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2026.08.05

電力監視システム導入2026|測るだけで電気代が下がらない理由

電力監視システム導入2026|測るだけで電気代が下がらない理由

「電力監視システムを入れて受電点のグラフは出るようになった。それで、電気代はいくら下がったのか」——タイの日系工場でこの質問に即答できる担当者は多くありません。計器を付けてダッシュボードが動いていることと、請求書の金額が動くことのあいだには、実はかなりの距離があります。本記事は「電力監視とは何か」の解説ではなく、どこに何点の計測器を付け、その数字をどの帳票と紐付けるかという設計の話を扱います。タイの電気料金の構造、計測点の3階層設計、デマンド監視の運用、原単位管理、そして費用を動かす変数まで、実務の順番で整理します。

電力監視システムを入れても電気代が下がらないのはなぜか

「見える化」は打ち手ではなく、打ち手を選ぶための材料

省エネ提案の場でよく起きるのは、「まず見える化しましょう」で受電点に1台メーターを付け、クラウドの画面を契約して終わる、というパターンです。半年後に何が起きるかというと、月ごとの棒グラフが並んでいるだけの画面が残ります。増えた月に「なぜ増えたか」を説明できず、減った月に「何が効いたか」も分からない。結果として誰も見なくなります。

理由ははっきりしています。受電点のkWhは、工場で起きているすべての事象の合計値だからです。生産量が増えても上がるし、外気温が上がっても上がるし、コンプレッサのドレントラップが開きっぱなしでも上がります。合計値だけを見ている限り、上がった原因を切り分ける手段がありません。切り分けられなければ、対策の対象が決まりません。

電力データが金額を動かすのは、次の3つが揃ったときだけです。

  1. 請求金額のどの構成要素に効くのかが特定できている(従量なのか、デマンドなのか、力率なのか)
  2. その要素を動かしている設備・系統が計測で切り分けられている
  3. 数字が生産実績や作業手順と紐付いていて、誰が何をするかまで落ちている

このうち1つでも欠けると、システムは動いていても金額は動きません。逆に言えば、この3つを設計の入口に置けば、計測点の数も、通信方式も、画面の作り方も、おのずと決まってきます。

タイの現場で特に起きやすい認識のずれ

タイの工場では、これに現地固有の事情が重なります。まず、日本本社に提出する報告書はkWhとCO2で書かれているのに、現地の管理部門が見ているのはバーツ建ての請求書です。この2つは連動しますが同じではありません。TOU(時間帯別料金)では、同じ1kWhでもオンピークとオフピークで単価が違うため、kWhが減っても金額が減らない(あるいはその逆の)ことが普通に起こります。

次に、電気料金の請求書そのものがタイ語で、PEA(地方電力公社)とMEA(首都圏電力公社)で様式も違います。日本人駐在員が読み込む機会は少なく、経理が支払処理だけして終わっているケースが少なくありません。デマンド料金の欄も力率ペナルティの欄も、そこに書いてあるのに誰も見ていない、という状況は珍しくないのです。

そして、保全を担うのはタイ人スタッフです。日本語の画面や日本語のマニュアルで作られた仕組みは、駐在員の任期が終わった時点で止まります。この点は電力監視に限った話ではなく、工場IoT・稼働監視の導入でも同じ落とし穴が繰り返されています。

電力監視システム導入2026|測るだけで電気代が下がらない理由 - figure 1

タイの工場の電気代は3つの要素でできている

まず請求書を3つに分解する

電気代を下げると言う前に、自社の請求書がどう構成されているかを分解してください。産業用の契約では、金額はおおむね次の3つ(+固定のサービス料金)で決まります。この3つは、効く打ち手がまったく違います。

構成要素課金の考え方効く打ち手請求書で見る欄
従量料金(エネルギー料金)使ったkWhに単価を掛ける。TOU契約ならオンピーク/オフピークで単価が異なる総使用量の削減、オンピークからオフピークへの負荷移動、待機電力の停止kWh欄(TOUなら時間帯別に分かれている)
デマンド料金当月の15分平均の最大需要電力(kW)に単価を掛ける。1か月に1回、そのピークを踏んだだけで課金される(対象時間帯の定義は契約種別で異なる)ピークの平準化、起動タイミングの分散、上限に近づいたときの負荷遮断Demand / ความต้องการพลังไฟฟ้า の kW 欄
力率ペナルティ力率が基準を下回った分の無効電力(kVAR)に課金進相コンデンサの容量見直し・故障確認、力率改善装置の制御見直しPower Factor / kVAR の欄
サービス料金契約に応じた月額固定(原則として動かせない)固定額の行

分解して初めて、「うちは従量が9割でデマンドは大きくない」のか、「デマンドの比率が高いから平準化が最優先」なのか、「力率ペナルティが毎月付いている=コンデンサが死んでいる可能性」なのかが決まります。打ち手を選ぶ前にこの分解をやっていない省エネ活動は、ほぼ確実に空振りします。

電力量料金:TOUの時間帯構造を押さえる

タイの電気料金は、ERC(エネルギー規制委員会)が承認する平均料金をベースに、Ft(燃料調整費)が上乗せされる構造です。2026年5〜8月期のERC承認値は平均3.95バーツ/kWh(VAT別)で、ベース料金約3.78バーツにFt 0.1623バーツ(16.23サタン)を加えた水準です(ベース料金は丸めた値なので、単純に足しても平均値とは端数がずれます)。直前の2026年1〜4月期は3.88バーツ/kWhでしたから、この期は上がったことになります。Ftは4か月ごと、年3回の見直しです。

この「平均3.95バーツ」は全需要家の平均であって、自社の単価ではありません。産業用の実際の単価は、契約種別と受電電圧で変わります。主な区分はType 3(30〜999kW)Type 4(1,000kW以上)で、それぞれフラット料金とTOUを選べます。TOUの時間帯は次の通りです。

契約区分オンピーク(月〜金 09:00〜22:00)オフピーク(22:00〜09:00、土日・所定休日)デマンド料金
Type 3 TOU・22kV未満4.3297 バーツ/kWh2.6369 バーツ/kWh210.00 バーツ/kW・月
Type 3 TOU・22〜33kV4.1025 バーツ/kWh2.5052 バーツ/kWh132.93 バーツ/kW・月

※ベース料金(Ft・VAT別)として示されている参考値。オンピーク/オフピークの区分には所定の休日が含まれます。デマンド料金の考え方は次項で扱います。

注目すべきはオンピークの単価がオフピークの1.6倍以上あるという点です。22kV未満なら1kWhあたり約1.69バーツの開きになります。これは「使用量を減らす」以外に「同じ量を安い時間帯に寄せる」という打ち手が成立することを意味します。バッチ処理の設備、洗浄工程、コンプレッサによるタンク充填、恒温槽の予冷といった、実行タイミングに自由度がある負荷がどれだけあるか。それを知るには、設備ごとの時間帯別使用量が必要です。受電点1点では絶対に分かりません。

なお、これらの数値は電圧区分・契約種別・PEA/MEAの別で変わります。必ず自社の請求書と電力契約書で、契約種別(Type 3かType 4か、フラットかTOUか)と受電電圧を確認してください。記事の数字をそのまま自社に当てはめないことが重要です。

デマンド料金:1か月に1回の15分が金額を決める

デマンド料金は、日本の工場出身者にも意外と誤解されている項目です。課金の対象は、その月のなかで最も高かった15分平均の需要電力(kW)です(対象となる時間帯の範囲は契約種別によって異なります。詳細は後述)。瞬間値ではなく15分の平均値であり、1か月にたった1回そのピークを記録すれば、その月はその値で課金されます。

なお、ピークをどの時間帯の範囲で拾うかは契約種別によって異なります。TOU契約ではオンピーク時間帯の最大需要を対象とする形が一般的とされますが、区分の定義は契約書と請求書で確認してください。ここを取り違えると、後述する警報の閾値設計そのものがずれます。

単価は前掲の通り、Type 3 TOUで受電電圧22kV未満なら210.00バーツ/kW・月、22〜33kVなら132.93バーツ/kW・月という水準が示されています。受電電圧が高いほうが単価は低くなる構造です。

この単価の意味を体感するには、掛け算をしてみるのが早いです。22kV未満で、ある月にたまたま100kWだけピークが高くなったとします。それだけで月あたり2万バーツ強の差になります。年間で見れば無視できない額です。しかも、その100kWが「朝の立ち上げで大型設備の起動が3台重なった15分間」だった、というのはよくある話です。生産量は1台分も増えていないのに、料金だけが上がるわけです。

力率ペナルティ:多くの工場が「気づいていない」項目

力率(Power Factor)は、有効電力と皮相電力の比です。誘導電動機、溶接機、変圧器の励磁電流などは無効電力を発生させ、力率を下げます。タイの産業用契約では、力率がおよそ0.85を下回った分——無効電力(kVAR)が有効電力の61.97%を超えた分——に対して、56.07バーツ/kVARが課金されるとされています。あわせてサービス料金312.24バーツ/月が固定でかかります。

力率ペナルティが厄介なのは、設備が正常に動いているように見えるのに発生する点です。典型的な原因は次のようなものです。

  • 進相コンデンサのヒューズが飛んでいる、あるいはコンデンサ本体が経年劣化で容量抜けしている
  • 自動力率調整装置(APFC)のコントローラが故障、または段数制御が誤動作している
  • 設備を増設したのに、コンデンサ容量を見直していない
  • 生産量が落ちた期間に、軽負荷でモータが空転していて力率が悪化している

いずれも現場では「異常なし」と扱われます。請求書を見ない限り気づけません。逆に言えば、力率ペナルティは計測して原因を特定すれば比較的短期間で解消できる種類の支出です。電力監視システムの初期段階で力率とkVARを記録しておく価値はここにあります。

3要素を分解した後の優先順位

ここまでを踏まえると、優先順位の付け方は次のようになります。まず力率ペナルティが発生しているかを見る。発生していれば、これは設備の不具合である可能性が高く、対策の費用対効果がはっきりしています。次にデマンド料金の比率を見る。比率が高ければ、ピークの発生時刻と原因設備を特定することが最優先になります。従量料金の削減は、この2つに比べると時間がかかる取り組みです。設備更新、運用改善、負荷移動の積み重ねであり、成果が出るまでの期間も長い。だからこそ、原単位管理という継続の仕組みが必要になります。

電力監視システムの計測点をどう設計するか

受電点1点でも、全設備でもない — 3階層で刻む

計測点の設計は、電力監視システムの成否を決める最大の要素です。ここで両極端に振れるのが典型的な失敗です。

極端その1:受電点だけ。費用は最小ですが、前述の通り原因が特定できません。「今月は増えました」以上のことが言えない状態が続き、活動が止まります。

極端その2:全設備に付ける。確かに何でも分かりますが、計測器の台数・工事費・停電枠・通信配線・データ量のすべてが跳ね上がります。しかも、日常的に見られるのは結局そのうちの一部の計測点に限られます。使わないデータを取るために電気工事を止めて回るのは、投資として合理的ではありません。

現実的なのは、3階層で段階的に増やす設計です。

階層計測対象主な目的台数の目安
第1層:受電点受電盤(キュービクル)の主幹。TOU時間帯別kWh、15分デマンド、力率、kVAR請求書との突合、デマンド監視、力率の異常検知、全社原単位の分母受電系統ごとに1点
第2層:主要フィーダ/系統動力盤の主幹、ライン単位の分電盤、ユーティリティ系統(空調・コンプレッサ・照明・排水処理)「どの系統が増えたか」の切り分け。ユーティリティと生産の分離数点〜十数点
第3層:大口設備消費の大きい個別設備(成形機、炉、コンプレッサ、チラー、大型乾燥機、めっき槽)設備別原単位、稼働と待機の分離、更新投資の判断根拠上位設備を絞って追加

第1層:まず請求書と突き合わせられる形にする

第1層で最初にやるべきは、自社の計測値と電力会社の請求書が一致するかの突合です。ここがずれていると、以降のすべての分析が疑わしくなります。確認するのは、月間kWh、時間帯別kWhの区分(オンピーク/オフピークの境界が電力会社の定義と合っているか)、そして15分デマンドの最大値です。

意外と多いのが、デマンドの集計窓が電力会社と合っていないケースです。固定窓(毎正時から15分刻みで区切る)で集計しているのか、移動平均で計算しているのかによって、同じ電流波形からでも最大値は変わります。電力会社側がどちらの定義かを確認し、自社システムの設定を合わせてください。数kWのずれなら実用上大きな問題にはなりませんが、警報の閾値設計に使う以上、どちらの定義で動いているかは把握しておくべきです。

第2層:どこで切るかは「責任者が分かれる単位」で決める

第2層の切り方には正解がありませんが、実務的に有効な基準があります。改善の責任者が分かれる単位で切ることです。

具体的には、生産ラインごと(ライン長が責任を持つ)、ユーティリティごと(設備保全課が責任を持つ)、建屋・事務棟ごと(管理部門が責任を持つ)という切り方です。データを見せる相手が決まっていない計測点は、結局誰も見ません。

タイの工場でユーティリティ系統を分けて測ると、しばしば分かるのがコンプレッサと空調の比率の大きさです。エア漏れは代表的な浪費で、生産していない夜間・休日にコンプレッサが動き続けているなら、漏れを強く疑うべき状態です(保圧運転や他用途への供給という説明が付く場合もあるので、まずは現場で確認します)。第2層でコンプレッサ系統を1点測るだけで、休日の消費が見えるようになります。受電点の合計値のままでは、この切り分けはできません。

第3層:全設備ではなく「上位から」

第3層は、第2層で当たりが付いた系統の中から、消費の大きい設備を絞って追加します。パレート的に、消費電力の大半は少数の設備が占めているのが普通です。まずは上位数台に絞り、そこで運用が回ることを確認してから広げる。この順序を守れば、初期投資を抑えながら成果を出せます。

増やす順番と、その判断根拠

段階的に増やすといっても、いつ次の階層に進むかの基準がないと止まります。実務的には次の考え方が有効です。

  • 第1層で請求書と突合でき、力率とデマンドの実態が把握できた → 第2層へ
  • 第2層で「どの系統が効いているか」が分かり、改善のオーナーが決まった → 第3層へ
  • 第3層で個別設備の原単位が取れ、更新投資の判断根拠になった → 対象設備を広げる

途中で「まだ第1層のデータすら誰も見ていない」状態なら、計測点を増やしても解決しません。増やす前に運用側を直す必要があります。

計測方式と通信経路 — 既設設備をどう取り込むか

計測方式の選択肢

計測方式は、設備の状況と必要な精度で選びます。ここは「全部を高精度で測る」必要はなく、階層ごとに要求が違います。

方式取れるデータ向いている場面注意点
電力計+CT(変流器)新設kW、kWh、力率、kVAR、電圧、電流、高調波(機種による)第1層・第2層。デマンドと力率が必要な箇所設置に停電作業が必要な場合がある。分割型CTなら停電なしで施工できる場面もあるが、盤内スペースと安全確保の確認が要る
パルス出力の受信kWhのみ(パルス単位の積算)既設メーターにパルス出力がある場合。第2層・第3層の簡易計測力率・デマンドは取れない。パルス定数の確認と、欠測時の扱いを決めておく
Modbus RTU(RS-485)で既設機器から読む機種依存だが、電力量・電流・電圧など多くの項目既設のマルチメータ、インバータ、UPSなどが通信ポートを持っている場合アドレス設計、終端抵抗、ボーレート、ノイズ対策。マッピング資料の入手が前提
既設の電力会社メーター/自社の既設メーター活用検針値相当追加投資を抑えたい初期段階取得間隔が粗く、デマンド監視には使えないことが多い

既設設備からデータを取り出す考え方全般は、既存設備のIoT化(レトロフィット)で扱った手順とそのまま重なります。電力に限らず、古い設備をどう取り込むかは同じ論点です。

通信経路:有線か無線か

計測器から収集サーバまでの経路も、費用と信頼性に直結します。

有線(Ethernet または RS-485)は安定していますが、配線工事の費用が距離と経路で大きく変わります。既設のケーブルラックが使えるか、他工場棟をまたぐか、屋外配線が必要かで金額の桁が変わります。無線(Wi-Fi、LoRaWAN等)は工事費を抑えられますが、工場内の電波環境——金属構造物、大型機械のノイズ、既存の無線機器との干渉——の影響を受けます。工場の無線設計については工場の無線LAN・産業ネットワークで詳しく整理しています。

実務では、第1層・第2層を有線で確実に取り、第3層の追加分を無線で拡張する、という組み合わせが扱いやすい形です。デマンド監視のようにリアルタイム性が金額に直結する用途は有線側に置くという判断基準を持っておくと迷いません。

データの取得間隔をどう決めるか

取得間隔は、用途から逆算します。

  • デマンド監視 → 15分窓の中で警報を出す必要があるため、1分以下の周期が現実的
  • 時間帯別の従量分析 → 15分〜1時間で足りる
  • 原単位管理 → 生産実績の記録単位(ロット、シフト、日)に合わせる
  • 設備の異常検知(電流波形の変化など)→ 用途によっては秒単位が必要

すべてを短周期にすると通信量とストレージが増えます。階層と用途で周期を分けるのが合理的です。

電力監視システム導入2026|測るだけで電気代が下がらない理由 - figure 2

デマンド監視は「落とす順番」を事前に決めるまでが仕事

警報だけでは何も起きない

デマンド監視装置を入れて、閾値を超えたら警報が鳴るようにした。ここで止まっている工場は非常に多いです。しかし警報が鳴った瞬間に現場で起きるのは、たいてい次のことです。「音が鳴っている。誰か止められるものはあるか?」「今ラインが動いているから止められない」「じゃあ様子見で」——そして15分が経過し、ピークが記録されます。

デマンド監視が金額に効くのは、警報が鳴ったときに何を、誰が、どの順番で止めるかが事前に決まっている場合だけです。この手順を「デマンド抑制手順」として文書化し、現場に貼り、実際に訓練までやって初めて仕組みになります。

落とす順番の決め方

止める対象を選ぶ基準は3つです。

  1. 止めても品質・安全に影響しないこと。炉の温度維持、めっき槽の循環、クリーンルームの陽圧など、止めると再立ち上げに時間と費用がかかるものは対象外です。
  2. 止めた分の効果が大きいこと。数kWの設備を10台止めるより、数十kWを1台止める方が確実です。
  3. 短時間で復帰できること。15分の窓をやり過ごせればよいので、復帰に1時間かかる設備は向きません。

この条件に合いやすいのは、空調(一時的な設定変更または一部停止)、コンプレッサ(タンク圧に余裕がある時間帯の追加機停止)、給湯・電気温水器、一部の照明、非生産エリアの設備などです。逆に、生産ライン本体を止めるのは最後の手段になります。

手順書は段階に分けて書きます。以下の割合は運用設計の出発点としての目安で、実際の閾値は自社の実績から決めてください。予兆段階(予測値が閾値の8割程度に到達)では、監視を強め、大型設備の追加起動を保留します。ここで決めておくのは、誰が見るか、どの端末に警報を出すかです。第1段(予測値が閾値の9割程度)では、あらかじめ指定した非生産系の負荷を停止します。対象設備リスト、操作担当、操作場所を紙に落としておくことが前提です。第2段(予測値が閾値に到達する見込み)では、ユーティリティ系を追加で停止します。ここでは品質への影響を誰が判断するかを事前に決めておく必要があります。そして超過が確定した場合は、記録して原因を分析し、翌月に向けた再発防止につなげます。記録様式と、振り返りをどの会議でやるかまで決めて初めて、この手順は仕組みになります。

重要なのは、予測値で動くという点です。15分の窓が終わってから「超えました」と分かっても手遅れです。窓の前半の使用量から終了時点の平均値を予測し、その予測が閾値に近づいた段階で警報を出す。これがデマンド監視装置の本来の機能です。

閾値をどこに置くか

閾値の設定は、契約電力(あるいは目標とするデマンド値)から逆算します。ここで注意すべきなのは、閾値を下げすぎると警報が鳴りすぎて現場が無視するようになる、という点です。警報が「またか」と扱われた時点で、この仕組みは死にます。

現実的には、過去12か月のデマンド実績を見て、上位数回のピークがどの時刻・どの条件で発生したかを分析することから始めます。多くの場合、ピークは特定のパターンに集中しています。月曜朝の立ち上げ、長期休暇明け、空調負荷が高い4月〜5月の午後、あるいは特定の大型設備の同時起動。パターンが分かれば、そもそも起動タイミングをずらす運用(インターロックによる同時起動の禁止を含む)で予防できる場合があります。警報を出す前に、起きない設計にできないかを先に検討するのが順序として正しいやり方です。

契約電力への波及

デマンドは月々の料金だけの問題ではありません。設備を増設していけば、いずれ契約電力そのものの見直しが必要になります。逆に、実績のピークが契約に対して大きく下回り続けているなら、契約の見直しで固定費が下がる可能性もあります。ただし契約変更には手続きと条件があり、変更後に再度上げる際の扱いも含めて、PEA/MEAおよび有資格の電気技術者・設備業者と確認が必要です。ここは記事の一般論で決められる領域ではありません。実測データを持って相談に行くこと自体が、電力監視システムを入れる実利の一つです。

原単位管理(kWh/生産数)がエネルギー監視の本丸

総量では活動が続かない

省エネ活動が続かない最大の理由は、評価指標が総使用量(kWh)のままだからです。総量は生産量に連動して動きます。生産が増えれば増え、減れば減る。改善したのに生産が増えて総量が増えれば、現場は「頑張ったのに評価されない」と感じます。逆に、生産が落ちて総量が減れば「省エネできた」ことになってしまいます。どちらの場合も、活動と数字が対応していません。

これを解決するのが原単位(Specific Energy Consumption)です。

分母の取り方原単位の単位向いている工程注意点
生産数kWh/個個数管理の組立・成形・加工品種構成が変わると比較できない。品種別に取るのが望ましい
生産重量kWh/kg、kWh/t樹脂、金属、食品、化学歩留まりの変動が混ざる。投入量か産出量かを定義する
稼働時間kWh/h連続運転設備、ユーティリティ生産していない時間の消費が隠れる
処理面積・処理量kWh/m²、kWh/L塗装、表面処理、洗浄、排水処理前処理・後処理の範囲を定義する

分母を揃えることが、実は一番難しい

原単位管理でつまずくのは、ほぼ例外なく分母側です。電力データは自動で取れても、生産数が手書きの日報にしかない、シフトの区切りと電力データの時刻がずれている、品種切替のタイミングが記録されていない、不良品を含むのか含まないのかが部署によって違う——こうした状態では、割り算をしても意味のある数字になりません。

したがって、原単位管理を成立させるには次の条件が要ります。

  • 生産実績が電力データと同じ時間軸で記録されている(できれば自動で)
  • 品種・ロットの切替時刻が記録されている
  • 分子(kWh)の集計範囲と分母(生産数)の対象工程が一致している
  • 良品数か投入数か、カウントの定義が文書化されている

ここが、生産管理システムや設備稼働監視と電力監視をつなぐ意味です。TOMAS TECHが提供するPEGASUSのように、生産実績と設備稼働をすでに取得している基盤があれば、電力データを同じ時間軸に載せるだけで原単位が算出できます。逆に、電力監視システムだけを単独で導入すると、分母を人手で入力する運用が残り、これが数年で形骸化します。設備の稼働・停止データをどう取るかについては、予知保全システムで扱った設備データの取得設計と考え方が共通します。

待機電力を分離する

原単位と並んで実利が大きいのが、稼働時消費と待機時消費の分離です。設備の運転信号(あるいは電流の閾値)と電力データを重ねれば、「生産していない時間に消費している電力」が抽出できます。

タイの工場でこれをやると、しばしば次のようなものが出てきます。昼休みに止まらない設備、シフト間の切替時間に稼働したままの搬送コンベア、休日にも動いている集塵機、生産していないのに保温が続いている槽。これらは設備の性能を落とさずに削減できる領域で、投資をほとんど伴いません。

待機電力の削減は、総量にも効き、条件によってはデマンドにも効きます。しかも運用改善なので、効果が出るまでの期間が短い。電力監視システムを入れた最初の数か月で成果を示す必要がある場合、まずここを狙うのが現実的です。

ベースラインをどう設定するか

改善効果を主張するには、比較対象(ベースライン)が要ります。前年同月比は分かりやすい指標ですが、生産量も外気温も違うため、そのままでは根拠になりません。

実務的には、生産量(分母)と、必要なら外気温や稼働日数といった変数を説明変数に置いて、期待される消費量を推定し、実績との差を効果とみなす形が使われます。ISO 50001 でいうエネルギーベースライン(EnB)とエネルギーパフォーマンス指標(EnPI)の考え方です。厳密な統計処理まで踏み込まなくても、「何を一定と見なして比較しているか」を文書化しておくことが、日本本社への報告でも第三者の検証でも効いてきます。

電力監視システム導入2026|測るだけで電気代が下がらない理由 - figure 3

外からの要求がエネルギーデータ整備の追い風になっている

社内の説得材料は、外から増えている

電力監視システムの投資稟議は、電気代の削減額だけでは通りにくいことがあります。効果を断定できないからです。ところが2026年現在、タイで操業する工場には外部から要求されるデータが増えており、これが投資の後押しになっています。

要求元は大きく5つあります。DEDE(พพ./代替エネルギー開発・省エネルギー局)は指定工場・指定建築物に年次のエネルギー管理報告を求めており、用途別・系統別の実績を整理して示す場面が出てきます。手集計を自動集計に切り替える直接の動機です。ISO 50001 はエネルギーベースラインとエネルギーパフォーマンス指標、そして監視・測定・分析の手順を要求し、これがそのまま監視システムの設計要件になります。CBAM は対象品目の輸出に伴う年次の排出報告と第三者検証を求めるため、製品単位の電力消費が分からないと算定できません。日本本社や取引先からはScope 1・2の排出量と、拠点別・製品別の内訳を求められる場面が増えており、拠点合計だけでは按分根拠を示せなくなっています。そして税制措置・BOIの活用には、投資対象の選定と効果の説明に実測データが要ります。

DEDE(พพ.)の年次エネルギー管理報告

タイでは、พ.ร.บ. การส่งเสริมการอนุรักษ์พลังงาน(省エネルギー推進法)に基づき、指定工場(โรงงานควบคุม)・指定建築物(อาคารควบคุม)に年次のエネルギー管理報告(รายงานการจัดการพลังงาน)の提出義務があります。区分は電力計または変圧器の合計容量で分かれ、グループ1が合計3,000kW未満、グループ2が合計3,000kW以上とされています。

提出時期については、2568年(2025年)分の報告書の提出期限が2569年(2026年)3月31日と พพ. が告知しています。自社が該当するかどうか、そして年ごとの正確な期限や様式は、必ず พพ. の告知と自社の登録状況で確認してください。罰則の細目についてはここでは触れません(本記事の調査で確実な裏付けが取れていないため)。

実務上重要なのは、この報告のためのデータ収集を毎年手作業でやっている工場が多い、という点です。検針値を転記し、設備リストと突合し、用途別に按分する。この作業に毎年数十時間を費やしているなら、その工数だけでも監視システムの投資根拠の一部になります。しかも自動収集に切り替えれば、報告のためだけに存在していたデータが、日常の改善にも使えるようになります。

ISO 50001:規格の要求が設計要件になる

ISO 50001 はエネルギーマネジメントシステムの国際規格で、エネルギー使用の監視と改善を回すための枠組みを定めています。取得の有無にかかわらず、この規格が求める「計測 → ベースライン設定 → 目標設定 → 実行 → 検証 → 是正」というサイクルは、電力監視システムの設計にそのまま使えます。

具体的には、規格が求めるsignificant energy uses(重要なエネルギー使用)の特定は、前述の第2層・第3層の計測点をどこに置くかという問いと同じです。エネルギーパフォーマンス指標(EnPI)の設定は、原単位の分母を何にするかという問いと同じです。認証を取らない工場でも、この構造を借りてくると設計が整理されます。

CBAM:製品単位のデータが要求される段階に入った

CBAM(EU炭素国境調整措置)は2026年1月1日から本格適用(definitive phase)に入りました。対象は鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力・水素です。タイからEUへ輸出する事業者は、EU認定機関の検証を受けた年次の排出報告が求められる形になります。

影響の規模について、Kasikorn Research は有償化フェーズ入りに伴い、タイの対EU輸出の約3.8%、およそ280億バーツ規模に影響が及ぶと試算しています。最も影響を受けるのは鉄鋼とアルミとされています。

CBAMが電力監視に直結するのは、排出量の算定が製品単位で求められるからです。工場全体のkWhとCO2係数を掛ければ拠点合計は出せますが、「この製品1トンあたりの排出量」を出すには、その製品の製造に使われた電力を切り出す必要があります。つまり、第3層の設備別計測と、生産実績との紐付けが前提になる。原単位管理の仕組みは、CBAM対応の基盤としてそのまま使えます。

対象品目でなくても、EU向け・欧米向けの取引先からサプライチェーン排出量(Scope 3)の一部としてデータを求められるケースは増えています。「うちは鉄鋼じゃないから関係ない」で済まない場面が出てきているのが現状です。

税制措置とBOI:投資側の後押し

一方で、投資を促す制度も動いています。内閣承認の措置として、認証を受けた省エネ設備への設備投資に150%の損金算入が認められています(設備は2028年12月までに稼働していることが条件とされています)。BOIも省エネ・スマート製造に向けた支援措置を拡充しています。

適用可否は設備の種類、認証の有無、自社の事業所の状況、BOI恩典の内容によって変わります。該当するかどうかは必ず税務・会計の専門家およびBOI窓口に確認してください。ただ、この種の制度が存在すること自体は、稟議書の材料として押さえておく価値があります。「電気代が下がる(かもしれない)」だけでなく、「制度上の要求に応える基盤であり、税制上の措置も存在する」という組み立てのほうが、社内では通りやすいのが実情です。

電力監視システムの費用を動かす6つの層

「一式いくら」では比較できない

電力監視システムの見積は、規模と構成で大きく変わります。本記事では具体的な金額を示しません(製品価格は工場の構成に依存し、断定できる数字がないためです)。代わりに、費用を動かしている変数を層に分けて示します。この層で見積を出してもらえば、複数社の比較ができるようになります。

内容金額を動かす主な変数
①計測器電力計、CT、パルス変換器、通信変換器(Modbus/Ethernetゲートウェイ)計測点数、精度クラス、取得項目(力率・高調波の要否)、分割型CTか貫通型か、電圧階級
②電気工事盤内取付、CT取付、二次配線、盤加工、試験停電枠が取れるか、既設盤に空きスペースがあるか、施工箇所の分散度、高所・屋外作業の有無、夜間・休日作業の要否
③通信LAN配線、無線AP、電源工事、ネットワーク機器距離と経路、既設ラックの流用可否、棟をまたぐか、屋外区間の有無、無線なら電波環境の実測要否
④サーバ/クラウド収集サーバ(オンプレ or クラウド)、データベース、バックアップデータ点数×取得周期×保存期間、可用性の要求、社内ネットワークからの分離要件
⑤可視化・アプリケーションダッシュボード、帳票、アラート、生産実績との連携帳票の種類と数、既存システムとの連携本数、対応言語数、権限設計の細かさ
⑥運用保守契約、校正、障害対応、画面の追加・修正、教育対応時間帯、現地対応の有無、年次の変更見込み、担当者交代時の引継ぎ支援

スモールスタートをどう刻むか

投資を段階に分ける場合、次のような刻み方が実務的です。

フェーズ1(第1層+運用の型づくり):受電点に計測器を設置し、請求書と突合できる状態にする。デマンドと力率を記録し、力率ペナルティの有無と、デマンドピークの発生パターンを把握する。同時に、誰が何を見るか、月次の振り返りをどこでやるかを決める。ここで運用が回らなければ、次に進んでも同じです。

フェーズ2(第2層+デマンド抑制手順):主要フィーダ・ユーティリティ系統に計測点を追加し、系統別の内訳を出す。デマンド抑制手順を文書化し、対象設備と操作担当を決めて訓練する。待機電力の分離もこの段階で着手できます。

フェーズ3(第3層+原単位):消費上位の設備に計測点を追加し、生産実績と紐付けて原単位を算出する。ベースラインを設定し、月次で評価する仕組みに乗せる。DEDE報告やCBAM対応で製品別の数字が要るなら、この段階で対応できる形にする。

各フェーズの終わりに、次に進む価値があるかを判断します。この刻み方の利点は、途中で止めても前段までの投資が無駄にならないことです。

日程を組むときに効いてくるのは、施工そのものより停電枠が取れる時期です。年末年始、旧正月、ソンクラーンといった長期休暇に合わせると、施工は短くても着手までの待ち時間が長くなります。分割型CTで停電を伴わずに施工できる箇所や、既設の通信ポートから読み出せる箇所を先に片付けておけば、停電枠を待つあいだにデータの取得と運用の型づくりを進められます。計画段階で停電が必要な工事と不要な工事を分けて整理すると、全体の期間が読めるようになります。

見積を依頼するときに渡すべき情報

見積の精度は、渡す情報の量で決まります。情報が足りない見積は必ず高い方に振れます。最低限、次を用意してください。

  • 単線結線図(最新版。現物と乖離していないか確認済みのもの)
  • 受電契約の情報(契約種別、契約電力、受電電圧、PEA/MEAの別)
  • 直近12か月分の請求書(デマンドと力率の実績が分かるもの)
  • 主要設備リスト(定格、台数、設置場所、既設メーターや通信ポートの有無)
  • 盤の写真(受電盤・主要動力盤の内部。空きスペースの確認用)
  • 停電可能な時期と時間帯(年末年始、旧正月、ソンクラーンなどの長期休暇枠)
  • 生産実績データの現状(どのシステムに、どの粒度で、どの形式で存在するか)
  • 報告先の要求(本社への報告様式、DEDE報告の該当有無、顧客からの排出量要求)

最後の2つが特に重要です。ここが曖昧なまま計測器だけを決めると、後から「製品別に出せない」「本社の様式に合わない」という手戻りが起きます。

失敗パターンと、活動が続く運用の設計

よくある4つの失敗

現場で繰り返し見るパターンを挙げます。自社が当てはまっていないか確認してください。

1. ダッシュボードを作って終わる。画面は立派だが、見る人と見る時間が決まっていない。改善のアクションに接続していない。対策は、画面より先に月次の振り返りの場と担当を決めることです。「毎月第1週の生産会議で、系統別の原単位を5分で報告する」といった具体的な運用が先にあって、その報告に必要な画面を作る。順序が逆になると使われません。

2. 担当者の異動で止まる。日本人駐在員が構築し、その人の任期終了とともに誰も触れなくなる。対策は、画面・手順書・アラートの通知先をタイ語または英語で整備し、タイ人スタッフが主担当になる形で立ち上げることです。属人化した仕組みは、駐在サイクルの長さより短命になります。

3. 受電点だけ測って「頑張ろう」で終わる。前述の通りです。合計値からは原因が出てきません。第2層に進むか、進まないなら計測ではなく別の手段(設備更新や運用ルールの直接的な変更)に投資するほうが合理的です。

4. 原単位の分母が揃っていない。部署ごとに生産数のカウント定義が違う、切替時刻が記録されていない、電力データと生産データの時刻がずれている。対策は、電力監視の設計に入る前に、生産実績側のデータ整備状況を確認することです。分母が取れないなら、そこから着手する必要があります。

続く仕組みにするための最低条件

これらを裏返すと、活動が継続する条件が見えてきます。

  • 見る人が決まっている:系統・ラインごとに責任者を割り当て、名前を画面上または帳票上に明示する
  • 見る場が決まっている:既存の会議体(生産会議、保全会議、月次報告)に議題として組み込む
  • 現地語で回る:画面・手順書・アラート文面をタイ語/英語で整備し、日本本社向けの報告は自動変換または別帳票で対応する
  • 数字が行動に接続している:「原単位が悪化したら何をするか」を数パターン決めておく
  • 変更に追随できる:設備増設・ライン変更のときに計測点と画面を更新する担当と手順を決めておく
  • 効果が記録されている:実施した対策と、その前後の数字をセットで残す。次の投資判断の材料になる

最後の項目は軽視されがちですが、実は最も価値があります。「この対策でこれだけ動いた」という自社の実績が数件たまれば、次の投資稟議に外部の一般論を持ち出す必要がなくなります。

よくある質問

電力監視システムを入れると、電気代はどのくらい下がりますか?

一律の削減率は示せません。金額の内訳(従量/デマンド/力率)の構成、現状の運用レベル、設備の更新余地によって、動かせる幅がまったく違うためです。ただし、どこに削減余地があるかは、導入前でもある程度判定できます。具体的には、①直近12か月の請求書で力率ペナルティが発生しているか、②デマンド料金が総額に占める比率はどのくらいか、③デマンドのピークが特定の日時・条件に集中していないか、④生産していない時間帯の消費がどの程度あるか、の4点です。この4点は請求書と簡易な実測で確認できます。削減率を先に約束する提案よりも、この4点を一緒に確認してから投資規模を決めるほうが、結果として無駄が出ません。

受電点だけの計測でも意味はありますか?

意味はありますが、目的を限定してください。受電点1点で成立するのは、①請求書との突合、②デマンド監視と抑制運用、③力率の異常検知、④全社総量の推移把握、の4つです。これらだけでも、力率ペナルティの発見やデマンドピークの抑制といった実利は出ます。一方で、「どの設備が増えたか」「どの工程の効率が落ちたか」といった原因分析はできません。したがって、受電点だけで始める場合は、「原因分析はまだできない」と関係者に明示したうえで、デマンドと力率という具体的な対象に絞って運用するのが現実的です。曖昧に「見える化しました」と言うと、期待と成果がずれます。

既存の設備が古く、通信機能がありません。どうすればいいですか?

通信機能がなくても計測はできます。分電盤の一次側にCTと電力計を後付けする方法が基本で、設備そのものに手を加える必要はありません。既設のメーターにパルス出力があればそれを受ける方法もありますし、インバータやマルチメータが Modbus RTU(RS-485)に対応していれば、そこから読み出せる場合もあります。判断のために現地で確認するのは、①盤内の取付スペース、②CTを入れられる位置と一次側の電流値、③停電作業が可能な時期、④既設機器の通信ポートの有無と資料の有無、の4点です。古い設備からデータを取り出す進め方は、既存設備のIoT化(レトロフィット)で整理した手順が参考になります。

デマンド監視装置と電力監視システムは何が違いますか?

デマンド監視装置は、15分窓の需要電力を予測して警報を出すことに特化した機器です。単体でも導入でき、費用も比較的抑えられます。一方、電力監視システム(あるいはエネルギー監視システム/EMS)は、複数の計測点からデータを収集し、時間帯別分析、系統別内訳、原単位管理、帳票出力までを含む仕組みです。デマンド対策だけが目的なら、デマンド監視装置から始めるのは合理的な選択です。ただし、後から系統別の分析や原単位管理に広げるつもりなら、収集基盤をどう作るかを最初に決めておいたほうが手戻りが減ります。データの出口(誰にどんな帳票を出すか)を先に決めることが、この判断の分かれ目になります。

タイの電気料金は今後どうなりますか?

将来の料金を予測することはできません。確認できる事実として、ERCが承認した平均電気料金は2026年1〜4月期が3.88バーツ/kWh、2026年5〜8月期が3.95バーツ/kWh(いずれもVAT別)で、この期は上昇しています。Ft(燃料調整費)は4か月ごと・年3回の見直しであり、燃料価格や為替の影響を受けます。したがって、料金の変動そのものは自社では制御できない前提で、使用量・ピーク・力率という自社で制御できる変数に取り組むという整理が現実的です。なお、自社に適用される実際の単価は契約種別と受電電圧で変わりますので、請求書と電力契約書で確認してください。

日本本社への報告とタイ国内の報告で、データを二重に作る必要がありますか?

設計次第で一本化できます。必要なのは、元データを最小単位(計測点別・時間別)で保持し、集計を後から切り替えられる形にしておくことです。日本本社向けにはkWhとCO2換算、タイ国内のDEDE報告向けには用途別・系統別の実績、社内の改善活動向けには原単位というように、同じ元データから異なる集計を出す構造にすれば、二重管理は避けられます。逆に、報告様式に合わせて集計済みの値だけを保存していると、別の様式を求められたときに作り直しになります。CO2換算については、使用する排出係数の出典と適用年を記録しておくことも忘れないでください。

まとめ

電力監視システムの成否は、機器の性能ではなく設計で決まります。要点を整理します。

  • 請求書を3要素に分解することから始める:従量料金(TOU時間帯別)/デマンド料金(15分最大需要)/力率ペナルティ。この3つは打ち手がまったく違い、優先順位も違う
  • タイの料金構造を押さえる:ERC承認の平均電気料金は2026年5〜8月期で3.95バーツ/kWh(VAT別。ベース料金約3.78バーツにFt 0.1623バーツを加えた水準)。TOUのオンピークは月〜金09:00〜22:00。オンピークの単価はオフピークの1.6倍以上あり、負荷移動という打ち手が成立する
  • 計測点は3階層で刻む:受電点 → 主要フィーダ/系統 → 大口設備。受電点だけでは原因が出ず、全設備では費用が跳ねる。第2層は「改善の責任者が分かれる単位」で切る
  • デマンド監視は落とす順番を決めるまでが仕事:予測値で警報を出し、止める設備・担当・順番を事前に文書化して訓練する。警報だけでは15分が過ぎるだけ
  • 原単位(kWh/生産数)が本丸:総量では活動が続かない。難所は分子ではなく分母で、生産実績が同じ時間軸で取れているかが成否を分ける
  • 外からの要求を追い風にする:DEDE(พพ.)の年次エネルギー管理報告、ISO 50001、2026年1月から本格適用のCBAM、認証を受けた省エネ設備への150%損金算入。電気代削減だけでない稟議の組み立てが可能になる
  • 費用は6層で見積を取る:計測器/電気工事/通信/サーバ・クラウド/可視化/運用。層で出してもらえば比較でき、フェーズ分割もしやすくなる
  • 数値はすべて自社の請求書と契約で確認する:料金は電圧区分・契約種別・PEA/MEAの別で変わる。記事の数字をそのまま当てはめない

測ること自体には価値がありません。価値が生まれるのは、測った数字が請求書のどの欄に効くかが分かり、その数字を見る人と場が決まり、悪化したときに何をするかが決まっているときです。順序を逆にすると、立派な画面と、動かない金額だけが残ります。

TOMAS TECHはタイ・バンコクを拠点に、日系製造業の工場IT/OT・FA領域を手掛けるシステムインテグレーターです。生産管理システムPEGASUSで生産実績と設備稼働を扱ってきた経験から、電力データを生産の数字と同じ時間軸に載せる設計を得意としています。「うちは受電点だけ測っているが、次に何を測るべきか」「請求書のどこが効いているのか分からない」といった、検討の初期段階の相談からで構いません。直近の請求書と単線結線図を拝見できれば、削減余地がどの要素にありそうかの見立てからご一緒できますので、お問い合わせよりお気軽にお声がけください。

参考情報