「倉庫を1棟増やしたのに、売上に対する物流費の比率がまったく下がらない」「WMSを入れて3年経つのに、現場のExcelが一向に消えない」。東南アジアで物流DXの話をしていると、この2つの言葉をほぼ必ずと言っていいほど聞きます。タイでもベトナムでも、日系の製造業や物流子会社が抱えている悩みは驚くほど似ています。
私たちTOMAS TECHはバンコクを拠点に、タイおよび周辺国の工場・倉庫のIT導入を手がけています。日々現場に入っていて感じるのは、2026年の東南アジアが「投資すべきかどうか」を議論する段階から、「どの順番で、どこまでやるか」を決める段階に移りつつあるということです。市場データもそれを裏付けています。Mordor Intelligenceによれば、東南アジアの倉庫自動化市場は2026年のUSD 9.1億から2031年にUSD 16.3億へ、年平均成長率(CAGR)12.36%で拡大する見込みです。
一方で、導入した企業がすべて成果を出しているわけではありません。AI投資を増やした組織のうち、1年以内にROIを得られたのはわずか6%というデータもあります。この記事では、市場の数字、各国の温度差、技術レイヤーの組み立て方、そして現実的な導入ステップまでを、出典を明示しながら整理します。「何から手をつけるべきか」を判断するための材料として使っていただければと思います。
2026年の東南アジア物流市場——数字で見る構造変化
まず、前提となる市場環境を数字で押さえておきます。感覚論ではなく数字から入るのは、社内稟議で「なぜ今なのか」を説明する際に、外部データほど効くものがないからです。
倉庫自動化市場はCAGR 12.36%で拡大する
Mordor Intelligenceの「Southeast Asia Warehouse Automation Market」レポートによれば、東南アジアの倉庫自動化市場は2026年にUSD 9.1億規模、2031年にはUSD 16.3億に達すると予測されています。CAGRは12.36%です。
この12.36%は「導入すれば年12%コストが下がる」という意味ではありません。読み取るべきは、競合の設備投資ペースです。同じ工業団地の隣の会社、同じ商流にいる3PL、そして自社の取引先が、この速度でオペレーションの前提を変えていく。5年後に自社の倉庫だけが2020年代前半の運用のままだと、荷主からの要求水準に応えられなくなる可能性がある——そういう競争環境の変化として読むほうが実務的です。
タイの貨物・物流市場は2026年にUSD 565.6億へ
タイ単体の数字も見ておきます。GIIが公開しているタイの貨物および物流市場レポート(2026-2031)によれば、タイの貨物・物流市場規模は2025年のUSD 533.8億から2026年にUSD 565.6億へ拡大し、2026年から2031年にかけてCAGR 5.95%で成長、2031年にはUSD 754.7億に達すると見込まれています。
注目すべきは、タイの物流市場全体の成長率5.95%に対して、東南アジア域内の倉庫自動化市場の成長率が12.36%と2倍以上であることです。地理的な範囲が異なるため単純比較はできませんが、物流市場そのものの拡大よりも、「物流のやり方を変えるための投資」のほうが速く伸びている。これは市場が量的拡大から質的転換のフェーズに入りつつあることを示唆しています。
貨物・物流市場が年6%で伸びるということは、単純に言えば取扱量やトランザクション数が増え続けるということでもあります。同じ人員・同じ運用のままで年6%の増加を吸収し続けられるかどうか。多くの現場では、残業と応援と気合いでなんとかしている、というのが実情ではないでしょうか。
3PL市場とサプライチェーンAI市場の伸び方の違い
東南アジアの第三者物流(3PL)市場は、レポートオーシャンの調査(@Press掲載)によれば2025年に13億7,913万USD、2035年には23億5,055万USDに達し、2026年から2035年のCAGRは5.34%と予測されています。なお、この3PL市場の集計対象は貨物・物流市場全体とは範囲が異なるため、規模を直接比べる意味はありません。比較すべきは伸び率で、3PLのCAGR 5.34%は貨物・物流市場全体(タイでCAGR 5.95%)とおおむね近い水準にあります。
対照的なのが、サプライチェーン領域のAI市場です。2026年のサプライチェーンAI統計としてRELEX SolutionsやOpen Sky Groupがまとめている予測では、AI in supply chain市場は2025年の99.4億USDから2035年には2,360億USDへ拡大するとされています。桁が違う伸び方であり、この予測をそのまま信じるべきかは慎重に判断すべきですが、少なくとも「資金と開発リソースがこの領域に集中している」という事実は読み取れます。ただし、予測市場規模が大きいことと、皆さんの倉庫で明日AIが動くことは別の話です。このギャップは後の章で導入率の実データとあわせて見ます。
国別・セグメント別の温度差
同じMordor Intelligenceのレポートでは、国別・セグメント別の内訳も示されています。
- インドネシア: 2025年時点で東南アジア倉庫自動化市場の収益シェア28.63%を占め、地域最大。Cikarang Dry Portが牽引役とされています。
- ベトナム: 2031年までで域内最速のCAGR 13%。背景にはShopee / SPX Expressのメガハブ構築があります。
- タイ: 自動車産業クラスターの厚みと、EEC(東部経済回廊)の税制優遇が追い風。
セグメント別では、小売・ECが2025年時点で最大シェアの33.40%を占め、CAGRは17.28%。ヘルスケアがCAGR 13.81%で、GDP(Good Distribution Practice)準拠の要求とバイオ医薬品の伸びが要因とされています。
ここで日系製造業の方に意識していただきたいのは、倉庫自動化市場を牽引しているのはEC事業者であって、必ずしも製造業ではないという点です。ベンダーが持ってくるソリューションの多くは、EC倉庫のピース単位・多品種・高頻度出荷を前提に設計されています。パレット単位・少品種・計画出荷が中心の製造業倉庫にそのまま当てると、投資に対して効果が出にくい。ベンダー提案を評価するときは「これはどの業種のどんな出荷プロファイルで実績を出したものか」を最初に確認することをお勧めします。
なぜいま物流DXなのか——人手不足・賃金上昇・EC拡大という3つの圧力
市場が伸びているから投資する、というのは動機として弱い。実際に現場を動かしているのは、もっと差し迫った3つの圧力です。
タイの物流人手不足は「賃金を上げても採れない」段階に
JETROがまとめたタイの人材不足に関するレポートでは、物流ドライバーについて、残業代込みで月THB25,000を提示しても確保が困難という状況が報告されています。加えて、残業には法令上の上限があり(同レポートでは月36時間という上限に言及されています)、「残業で穴埋めする」という従来型の対応にも制度的な天井があります。
この2つの条件が同時に成立している意味は重いと考えています。人が採れないから残業で回す、という一次的な対応がとれない。すると選択肢は、(1)賃金をさらに上げる、(2)外部委託する、(3)一人あたりの処理量を上げる、の3つに絞られます。物流DXは(3)のためのアプローチであり、(1)と(2)がコスト面で行き詰まったときに、初めて真剣に検討されるようになります。多くの在タイ日系企業が、いままさにその地点にいます。
賃金上昇率は3年連続で上がっている
同じくJETROのデータでは、タイにおける日系企業の賃金上昇率は2023年3.8%、2024年4.58%、2025年は4.64%の見込みとされています。上昇そのものより、3年連続で上がり続けているというトレンドが重要です。
年4.6%の賃金上昇が5年続けば、人件費は単純計算で約1.25倍になります。同じ作業量を同じ人数でこなしている限り、物流コストは自動的に増え続ける構造です。逆に言えば、「一人あたり処理量を年5%改善する仕組み」を持てば、人件費上昇を吸収できる。物流DXの投資判断は、この「賃金上昇との競争」という枠組みで見ると社内で説明しやすくなります。
生産年齢人口は2026年から減少に転じる
さらに構造的なのが人口動態です。JETROのレポートによれば、タイの生産年齢人口(15〜65歳)は2022年時点で4,685万人ですが、2026年から減少に転じると予想されています。
つまり2026年は、タイの労働市場にとって転換点にあたります。これまでは「地方から人が出てくる」ことを前提にした採用戦略が成立していましたが、その母数自体が縮んでいくフェーズに入る。景気循環で人が採れない年があるのとは意味が違います。日本の製造業が1990年代後半から経験してきた構造変化と重なる部分が多く、日本側で得た省人化の知見を活かせる領域でもあります。
EC・小売がCAGR 17.28%で倉庫の要求水準を変える
3つめの圧力がEC拡大です。前述のとおり、東南アジア倉庫自動化市場において小売・ECセグメントは2025年で33.40%と最大シェアを持ち、CAGRは17.28%です。
「うちはBtoBの製造業だからECは関係ない」と考えるのは早計だと私たちは見ています。EC物流の拡大は、物流業界全体のサービス水準の基準線を押し上げるからです。翌日配送、リアルタイムの配送追跡、出荷ステータスのAPI提供——こうしたものがEC領域で当たり前になると、BtoBの取引先も同じ水準を期待するようになります。実際、「納入先から出荷予定データをシステム連携で出してほしいと言われた」という相談は、この2〜3年で明確に増えています。
加えて、EC事業者は物流人材の獲得競争における強力な競合でもあります。SPX ExpressのようなプレイヤーがメガハブをASEAN各地に構えれば、同じ労働市場から人を採ることになります。人手不足の圧力とEC拡大の圧力は、実は同じコインの裏表です。
物流DXの現在地——導入率のギャップが示すもの
ここまでは「やるべき理由」の話でした。ここからは、実際にどこまで進んでいるのかを、導入率のデータから冷静に見ていきます。私たちがこの章をもっとも重視しているのは、期待値を正しく設定できるかどうかがプロジェクトの成否を分けるからです。
ベンダーの77%がAIを提供、実運用は35%と10%
Inbound Logisticsが物流・サプライチェーンIT事業者を対象に実施した2026年の調査では、ベンダーの77%がAI機能を提供していると回答しました。前年比+6ポイント、2024年比では+27ポイントです。機械学習の提供は48%(+7ポイント)。供給側はほぼAIを標準装備したと言っていい状況です。
一方、Sageの「2026 State of Supply Chain Report」によれば、物流企業のうちAIを実運用しているのは35%。さらに小売・卸のサプライチェーン運用でAIが本番稼働しているのは10%にとどまります。
ベンダー供給77%に対し、需要側の本番稼働は35%あるいは10%。この差は、「AI機能が付いている製品を買うこと」と「AIが業務で成果を出していること」の間に大きな溝があることを示しています。RFPに「AI機能あり」と書かせるのは簡単ですが、それが実際に稼働するかは別問題です。
私たちが提案の場で必ず確認するのは、「その機能を動かすために必要なデータが、御社の現場に今あるか」です。需要予測AIには過去数年分の出荷実績が要り、異常検知AIには正常時のセンサーデータが要る。データがなければ、どんなに優れたアルゴリズムも動きません。AIエージェントを含む自律型AIの実装状況についてはAIエージェント最新動向2026|製造業DXと自律型AIの現在地でも整理していますが、製造業でも構図は同じで、モデルの性能よりデータの整備状況がボトルネックになるケースが圧倒的多数です。
顧客の課題トップは「コスト削減85%」——AIより手前の問題
同じInbound Logistics 2026調査では、ITベンダーが認識する顧客側の課題も報告されています。
- コスト削減: 85%(前年比+5ポイント)
- 可視化: 80%(+5ポイント)
- AI活用: 63%(新設項目・+16ポイント)
- データ管理: 56%(+9ポイント)
トップはAIではなくコスト削減、次いで可視化です。AI活用は63%で3番目。そしてデータ管理が56%で、前年比+9ポイントと伸びています。
この並びは示唆的です。顧客が本当に困っているのは依然として「コストが下がらないこと」と「見えないこと」であり、AIはその手段として関心が高まっている段階にあります。データ管理の課題認識が+9ポイントと伸びているのは、AIを試した企業が「データが揃っていない」という壁に突き当たった結果ではないかと私たちは読んでいます。
倉庫可視化44%が2023年比-22ptという逆説
同調査でもっとも解釈が難しいのが、この数字です。TMS(輸配送管理システム)の提供が44%で前年比-7ポイント、倉庫可視化(RFID/IoT)も44%で、2023年比では-22ポイントと大きく下がっています。
AIが+27ポイント(2024年比)伸びる一方で、倉庫可視化は-22ポイント(2023年比)。基準年が異なるので厳密な対比ではありませんが、前年比で見てもAIは+6ポイント、倉庫可視化は横ばいから下降で、方向が逆であることは変わりません。「可視化はもう終わった技術なのか」と読みたくなりますが、私たちはそうは考えていません。考えられる解釈は主に3つです。
- 機能の統合: RFID/IoTによる可視化が単独機能ではなくWMSやプラットフォームの標準機能に吸収され、「提供機能」として個別に挙げられなくなった。
- ベンダーの訴求シフト: 限られた提案枠のなかで、ベンダーがAIを前面に出し、可視化を後景に回した。市場の実装状況ではなくマーケティングの変化を反映している。
- 投資の一巡と踊り場: 大手・先進企業の可視化投資が一巡し、新規案件が減った。
いずれの解釈をとるにせよ、実務上の結論は変わりません。顧客側の課題では可視化が80%で2位に居座っている以上、可視化ニーズが消えたわけではない。ベンダーの提供機能の見出しからAIの陰に隠れただけで、現場の困りごととしてはむしろ強まっています。ベンダー提案がAI一色になっているときこそ、「その前に可視化のレイヤーは埋まっているか」を自分たちで問い直す必要があります。
ROIは1年で6%、現実は2〜4年
期待値設定という点でもっとも重要な数字がこれです。2026年のサプライチェーンAI統計(RELEX Solutions、Open Sky Groupがまとめたもの)によれば、85%の組織が過去12ヶ月でAI投資を増やした一方、1年以内にROIを得られたのは6%にとどまり、多くの企業は2〜4年で満足のいく回収に至っているとされています。
この「1年で6%、実際は2〜4年」という数字は、稟議を通すときにこそ正直に開示すべきだと私たちは考えています。1年での回収を前提にした計画を立てると、9ヶ月目あたりで「効果が出ていない」という評価が下り、プロジェクトが本番稼働の直前で止まります。これは私たちが実際に何度も見てきた失敗パターンです。
逆に、最初から「回収は2〜4年、ただし12ヶ月目にはこの中間指標が改善しているはず」という形で合意しておけば、途中の揺り戻しに耐えられます。中間指標としては、在庫差異率、ピッキング1件あたり所要時間、棚卸に要する日数、出荷リードタイムのばらつき、といった業務KPIが使いやすいものです。
「導入予定なし15%」の理由は思想的反対ではない
同じ統計では、15%の組織がサプライチェーンへのAI導入予定はないと回答しています。ただしその理由は、AIへの思想的な反対ではなく、リソース制約が中心とされています。
これは在タイ・在越の日系拠点の実感とよく一致します。「AIは要らない」と言っている情報システム担当者にはほとんど会いません。彼らが言うのは「基幹システムの保守とヘルプデスクで手一杯で、新規プロジェクトを回す人がいない」です。多くの現地法人でIT担当は1〜3名、しかも日本本社側のシステム対応も抱えています。
したがって物流DXの実行計画をつくるときは、技術選定と同じ重みで「誰が回すのか」を決める必要があります。ここを曖昧にしたまま契約すると、プロジェクトはキックオフの3ヶ月後に静かに止まります。

東南アジア各国の違い——タイ・ベトナム・インドネシア・マレーシア
「東南アジア」と一括りにすると判断を誤ります。地域統括として複数国を見ている方ほど、各国の条件差を押さえておく価値があります。
タイ: EEC・自動車クラスタ・Land Bridge・BOI
タイの強みは、厚みのある自動車産業クラスターと、EEC(東部経済回廊)の税制優遇です。Mordor Intelligenceも、タイ市場の追い風としてこの2点を挙げています。自動車のサプライチェーンは多階層で、部品点数も多く、トレーサビリティ要求も高い。この産業構造が、倉庫と生産の間のデータ連携ニーズを高く保っています。
制度面では、BOI(投資委員会)の2026〜2027年の刷新インセンティブが重要です。Alvarez & Marsalの分析によれば、物流を含む幅広い業種を対象に、100%外資保有、法人所得税の免除、輸入関税の免除、土地保有権といった優遇が用意されています。倉庫自動化設備やシステム投資を検討している企業にとって、投資計画のタイミングをこの制度枠に合わせられるかどうかは実質的なコスト差になります。少なくとも、投資判断の前にBOIの適用可否を確認する価値は高いと考えます。
インフラ面では、Land Bridge構想(チュムポン〜ラノーン)が動いています。Lexologyの解説によれば、PPP Net Costモデルで50年のコンセッション、OTP(交通政策計画局)が入札書類を準備中で、2026年の着工を目指し、第1期は2030年の開業見込みとされています。対象範囲には港湾、物流インフラ、鉄道、工業団地、倉庫のほか、通関・貿易円滑化技術やデジタルインフラも含まれています。
Land Bridgeは着工前の段階であり、計画どおり進む保証はありません。ただ、通関・貿易円滑化技術とデジタルインフラが最初から構想に組み込まれているという点は注目に値します。将来的に国のインフラ側がデジタル前提になっていくとすれば、自社側の書類・データが紙とExcelのままだと接続できません。この観点は、2030年に向けた中期のIT計画に織り込んでおいてよいと思います。
人材面では、市場レポートで報告されているところによれば、タイはUSD 2億規模の物流人材トレーニング投資を実施し、バンコクを統合ハブとして位置づけています。設備だけでなくオペレーターのスキル側にも国として資金が投じられているという文脈は、社内向けの説明材料になります。
また、同じく市場レポートで取り上げられている事例として、Daifukuがタイでのintralogistics事業を拡大し、AS/RS(自動倉庫システム)を現地製造してシンガポール・マレーシア・ベトナムへ輸出している点も、タイの位置づけを示しています。タイは自動化設備の「導入先」であると同時に「供給拠点」にもなりつつあります。現地でのサポート体制やスペアパーツの供給という観点では、この意味は小さくありません。
ベトナム: CAGR 13%、VILOG 2026、国家DXプログラム
ベトナムは2031年までで域内最速のCAGR 13%が見込まれる市場です。背景にはShopee / SPX Expressのメガハブ構築があります。
政策面では、National Digital Transformation Program 2030の下でWMS / TMS / AI / IoT / ブロックチェーンの導入が推進されています。VOVの報道によれば、ホーチミンで開催されるVILOG 2026はスマート物流・グリーン物流をテーマに掲げており、Vietnam SuperPortはAIベースの倉庫管理、リアルタイム在庫追跡、需要予測を含むデジタル化ロードマップを公表しています。
ベトナムで注意したいのは、成長率の高さがそのまま導入のしやすさを意味しないことです。CAGR 13%というのは市場が急拡大しているということであり、裏を返せば人材・ベンダー・インフラの供給が需要に追いついていない可能性がある。ベンダー選定では、営業拠点の有無だけでなく、実際に保守対応できるエンジニアが国内に何名いるかまで確認しておくのが安全です。
一方で、政策が明確にデジタル化を後押ししている環境は、社内の合意形成には追い風になります。「国家プログラムの方向性と整合している」という説明は、日本本社に対しても現地当局に対しても通りやすい論拠です。
インドネシア: シェア28.63%の最大市場
インドネシアは2025年時点で東南アジア倉庫自動化市場の28.63%を占める最大市場で、Cikarang Dry Portが牽引しています。人口規模とEC市場の厚みを考えれば妥当な位置づけです。
ただし、地理的に島嶼国であり、ジャカルタ周辺とその他地域では物流の条件が大きく異なります。「インドネシア全体の市場が大きい」という数字を、自社の拠点がある地域の条件と混同しないよう注意が必要です。
マレーシア・シンガポール: 大型のスマート倉庫投資
倉庫自動化の市場動向として報じられている2025年の投資案件を挙げておきます。マレーシアでは、2025年8月にS P SetiaがALP Taiwanと提携し、Klangに総額USD 9億規模のスマート倉庫キャンパスを開発する計画が発表されました。また2025年12月には、Chin Hin GroupとPTT SynergyがJVを設立し、Klang ValleyおよびPenangでスマート倉庫を展開するとしています。
シンガポールでは、2025年7月にNCS GroupがSGD 1.3億規模の、倉庫ロボティクス向け予測分析プログラムを開始しています。
これらの案件に共通するのは、単なる倉庫の箱ではなく「スマート倉庫」「予測分析」という形で、最初からデータとソフトウェアを前提に設計されている点です。域内の新設倉庫の標準仕様が上がっていくということは、既存倉庫のオペレーションが相対的に見劣りしていくということでもあります。
各国比較から実務的に言えること
複数国に拠点を持つ企業からよく受ける質問が「どの国から着手すべきか」です。私たちは、成長率の高い国からではなく、データが一番整っている拠点から着手することを勧めています。
理由は単純で、最初のプロジェクトが成功しないと2拠点目の予算が付かないからです。成長率が高くベンダー環境が未成熟な国で最初に挑戦して失敗すると、地域全体の物流DXが数年遅れます。まず条件のいい拠点で型をつくり、それを横展開するほうが、結果として全体は速く進みます。
WMS・TMS・IoT・AIをどう組み合わせるか
技術の話に入ります。物流DXという言葉には多くの技術が含まれていて、これを一枚岩で扱うと議論が噛み合いません。私たちは4つのレイヤーに分けて整理しています。
レイヤー1: WMS(倉庫管理システム)——すべての土台
WMSは在庫の場所・数量・状態を記録し、入出庫と棚卸のトランザクションを管理するシステムです。物流DXの文脈では地味に見えますが、ここが埋まっていないと上のレイヤーが一切機能しません。
なぜかというと、上位のレイヤーはすべてWMSが生成するデータを消費するからです。需要予測AIは出荷実績データを、自動搬送機は正確なロケーション情報を、可視化ダッシュボードは在庫トランザクションを必要とします。WMSが入っていない、あるいは入っていても現場が正しく使っていない状態では、上のレイヤーに何を積んでも砂上の楼閣になります。
タイの現場でよく見るのは、「WMSは導入済み」なのに実態が伴っていないケースです。典型的なのは次のような状態です。
- 入庫はWMSに登録するが、工程内の移動はExcelで管理している
- ロケーション管理はあるが、実際には「だいたいこの辺」で運用されている
- 棚卸の差異をシステム側で調整して合わせているため、差異の原因が追えない
- 現場の実データは日次でExcelに書き出され、そこから先の分析はすべてExcel上
これらは「WMS導入率」の統計上は導入済みにカウントされますが、データ資産としては使えません。物流DXの企画を立てる際は、まずここを正直に棚卸しすることが出発点になります。
レイヤー2: TMS(輸配送管理システム)と可視化
WMSが倉庫の中を扱うのに対し、TMSは倉庫の外——輸配送の計画・実行・実績を扱います。Inbound Logistics 2026調査ではTMSの提供が44%(前年比-7ポイント)でしたが、顧客課題の2位が可視化80%であることを踏まえれば、輸配送領域の見える化ニーズ自体は依然として高いと解釈するのが自然です。
同じレイヤーに、RFID/IoTによる倉庫可視化が入ります。センサー、ハンディターミナル、ゲートリーダー、設備からの稼働データ収集——現物の動きをデジタルデータに変換する物理層です。
このレイヤーの投資判断で悩ましいのは、単体では直接的なコスト削減効果が出にくいことです。可視化してもそれ自体は何も減らさない。効果が出るのは、見えるようになった結果として運用を変えたときです。だからこそ、可視化の投資を提案するときは「何が見えるようになるか」ではなく「見えたら何を変えるか」をセットで決めておく必要があります。
レイヤー3: 自動化設備(AS/RS、AMR、自動仕分け)
物理的な自動化のレイヤーです。前述のとおり、Daifukuがタイでの intralogistics を拡大し、AS/RSを現地製造している状況があります。
自動化設備の投資判断では、次の3点を確認することを勧めています。
- 出荷プロファイルの安定性: 品目構成や出荷パターンが数年単位で安定しているか。頻繁に変わる現場では固定設備の投資回収が難しくなります。
- 物量の絶対水準: 自動化のメリットは物量に比例します。1日の処理件数が一定水準を超えていないと、償却負担が人件費削減を上回ります。
- 上流データの正確性: 自動搬送機は、ロケーションと在庫データが正しいことを前提に動きます。データが不正確な状態で自動化を入れると、エラー処理の人手が増えて逆効果になります。
3つめが特に見落とされがちです。自動化はデータの精度を要求する技術であって、データの精度を上げてくれる技術ではありません。
レイヤー4: AI・サプライチェーンAI
最上位のレイヤーがAIです。需要予測、在庫最適化、輸送ルート最適化、異常検知、書類処理の自動化などが含まれます。
このレイヤーで重要なのは、下の3レイヤーが埋まっている範囲でしか効かないという制約です。ベンダーの77%がAI機能を提供している一方で本番稼働が35%(小売・卸では10%)にとどまるという前章のギャップは、まさにこの制約の表れだと私たちは理解しています。
ただし例外もあります。書類系のAI——請求書、通関書類、注文書などの非構造データを構造化するAI-OCRのような技術は、既存システムの完成度に関係なく単体で効果を出せることが多い。「AIは下のレイヤーが埋まってから」という原則の、数少ない例外です。この点は後述します。
導入順序の原則: 下から積む、ただし1つだけ例外
まとめると、私たちが推奨する順序は次のとおりです。
- WMSの実運用品質を上げる(新規導入または既存の運用是正)
- 可視化のレイヤーを埋める(IoT/RFID、実績データの自動収集)
- AIを載せる(予測、最適化、異常検知)
- 物理的自動化を検討する(物量と安定性の条件が揃った領域から)
ただし、書類処理系のAI(AI-OCR等)は、この順序と独立して早期に着手できます。効果が出るまでの期間が短く、現場の負担軽減が実感しやすいため、物流DXの最初の一歩として使いやすいテーマです。
私たちTOMAS TECHが現場で見てきたこと
ここで少しだけ、私たちの取り組みについて書かせてください。ここまでの整理は市場データと一般論ですが、実際の現場ではもう少し泥臭いことが起きています。
私たちTOMAS TECHはバンコクを拠点に、タイおよび周辺国の日系製造業・物流拠点向けのシステム導入を手がけています。自社開発のPEGASUS生産管理システムを軸に、IoTによる設備データ収集、AI-OCRによる通関書類・受発注書類の自動化、エネルギー管理といった領域で現場に入っています。
「データが構造化されていない現場では自動化は効かない」
数多くのプロジェクトを通じて、私たちがもっとも強く感じているのがこれです。
自動化やAIの導入がうまくいかないとき、原因の大半はアルゴリズムでも機器でもなく、入力側のデータにあります。品番の付け方が工場と倉庫で違う、同じ部品が複数の呼び名で登録されている、日付のフォーマットが担当者ごとに異なる、単位がPCSとBOXで混在している——こうした状態のまま上位システムを載せても、例外処理の山を人間が捌くことになり、かえって工数が増えます。
だから私たちは、AI導入の相談を受けたとき、まずデータの現況を見せてもらうところから始めます。マスタの重複率、トランザクションの欠損率、手入力項目の割合。この3つを見るだけで、そのプロジェクトが何ヶ月かかるかがおおよそ見えてきます。
自律型のAIエージェントが製造現場のどこまで踏み込めるようになってきたかについてはAIエージェント最新動向2026|製造業DXと自律型AIの現在地で詳しく扱っていますが、そこでも結論は共通しています。エージェントが自律的に判断するためには、判断の材料となるデータが機械可読な形で存在している必要がある。データ整備は、AI時代においてむしろ重要性を増しています。
AI-OCRが「最初の一歩」になりやすい理由
私たちが物流領域で最初に提案することが多いのが、通関書類や受発注書類のAI-OCR化です。理由は3つあります。
- 既存システムの改修が要らない: 紙やPDFを構造化データに変換する処理は、基幹システムの外側で完結できます。既存のWMSやERPを触らずに始められるため、リスクが小さい。
- 効果が可視化しやすい: 「1日あたり何件の書類を、何分で処理していたか」は測りやすく、導入前後の比較が明快です。稟議の後追い報告がしやすい。
- 現場の抵抗が少ない: 人の仕事を奪うのではなく、誰もやりたくない転記作業を肩代わりする形になるため、現場からの受け入れが良い。
物流DXの初手は、成功体験をつくることが何より大切です。最初のプロジェクトで現場が「これは楽になった」と実感すれば、2つめ、3つめの取り組みへの協力が得られます。逆に最初に大規模なシステム刷新をぶつけて現場を疲弊させると、その後2〜3年はどんな提案も通らなくなります。
IoTとエネルギー管理という別の入り口
もう一つ、私たちがよく扱うのが設備からのIoTデータ収集とエネルギー管理です。物流DXの文脈からは少し外れて見えるかもしれませんが、実際には強く関係しています。
倉庫のエネルギーコスト——空調、照明、冷蔵冷凍設備——は、拠点によっては物流コストの無視できない割合を占めます。そして電力データは、設備の稼働状況を映す鏡でもあります。使用量の異常パターンから設備の劣化や運用のムダが見えてくることがあり、可視化レイヤーの投資対効果を高める材料になります。
またIoTデータの収集基盤は、一度つくれば用途を広げやすい。最初はエネルギー管理で始めても、同じ基盤で設備稼働率や温湿度管理(GDP準拠が求められるヘルスケア物流では特に重要です)に展開できます。前述のとおり、東南アジアの倉庫自動化市場でヘルスケアセグメントはCAGR 13.81%と高い成長が見込まれており、GDP準拠の記録要求はこれから強まる方向にあります。

6ヶ月〜18ヶ月の現実的な導入ステップ
最後に、実行計画の話をします。ROIが2〜4年という現実を踏まえたうえで、最初の18ヶ月をどう設計するかです。
ステップ1(0〜1ヶ月): 業務とデータの棚卸し
まず、現状を正直に書き出します。ポイントは、システム構成図ではなく実際の業務フローを書くことです。システム上はWMSで完結しているはずの業務が、実際にはExcelを2回経由している——そういう乖離を見つけるのがこの工程の目的です。
具体的には、以下を洗い出します。
- 入荷から出荷までの各ステップで、誰が、何を、どのシステムに入力しているか
- Excelやその他の手作業ファイルが介在している箇所
- 同じ情報を2回以上入力している箇所(二重入力は改善余地の最有力候補です)
- 紙で回っている書類とその通数
この工程は現場のヒアリングが中心で、外部ベンダーだけでは完結しません。現場のキーパーソンを1名アサインできるかどうかが、プロジェクト全体の成否を左右します。
ステップ2(1〜2ヶ月): データ診断
次に、既存システムに蓄積されているデータの品質を診断します。前述したマスタの重複率、トランザクションの欠損率、手入力項目の割合の3点が中心です。
ここで「AIを載せるにはデータが足りない」という結論が出ることもあります。それは失敗ではなく、正しい診断結果です。データが足りないと分かった時点で、AIプロジェクトを1年後ろ倒しにして、その1年でデータ収集の仕組みを整える——という判断ができれば、無駄な投資を回避したことになります。
ステップ3(2〜5ヶ月): 小さいPoC
範囲を絞ったPoCを回します。「小さい」の基準は、3ヶ月以内に結果が出て、失敗しても本番業務が止まらない範囲です。
対象の選び方としては、次の条件を満たすものが向いています。
- 効果が数値で測れる(処理時間、エラー件数、在庫差異など)
- 関係する部署が少ない(部署をまたぐほど調整コストが増えます)
- 既存システムへの影響が限定的
- 現場が「困っている」と自覚している業務
前述のAI-OCRによる書類処理は、この4条件をすべて満たしやすいテーマです。
ステップ4(5〜7ヶ月): ガードレールの設計
PoCで結果が出たら、本番展開の前にルールを決めます。私たちが「ガードレール」と呼んでいるものです。
- AIやシステムが出した結果を、誰がどの基準で承認するか
- システムが判断できないケース(例外)をどう扱うか
- 精度が想定を下回ったときに誰がどう気づくか(監視の設計)
- データの保管期間、アクセス権限、監査ログ
このステップを飛ばして本番に行くと、半年後に「システムの出した数字を誰も信用していない」という状態になります。特にAIを含む仕組みでは、「間違えることがある」前提での運用ルールを最初に決めておくことが重要です。
ステップ5(7〜12ヶ月): 本番稼働と定着
本番展開のフェーズです。ここで意識すべきは、稼働がゴールではなく定着がゴールだということです。
定着の指標としては、「システムを使わない例外運用がどれだけ発生しているか」を追うのが実務的です。Excelでの並行運用が残っているうちは、データは分断されたままで、次のレイヤーに進めません。
現地スタッフへのトレーニングもこの期間に集中します。タイがUSD 2億規模の物流人材トレーニング投資を行っていることからも分かるように、設備やシステムだけでは物流の生産性は上がりません。オペレーターがシステムを信頼して使える状態をつくって、初めて数字が動きます。
ステップ6(12〜18ヶ月): 横展開と次のレイヤー
1拠点目で型ができたら、他拠点や他業務に展開します。この段階になって初めて、投資対効果が加速し始めます。
前述のとおり、AI投資で1年以内にROIを得た組織は6%にすぎず、多くは2〜4年で満足のいく回収に至っています。18ヶ月時点ではまだ回収途上であるのが標準的だと理解しておくと、社内の評価軸を正しく設定できます。
よくある失敗パターン3つ
最後に、私たちが繰り返し見てきた失敗パターンを挙げておきます。
1. ベンダー主導で機能から入る
「AI機能があります」「自動化できます」という提案から入ると、自社の課題ではなくベンダーの製品仕様がプロジェクトのスコープになります。Inbound Logistics 2026調査で顧客課題のトップがコスト削減85%、可視化80%であることを思い出してください。まず自社の課題をこの粒度で言語化し、そこからソリューションを逆算するほうが、結果的に安く早く済みます。
2. 一気に全部やろうとする
大規模な一括導入は、失敗したときのダメージが大きすぎます。特にIT要員が1〜3名という現地法人の体制では、大規模プロジェクトを回しきること自体が困難です。前述の統計で「AI導入予定なし」の理由がリソース制約であったことは、この現実を裏付けています。
3. 現場の巻き込みを後回しにする
本社と情報システム部門だけで設計し、稼働直前に現場へ下ろすやり方は、ほぼ確実に反発を招きます。現場は毎日そのオペレーションで回しているプロであり、設計上の見落としを最初に見つけるのも現場です。ステップ1の棚卸しから現場を入れておくことが、遠回りに見えて最短です。
よくある質問(FAQ)
物流DXは何から始めるべき?
私たちは、現状のデータ品質の診断から始めることを勧めています。いきなりシステムを選定するのではなく、既存のWMSやERPにどれだけ使えるデータが溜まっているかを確認する工程です。
その診断結果を踏まえたうえで、最初のプロジェクトとしては書類処理のAI-OCR化のように、既存システムを改修せずに始められて、3ヶ月以内に効果が数値で出るテーマが向いています。Inbound Logistics 2026調査で顧客課題のトップがコスト削減85%、可視化80%だったことを踏まえると、最初の一手も「AIを使うこと」ではなく「どのコストを、どれだけ下げるか」から逆算するのが自然です。
タイでWMSを導入する費用感は?
費用は倉庫の規模、品目数、既存システムとの連携範囲、必要な帳票の数によって大きく変わるため、一律の金額を示すことはできません。同じ「WMS導入」でも、標準機能のみで運用できる場合と、既存の基幹システムや取引先とのEDI連携が必要な場合とでは、コストの構造がまったく異なります。
代わりに、見積もりを比較する際の観点をお伝えします。ライセンス費用だけでなく、(1)データ移行とマスタ整備の工数、(2)現場トレーニングの工数、(3)稼働後の保守体制(タイ国内に対応できるエンジニアがいるか)、(4)将来の機能追加時の費用体系、の4点を必ず含めて比較してください。特に(1)は見積もりから抜けやすく、後から膨らみやすい項目です。
なお、タイでは2026〜2027年のBOI刷新インセンティブが動いています。Alvarez & Marsalの分析によれば、物流を含む幅広い業種で法人所得税免除や輸入関税免除などが対象になり得るため、投資計画の前に適用可否を確認する価値があります。
倉庫自動化は中小規模の拠点でも投資回収できる?
規模によります。物理的な自動化設備(AS/RS、自動仕分け機など)は、処理物量に比例して効果が出る性質があるため、物量が一定水準に達していない拠点では償却負担が人件費削減を上回ることがあります。
ただし「倉庫自動化」を設備投資に限定しない場合は、話が変わります。ハンディターミナルによる入出庫の実績登録、書類処理の自動化、在庫データのリアルタイム化といったソフトウェア中心の施策は、中小規模の拠点でも投資回収の見込みが立ちやすい領域です。
判断の目安としては、まず「人が動いている時間」ではなく「人が探している時間・入力している時間・確認している時間」を測ってみることをお勧めします。この3つが大きい拠点は、設備投資をせずとも改善余地が残っています。
なお期待値としては、AI投資で1年以内にROIを得た組織が6%にとどまり、多くが2〜4年で回収しているという統計を踏まえ、中期の投資として位置づけるのが現実的です。
AIは物流のどの業務から効く?
私たちの経験では、非構造データの構造化から効き始めます。具体的には、通関書類、注文書、請求書といった紙やPDFの情報をシステムに取り込む処理です。これは既存システムの完成度に依存せず単独で効果を出せるうえ、現場の負担が目に見えて減ります。
需要予測や在庫最適化といったAIは効果のインパクトが大きい一方、過去数年分の品質の揃ったデータが前提になります。Sageの2026年調査で、物流企業のAI実運用が35%、小売・卸のサプライチェーン運用に至っては10%にとどまっているのは、この前提条件の厳しさが一因だと考えています。
つまり順番としては、書類系AI → 可視化とデータ蓄積 → 予測・最適化AI、という流れが現実的です。
人手不足対策として、自動化と外部委託(3PL)のどちらを選ぶべき?
両方が選択肢になりますが、判断軸は「その業務が自社の競争力に直結するか」です。標準的な保管・輸配送であれば3PL活用が合理的な場合が多く、東南アジアの3PL市場は2025年の13億7,913万USDから2035年に23億5,055万USDへ、CAGR 5.34%で成長すると予測されています(レポートオーシャン)。
一方、生産と密接に連動する構内物流や、品質トレーサビリティが求められる領域は、外部化してもデータの断絶が起きやすく、結局自社側での可視化投資が必要になります。3PLを使う場合でも、実績データをどの粒度で、どの頻度で受け取れるかを契約時に取り決めておくことをお勧めします。

まとめ
2026年の東南アジアにおける物流DXの現在地を、数字とともに振り返ります。
- 東南アジアの倉庫自動化市場は2026年のUSD 9.1億から2031年のUSD 16.3億へ、CAGR 12.36%で拡大する見込み(Mordor Intelligence)
- タイの貨物・物流市場は2025年USD 533.8億から2026年USD 565.6億、2031年にはUSD 754.7億へ(CAGR 5.95%)。市場成長より自動化投資の伸びのほうが2倍以上速い
- 小売・ECセグメントが倉庫自動化市場で最大シェア33.40%、CAGR 17.28%。牽引役はEC事業者であって、必ずしも製造業ではない
- タイでは物流ドライバーが月THB25,000でも確保困難、日系企業の賃金上昇率は2023年3.8%→2024年4.58%→2025年4.64%見込み、生産年齢人口は2026年から減少に転じる予想(JETRO)
- ベンダーの77%がAIを提供する一方、AIの本番稼働は物流企業で35%、小売・卸のサプライチェーン運用では10%(Inbound Logistics 2026調査、Sage 2026 State of Supply Chain Report)
- AI投資を増やした組織は85%だが、1年以内のROI達成は6%。多くは2〜4年で回収(RELEX Solutions / Open Sky Groupがまとめた2026年統計)
これらを踏まえて私たちがお伝えしたいことは、シンプルです。物流DXは、技術の選定よりデータの整備で決まる。倉庫自動化市場が年12%で伸びていても、AI機能を持つベンダーが77%に達していても、自社の現場のデータが構造化されていなければ効果は出ません。逆に、データが整っていれば、比較的小さな投資でも成果を出せる領域があります。
そして期待値としては、2〜4年での回収を前提に、最初の18ヶ月は「棚卸し→データ診断→小さいPoC→ガードレール設計→本番稼働→横展開」という段階を踏むこと。1年での回収を前提にした計画は、途中で止まる確率が高くなります。
私たちTOMAS TECHは、バンコクを拠点にタイおよび周辺国の工場・倉庫のIT導入を支援しています。PEGASUS生産管理システム、IoTによる設備データ収集、AI-OCRによる通関・受発注書類の自動化、エネルギー管理といった領域で、現場のデータを使える形にするところから関わっています。
「WMSは入れたが活用しきれていない」「自動化を検討したいが、どこから手をつければいいか分からない」「本社にROIをどう説明すればいいか悩んでいる」——こうした段階のご相談を数多くいただいています。まずは現状のデータがどのような状態にあるかを一緒に確認するところから、お気軽にご相談ください。御社の状況に合わせて、最初の一歩として現実的なテーマをご提案します。
参考情報
- Mordor Intelligence「Southeast Asia Warehouse Automation Market」: https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/south-east-asia-warehouse-automation-market
- GII「タイの貨物および物流市場 2026-2031」: https://www.gii.co.jp/report/moi1939641-thailand-freight-logistics-market-share-analysis.html
- @Press / レポートオーシャン「東南アジア第三者物流市場 2026–2035」: https://www.atpress.ne.jp/news/4432677
- Inbound Logistics「2026 Logistics IT Trends」: https://www.inboundlogistics.com/articles/2026-perspectives-and-market-research-logistics-it-accelerates/
- RELEX Solutions「Supply chain AI in 2026: The numbers behind the hype」: https://www.relexsolutions.com/resources/supply-chain-ai/
- Open Sky Group「Supply Chain AI Statistics 2026」: https://openskygroup.com/supply-chain-ai-statistics/
- Lexology「Thailand Advances Landmark Land Bridge Mega Project」: https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=af7a31e1-c8ab-4a28-b9a6-80050051d2f7
- Alvarez & Marsal「Thailand’s Renewed BOI Incentives (2026–2027)」: https://www.alvarezandmarsal.com/thought-leadership/thailand-s-renewed-boi-incentives-a-strategic-window-for-growth-expansion-and-investment-2026-2027
- JETRO「人材不足の現状と対応、今後の最低賃金の動向にも注目(タイ)」: https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0303/f5b4d6344434b2a9.html
- VOV「VILOG 2026 to showcase Vietnam’s shift toward smart and green logistics」: https://english.vov.vn/en/economy/vilog-2026-to-showcase-vietnams-shift-toward-smart-and-green-logistics-post1315916.vov