果が伸びることも、あらかじめ説明しておけば評価がぶれません。

よくある質問

エネルギー監視システムとは?

工場の電力をはじめとするエネルギーの使用状況を、計測器で自動的に取得し、設備別・時間帯別に可視化して、削減の打ち手につなげる仕組みです。電力監視システム、EMS、エネルギーマネジメントシステムとも呼ばれます。

構成は5つの層に分かれます。①計測器層(CT付き電力メーター、パルス出力計器など)、②収集層(IoTゲートウェイ、データロガー)、③基盤層(可視化ソフト、クラウド)、④構築層(電気工事、設定、画面開発)、⑤運用層(保守、改善運用)です。電力だけでなく、圧縮空気・冷却水・蒸気・ガスといったユーティリティ監視まで広げることもできます。

重要なのは、システムは「測って見せる」ところまでしか担当しないという点です。電気代を下げるのは、そのデータを使ってデマンドピークカット・負荷シフト・継続的な省エネを実行する運用のほうです。計測点を何点どこに取るか、費用がどう積み上がるかをさらに詳しく知りたい場合は、電力監視システムの計測点設計と費用内訳もあわせてご覧ください。

エネルギー監視システムの費用はどれくらい?

30計測点のモデルで、初期費用(計測器層+収集層+構築層)が500,000〜1,440,000バーツ、初年度総額(基盤層と運用層を含む①〜⑤の合計)が620,000〜1,860,000バーツが目安です。いずれも現場条件によって上下します。

内訳の目安は、計測器が8,000〜20,000バーツ/点、ゲートウェイが30,000〜80,000バーツ/台、可視化ソフト/クラウドが5,000〜20,000バーツ/月、電気工事・設定・画面開発が200,000〜600,000バーツ、年間の保守・運用が60,000〜180,000バーツです。

本記事のモデル工場(月間250,000kWh、最大デマンド800kW)では年間削減額が1,035,564バーツと試算され、投資回収期間は 620,000 ÷ 1,035,564 = 0.60年 から 1,860,000 ÷ 1,035,564 = 1.80年、すなわち約0.6〜1.8年です。見積を比較する際は、必ず5層に分けた形で出してもらってください。総額一式の見積では、どこが高いのかも、何が抜けているのかも判断できません。

電力の見える化だけで電気代は下がる?

下がりません。正確に言えば、見える化そのものには削減効果はなく、見えた結果として運用を変えたときにだけ下がります。

ただし、見える化なしでは削減の打ち手を選べないのも事実です。どの設備がオンピークにどれだけ使っているか分からなければ負荷シフトの対象を決められませんし、いつピークが立っているか分からなければピークカットのしようもありません。見える化は必要条件であって十分条件ではない、という位置づけです。

実務としては、以下の3点をセットで用意して初めて効果が出ます。

  1. 数字(設備別・時間帯別の計測データ)
  2. 判断基準(しきい値、優先順位、KPI)
  3. 行動(誰が、いつ、何をするかの手順と権限)

このうち2と3が無いまま1だけを導入するのが、前述の「ダッシュボードを作って終わる」失敗です。

デマンド監視は何を見ればいい?

次の5つを見てください。

見る項目目的
15分区間の現在値と予測値区間が終わる前に対処するため。事後表示では遅い
当月の最大デマンド(実績kW)今月の請求ベースがどこまで確定したか
直近12ヶ月の最大デマンド × 70%(ラチェット下限)下げても請求に反映されない「床」の位置
請求デマンド(=実績とラチェット下限の大きいほう)実際に請求される値。効果測定はこれで行う
ピーク発生時の設備別内訳何と何が重なったのかの特定。次の対策の根拠

特に3番目と4番目は、多くの標準ダッシュボードには搭載されていません。要件として明示的に伝えないと、実績kWしか表示されない画面が納品されます。

加えて、ピークが立った日時のログを設備別に遡れることが重要です。「先週月曜の10時台、コンプレッサーとチラーの立ち上げに加熱炉の昇温が重なった」という粒度まで特定できて初めて、起動タイミングの分散という具体的な対策に落ちます。

既存の古い設備でも計測できる?

測れます。設備そのものを改造するのではなく、設備に電気を供給している回路側で測るためです。方法は3つあります。

  1. CT後付け: 分電盤・動力盤内で対象回路にCTを取り付ける。設備の年式やメーカーを問わない最も汎用的な方法。ただし盤内作業のため停電が必要
  2. パルス出力・アナログ出力の取り込み: 既設の電力量計・流量計に出力端子があれば、そこから信号を拾う。停電を伴わない場合が多い
  3. 既設スマートメーター・デジタル電力計の読み取り: 通信機能があれば受電点の値を読み取る。最も安価だが工場全体1点しか見えない

現実的な難所は技術面ではなく、停電の段取りです。CT取付には停電が要るため、年次点検や長期連休(ソンクラーン、年末年始)に工事を集約する計画を最初に立ててください。ここを工程に入れ忘れると、機器は届いているのに着工できないという状態が数ヶ月続きます。

まとめ

本記事の要点を整理します。

  • タイの平均電気料金は2026年1〜4月期が3.88バーツ/kWh、5〜8月期が3.95バーツ/kWh。9〜12月期はFtを0.1623〜0.9482バーツ/kWhとする4案が公聴会にかけられたが、本記事執筆時点では未確定
  • 産業用電気料金は、ベース料金3.78バーツ/kWh+Ft+TOU電力量料金+デマンド料金に分解できる。ベース料金とFtは工場側では動かせず、動かせるのは「いつ使うか(TOU)」「ピークを何kWに抑えるか(デマンド)」「そもそも何kWh使うか」の3点
  • デマンド料金は15分平均の月内最大値1点で決まり、請求デマンド = MAX(当月実績, 直近12ヶ月最大 × 70%)というラチェットが効く。この2つを知らずに投資判断はできない
  • モデル工場(250,000 kWh/月、800 kW)の月額は1,034,874バーツ、実効単価4.14バーツ/kWh、デマンド料金の構成比は約10.3%(負荷率43.4%のため。一般論の20〜30%は負荷率が低い工場の値)
  • Ftが0.9482になれば月196,475バーツ、年2,357,700バーツの増(未確定シナリオ)
  • 3施策(ピークカット159,516+負荷シフト379,248+年4%省エネ496,800)で年間1,035,564バーツ、年間電気代の約8.3%の削減が見込める
  • 費用は30計測点で初年度620,000〜1,860,000バーツ、投資回収は約0.6〜1.8年
  • 古い設備でもCT後付け・パルス出力・既設メーター読み取りで計測できる。難所は停電段取り
  • 変圧器合計1,175 kVA以上等で指定工場に該当すればPRE配置義務が生じる。計測の自動化は報告業務の負担を直接下げる
  • 失敗の型は4つ(ダッシュボードで終わる/点数過多で頓挫/警報後の手順が無い/ラチェットを知らず誤判断)

いま手元でできることは1つです。過去12ヶ月の請求書を並べ、最大デマンドに0.7を掛けてください。その数字が、御社の電気代の「下がらない床」です。

まずは請求書の分解と計測点の洗い出しだけでも、外部の目を入れると論点が早く整理できます。TOMAS TECHでは、タイの工場を対象に、いまの請求書のどこに削減余地があるかの一次診断や、既設盤の状況を踏まえた計測点の洗い出しについてのご相談を承っています。導入前提のご相談である必要はありません。現状の整理段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。

参考情報